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第121話:パルフェお昼寝の時間

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 ――――――――――エストラントにて。とある町人視点。

「ひ、飛竜?」
「に、逃げろ!」

 つい先ほどから国防結界が振動しだしたんだ。
 何事かと思ったら、デカいワイバーンが飛んできて国防結界に攻撃を仕掛けていやがる。
 ワイバーンなんて見たの初めてだわ。
 弾かれても諦める様子を見せず、何度も何度も翼を畳んで体当たりしたり、爪で引っ掻いたり。
 国防結界が設置されてからこの方、これほどの危機はなかったんじゃねえか?

「また二体増えたぞ!」
「ど、どうなっているんだ?」

 今や合計二〇体近くものワイバーンが、国防結界をガシガシしているのだ。
 国防結界がかなりの魔物であっても寄せ付けないという話は知ってる。
 知ってるだけだ。
 実際にワイバーンほどの強力な魔物が群れをなして襲うなんて、想像したこともねえ。

「何であいつらは何度も突撃してくるんだ?」
「知るか。頭がイカれてるんだろ」

 頷かざるを得ない。
 頭がおかしい。
 大体普通、結界を突き破れなきゃ、別の場所を通ろうとするとか逃げるとか考えるだろ。
 ただただ国防結界に突撃を繰り返す迫力と異常さに恐怖してしまう。

「国防結界に親でも殺されたんじゃねえの?」
「そんなことあるのかよ?」
「知るか」

 しかし国防結界とは大したものだ。
 今日図らずもその強度が証明されたわけだが、どこまで信頼できるのかまではわからねえ。
 助かったら感謝の意を込めて、オレもこの結界の基石に魔力を供与してやろうと思う。

「領主様は何やってるんだよ!」
「もう連絡行ってるはずだろ?」
「いや、帝国と戦になるとかいう話だったろうが。大部分の領兵連れて王都行っちまってる」
「畜生、間が悪いぜ」

 領主や領兵がいたところで、これだけの数のワイバーン相手に何ができんだよ。
 近隣の冒険者達だって、この有様じゃ怖気付いて来てくれやしねえ。
 オレはどうすべきだ?

「わたしゃ逃げるよ!」
「どこへだよ」

 ワイバーンって確か肉食だろ?
 逃げてる最中にとっ捕まって食われるんじゃねえの?
 瓦礫に埋もれてた方が生き残れる確率高くね?

 皆が皆、右往左往している時に場違いなほどのん気な声がした。

「道具屋のおっちゃんじゃないか。こんにちはー」
「おっ、パルフェちゃんかよ」

 ハテレス辺境区に住んでいる少女だ。
 いつも飛行魔法でエストラントまで飛んでくるという、とんでもなくすごい子。

「しばらく顔見せなかったじゃねえか。どうしてたんだ?」
「このキュートなフェイスを見られなくて寂しかった? 最近王都コロネリアに住んでるんだよ。エストラントに用がなくて」

 パルフェちゃんは辺境区で売買できないようなものの処分と仕入れにエストラントに来ていた。
 王都ほど大きな町に住んでるなら、エストラントに用なんかねえだろうなあ。

「あたしは今、聖女のお仕事をしてるんだよ」
「聖女? そういや新しい聖女がどうのこうのって話聞いたような気がするな」
「国の端っこにはなかなか情報伝わんないよねえ」

 というか聖女がどうであろうと、オレ達の生活に関係ねえからな。

「まあパルフェちゃんなら聖女にピッタリだぜ」
「マジ? そんなに品がある?」

 品?
 いや、すげえ魔法が達者だからよ。

「それにしてもバシバシ来るなあ。こんだけの数のワイバーンは初めて見たよ」
「だろ? 二度と見られないようなショーだぜ」

 軽口叩けるのも今だけか。
 ん?

「何やってんだ?」
「いや、結界の基石の状態がどうかなって。魔力の減り具合を確認してるの」
「ああ、それでここに。でも早く逃げた方がいいぜ。パルフェちゃんなら逃げられるだろ?」
「大丈夫だな。何もしなくても三〇分は結界持つ」
「三〇分だけかよ!」

 そんなん石見ただけでわかるのな?
 さすが聖女。

「そういやあ、聖女って国防結界をどうにかできるんだったか?」
「弄る権限はないけど、基石に魔力を注いで結界を維持するお仕事だよ」
「ほお?」
「結構お給料がいいんだ」
「ハハッ。いや、そんなことよりあと三〇分で結界破れちまうんだろ?」
「何もしなきゃね。実際にはそーでもないよ。今王都聖教会で準聖女ネッサちゃんがスタンバイしてるはずだから、何時間かは問題ない。あたしが魔力注入してやれば明日までへーき」
「マジかよ」

 いくら何でも明日までワイバーンのスタミナが持つとは思えねえ。
 どうやら助かるようだ。

「あたしはどうやらエストラントがワイバーンの群れに襲撃されそうだって情報を得たから、解決しに来たんだよ」
「解決できるのか。ワイバーンはどっから来たんだ?」
「後で話すよ。全部が一まとまりになってると楽なんだけどなー。三、四体単位で編隊を組む習性があるみたいだな」

 それにはオレもさっきから気付いていた。
 全部がバラバラなわけじゃねえ。
 三、四体ずつ結界にアタックしてきやがるんだ。

「最近転移の魔法っての覚えてさ。あたしは転移で王都から来たんだよ」
「転移って瞬間移動か」
「まあそう」
「その転移でワイバーンをどっかに飛ばせられねえのか?」
「おいこら、せっかくの大技なんだからオチを先にゆーな!」

 怒られた。
 パルフェちゃんの言うことは冗談なんだか本気なんだかわからねえ。
 昔からそうだ。
 聖女になってもこういうところは変わらねえなあ。

「よしよし、四体突撃してきた。チャンス!」

 オレでも感じるほどの魔力の高まりだ。
 パルフェちゃん本気みてえだな。
 四体のワイバーンが結界に体当たりして動きを止めたところで消えた?

「よーし、成功!」
「どっかに飛ばしたってことか? 転移って本当なのかよ?」
「本当だとゆーのに。順番に全部追っ払うから待ってて」

          ◇

「ふいー、ごちそうさまっ! 奢ってくれてありがとう!」
「お安い御用だけどよ」

 ワイバーンの群れをどこかへ飛ばし、エストラントの町を救ったパルフェちゃんに大盛り上がりだ。
 大量に魔力を使って腹が減ったとのことだったので、好きなだけ食べてもらうことにした。
 しかしよく食ったな。
 この小さな身体のどこに入るんだ?

「で、そろそろ種明かししてくれよ。あのワイバーンはどこから?」
「ガーツ山脈かららしいよ。もうすぐ帝国と戦争になるじゃん?」
「ああ、知ってる。領主様も兵を率いて向かった。その隙を突いてエストラントが狙われたのか?」
「いや、違くて。魔物に言うこと聞かせられる能力者ってのが帝国にいてさ。ガーツ山脈のワイバーンに王都コロネリアに向けて進撃しろっていう命令を出したんだって」

 魔物に襲わせるなんてことができるとは。
 帝国は恐ろしいな。

「で、ガーツ山脈から真っ直ぐ王都のライン上にエストラントがあるじゃん?」
「帝国の陽動作戦だったってことか。情報があったのならこっちに知らせてくれりゃいいのに」
「ごめんよ。その能力者を逮捕したの今朝でさ。話聞きだすまでそんな奇想天外な作戦立ててると思わなかったわ。間に合ってよかった」

 すぐ駆けつけてくれたのか。
 ギリギリだったんじゃねえか。
 パルフェちゃんニコニコしてるから、全然危機だったと思ってねえのかもしれねえけど。

「もう問題ねえんだな?」
「えーと、その能力者は自爆しちゃってこの世にいない。結界の基石の魔力の減りを観察する限り、エストラント以外の他の場所で結界が魔物に襲われてるってことはないな。ひょっとして遅れて来るワイバーンの群れがいるかもしれないから、仮眠とって魔力回復させがてらもうちょっとエストラントにいるね」
「おう、お前ら! 聖女様のお休みだ。ベッドを用意しろ!」

 パルフェちゃんみたいな子が聖女でつくづくよかった。
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