婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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「こちらが騎士団の訓練場です。隣には休憩所があり、今日からはこちらの一角で作業をしてもらいます」

作業部屋で道具を揃えたリト達は、織物部屋の面々と一緒に神殿騎士の訓練場へ足を運ぶ。

カックンは新しい像の制作に入るとの事で、トロンが織物部屋と聖品部屋の代表となって案内をしてくれた。

神殿騎士団の訓練場は、石垣でぐるりと囲われている。

王都よりは質素だが広く、周りに害が無い様にと神殿の敷地外に用意されていた。

それでも隣くらいの距離なので、訓練の為に魔術師達が結界を掛けている。

その隣に大きな屋根の休憩所が設置されており、今回はその一角に木製の衝立を置き、部屋として利用すると説明を受ける。

大きく一つに区切られ、その中をまた一部屋ごとに区切ってある。

検診の時にも利用するので、こういった形を取る様に元々準備が整っているのだと聞いた。

「ここでは食事は取らないから、食事の時間は神殿に帰ります。こちらで採寸するので、刺繍はこちら。聖品はこちらでお願いします」

テキパキとしたトロンの指示に、リト達は従いながら作業場を準備する。

採寸部屋にはトロンとパッドとモルトが入り、明日からはパッドとモルトが行う。

刺繍部屋にはサランと、加護縫いが出来るランラと言う引退騎士の方が後から合流すると言う。

聖品部屋はピピとリトが配属され、ピピがやり方を教えてくれる事になった。

訓練の合間に、順番で騎士達が採寸に来るそうだ。

「サラン殿は、こちらにある聖者様用のフェロンに緑の糸で刺繍をしておいてください。ランラは元騎士なので、訓練を見てから参加されるとの事でした」

「分かりました」

トロンに説明され、サランは刺繍に入る。

静かに黙々と作業に入るサランの姿は美しく、リトも習って作業に集中する事にした。

まずは準備として、物の設置と急ぎの石を先に準備する。

そして、紐を均一に切る作業を手伝うと、聖者の石に取り掛かる。

「リト殿、こちらの石は遠征に行く騎士達に配る腰紐の石です。聖者様の石が終わったら、この石に防護の加護をお願いします。私は石を加工しますので」

「はい。分かりました」

そう言うと、リトはカックンより渡されたシルバーダイヤの箱を開ける。

親指の先程で、ペンダントにしても結構な大きさだ。

王都の職人が加工したそうで、キラキラ輝いているが、大きさの割に派手さ無く、ペンダントの石座は光沢を抑えた金地の覆輪留めが施されている。

静かに両手で握りしめ、祈りを捧げる。

遠征に行くトーマとその周りの人々が、どうか無事に帰って来れる様にと。

二十分程祈りを捧げるが、どうやらまだ加護を受け入れる様で、リトは小さく息を吐いて一旦休憩に入ろうと目を開けた。

こんなに加護を与えるのは初めてだなと考えながら、ふと目を上げると、そこにトーマが立っている。

「…!?聖者様。気が付かずに、申し訳ありません」

「いえ!僕の方こそ驚かせてしましましたね」

立ち上がろうとするリトを、トーマがそのままでと優しく促す。

熱心に祈りを捧げるリトを中断させる訳にもいかず、待っていた様だ。

周りを見ると、ピピの姿は無い。

トーマの護衛であろうリュートが、こちらに背を向けて周りを監視していた。

「あ…ピピ殿は?」

「一緒の方は、旦那様の採寸に付き添われていますよ。リト殿。その石は僕のでしょうか」

そうなんだと落ち着いて耳を澄ますと、ピピの声でココをもう少し大きめにと指示が出ていた。

よく破けて帰って来るから、ここは頑丈にと言う言葉にも、愛情を感じてつい微笑んでしまう。

夫の体の変化や動きやすさは、やはり妻であるピピが分かっているのだろう。

「はい。こちらは聖者様の石です。今癒しの力を授けているのですが、思った以上に力を与える事が出来ます。とても良い石ですね、どうぞ、お掛けになってください」

笑顔でそう答えると、トーマは少し顔を赤くしながら、リトの前の椅子に腰掛けた。

「そうですか。…とても綺麗です。あと、僕の事はトーマと呼んでください」

眩しそうに言うトーマを不思議に思いながら、リトは少し休憩してから再度加護を行いますと付け加えた。

「リト殿の石のお陰で、遠征時の怪我が軽傷で済んだとニールに聞きました。素晴らしい力です。ですが、あまり無理はしないでくださいね。僕は、最初に力の使い方が分からず、使いすぎて倒れてしまったので」

照れながら話すトーマに、リトはニールは呼び捨てなんだなと気付く。

良い関係を築いているのだと、安心した。

「もう少しお時間が掛かりそうです。トーマ様は、ご休憩ですか?」

「いえ、採寸待ちです。リト殿の加護の姿が神々しくて、つい見惚れてしまいました」

そう話すトーマに、リトも顔が赤くなる。

褒めてくれているのだろうと、感謝の言葉を述べておく。

「ありがとうございます。隣の刺繍もご覧になられましたか?私の友人なのですが、とても綺麗なんですよ」

「はい。サラン殿だったんですね。…こんな事を言うのは申し訳無いのですが、お二人が神殿で活躍なさっていて嬉しいです」

婚約破棄の事を言っているのだろうと、リトは思った。

トーマは巻き込まれただけなのだが、やはり聖者としてこの地に召喚された者としては、心苦しい事だったのだろう。

「トーマ様。あの後ルーベルト殿下ともお話が出来ましたし、今回こうやって神殿への機会を頂けたので、お気になさらないでください」

それでも申し訳無さそうな顔のトーマに、リトは優しい人だと思った。

「実は、私の両親と兄は、貴族なのですが恋愛結婚なんです」

「え、そうなんですね」

いきなり会話を変えるリトに、驚きながらもトーマは相槌を打つ。

「ですので、私も恋愛結婚に憧れがあったんです。殿下との婚約は王家からの打診でしたので。まだまだ神殿にも慣れませんし、今後どの様な出会いがあるかは分かりませんが、両親や兄の様なお相手と一緒になれたらと思っています」

少し照れながらリトが話すと、トーマはそうですかと呟いた。

何か考える様に目を瞑り、その後しっかりとした眼差しをリトに向ける。

「リト殿が必ず幸せになれる様、僕も努力します」

あまりに真剣な眼差しに、リトは息を飲んでしまう。

「あ、いや。もちろん皆さんの為に努力しますよ」

笑いながら話すトーマに、リトはそうですかと頷く事しか出来なかった。

「…トーマ様。採寸の順番が来ました」

「あ、分かりました。それではリト殿。お邪魔しました」

リュートに声を掛けられたトーマは、立ち上がって採寸部屋へと移動する。

聖者なのに、しっかり順番を待っていたんだなと、リトは感心した。

そこに、慌てた様にピピが帰って来た。

「すみません。少し席を離れるつもりだったんですが、思ったより長く掛かってしまって」

「いえ、旦那様の付き添いだったんでしょう?やはり、一番良く分かっている方が付き添った方が良いでしょうから」

トーマに聞いたと言うと、ピピは恥ずかしそうに隣に座る。

「ええ、タンタルはいつも無理を隠して怪我をして来るので、少しでも動きやすくなればと。まさか聖者様をお待たせしているなんて思いませんでした」

申し訳無さそうに話すピピに、リトはそんな事は無いとフォローをする。

「おかげで私は、聖者様と少しお話が出来ましたから。そうやって、順番をしっかり守って周りとお話しされてるんだと思います。聖者様はまだお若いですが、周りを知ろうと頑張ってらっしゃる」

「ええ。王都での騒動で少しヒヤヒヤしていたのですが、どうやら目標はゼルブライト団長だとか…」

ピピも、タンタルが間違いを犯さないかと心配だった様だ。

タンタルはピピ以外眼中に無い様なのだが。

「はい。私も昨日ニールに聞きました。驚きましたが、聖者様は召喚時より逞しくなっている様に見えます。きっと近い将来タンタル殿やガン殿の様に逞しく立派になると思いますよ」

リトがそう言うと、ピピも確かにと頷いた。

「そう言えば、聖者様の石はどうですか?」

「それが、結構な祈りを捧げたんですが、まだまだ加護を与えられそうなんです。少し休憩して、またお祈りしようと思って」

リトの言葉に、ピピは驚きつつも、体は大丈夫かと心配する。

「やはり陛下からの石だからでしょうか。でも、あまり無理はしないでくださいね。あ、サラン殿。休憩でしたら、リト殿もご一緒に連れて行ってあげて下さい」

ピピは衝立からこちらを覗き込んでいたサランに気付き、サランは恥かしそうに中に入って来た。

「良かった。食事は神殿だけど、軽食やお茶は準備されているんだって」

「それでは、少し休憩して来ますね」

ピピにそう告げて、リトとサランは大きく仕切られた衝立の外に出る。

ザワッ。

一斉に騎士達の視線が集まる。

(こんなに人がいるなんて、集中し過ぎてたのか、気が付かなかった…)

休憩所内には、三十人程の神殿騎士が休憩しており、外にも何人か姿が見える。

採寸に並ぶ為に来た様だ。

「ええと。どこか空いてる席を探そうか。外に出ても良いし」

「そうだね」

リトとサランは困惑しながら、どこか席が空いていないかと辺りを見渡した。

「リト!サラン!」

そこへ、ニールが手を振ってこちらへと誘ってくれる。

二人はホッとしながら、ニールに教えられお茶やお菓子などが並べられた机から、好きな物を選んで席に着いた。

席は六人掛けで、ニールとガンが座っていた。

その間もジロジロと見られていたので、少し居心地が悪い。

「調子はどう?」

気にせず話しだすニールに、リトとサランは苦笑しつつ会話を楽しむ事にした。

「僕は、聖者様のモンク・ローブとフェロンの刺繍が終わった所。後は騎士用の刺繍に入るかな」

サランの言葉に、もう終わったのとリトは驚いた。

「うん。あまり豪華にしても良く無いって言われたから。それでも加護はしっかり入れたよ」

「そう言えば、もう一人の方は?」

引退騎士が刺繍で来ると、トロンが話していたのを思い出す。

「まだいらしてないけど、そろそろかな?騎士の方々に刺繍をして来るって言っていたから、外で作業されてるのかも。リトはどう?」

「それが、聖者様の石の許容量が計り知れなくて…。もう少しお祈りしてみるよ」

他愛もない会話をしていると、休憩所入り口が賑やかになる。

「ランラさん!」

「おうおう。ちゃんと稽古してるのか?」

「はっはっはっ!引退したランラより腕が立つのは中々いないぞ」

茶色で短髪の、一際大きい男性が、皆と楽しそうに話しながら中に入ってくる。

四十代くらいでモンク・ローブを着ているが、がっしりとした体型は分かるくらいに鍛えられている。

(ランラって言った?)

リトとサランは思わず顔を見合わせた。

(刺繍の方?)







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