金継ぎ

有田 シア

文字の大きさ
11 / 23

隠れた罠 ー海斗ー

しおりを挟む
「木曜から店開けるね、弁二さんはまだ出れないのよ。店出れるようになるまであと2ヶ月くらいはかかるって。だから海斗君お願いね。新しいメニュー出してみてもいいって言ってたけど、やってみる?」

海斗は佳奈恵からの電話を切ってから「レシピノート」をもう一度見直した。
これらのレシピには隠し味がいっぱい使ってある。
海斗は隠し味という味つけの仕方が気に入っていた。食べても、それが入っていると気付かないけど、実はそれが味の決め手になっている、隠れた秘密の味つけ。
食べた人が「このスープ美味しいー何入ってるの?」と聞いてきて、「 タイムとローリエ。」
と言うのが快感だっだ。
隠れているけど、秘密にはしない。

あの時も誰かが、食べて「美味しい」と言ったら、隠し味はピーナッツバターと言うはずだった。そしたらみんなは「へぇー。」って言うはずだった。
里奈は海斗の作ったバンバンジーのソースに入れたピーナッツバターでアレルギー反応を起こした。
病院で貰ったパンフレットにはナッツのアレルギーには死に至こともある。 と書いてあった。
海斗はぴしゃりと平手打ちを食らって「うぬぼれるなよ、おまえ。」と誰かに言われた気がした。

一つ一つのレシピに穴があるように思えて、海斗は不安になっていた。
でも、また自分の料理を食べてもらえるチャンスが来んだ、とを弱る気持ちを奮い立たせる。

「おまえのせいじゃない」と弁二は言った。海斗は罪を犯したのに生かされているような罪悪感と隠しきれない安堵を感じていた。


弁二のいない居酒屋弁二。
海斗は弁二のいつもに位置に立ち、責任感で身が引き締まるのを感じた。
弁二がいなくてもなんとかやる自信があった。でも寿司だけは一度も作らせてくれなかったからメニューからはずさなければいけないだろう。
でもいつも弁二がやるのを見ているからやろうと思えば寿司は作れるような気がした。
海斗は頭の中で寿司を作る工程をイメージした。
新鮮な魚を丁寧にさばき、シャリを握って魚をのせる。
寿司には隠し味などいらない。
弁二が寿司を握る時の鮮やかな素早い手の動きは、はっきりと海斗の頭の中に焼きついている。
でもそれを海斗の手が出来るんだろうか。
海斗の指がぎこちなく動く。

海斗は年期の入った寿司桶がいつもの場所にあることを確認した。
手を伸ばして見たものの、神聖なものに触れるような気がして触るのをためらってしまう。
弁二はいつも神経質すぎるほど寿司桶の手入れには気を使っていた。寿司桶だけではなく、寿司作りに関することすべてにこだわりがあった。

海斗は弁二のそういう職人気質なところに憧れてこの店で働き出したことを思い出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

処理中です...