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しおりを挟む翌日。
朝食を終えたリト達は、揃って神殿へ向かう。
既にニールは出掛けており、神官は大変だとサラン達と話しながら、聖者の挨拶が行われる中庭へと足を運ぶ。
「皆さん、おはようございます」
そこに、ピピが夫のタンタルと一緒にやって来た。
ピピとタンタルも近くに家があるのだと言う。
「あ、ナーム!おはよう!」
「おはようパッド。朝から会えて嬉しいよ。聞いたか?遠征が早まりそうで」
「うん。聖者様とご一緒なんでしょう?凄いじゃない!でも、あまり無理しないでね…」
騎士寮からも集団が合流しだし、その人だかりにナームを見つけ、それじゃとパッドは駆け寄って行く。
ナームはそのままパッドを左腕で抱き込み、話をしながら一緒に歩き出す。
周りにもチラホラ恋人同士や夫夫の姿があり、こういった神殿の空気も良いなとリトは感じていた。
「カックン神官、トロン神官。おはようございます」
神殿近くで二人の神官を見つけ、挨拶をすると、少し照れたようにカックンがこちらに近づいて来る。
「皆さんおはようございます。…キキ殿ご一緒しても?」
「おはようございます。もちろんです。じゃあ、私はここで」
そう言って、キキはカックンと一緒に先に歩いて行く。
揃って行っても良いだろうが、やはりキキも照れ臭い様だから、ここは距離を取ってあげようとなった。
「…義兄に春が来たな」
「…まさか、兄様何か悪い手を使ったんじゃ」
ポツリと呟いたタンタルとピピに、リト達は笑ってしまう。
そう言えば、弟が先に結婚しているのも、貴族とは違うなとリトは思った。
「大丈夫ですよ。カックン神官はキキの演奏会にもいらしていたそうですし、音楽にも造詣が深いのでしょう?」
「そうそう。キキのお眼鏡に叶うなんてさすがですよ」
とりあえずとモルトとリトがフォローすると、ピピはそれなら良いのですがとホッとしていた。
「皆さんおはようございます。私もご一緒しても?」
「はい、もちろんです」
そこにトロン神官が加わり、それとなくモルトの隣に誘導して一緒に歩き出す。
刺繍の件で、今日からでも騎士団の訓練場へ出向いて貰う事になるかもしれないと、トロンはモルトとサランに説明をしていた。
「そうそう、リト殿とピピ殿も、訓練場に向かって作業をして貰うかもしれないと、カックンが言っていました」
「分かりました。聖者様のご挨拶が終わったら、詳しくお話を聞いておきます」
会話をしながら中庭に到着すると、多くの人が集まっていた。
中央に台が準備されているので、そこで挨拶が始まるのだろう。
挨拶が始まれば一斉に膝を付くだろうから、前でも後ろでも一緒だろうと、リト達は人の少なそうな後ろ側に場所を取った。
「おはようございます。僕達もご一緒しても?」
「おまようマーチ。もちろんだよ。ガン殿、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
そこに、マーチとガンの夫婦も合流した。
久しぶりに見たガンは、王都の時より逞しく鍛えられていた。
神殿騎士について行けるのだから、やはりガンは優秀なんだろう。
大所帯だが、周りも特に気にしていないので、ありがたいなとリトは思った。
「マーチに聞いたのですが、昨日は大変でしたね。お相手としっかりお話し出来ましたか?」
ルーベルトの事だろうと、リトは苦笑しながらも大きく頷いた。
「もちろん。やっと終わったと肩の荷が下りました。それにしても、神殿騎士を目指そうとする王都の騎士の方々が増えているそうですね。ガン殿の様に元々からしっかり鍛えている方ばかりでは無いでしょうから、何人がこちらにいらっしゃるのか」
自分はもう終わったとハッキリ告げて、話題を神殿騎士に変えると、ガンは苦笑する。
「ええ。王都でそれなりの階級であったとしても、結局は貴族として与えられたものだったりしますからね。こちらでは何の役にも立ちません。とりあえず、すぐにこちらに向かう様な行為は迷惑になるからと、王都でしっかり試験を行なってくださっている様ですよ。リト殿のお父上であるザルク団長が厳しく目を光らせていると聞きました」
「父様が…」
神殿騎士くらいと思い上がって神殿へ向かい、実力不足を言い渡されトラブルにならない様にと、リトの父は神殿行きを希望する騎士達をしっかり選別していると言う。
その中で、ガン程の実力で無ければ、試験資格も無いと断言したそうで、そこまで鍛えるのは難しいと断念する者も多いと聞いた。
「…今、ザルク団長の名が聞こえましたが。リト殿はザルク団長のご子息なのですか?」
そこに、タンタルが驚いた様に話に入る。
そう言えばと、リトの父はこちらでも名が知れているのだとカキーの言葉を思い出す。
「はい。こちらでは姓は必要無いと思い、名乗ってはおりませんが…」
「失礼しました。私も若い頃に指導を受けた事があるんです。とても強く、私の目標の一人ですよ」
つい会話に入ってしまったと照れた様に話すタンタルに、ピピが注意しているが、家族の事を褒められ嬉しいと返しておく。
そこに、パッドとナームも合流した。
「ザルク団長はこちらで訓練に参加する事もあるから、俺もお世話になった事があるよ。兄上もとても強いそうじゃない」
「リト殿の兄上は、騎士なの?」
ナームの話を聞き、パッドに問われるが、リトは首を振る。
「兄は家を継ぎますから。それでも毎日の様に剣術の訓練はしていましたね。家と母を守り、妻を守れる様にと」
バーグ家は商家でもあるので、騎士の道には進まなかったのだが、父ザルクに家族を守れる様にと剣術を仕込まれ、最愛の妻と結婚する時に訓練を続けると誓ったのだ。
実は、ロンドが結婚した妻であるハールも元は騎士で、中々の腕だった事もあり、一緒になって訓練していると言う。
「ロンド殿なら、一発で神殿騎士になれる才能があるでしょうね。騎士の道には進まないとおっしゃってましたが、王都が窮地の際は騎士として動くとおっしゃっていたので。…実は、私たち夫夫がこちらに来るときも、ザルク団長がカキー大司教に推薦してくださっていたそうなんだ。最近になって知ったのだけどね」
ガンの告白に、マーチもリトもそうだったんだと驚いていた。
「それでも合格したのは君の才能だよ。ゼルブライト団長が骨のある奴が来たと喜んでいたからね」
「そうそう。紳士的な騎士が一人くらいいないとって言われたもんな」
タンタルとナームのフォローに、周りも笑顔になりながら、会話を続けていると、前の方が騒がしくなる。
「挨拶が始まる様ですね」
トロンの言葉に、皆会話を中断し、台の方へ体を向ける。
「聖者様だ…!」
「本当だ!」
聖者の姿が見えると、一斉に膝を付いて頭を下げる。
トンと、台に登った音がする。
「皆。頭を上げ、立ち上がる様に」
カキーの声が響き、皆は静かに頭を上げ立ち上がる。
台の上には、カキーと神殿騎士の格好をしたトーマが立っていた。
髪は短く切り揃えられ、やはり召喚された時より逞しくなっており、神殿騎士の服もそのうちしっくり来るのだろうとリトは感じた。
「皆さん。こちらに来るのが大変遅くなり申し訳ありません。ジェリ神様により召喚された、トーマ・スズキです」
トーマの声が響き渡り、皆静かに聞いている。
「王都での事も、皆さんご存知だと思います。ご心配やご迷惑をお掛けしました。僕は神殿で生活し、こちらで聖者としての勤めを果たすべく、日々鍛錬して行く所存です。魔物の誕生を完全に抑える事は、この世の摂理として難しいですが、瘴気を浄化する行為を続ければ、魔物の力が日々弱り、安心して暮らして行ける世界が出来ると神様からお聞きしました。それでも神殿での祈りや神殿騎士の方々の活動は必要不可欠です。私はまだまだ未熟者です。どうか、皆さんの力を貸してください」
ハッキリと決意の感じられる声が響き、皆感動していた。
ニールやリト達の婚約破棄の話は皆知っている様だが、聖者の責任では無いと言う話も広がりつつあった。
庇護欲を掻き立てる見た目の美少年ではなく、しっかり自分の足でこの地に根を張ろうとしているトーマの姿は、とても頼もしく美しかった。
パチパチと小さな拍手が起こり、それが広がり大声援も加わると、トーマはホッとしたように微笑んだ。
しばらくしてカキーがその場を静め、今後に付いて簡単な説明がされる。
トーマは騎士団にて訓練に参加しながら、今後遠征で各地を回る事になる。
遠征のメンバーは毎回編成されるそうだが、ニールはその魔力の高さから同行する事が多くなるそうだ。
「すごいねニール。でも、聖者様も一緒なら、騎士の方々がもっと安全に帰って来れる様になるね」
「そうだね。大変だけと、とても立派なお勤めだ」
ニコニコとサランとリトが会話をしていると、カックンとキキが近づいて来る。
「リト殿。今日からはピピと一緒に石や道具を持って、騎士団の訓練場へ行って欲しい。そこで聖者様や遠征に行く騎士達様に聖品に加護を与えて欲しい。明日は休みだから、そこでの作業が終わったら、一旦作業部屋に道具やらを返却してから帰ってくれるかい?もしその時に私の姿が無かったら、結界もお願いしたい」
「はい。分かりました。聖者様の石も準備されているのでしょうか?」
「ああ、シルバーダイヤを陛下より授かったそうだから」
「シルバーダイヤですか…!」
陛下からのシルバーダイヤなら、とても良いものだろうなとリトは思った。
どれくらいの魔力が込められるかは未知数だが、トーマが使用するのなら、結構な魔力を入れなければとリトは張り切った。
そして、トロンもサランとモルトに同じ様に指示を出していた。
「サラン殿も、今日は道具を持って、騎士団の訓練場へ加護縫いの刺繍をしに行って欲しい。聖者様の採寸や布の選別もあるから、私と一緒に、パッドとモルト殿も一緒にお願いします」
「分かりました」
モルトとサランは、初めての訓練場だから緊張すると楽しそうに話している。
「それでは、一旦道具を取りに行きましょう。我々は先に失礼しますね」
そう言ってトロン達裁縫部屋の者達は、リト達に手を振って部屋へと急いだ。
「私達も準備をして向かいましょうか。それではタンタル。また後で」
「ああ」
リトもピピと一緒に、聖品部屋へ向かう。
「それでは、また。今度のお休みはいつですか?」
「明日です」
「キキ殿の都合が良ければ、ご一緒しませんか」
「喜んで」
少し照れた様に話すキキとカックンを横目に見ながら、新しい事が始まって行くなとリトは胸を躍らせていた。
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