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第79話:早期決着

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 ――――――――――建国祭前日、王宮にて。スイフト男爵子息マイク視点。

 おっと、伝令兵が切迫した様子で駆け込んできた。

「ランスロット近衛兵長、ユースタス憲兵隊長より注進です!」
「構わん、話せ!」
「はっ! 各所の自然派教団の溜まり場あるいはアジトに踏み込み、マント四〇枚強を押収することに成功しました。しかしマント兵一〇名以上を含む三〇名ほどが王都正門から脱出を図り、憲兵と宮廷魔道士に撃退された結果、正門から少し離れたところにバリケードを築いて立てこもりました! 現在も抗戦していると思われます」
「大体予想通りだな」
「死傷者は?」
「ケガ人はおりますが、死者はありません!」

 ホッとした空気が流れる。

「立てこもってるのが本隊でいいかな? それ以外にまとまった戦力はない?」
「発見されておりません」
「よーし、あたしの出番だな。行ってくるね」
「待て、飛行魔法だろう? 予も経験したいのだ。連れていけ」
「危険ですぞ!」
「え? 危険ではないだろうけど。まー王様がいた方が降参させるの簡単かもしれないな。オーケー、連れてくよ」
「ボクも!」
「王様が行くのに殿下は連れて行けないな。ごめんね。すぐ帰ってくるから留守番してて」

 クインシー殿下は残念そうだが、王妃様は頷いている。
 危機管理の問題かな?
 万が一陛下が襲撃を受けるようなことがあっても、殿下は王宮に健在だという状況が必要なのだと考えてみた。

「じゃ、あと伝令兵さんとマイク君ついてきてね」

 何故オレ?
 聖女パルフェといると、愉快なことには不自由しないようです。

          ◇

「ハハハ、実に快適ではないか!」
「でしょ?」

 飛行魔法で王都正門に向かう途中だ。
 どうして聖女パルフェは陛下とざっくばらんに話せるんだろ?
 恐れ多いとか思わないのかな?

「風も感じぬではないか」
「あ、それは風の防護魔法を重ねがけしてあるからだよ。石投げられようが矢で射られようがへーき。今日は王様が同行してるから、いつもは張ってない対魔法結界もサービスしていまーす」
「至れり尽くせりだな」
「言わなきゃわかんないこのサービス精神」

 アハハと笑いながら正門に到着。
 フワリと舞い降りる。
 大物二人が駆け寄ってくる。

「「陛下!」」
「おお、ランスロット、ユースタス。御苦労だな」
「まだ決着が付いたわけではございませぬ。危のうございまするぞ」
「王様が行きたいってダダ捏ねるんだよ」
「いいではないか。戦況はどうだ?」
「膠着しております。といっても突入すれば終いなのですが。敵に直接攻撃魔法の使い手がおり、また飛び道具を持っているので損害は免れえません。それで聖女殿を待つかということになりまして」
「攻撃魔法と飛び道具か。厄介だな」
「聖女パルフェはどうするつもりだったのだ?」
「強めの祝福かけて憲兵近衛兵に突入してもらうつもりだった。でも向こうから反撃されるとケガしちゃうな。いいや、あたしがやるわ」

 一人で突っ込むつもりなんだろうか?
 聖女パルフェなら矢も魔法も躱せるんだろうけど、相手三〇人以上もいるんだぞ?

「あれがバリケードかー。うんうん、予想の範囲を越えない」
「どうするのだ?」
「おっ、王様楽しそうだね。こーするんだよ。アンダードライン!」

 ゴゴゴという地響きとともに、バリケードごと自然派教団の者達が地面の下へ。
 何これ? 大きな穴を空ける魔法?
 見物人が皆ビックリしてるんだけど。

 もうもうと立つ土煙の中、悠然と歩を進める聖女パルフェ。
 憲兵の一人に指示を出す。

「縄梯子を調達してきてくれる?」
「わかりました!」
「はーい、自然派教団の皆さん。ちょっといいかな? 聖女パルフェです」

 何てのん気な声なんだろう。
 でも穴の中からは呻き声しか聞こえない。

「皆さんが計画していた蜂起は許されないことです。でも実際に蜂起したわけじゃないし、今降参すれば死罪にはしないと王様が言ってます。どうする? ちなみに降参しないと三分後には生き埋めにしちゃいまーす」

 ひどい。
 とても聖女の提案とは思えない。

「降参する!」
「降参は総意でいいかな? 一人でも反対者がいるなら生き埋めでーす」
「「「「「「「「降参します!」」」」」」」」
「じゃ、縄梯子下ろすね。自力でイケそーな人は、マントを外してから登ってきてね。もっと余裕ありそうな人は、ケガ人を助けてあげてくれる?」
「助けてくれ、こいつ血が止まらねえ!」
「こっちで引き受けるよ」

 浮遊魔法で手元に引き寄せヒールで止血。
 うん、大丈夫だな。
 骨折以上が一二名、内、自力で動けないのが三名か。
 全員を引き上げて治療する。
 軽いケガならオレも。

「ほう、マイクよ。そなた回復魔法を使えるのか」
「聖女様に教わったんです」
「大したものではないか」
「ヒールはクインシー殿下も使えるよ。何か一つしっかりした魔法使えると、他の魔法の習得も捗るんだ。それで持ち魔法属性関係なく覚えてもらったの」
「そういうものか」
「よーし、あとはまとめていくぞー。リカバー!」

 ケガは治ったものの不安そうな様子を隠せない自然派教団の信徒達。
 そりゃそうだろうなあ。
 信徒の一人が言う。

「おい聖女! わざわざケガを治してどうしようってんだ?」
「罪を償ったら元の生活に戻ってね、ってだけだよ」
「何故だ!」
「といわれても、去年のテロみたくえらいことになってるわけじゃないじゃん? 心を入れ替えてくれるなら、税金払ってくれる良民をそれ以上いたぶる意味がない」
「はっ、つまり搾取の対象だからだな?」
「そこなんだけど。どう搾取されてるの? 具体的にウートレイドがどこの国と比較して税金高いかな?」
「えっ? ……いや、国防結界の維持分だけ税金高いんだろ?」
「国防結界の維持分って要するにあたしのお給料分だわ。結構もらってるっちゃもらってるけど、ウートレイドは軍隊がないから税金は他所の国より安いんじゃないかな。比べてみたことある?」

 動揺する信徒達。

「どーも自然派教団の人達は間違ったこと教わっちゃってるみたいなんだよね。国防結界いらんなんて本気で思ってるなら、『魔の森』の中の魔物のたっぷり生息しているところを案内するよ。嫌というほど美味しい魔物肉を食らわせてくれる」
「聖女パルフェよ。それは違うのではないか?」
「そーだ、経過を無視して結論に行ってしまった」

 ようやく笑いが出始める。

「自然派教団の唱えていることが本当に本当だったら、税金の高いウートレイドから人は逃げ出すはずなんだよ。でも実際はウートレイドは世界で最も発展してる国の一つじゃん? それに魔物と共生することがそんなにいいと思ってるなら、一度ドラゴンに丸かじりされてみるといい。魔物は人間の都合なんか全く考えてくれないってよくわかるから」
「……教団の教えは間違っているのか?」
「聖教会の教えもちゃんちゃらおかしいとこあるよ。だからまあ教えを信じるのは自由だと思う。でも信じ込んで社会を変えようってんだったら、マジでそれでいいのかよく調べ考えてからにしろって言いたい。盲目的に動かれると皆がどえらい迷惑する。去年のテロ覚えてるでしょ? 同じ自然教団の信徒から見ても、何やってんだと思わなかった?」

 沈黙する信徒達。
 聖女パルフェの言葉には実がある。

「今年から税金の使い道は公表することにする。搾取などしておらぬから、よくチェックするがよい」
「信徒の皆さんにはもう一働きしてもらいたいな。まだ回収されてないマントがあるなら、ありそうな場所教えて。今日の内に提出すれば無罪でいいけど、明日までマント持ってたら有罪だぞーって伝えて回らないと」
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