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しおりを挟むランラは歩く度に話し掛けられており、人気者なのだと分かる。
体格は良いが優しい顔をしており、皆に笑顔を向けている。
「子供はどうした?」
「ああ、神殿に預けたよ。さすがに慣れない育児は大変だ」
「神殿なら安心だな」
どうやら子供がいる様で、預けて来たと話していた。
神殿には子連れで出勤も出来るので、託児所が用意されている。
その後学校にも行ける様にと、勉強も教えてもらえる。
子供達の育成も神殿の大きな仕事の一つだと、カキーが積極的に取り組んでいるのだ。
ついついリト達は視線を送ってしまい、それに気付いたランラがこちらに歩み寄って来た。
「やぁやぁ、もしかして刺繍の子かい?」
「は、はい。昨日から刺繍部屋に配属されました。サランです」
立ち上がって挨拶するサランに、座る様促したランラは、テーブルに加わって良いかと聞く。
どうぞとニールが笑顔で応えると、ガンの隣に腰掛けた。
テーブルを挟んで、ニール、ガン、ランラが座り、ニールとガンの前にリトとサランが座る形だ。
「俺はランラ。以前は神殿騎士をしていたんだが、子を産んで休養していたんだ。夫も騎士団で、もしもの事を考えて俺は引退した。この見た目だけど、昔から刺繍が得意なんだ」
今日から刺繍部屋だよと笑顔で挨拶するランラの服の袖にも、美しい刺繍が施されていた。
神殿騎士同士の結婚で、子を成した後に騎士を辞める者は多い。
危険な仕事である事と、子供を守り育てるのも立派な勤めだからだ。
その為、騎士以外の才能を磨く者も多く、神殿騎士の勤勉さにリト達は感心した。
「ニール神官のご友人だろう?俺の夫は副団長のマイタンって言うんだ。いつも夫の服には刺繍をしていたんだけど、君の刺繍も見たよ。素晴らしい加護だった。騎士は怪我も多いからね。大変だけど一緒に刺繍を頑張ろう」
「はい!」
つい力んで返事をしてしまうサランを、元気が良いねとランラは笑う。
そして、リトの事も聞いてると教えてくれた。
「石に中々強力な加護を与えられるんだろ?それで怪我無く帰って来れたと、皆が喜んでいた。やはり神殿騎士は魔物と戦うから怪我が多くてね。安心して守りに行けるのだからありがたいよ。俺もよく大怪我をしたもんさ」
「そうなんですね…。私達は皆さんに守って頂いていたのに、何も知らずに恥ずかしい限りです。今後は神殿で皆さんの力になれる様、努めていきます」
リトの返事に、そんなに畏まらなくて大丈夫だとランラは笑う。
それでも、知ってくれただけでありがたいのさと言ってくれた。
「そうそう。ガン殿。君は王都から来た騎士だよね?他にも骨のありそうな奴はいるかい?」
ここで隣に座るガンにランラが話を振る。
「…難しいですね。腕が立つ方は上の方々が多いですし、皆さんがこちらに来て頂いても、今度は王都が困りますから。私と同じ世代でしたら何人かはいるのですが。うーん」
ガンはチラリと、サランとニールを見る。
それぞれの元婚約者は確かに腕は良かったよなと、リトは思った。
「…その人達は来なくて良いです」
拗ねる様に言うサランに、ランラは面白そうな顔をする。
「なんだ?元婚約者とかかい?」
冗談のつもりだったのだろうが、ニールとサランが大きく頷くと、しまったと言う顔になる。
「…そいつはすまなかった。例の件かい?」
またサランが頷くと、ランラは嫌そうな顔をした。
「なんてこった。こんなに可愛くて能力のある婚約者達を、みすみす手放すなんて。腕が立つくせに、見る目がねぇんだな!」
「全くですね」
うんうんとガンが同意してくれ、ニールも胸を張るので笑いが起きる。
「さて、そろそろ休憩も終わりかな?」
ニールがそう言うと、そうだねとリトとサランは立ち上がる。
「じゃ、俺もだな」
「ランラ殿、刺繍部屋はこちらです。今日はパッド殿も手伝ってくれています」
サランが案内を買って出ると、ランラはニコニコと笑顔でサランの肩を抱いて歩き出す。
「俺はランラで良いよ。聖者様の刺繍は終わったかい?」
「しゃ、僕はサランで!聖者様のモンク・ローブとフェロンは終わりました。あとは騎士用の服と、他の方々の刺繍ですね」
仲良く話しながら歩き出す二人に、リトもニール達に別れを告げて、ついていく。
衝立の中に入ると、採寸の終わったトーマとリュートの姿があった。
「お、聖者様とリュートじゃないか」
サランの肩を抱きながら、ランラは二人に声を掛けた。
「…叔父さん。失礼ですよ」
リュートに睨まれ、ランラは笑い飛ばす。
「こいつは融通が効かなくてね。聖者様。俺は元騎士のランラで、リュートの叔父です。そして騎士団副隊長のマイタンの妻ですね。子供が産まれまして、刺繍部屋に移動が決まりました」
「僕はトーマです。どうぞトーマと呼んでください。リュートの叔父上なんだね。確かに腕の立ちそうだ」
豪快なランラに、トーマは苦笑しながら応える。
リュートは苦虫を噛み潰したような顔で、ランラを見ていた。
「サラン。こいつは俺の兄の子供で騎士としての腕は立つんだけど、堅苦しい男でね…」
ランラがそう語り出すと、サランはニールが帰って来た時の事を思い出した様で、きれいな笑顔をリュートに向ける。
「…その様ですね~」
「ふははっ!リュートさっそく何かしたな!」
肯定したサランに、ランラが爆笑し、リュートはサランを睨み付ける。
バチバチと音がしそうな程、視線でやり合うサランとリュートに、リトはオロオロする。
「…まぁまぁ。そうだな。僕は聖品部屋の見学をしているから、リュートは叔父上とサラン殿とお話ししておいで。サラン殿。リュートは悪い奴ではないんです。言葉が少し足りないですが」
「トーマ様…」
そこへトーマが助け船を出す。
さ、とトーマがリトをエスコートして聖品部屋に入ると、声が聞こえていただろうピピが苦笑して迎え入れてくれた。
「…大丈夫でしょうか」
「大丈夫ですよ。さ、僕は静かに見学していますので」
トーマに促され、リトはランラも居るしなと納得して、作業に入る。
ピピがトーマに簡単な手伝いを頼み、三人は静かに作業に入る。
隣からは声が聞こえて来るが、ランラが二人で話しておいでと、サランとリュートを外に追い出した様だった。
「大丈夫ですよ。サラン殿もリュート殿も、きちんとお話し出来る機会ですからね」
心配そうなリトに、ピピがそう言う。
「…そうですね」
「そうそう。さ、トーマ様はこちらの石に紐を通してくださいね」
「はい」
取り敢えず、二人とも良い年だから大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、リトは作業を再開する。
二十分程トーマ用の石に祈りを込め、そろそろかと目を開けると、またトーマがこちらを見ていた様だ。
「トーマ様、まだ加護を与えられそうですが、限度が分からないのでここまでにしておきます。こちらをお持ちください。また明日から少しずつ加護を与えますね」
見られていた事に照れながら、リトはトーマへ、石に紐を通して渡す。
「ありがとうございます。…また明日もこちらに来て良いんですか?」
「もちろんです。休憩所でもありますから」
そう答えるリトに、ピピはこっそり苦笑する。
トーマが石の為だけにここに来たがっている訳ではないと、ピピは薄ら気付いていた。
そこに、どうやら話を終えたであろうリュートが、静かに入って来た。
「トーマ様…」
「話は出来ましたか?」
「…はい」
何やら反省した様子のリュートの後ろに、サランも申し訳無さそうに顔を出して頭を下げた。
何を話し合ったかは分からないが、どちらもスッキリとした顔をしているので、言いたい事を言い合えたのだろうと、リトはホッとした。
「では、僕達はこれでお邪魔します。リト殿、ピピ殿、また明日伺いますね」
「はい」
「お待ちしております」
トーマとリュートが部屋を出ると、ピピは明日から椅子を増やそうねと苦笑しながら言った。
そしてそれぞれ作業に戻り、昼食の鐘が鳴る。
「リト殿。今日はここに結界を張ってもらえますか?」
「分かりました」
用意された箱に石などをピピがしまうと、リトは机ごと床から離れない様に固定する結界を貼る。
「…よし。机ごと固定しましたが、今後もこれで大丈夫ですか?」
「ええ。無闇に机を移動されても困りますからね。それじゃ食事に行きましょうか」
ピピに促され、リトは休憩所の外に出る。
騎士達も何回かに分けて食事に向かう様だ。
タンタルは良いのかと言うリトに、ピピは首を振る。
「騎士団は別に食堂があるんですよ」
「そう言えば、昨日神殿の食堂には騎士の姿は無かったですね」
人数も多いから、分散してるんだとピピに説明され、リトは納得した。
そこにサランとランラもやって来る。
「お二人さん。俺達は今日から騎士団の食堂を利用しても良いそうだぞ。カキー大司教からこちらが近いからとお達しがあったそうだ」
ランラに告げられ、リトとピピは顔を見合わせた。
トロン神官やモルト達も既に向かっているそうだ。
「そうなんですね。確かに近い方が便利ですから、お言葉に甘えましょうかピピ殿」
「そうしようか」
少し嬉しそうに笑うピピに、リトはタンタルが居たら良いなと思った。
訓練所と休憩所から少し離れた所に、騎士団の食堂はあった。
どちらかと言うと神殿側だが、いちいち神殿まで帰らずに済むのはありがたいなと感じた。
「ここは二階建てで、食事は一階で提供される。一階の席が埋まってたら上に行くって感じだね」
元騎士であるランラの説明を聞きながら、リト達は食堂に足を踏み入れた。
神殿とは空気が違い、中々活気だっている
「ピピ!今日からこちらを利用できるんだろ?」
ひと足先に食堂に来ていたタンタルが、ピピを見つけて駆け寄って来る。
どうやらこちらにもお達しが届いている様だ。
「ええ。席が空いていますか?」
「ああ。今の時間ならまだ空いているよ。トロン神官達も食事をしている。席は四人で良いのかな?」
辺りを見渡すと、トロンとモルト、パッドとナームが楽しそうに食事をしていた。
「いや、俺は子供の様子を見て来るから、神殿で食べるよ。じゃあ後でな」
ランラはリト達を案内する為に来たと言い、そのまま神殿へ向かう。
「はい、ありがとうございます」
サランと共に礼を言い、リト達はタンタルの席に混ぜて貰う事になった。
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