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しおりを挟むリト達は、神殿の食堂と同じ様に一人分の食事をトレイで運び、泥水を貰う。
騎士達は食事量が多い様で、二人分ぐらい盛り付けられているが、リト達には一人分で良いかと確認を取ってくれた。
既に祈りを終えているタンタルの席に座ると、それぞれ祈りを始めた。
そして十秒程で祈りを終えたリトとサランに、やはりタンタルも周りも驚いていた。
どうしても注目されてしまうなと、リトもサランも顔には出さないが感じていた。
「…さ、食べましょうか」
祈りを終えたピピの言葉に、二人は静かに食事を始める。
「タンタル。私は明日買い出しに行く予定ですが、何か欲しいものはありますか?」
「そうだな。ミルクと蜂蜜が無かったから、買っておいて欲しい。薪やら重いものは今度の休みに私が買いに行くよ」
食事をしながら、ピピとタンタルが会話を始めたので、リトとサランもそれとなくおしゃべりをする。
「トーマ様の刺繍は終わりそう?」
リュートとの事は、寮で聞いた方が良さそうだと思ったリトは、刺繍について聞く。
「うん。騎士用の服はランラが担当してくれたから、今日中に終わると思う。とっても速いんだよ!僕もあのくらいの速さで縫える様に頑張らなきゃ。明日は針と糸を見に行きたいんだけど、リトも一緒に行かない?」
「行こうかな。あと、手紙を出したいから郵便の場所も把握しておきたい。ちょっと街を散策したいな」
寮生活なので買うものもあまり無いが、家族への手紙を送ったり、贈り物を買える商店等を知りたいとリトが言うと、それなら一緒に出かけようとピピが会話に入って来る。
「寮に住んでいる方達は、お休みの時はお昼ご飯は自分で食べたり、神殿に出向いたりする必要がありますから、パン屋なども知っておいた方が良いですね。大抵は神殿で食べますが、外でも食事は出来ますからね。いくつか手頃で美味しい所を案内しますよ」
その申し出に、リトとサランは喜んで応じた。
その様子を微笑ましく見ていたタンタルだが、何か嫌な事を思い出した様で、苦い表情でピピに話し掛ける。
「ピピ。明日から遅くなるかもしれん」
「遠征に向けてですか?」
心配そうに聞くピピに、タンタルは首を振る。
「いや、どうやら明日から王都の騎士が、神殿騎士に向いているかの試験があってな。ガン殿の様な方なら大歓迎なんだがなぁ…」
王都の騎士と言う単語に、リトもサランも反応する。
タンタルの話では、神殿を希望した王都の騎士の実力や適性を測る役の一人に選ばれたとの事だった。
王都の騎士は貴族が多い為、扱い方も面倒だとため息交じりに話すタンタルに、ピピは苦笑していた。
「…タンタル殿。あの…。何人くらいが試験を受けに来るんですか?」
サランは、躊躇しながらもタンタルに問う。
サランが婚約破棄された一人だと思い出したタンタルは、焦りを顔に浮かべ、ピピに冷たい目を向けられる。
「ああ、気にしないでください!僕、お相手に未練は微塵もないんです。ただ、実力があったのは確かですから…」
二人が気にしない様にと笑顔で話すサランに、ピピは謝罪をしつつタンタルを促す。
「ええと、そうだね。取り敢えずは十五人くらいかな?希望者はもっといたみたいなんだけど、王都で篩い落とされてからこちらに来るみたいだ。直接騎士団の敷地内に来て、神殿へは立ち入らない様にしてあるから…。ってサラン殿は一時こちらにいるんだったね」
どうしたもんかと慌てるタンタルに、サランはついつい笑ってしまう。
「それなら、こちらの騎士に負かされている所が見れますね!リト。こっそり見に行かない?」
「サランったら…。タンタル殿もピピ殿も、気にしなくて大丈夫ですよ」
タンタルの心配とは他所に、楽しみを見つけた様にはしゃぐサランに、リトは苦笑しつつそう言った。
まさかのサランの言葉に、タンタルとピピは顔を見合わせた後に笑う。
「ふふふ。良かった。タンタルが余計な事を言ってしまったかと」
「いえいえ、僕も気を使わせてしまって。まあ実際、顔も見たくないんですが。実力的に神殿でお役に立つ方でしたら仕方ないですもんね。きちんと神殿騎士としてお勤めが出来ると判断されたら、僕も覚悟を決めてきちんと対応しなくっちゃ」
スラスラと出てくるサランの言葉に、タンタルもピピも驚きつつも笑って納得してくれた。
そして、話題を変えて会話を楽しむ事にした。
「そうそう。今度の遠征が終わったら、そろそろ身を固めたいとナームが言っていたな。そろそろ身を固める者が増えるだろうな」
「パッドとも長いですしね。兄にもやっと春が来た様なので安心しています。ですが、兄で大丈夫そうでしょうか?」
ピピの心配そうな声に、リトとサランは笑う。
確かにカックンは大雑把なイメージを持たれるが、聖品部屋の空気からして彼が周りに信用されているのはリトも十分感じていた。
「大丈夫ですよ!カックン神官は音楽への理解も深そうですし、相手に気を使わせないようにしつつも包容力があると見受けました。キキにはああいった方がお似合いだと思います!」
「私もそう思いますよ。キキはしっかりしていて、いつも肩を張っていますが、彼の前では力を抜いて接していましたから。友人に良い縁があって私達も嬉しいです」
サランとリトの言葉に、それでもピピは不安そうな顔をしていたが、タンタルもフォローを入れる。
「ピピが心配するのも分かるが、しばらく様子を見てみよう?大丈夫さ。カックン殿はああ見えてしっかりしているよ。私としては、早く身を固めてもらって、ピピの心配が減ったら嬉しいからね」
カックン達は三人兄弟で、一番上の兄は既に結婚して家業を継いでおり、カックンの事を家族で心配していたと言う。
昔から破天荒で自由人だったそうで、実力はあるが周りと溶け込めてられるのかと心配されていたと言う。
同じ神殿のピピにも家族からどうなっているかと心配の連絡が良く来ていたそうで、タンタルはピピが気に病んでいる様子が心配だったから、ピピが笑顔で過ごせるのなら嬉しいと言った。
それなら良かったと、照れながら笑うピピは可愛らしく、タンタルの目尻が下がっていて、リトとサランは顔を見合わせご馳走様と心の中で言ったくらいだ。
「さて、そろそろ作業に戻りましょうか」
午後の作業に取り掛かる。
採寸はまだ続いており、賑やかな声が聞こえてくる。
刺繍部屋と聖品部屋は静かな時が流れており、そこに一人の騎士がやって来た。
「失礼します。明日からこちらに騎士団の試験を受けに来る方々が集合するそうなんです。神殿へは出入りを禁じられていますが、聖者様はこちらにいらっしゃいますし。もしもの事があってはならないからと、明日より騎士が何人か配属される事になりました。まあ、休憩所なので大抵は人がいるんですけどね。作業をされている皆さんには迷惑が掛からない様努めますが、注意してください。ニール神官からの指示で、一応資料をもって来ました。目を通して頂ければ」
そう言って資料をピピに手渡すと、隣の部屋からランラ達が入って来る。
「何だぁ?わざわざ資料って。作業部屋の人間に?」
ランラの言葉はもっともで、リトはピンときてピピが持っている資料を見せて貰う。
「…この資料。父が送って来たものですね」
リトの父親の名前が書かれているのを確認する。
「父?…ザルク団長が!?」
驚いた声を上げるランラと騎士に、それは伝えられて無かったんだなとリトは改まって自己紹介した。
「ええ、こちらでは姓は関係無いと思い、名乗ってはいませんでしたが。…この資料を父がこちらに送って来たと言う事は」
リストを捲ると、やはり何人か知っている者の名前があった。
サランも覗き込み、少し嫌そうに眉を顰める。
「…ルーベルト殿下のお名前は無い様だけど」
そこには、サランとモルト、そしてニールの元婚約者の名前があったのだ。
ザルクはきっちり篩に掛けたが、やはり実力者として残ったのだろう。
しかし、やはりルーベルトの名前は無く、父親がきちんと実力で選んだのだと分かる。
「きっと彼らの目的を知っているので、実力はあるけれど注意する様にわざわざリストを送って来たんだと思います。こちらにいる元婚約者に、迷惑が掛からない様にと気を使ったのも理由でしょう。考えたくはありませんが、接触して優位に動こうと考える方もいらっしゃるでしょうからね。ニールがそれに気付いて、こちらに持って来させたんでしょう」
(私の友人達だと言うのも理由でしょうが。父様ったら甘いんだから)
リトは口には出さず微笑んだ。
「ふんふん。実力があるならありがたいが、邪な気持ちで出来る仕事では無いからな。サランの相手も来るのかい?」
ランラは事態を把握した様で、サランの嫌そうな顔を見てそれが返事なんだと気付く。
「ふむ。取り敢えず明日は休みを楽しんでおいで。明後日からは俺が近くにいるしな。リトやピピも気を付けて、何かあったら俺を呼びな」
ふんっと力拳を見せて笑うランラは頼もしく、場の空気が和やかになる。
「うん。頼りにしてます!そうだ、モルトにも教えておかなくちゃ。トロン神官…は頼りになるよね?優しい感じだけど、どこか強そうな感じもするし」
ちょっと心配そうにサランが言うと、ランラが大笑いする。
「ランラ殿…。サラン殿、それなら心配入りませんよ」
ピピも苦笑しながら、サランにそう告げる。
「やっぱり?」
「ええ。彼は織物の才能があったので織物部屋ですが、昔からタンタルなどと一緒に体も鍛えていたんです。剣術も覚えがあるはずですからね」
リトとサランは顔を見合わせる。
能ある鷹は爪を隠すってこの事か。
「それなら安心ですね。…この様な資料を送って来ると言う事は、父も神殿騎士の存在の大切さを十分理解しているのでしょう。邪な感情で騎士を志望するなど、トーマ様の負担にもなりますからね。ご連絡ありがとうございます。お返ししますね」
リトが騎士に声を掛けると、騎士は緊張しながら資料を受け取ると、頭を下げて部屋を後にした。
「真剣にこちらを希望する方もいらっしゃる様ですから、それだけは安心ですね」
「どう言う事?」
不思議そうに聞くサランに、リトは王都の騎士学校の生徒が多くいる様だと伝える。
「王都での騎士の失態を疑問視して、こちらを希望する生徒も増えたみたいです。卒業までは年数があるけれど、希望してこちらを見学にと言う方も資料にありました。純粋にこちらを希望して、より鍛錬に励んでくださったらありがたいですね」
その言葉にピピやランラも大きく頷いた。
「騎士が増えれば魔術師も増えるだろうしな。さ、モルト?ってヤツに教えておいで。それから作業に戻ろう」
「はい」
ランラの声に、それぞれ動き、作業に戻り出す。
少し胸騒ぎがするなと、リトは感じていた。
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