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第62話:ネッサの告白その1
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――――――――――学院高等部廊下にて。スイフト男爵子息マイク視点。
「へー。それが文化祭か。大変結構です」
放課後、クラブの前に図書室へ聞く途中だ。
学院の二学期は、各クラスやクラブの出し物や剣術大会などの催しを集めた一大行事・文化祭が行われる。
しかし文化祭を実際に見たことのない聖女パルフェはピンと来ていなかったらしい。
話をしながら歩く。
「色んな講義で文化祭文化祭言われるから、何事かと思った」
「聖女様は高等部から編入だからわからないだろうな」
「あれ? でも高等部のイベントなんでしょ? 何でマイク君は知ってるの?」
「高等部の行事ではあるけど、初等部の子やその父兄だって見に来るよ。初等部生が参加したって構わないんだ。去年の剣術大会チャンピオンは、まだ初等部に在籍していたトリスタンだよ」
「マジか。トリスタン君すげえ!」
トリスタンは確かにすごい、が……。
「今年は聖女様も剣術大会に出るんだろう?」
「どうしてそーなった。出るわけないだろ」
「剣術クラブの部長が言ってたじゃないか。少々の魔法の使用は認められているんだよ。聖女様が出場すれば一躍優勝候補だ」
「あたしだとルールの範囲内で大々的に魔法使うだろーが。剣術大会じゃなくて別の何かになっちゃうわ。あたしは空気の読める子だからそんなことしないわ」
すごく残念な気がするのは、きっとオレだけじゃないと思う。
女性が剣術大会に優勝した例は過去あったのかな?
「それで基本的に二学期は期末のテストがないんだ」
「スコアはどーやって付けるんだろ?」
「夏休み明けに一学期のことをどれだけ覚えてるかの復習テストがあっただろう? あれと今後課されるレポートで決まるって話だよ。実技の科目は文化祭に参加するのが多いから、出し物次第なんじゃないかな」
「そーだ。刺繍は作品を提出しろって言われた。声楽では合唱やるって」
座学でも強制参加の科目があるから、二学期は本当に忙しくなるだろうな。
でも初等部の時から文化祭は毎年楽しみだった。
高等部生になって、自分が文化祭を盛り上げる側になれるのは嬉しいことだ。
「文化祭まであと二ヶ月じゃん。うちのクラスが始動してないのはまずくない?」
「そうなんだ。でも当然リーダーはクインシー殿下か、さもなくば聖女様であるべきだろう? でも二人とも文化祭のことをよく知らないから動かない。今朝のホームルームで、アルジャーノン先生もちょっと焦ってた」
「ヤベー。半分あたしのせいだったのか。でも知らんものは知らんしな?」
「まあでも一年生のクラスの出し物はそう重視されないから」
「どゆこと?」
「二年生からはクラスが成績順に振り分けられる。下のクラスは上の鼻を明かしてやろうと思ってるし、逆に上のクラスは下に負けるわけにいかない。ウケる出し物を企画してやろうって皆が必死になる。スコアにも影響するって話だ」
「おおう、なるほど」
オレも今のままの成績だと、来年聖女パルフェと同じクラスか。
今の学院生活は、高等部進級前に想像してたより随分充実している。
聖女パルフェのおかげだ。
二、三学期も頑張っていいスコアを取ろう。
「クラスの出し物の指揮はダドリー君に任そう」
「えっ?」
ダドリー?
最近嫌がらせもあんまりしてこないけど、一体何故?
「こーゆーことやりたそーじゃん。殿下がいるから遠慮してるんだろうけど、殿下に頼むって言ってもらえばいっぺんに動き出すよ」
「そうかもな」
「魔法クラブの出し物は先輩方が考えてるんだよねえ?」
「多分ね」
初等部の時に何度も文化祭を見に来てるけど、魔法クラブの出し物って記憶がないな。
まあいい、図書室に到着だ。
「あれ、ネッサちゃんじゃん。今日は一人なんだ?」
閑散とした図書室にネッサ嬢がいる。
いつもの小男の従者がいない。
随分と厚い本を引っ張り出してきてるな。
「パルフェさんこそどうしたんだ?」
「あたしは時々図書室に散歩しにくるんだよ」
「聖女様は結構手当たり次第に本を読むんだ」
「そうだったのか。パルフェさんは知識をそうやって身に付けているんだな」
「ネッサちゃん、どうしたの? 具合悪そう」
そう言われて初めて気付いた。
ネッサ嬢の顔がむくんでる。
「ちょっとわからないことがあってね。調べ事をしてるんだ」
「調べ事って、それ政治学の本じゃん」
その分厚い本は政治学の本だったのか。
難しいことを調べてて寝不足にでもなったのかな?
ネッサ嬢は政治学なんて選択してなかったはずだが。
聖女パルフェにも同じことが言えるけど、成績のいい人は自分の関係してない分野の本も読むものなんだなあ。
「あたし政治学も取りたかったんだよな。お金の方が大事かと思って、つい経営学を選択してしまった」
「パルフェさんは政治学にも興味があるのか。意見を聞いてもいいかな?」
「もちろんどーぞー」
「君主制と共和制ってどう思う?」
「え? えらく漠然とした質問だね」
「統治される側にとってどっちがいいのかなと思って」
「そーゆー意味か。一緒じゃないかな。君主制か共和制かなんて方便だと思ってる」
「方便?」
「うん。どっちも偉い人が人民から税金を巻き上げて、それで運営していることには変わりがないじゃん?」
「税金を巻き上げてって」
聖女パルフェはすごいこと言うなあ。
不敬罪で近衛兵に逮捕されるぞ?
でもネッサ嬢には刺さってるみたいだな。
「まーでも各人が勝手なことやってたら無法地帯だ。世界のどこでもある程度以上人が集まって暮らしてるところは、多かれ少なかれ税金で統治形態を維持しようとするじゃん? 例外なく。人々が暮らしていく上で合理的だからだよ」
「……そうだね。人が人から金品を搾取して支配する、っていう考え方もできるけど」
「支配するってのも何だかなー。人の身分に上下があることに納得いかないって人は一定数いるね。そういう人は王様とか貴族とか嫌いみたい」
「それだ! パルフェさんの見解が聞きたい」
「ネッサちゃんも変なとこに興味持つね。上下って絶対にできるでしょ。年齢とか能力とかお金持ってる持ってないとかで。学院だって成績順で評価するじゃん」
「確かに」
「貴族とかの身分だけを別扱いする意味がわからん。人に一目置くってことはあってさ。そういう権威の差みたいなのを利用して世の中は治まってるんだと思うんだよ。ムダな争いが避けられることは皆にメリットがあるじゃん?」
ネッサ嬢が難しい顔をしている。
頭いい人は様々な方向に思考を巡らせているものなんだなあ。
そして聖女パルフェは、政治とか統治にもしっかりした自分の考えを持っているのか。
普段そんな面は全然見せないのに。
「……必ずしも王や貴族が搾取するわけじゃないのか」
「そりゃそーだ。その辺は統治者個人の資質だよ。偉い人の倫理観が腐っててお金に対して貪欲なら搾取するわ。君主制共和制関係ない」
「うん、その通りだ」
「個人的には国の人口が少ない内は君主制の方がいい気はするな。能力のあるリーダーに権力を集めて、統治っていうお仕事を押し付けちゃう。でも人口が多いと段々統治者の目が隅々まで届きにくくなるから、共和制の下で皆で話し合って統治するシステムを作るべきなんじゃないかな。トップの能力や人間関係にもよるから一概に言えないけどさ」
ネッサ嬢が頷く。
顔に生気が戻って来たみたいだ。
そして意外なことを言い出した。
「へー。それが文化祭か。大変結構です」
放課後、クラブの前に図書室へ聞く途中だ。
学院の二学期は、各クラスやクラブの出し物や剣術大会などの催しを集めた一大行事・文化祭が行われる。
しかし文化祭を実際に見たことのない聖女パルフェはピンと来ていなかったらしい。
話をしながら歩く。
「色んな講義で文化祭文化祭言われるから、何事かと思った」
「聖女様は高等部から編入だからわからないだろうな」
「あれ? でも高等部のイベントなんでしょ? 何でマイク君は知ってるの?」
「高等部の行事ではあるけど、初等部の子やその父兄だって見に来るよ。初等部生が参加したって構わないんだ。去年の剣術大会チャンピオンは、まだ初等部に在籍していたトリスタンだよ」
「マジか。トリスタン君すげえ!」
トリスタンは確かにすごい、が……。
「今年は聖女様も剣術大会に出るんだろう?」
「どうしてそーなった。出るわけないだろ」
「剣術クラブの部長が言ってたじゃないか。少々の魔法の使用は認められているんだよ。聖女様が出場すれば一躍優勝候補だ」
「あたしだとルールの範囲内で大々的に魔法使うだろーが。剣術大会じゃなくて別の何かになっちゃうわ。あたしは空気の読める子だからそんなことしないわ」
すごく残念な気がするのは、きっとオレだけじゃないと思う。
女性が剣術大会に優勝した例は過去あったのかな?
「それで基本的に二学期は期末のテストがないんだ」
「スコアはどーやって付けるんだろ?」
「夏休み明けに一学期のことをどれだけ覚えてるかの復習テストがあっただろう? あれと今後課されるレポートで決まるって話だよ。実技の科目は文化祭に参加するのが多いから、出し物次第なんじゃないかな」
「そーだ。刺繍は作品を提出しろって言われた。声楽では合唱やるって」
座学でも強制参加の科目があるから、二学期は本当に忙しくなるだろうな。
でも初等部の時から文化祭は毎年楽しみだった。
高等部生になって、自分が文化祭を盛り上げる側になれるのは嬉しいことだ。
「文化祭まであと二ヶ月じゃん。うちのクラスが始動してないのはまずくない?」
「そうなんだ。でも当然リーダーはクインシー殿下か、さもなくば聖女様であるべきだろう? でも二人とも文化祭のことをよく知らないから動かない。今朝のホームルームで、アルジャーノン先生もちょっと焦ってた」
「ヤベー。半分あたしのせいだったのか。でも知らんものは知らんしな?」
「まあでも一年生のクラスの出し物はそう重視されないから」
「どゆこと?」
「二年生からはクラスが成績順に振り分けられる。下のクラスは上の鼻を明かしてやろうと思ってるし、逆に上のクラスは下に負けるわけにいかない。ウケる出し物を企画してやろうって皆が必死になる。スコアにも影響するって話だ」
「おおう、なるほど」
オレも今のままの成績だと、来年聖女パルフェと同じクラスか。
今の学院生活は、高等部進級前に想像してたより随分充実している。
聖女パルフェのおかげだ。
二、三学期も頑張っていいスコアを取ろう。
「クラスの出し物の指揮はダドリー君に任そう」
「えっ?」
ダドリー?
最近嫌がらせもあんまりしてこないけど、一体何故?
「こーゆーことやりたそーじゃん。殿下がいるから遠慮してるんだろうけど、殿下に頼むって言ってもらえばいっぺんに動き出すよ」
「そうかもな」
「魔法クラブの出し物は先輩方が考えてるんだよねえ?」
「多分ね」
初等部の時に何度も文化祭を見に来てるけど、魔法クラブの出し物って記憶がないな。
まあいい、図書室に到着だ。
「あれ、ネッサちゃんじゃん。今日は一人なんだ?」
閑散とした図書室にネッサ嬢がいる。
いつもの小男の従者がいない。
随分と厚い本を引っ張り出してきてるな。
「パルフェさんこそどうしたんだ?」
「あたしは時々図書室に散歩しにくるんだよ」
「聖女様は結構手当たり次第に本を読むんだ」
「そうだったのか。パルフェさんは知識をそうやって身に付けているんだな」
「ネッサちゃん、どうしたの? 具合悪そう」
そう言われて初めて気付いた。
ネッサ嬢の顔がむくんでる。
「ちょっとわからないことがあってね。調べ事をしてるんだ」
「調べ事って、それ政治学の本じゃん」
その分厚い本は政治学の本だったのか。
難しいことを調べてて寝不足にでもなったのかな?
ネッサ嬢は政治学なんて選択してなかったはずだが。
聖女パルフェにも同じことが言えるけど、成績のいい人は自分の関係してない分野の本も読むものなんだなあ。
「あたし政治学も取りたかったんだよな。お金の方が大事かと思って、つい経営学を選択してしまった」
「パルフェさんは政治学にも興味があるのか。意見を聞いてもいいかな?」
「もちろんどーぞー」
「君主制と共和制ってどう思う?」
「え? えらく漠然とした質問だね」
「統治される側にとってどっちがいいのかなと思って」
「そーゆー意味か。一緒じゃないかな。君主制か共和制かなんて方便だと思ってる」
「方便?」
「うん。どっちも偉い人が人民から税金を巻き上げて、それで運営していることには変わりがないじゃん?」
「税金を巻き上げてって」
聖女パルフェはすごいこと言うなあ。
不敬罪で近衛兵に逮捕されるぞ?
でもネッサ嬢には刺さってるみたいだな。
「まーでも各人が勝手なことやってたら無法地帯だ。世界のどこでもある程度以上人が集まって暮らしてるところは、多かれ少なかれ税金で統治形態を維持しようとするじゃん? 例外なく。人々が暮らしていく上で合理的だからだよ」
「……そうだね。人が人から金品を搾取して支配する、っていう考え方もできるけど」
「支配するってのも何だかなー。人の身分に上下があることに納得いかないって人は一定数いるね。そういう人は王様とか貴族とか嫌いみたい」
「それだ! パルフェさんの見解が聞きたい」
「ネッサちゃんも変なとこに興味持つね。上下って絶対にできるでしょ。年齢とか能力とかお金持ってる持ってないとかで。学院だって成績順で評価するじゃん」
「確かに」
「貴族とかの身分だけを別扱いする意味がわからん。人に一目置くってことはあってさ。そういう権威の差みたいなのを利用して世の中は治まってるんだと思うんだよ。ムダな争いが避けられることは皆にメリットがあるじゃん?」
ネッサ嬢が難しい顔をしている。
頭いい人は様々な方向に思考を巡らせているものなんだなあ。
そして聖女パルフェは、政治とか統治にもしっかりした自分の考えを持っているのか。
普段そんな面は全然見せないのに。
「……必ずしも王や貴族が搾取するわけじゃないのか」
「そりゃそーだ。その辺は統治者個人の資質だよ。偉い人の倫理観が腐っててお金に対して貪欲なら搾取するわ。君主制共和制関係ない」
「うん、その通りだ」
「個人的には国の人口が少ない内は君主制の方がいい気はするな。能力のあるリーダーに権力を集めて、統治っていうお仕事を押し付けちゃう。でも人口が多いと段々統治者の目が隅々まで届きにくくなるから、共和制の下で皆で話し合って統治するシステムを作るべきなんじゃないかな。トップの能力や人間関係にもよるから一概に言えないけどさ」
ネッサ嬢が頷く。
顔に生気が戻って来たみたいだ。
そして意外なことを言い出した。
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