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俺流 ー香奈恵ー
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「佳奈恵さん、やっぱり俺、新しいメニュー作るのやめました。」
海斗がさっぱりした顔でそう言った。
「そうなの、何で?」
佳奈恵には不思議だった。海斗はあんなにメニューを変えたがっていたのに。
「ここのメニューは変えない方がいいと思ったんです。」
海斗ははっきりと言い切った。
佳奈恵もそう思っていたけど、海斗がこんなにあっさりと諦めてしまうのが残念でもあった。
佳奈恵も少しの変化を期待していた。
「でも今日、弁二さん新しいメニューの試食しに来るよ。」
海斗は少し考えてから、
「じゃあ、俺流の厚焼き玉子作らせてください。」
と言った。
海斗が溶き卵をフライパンに流し入れた。
素早く折り畳まれまる半熟の卵は海斗の菜箸を持つ右手と左手首に従順に従う。
フライパン全体にまた黄色が敷かれる。自信たっぷりのコントロールされた手つきだった。
ひと固まりになった玉子はキメの整った表面をしていた。
「なれた手つきだね。よくうちでも作るの?」
「うちで練習したんです。」
「こんなに上手に出来るなんて、やっぱり海斗君って才能あるね。」
私には出来ないなぁ。
私は料理の才能ないのよ。佳奈恵は心の中で言った。
海斗の考えた新しいメニューを試食しようと弁二が開店前に店に来た。
いつもはキッチンにいるはずの弁二は居心地が悪そうに椅子に座ってキッチンを見ている。
「海斗君、新しいメニュー出すのやめたって。」
佳奈恵は弁二に言った。
「そうか。」
佳奈恵はそう言った後の僅かな弁二の安堵の表情を見逃さなかった。
「代わりに厚焼き玉子作ったから食べてください!」
海斗がキッチンからそう叫んだ。
海斗はお皿にのせた厚焼き玉子を大事そうに持って来て、弁二の前に静かに置いた。
包丁で切られた厚焼き玉子は今すぐ客に出せるほど綺麗に出来ていた。
弁二はそれをまじまじと眺めて、
「お前が食べてみろ。」
と佳奈恵の方を向いた。
「え、私?は、はい。」
佳奈恵は重要な役割が自分に振られたようで緊張した。
海斗は佳奈恵が厚焼き玉子を一切れ口に入れるのを食い入るように見ていた。
弁二は椅子に深く腰掛けてリラックスしているように見せかけているが、鋭い視線が刺すように佳奈恵の口元を見ていた。
どっちの厚焼き玉子が美味しい?
と聞かれているようで、佳奈恵は味に集中出来ない。
目を瞑った。
玉子を味わう。
感想を一言で言うと、美味しい。だった。
佳奈恵はあまり食通ではない。
弁二の厚焼き玉子と海斗の厚焼き玉子が違うのはわかるがどう違うかと言われると、わからない。
美味しさを表現する代わりに、
「この厚焼き玉子に何入ってるの?」
と聞いた。
「マヨネーズとヨーグルトです!」
海斗は嬉しそうにそう言った。
「へぇ~すごい美味しいよ!」
佳奈恵は思っていたことを正直に言った。
「本当ですか。この店でも出せますかね。」
海斗は嬉しそうにそう言った。
海斗がそう言ったのは、本当に自分の厚焼きをお店に出したいのではなく、ただ認めてもらいたいだけなんだということを佳奈恵は感じとった。
「弁二の厚焼きとは違う美味しさだけど、出せるよ。」
弁二の方をちらっと見てから佳奈恵は続ける。
「でもね、この店には弁二の味の厚焼きの味の方がこの店に合ってる気がする。」
海斗は少し考えてから
「そうですね。」
と納得したように言った。
「弁二さん、手首治ったら俺に厚焼き玉子の作り方教えてください。」
海斗はキラキラした目をしていた。
弁二は何も言わず、手で厚焼き玉子をつまんで口に入れた。
一点を見つめて口をもぐもぐさせた後、決意を下すと同時に玉子を飲み込んだ。
「教えることは何もない。調味料の分量だけ教えるから、それで今日から厚焼きも店に出せ。」
弁二はそう言ってそこにあった紙に厚焼き玉子の調味料の分量を書き出した。そして、
「厚焼きにへんなもの入れるなよ。」
と言い残して帰って行った。
外から下校途中のを子供の笑い声が聞こえてきた。そろそろ仕込みの時間だ。
香奈恵はエプロンをつけてキッチンに向かった。
海斗の母
朝起きたら厚焼き玉子がお皿にいっぱいのってたのよ。
海斗が、「今日は朝ごはんに厚焼き玉子食べてー」だって。海斗が昨日の夜作ったみたい。「なんでこんなに作ったの?」って聞いたら、
「厚焼き玉子は料理の基本だからね。弁二さんみたいな厚焼き作ろうと思って練習したんだけど以外と難しいんだよね。」
って言うのよ。あんなに居酒屋弁二のメニューは古いって言ってたのにやっぱりまだ弁二さんに憧れてるんだろうね。
でも、 「こっちがポン酢入りで、こっちがマヨ入り。こっちは明太子。」だって。弁二さんなら厚焼き玉子にそんな変わったもの入れないじゃないの?やっぱ海斗は海斗だね。
海斗がさっぱりした顔でそう言った。
「そうなの、何で?」
佳奈恵には不思議だった。海斗はあんなにメニューを変えたがっていたのに。
「ここのメニューは変えない方がいいと思ったんです。」
海斗ははっきりと言い切った。
佳奈恵もそう思っていたけど、海斗がこんなにあっさりと諦めてしまうのが残念でもあった。
佳奈恵も少しの変化を期待していた。
「でも今日、弁二さん新しいメニューの試食しに来るよ。」
海斗は少し考えてから、
「じゃあ、俺流の厚焼き玉子作らせてください。」
と言った。
海斗が溶き卵をフライパンに流し入れた。
素早く折り畳まれまる半熟の卵は海斗の菜箸を持つ右手と左手首に従順に従う。
フライパン全体にまた黄色が敷かれる。自信たっぷりのコントロールされた手つきだった。
ひと固まりになった玉子はキメの整った表面をしていた。
「なれた手つきだね。よくうちでも作るの?」
「うちで練習したんです。」
「こんなに上手に出来るなんて、やっぱり海斗君って才能あるね。」
私には出来ないなぁ。
私は料理の才能ないのよ。佳奈恵は心の中で言った。
海斗の考えた新しいメニューを試食しようと弁二が開店前に店に来た。
いつもはキッチンにいるはずの弁二は居心地が悪そうに椅子に座ってキッチンを見ている。
「海斗君、新しいメニュー出すのやめたって。」
佳奈恵は弁二に言った。
「そうか。」
佳奈恵はそう言った後の僅かな弁二の安堵の表情を見逃さなかった。
「代わりに厚焼き玉子作ったから食べてください!」
海斗がキッチンからそう叫んだ。
海斗はお皿にのせた厚焼き玉子を大事そうに持って来て、弁二の前に静かに置いた。
包丁で切られた厚焼き玉子は今すぐ客に出せるほど綺麗に出来ていた。
弁二はそれをまじまじと眺めて、
「お前が食べてみろ。」
と佳奈恵の方を向いた。
「え、私?は、はい。」
佳奈恵は重要な役割が自分に振られたようで緊張した。
海斗は佳奈恵が厚焼き玉子を一切れ口に入れるのを食い入るように見ていた。
弁二は椅子に深く腰掛けてリラックスしているように見せかけているが、鋭い視線が刺すように佳奈恵の口元を見ていた。
どっちの厚焼き玉子が美味しい?
と聞かれているようで、佳奈恵は味に集中出来ない。
目を瞑った。
玉子を味わう。
感想を一言で言うと、美味しい。だった。
佳奈恵はあまり食通ではない。
弁二の厚焼き玉子と海斗の厚焼き玉子が違うのはわかるがどう違うかと言われると、わからない。
美味しさを表現する代わりに、
「この厚焼き玉子に何入ってるの?」
と聞いた。
「マヨネーズとヨーグルトです!」
海斗は嬉しそうにそう言った。
「へぇ~すごい美味しいよ!」
佳奈恵は思っていたことを正直に言った。
「本当ですか。この店でも出せますかね。」
海斗は嬉しそうにそう言った。
海斗がそう言ったのは、本当に自分の厚焼きをお店に出したいのではなく、ただ認めてもらいたいだけなんだということを佳奈恵は感じとった。
「弁二の厚焼きとは違う美味しさだけど、出せるよ。」
弁二の方をちらっと見てから佳奈恵は続ける。
「でもね、この店には弁二の味の厚焼きの味の方がこの店に合ってる気がする。」
海斗は少し考えてから
「そうですね。」
と納得したように言った。
「弁二さん、手首治ったら俺に厚焼き玉子の作り方教えてください。」
海斗はキラキラした目をしていた。
弁二は何も言わず、手で厚焼き玉子をつまんで口に入れた。
一点を見つめて口をもぐもぐさせた後、決意を下すと同時に玉子を飲み込んだ。
「教えることは何もない。調味料の分量だけ教えるから、それで今日から厚焼きも店に出せ。」
弁二はそう言ってそこにあった紙に厚焼き玉子の調味料の分量を書き出した。そして、
「厚焼きにへんなもの入れるなよ。」
と言い残して帰って行った。
外から下校途中のを子供の笑い声が聞こえてきた。そろそろ仕込みの時間だ。
香奈恵はエプロンをつけてキッチンに向かった。
海斗の母
朝起きたら厚焼き玉子がお皿にいっぱいのってたのよ。
海斗が、「今日は朝ごはんに厚焼き玉子食べてー」だって。海斗が昨日の夜作ったみたい。「なんでこんなに作ったの?」って聞いたら、
「厚焼き玉子は料理の基本だからね。弁二さんみたいな厚焼き作ろうと思って練習したんだけど以外と難しいんだよね。」
って言うのよ。あんなに居酒屋弁二のメニューは古いって言ってたのにやっぱりまだ弁二さんに憧れてるんだろうね。
でも、 「こっちがポン酢入りで、こっちがマヨ入り。こっちは明太子。」だって。弁二さんなら厚焼き玉子にそんな変わったもの入れないじゃないの?やっぱ海斗は海斗だね。
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