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第22話:パルフェ様は聖女に相応しくないですの!その2

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「パルフェ様は仰っていましたよ。シスター・ジョセフィンはグルメだと」
「それにパルフェ様は、私に回復魔法の撃ち方を教えてくださったのです!」

 ゲラシウス殿と顔を見合わせる。
 これはまた随分と話が飛んだな。
 回復魔法の撃ち方?
 パルフェ様が魔法の実践技術に関するオーソリティであることには、我ごときが疑問を挟む余地などないが。

「心構えと撃ちどころの明確なイメージです。お姉ちゃんの魔力は強い方だから、欠損を伴わない物理的な慢性機能障害なら必ずこれで治るって」
「似たようなことをヴィンセント聖堂魔道士長に聞いたであるな」
「我もヴィンセント殿に聞きましたな。パルフェ様の回復魔法は革命的であると。癒し手の修道女達に技術指導した結果、癒しの施しを受ける者達の満足度が格段に上がったと」
「そうなんですの。素晴らしい効果で、これでこそ癒しであると私、感動いたしましたの! 聖教会でも学院でも教わることのなかったことですのよ!」

 さて、わからない。
 これは問題があるのか?
 シスター・ジョセフィンはパルフェ様にメロメロなんじゃないか疑惑が、我の中で浮上しているのだが。

 ゲラシウス殿が言う。

「あやつの魔法は特別なのであろう?」
「というわけではありませんな。もちろんパルフェ様の魔力量や持ち魔力属性なくしては発動し得ない魔法もあるのでしょうが」
「ふむ、そういうものか」
「我々聖騎士もパルフェ様に魔法を教わっておるのです」
「まあ。どんな魔法を教わっているんですの?」
「今のところは各自の持ち魔法属性に即したもので、かつ聖騎士の職務に役立つものですな。ちなみに我は風属性持ちなので、刃の切れ味を増す付与魔法を教えていただきました」
「ほう、吾輩は火属性持ちなのである」
「いいですな。身体強化魔法が火属性ですぞ。聖属性の祝福と似た効果ですが、格段に習得は易しいそうです」
「私は聖属性の他に雷属性が少しありますの。パルフェ様に教えていただこうかしら?」
「それがようございますよ。自分の持ち属性でなくても、ヒールだけは覚えておいた方がいいとも言われております」

 和気あいあい。
 いい雰囲気じゃないか。
 今日はどうして集まって話をしているのだったっけ?

「パルフェ様は聖女に相応しくないですの!」

 当惑。
 突然最初の話に戻った。
 ひょっとしてこれが繰り返されるのか?
 合掌。

 シスター・ジョセフィンが恨みがましく言う。

「ですから私、パルフェ様に行儀作法について教えて差し上げようと思ったのです。お礼の意味も込めて」
「ああ、それは良いことである。あの野性の聖女を王都向けに改造しなければならぬ」
「ハハハ、改造ですか。シスター・ジョセフィンが教師役ならば文句はないですな」
「ところがパルフェ様は、行儀作法はどうせ身に付かないから必要ないと仰いますの!」

 言いそう。
 その場面が目に浮かぶようだ。
 個人的には行儀のいいパルフェ様など見たくないな。
 気さくで奔放なところは、パルフェ様の魅力でもあるのだ。

「パルフェ様は来年、王立学院高等部に入学されると聞きます。今年卒業する私とは入れ違いです」
「シスター・ジョセフィンはとても優秀な成績だそうだな。聖務も忙しいであろうに立派なことだ」
「ええ。大したものです」

 修道士修道女で学院に通う者は多い。
 特に貴族出身者は、将来還俗する可能性を見据えてほぼ全員が高等部まで進学する。
 というか聖教会の修道士修道女は入学金や授業料の軽減措置があるため、家計の厳しい下級貴族や騎士の家の者はそれを目当てに聖教会入りするケースが多いのだ。

「私がパルフェ様に教えられるのは行儀作法だけです」
「む? 他の科目も遠慮なく教えてやればいいではないか。学院に入学するなら絶対に必要になるであろう?」
「パルフェ様はとても頭がよろしいのです。知識も驚くほど豊富で。本当に他に教えられることはなく……」
「「え?」」

 パルフェ様が賢いのは知っている。
 薬草や歴史、外国のことなど、話をしていると意外なほど豊富な知識をお持ちだなあと感じるのだ。
 が、学院高等部の成績優秀者であるシスター・ジョセフィンがそこまで言うほどなのか?
 辺境で学院高等部クラスの知識など得られるものなのだろうか?
 
「漂泊の賢者フースーヤ殿の弟子だそうだからな。その謳い文句は伊達ではなかったか」
「私はパルフェ様に何も返せないではありませんか」

 俯き小声になるシスター・ジョセフィン。
 あれ? シスター・ジョセフィンの顔が赤いぞ?
 デレているものとお見受けする。
 そのデレた態度をいつも見せていれば、貴族系の修道士修道女とパルフェ様の対立はなくなるんじゃないの?
 パルフェ様全然気にしてないからいいけど。

「その上、お姉ちゃん美人で優しいから早く嫁に行けばいいなんて言うんです。寂しいではありませんか」

 美人で優しいお姉ちゃんなのはその通りですよ。
 聖女代行として招聘されたシスター・ジョセフィンは、本来ならば還俗して嫁ぐ目はほぼなかった。
 しかしパルフェ様が聖女として存在感を発揮している現在、シスター・ジョセフィンの還俗・婚姻はかなりの現実味を帯びてきている。
 社交界では既に噂に上っていてもおかしくないな。
 
「聖属性の持ち主が結界の維持に必要だったという、ウートレイド王国の運命に振り回されたシスター・ジョセフィンにはまことに申し訳ないことであった。しかし遅いということは全くないである。吾輩もあやつの言う通りだと思う」
「ゲラシウス様まで!」
「選択肢が増えたと思えばいいのではないですかな?」
「選択肢が?」
「はい。今までにない選択肢が。聖女代行だけでなく、公爵令嬢としての人生が」

 今後よく考えるといいですよ。
 エインズワース公爵家の思惑ももちろんあるでしょうがね。

「吾輩が思うに、シスター・ジョセフィンがどこぞの令息と結ばれたとしても、聖務なり施しなりを辞めるとはあやつは考えておらぬのではないか?」
「「えっ?」」

 結婚後も聖教会勤めを続けるということか?
 還俗した貴族出身者が聖教会に戻って来るというのは、離婚したり死に別れたりしたケースがほとんどだ。

「そんなに驚くことではあるまい。還俗し騎士や商家に嫁いだが、癒し手を続けた元修道女は多い。王族に嫁ぎ、そのまま聖務を続けた聖女もいる」
「癒し手として……そう言われればそうですが」
「王都住みならば可能、ということである」

 領主貴族に嫁げば常時王都に住むことはムリだろう。
 しかし相手が王族なら?
 公爵の娘たるシスター・ジョセフィンならば身分に問題はない。

 ……例えばアナスタシウス大司教猊下がお相手とか。
 やや歳は離れているがお似合いだと思う。
 そういえば猊下は何故独身を貫いているのだろうな?

「あくまでも可能性の話である」
「面白いではないですか」
「……はい」

 シスター・ジョセフィンの顔に、再び若干赤みが差しているように見える。
 幸せあれ。
 合掌。
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