金継ぎ

有田 シア

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ボトルキープ  ー徹ー

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「徹、いいこと教えてやるよ。」

海斗はそう言ってカウンターの裏に回ってこっちに来いという合図をした。

カウンターの後ろの棚には焼酎のボトルが綺麗に並べてある。

海斗はボトルを一本ずつ持ち上げ首から下がっている名札の名前を呼び上げた。

「北上電力 新田 晋平様」

海斗は少し考えた後 、そおっと元の位置に慎重に戻した。

今度は「柏木建設 東海様」と言って直ぐ何かの確信を持った顔をして頷いた。

そして迷わず焼酎をコップに3センチほど豪華に注ぎながら

「こいつは2ヶ月くらい県外行ってるから、大丈夫なんだよ。」

と徹を宥めるように言った。

徹は口が半開きのまま海斗の様子を見つめていた。

海斗はどの酒を買おうか品定めでもするかのようにボトルをみているが、それは全部常連客のボトルキープの酒なのだ。

買い出しに行った佳奈恵が帰って来たらどうしようと不安になり徹は店内を見渡した。

まるで自分たちが開店前の静かな居酒屋に忍び込んだ泥棒のようで、徹は緊張していた。

「日東食品 多田様」

海斗の表情が曇る。

何か嫌なことを思い出している様子だ。

そのボトルはそのまま元の場所に戻された。

海斗はそうやって少しずつ集めたコップ半分ほどの焼酎を満足そうに眺めてから

「一口飲むか?」と徹にはコップを突き出してきた。

「コーラ飲むか?」くらいの軽さで。

「いやいや、僕はいいです。」

胸の前で広げた両手が小刻みにいやいやをする。

その間に海斗はそれを一気に飲み干した。


海斗はあっけらかんとしてコップを洗い場に持って行った。

徹はそこに置かれてある、海斗が焼酎を飲んだコップを洗う。

「洗い物を残したまま帰るなよ。」

昨日の帰り際、弁二が洗い場に残っていた小皿二枚を見てそう言ったのを思い出していた。


徹がここの居酒屋弁二で働き出して4ヶ月が経つ。

毎日いろんなことを学んでいた。

包丁の使い方、正しい寿司の食べ方、早く皿を洗う方法、弁二の機嫌を伺う方法、金曜日が忙しいということ、海斗が刺身をつまみ食いしていること。

でも海斗がお客さんのお酒を隠れて飲んでるなんて、知りたくない事を知ってしまった。

ばれないようにちゃんと上手くやってるから大丈夫なんだろうけど。

海斗はかなり長く働いているだけあって全ての行動に自信があり、何をやっても許されるかのように振る舞っていた。


二人とも制服として支給されている黒いTシャツに黒い腰下前掛けをしているが、同じものを着ていると思えないほど海斗のはおしゃれに見える。

「海斗くんのジーンズカッコいいね。ビンテージとか、そういうやつ?」

「違うよーただの古い普通のだよ。」

破れたジーンズでさえ海斗が履けばオシャレに見えてしまうのだ。

海斗はカフェ定員で徹は魚屋くらい違いがあった。
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