婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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「こちらが食品を主に取り扱っている商店ですね。最後に寄りましょうか」

「はい」

「わあ、お店がいっぱい!」

次の日、ピピの案内でリトとサランは神殿近くの街に足を運んだ。

乗合の馬車で二十分程の所にあり、一日に十五本は馬車が出ていると教えてもらう。

もし乗り遅れたら、個人馬車に依頼する事も出来るが、乗合に比べたら十倍の値段がすると注意された。

街は神殿関係者も多く利用する為、多くの商店が建ち並んでいる。

王都程では無いが、活気にあふれ手入れも行き届いており美しい街並みだ。

街の人々はそれぞれ好きな服を着ているが、神殿関係者は基本的に休日もモンク・ローブや騎士の格好なので、ちらほらと神殿関係者の姿も確認出来る。

「小さな商店が多いんですね。外装も統一されていますし、とても綺麗です」

リトが感心してそう言うと、ピピがカキーが舵を取り、ごちゃごちゃしていた街並みを揃えたのだと言う。

「商店も石造りになり、災害にも強くなったんですよ。火事があったらすぐに消火出来る様に魔術も張り巡らせていますし、引退した騎士や魔術師がこちらで新しく働いたりもしているんです。元々あまりよろしく無い領主の方が治めていたんですが、カキー大司教がしっかりお灸を据えて。親族から優秀な方が治める事になり、街も随分住みやすくなりました」

税金だけ取って遊んで暮らしていた様で、教会でも大きな顔をしているような貴族だったそうだ。

カキーが大司教に上り詰める中で、しっかりと王都へ報告し、神殿だけでなく神殿近くの街も改革した事は有名で、カキーは民衆から多くの尊敬を集めている。

おかげで、住民達の神殿への印象は大変良く、神殿関係者も神殿の名を背負っていると自負し、悪い行いはしないと言う好循環が生まれているのだ。

「王都でも学びましたが、素晴らしい行いですね。あ、ここが郵便でしょうか?」

「そうですよ。この街には三ヶ所郵便がありますが、神殿から一番近いのはここですね。寄りますか?」

それでは少しだけと、リトは家族宛の手紙を送る。

「速達でお願いしたいのですが」

「分かりました。ええと、王都宛ですね?午前中に出したものはその日の午後には到着しますので、今日の夕方頃には到着しますよ。普通便でしたら、三日後ですね。料金はこちらになります」

「ありがとうございます」

取り敢えず一つの目的は達したなと、リトはホッとする。

「隣が手芸屋ですね。その隣は工具屋になります。サラン殿は手芸屋を見ますよね?私は工具屋を見たいので、後でここで落ち合いましょう。リト殿はどうしますか?」

「私も手芸屋を散策してきます」

ピピと別れて、サランとリトは手芸屋に入る。

神殿で織られた布や、紡がれた糸も販売しており、サランはとても楽しそうに商品を見ている。

リトは特に用も無かったのだが、外では先程から視線を感じており、サランを一人にしては危ないと感じた為、こちらについて来たのだ。

「わ!刺繍針の種類がこんなにある!どれにしようかなぁ…。すみません。布通りが良くて、丈夫な針はどれですか?」

「刺繍針だね?それならコレがおすすめだよ。こっちは細かい刺繍におすすめ。加護を授けて作られた針でね、細いけれど丈夫で中々折れないんだ。ちょっと値段は高いんだけどね」

「綺麗な針!加護の針って中々手に入らないんですよね」

嬉しそうな声で針を選ぶサランは、穏やかそうな中年の店主にあれこれ質問をして、何を買うかを吟味している。

チラリと窓から外を見ると、二人連れがこちらを伺っている。

(…王都でもサランは良く声を掛けられていたから、これもその類かな?)

ピピも一緒なので、特に余計な事にならなければ良いがとリトが心配していると、外に見知った神殿騎士の姿を見つける。

リュートだ。

彼の姿を見て、リトは昨晩のサランの話を思い出す。

『僕も失礼な態度を取ってしまったけど、初日の彼の態度も酷かったでしょ?それについて話をしたんだけど…』

ニールに駆け寄ろうとして、サランはリュートに睨まれたのだ。

実はニールが神殿へ入った後、異例のスピードで神官になり騎士達の遠征について行くようになると、ニールは神官達だけではなく街の住人にも大人気になったそうだ。

それは納得なのだが、王都の貴族と言う事も知られており、不埒な輩がニールに近付いて利用しようとする事も考えられると心配したゼルブライドにより、ニールに近づく人間に気を付ける様にとお達があったのだと言う。

遠征の先々でも不要に接触して来ようとする輩が後を絶たず、ニールはその為にも体を鍛え始め、リュート達騎士も必要以上にピリピリしてしまっていた。

『君の顔は初めて見た為、てっきりニール神官のファンの一人かと思ってしまった。…私が気を張り過ぎていた事もあるが、私の小さな自尊心で君に謝罪をする事が出来なかった。…申し訳無い」

二人で作業部屋を出てから、リュートはそう言って謝罪してくれたらしい。

騎士団の中でも若手であり、自分の才能に驕っていたと反省したんだと言う。

どうやってサランに謝罪するかと悩んでいた所だった様で、そんな相手に失礼な態度を取ってしまったとサランも謝罪をしたと反省していた。

『僕の方こそ、生意気な態度を取ってしまってごめんなさい。…王都から来た貴族だから、あまり良い印象を持たれて無いのかと勝手に腐っていたの。…それに、騎士に苦手意識を持ってしまっているから。つい強がってしまったの』

そう告げて、自分が神殿へ来た経緯も説明したと言う。

リュートは優しく話を聞いてくれて、最後にはお互い謝罪し過ぎて笑ってしまったとサランは頬を染めて語っていた。

(やっぱりサランを放っておく人はいないよね。良かった)

外を見ると、ピピがリュートと会話をしている姿が見えた。

リトは買い物を終えたサランに声を掛けられる。

「お待たせ。リトは何も買わなくて良かったの?」

「ええ、私は裁縫は苦手なので。さ、ピピ殿も待っているみたいだから」

二人で外に出ると、先程こちらを見ていた二人組が近付いて来る。

「リュート!どうしたの?今日はお休み?」

声を掛けられる前に、リュートに気が付いたサランが嬉しそうに駆け寄って行く。

リトも気が付かないフリをしながら、リュート達に合流した。

「ああ。今日は三人で街に行くから心配だと、タンタルさんに言われてな」

嬉しそうな顔のサランにリュートは少しぶっきらぼうに言うが、照れているのが分かりリトとピピは目配せして微笑む。

「タンタルったら。すみませんリュート。せっかくの休日に」

「いえ、俺も剣を磨く布を買いに来たので」

四人で会話をしていると、先程の二人組は残念そうにその場を後にした。

しつこく言い寄ってくる人達じゃ無くて良かったと、リトはホッとする。

「私も磨き布が欲しいので、ご一緒しても良いですか?」

リトがそう言うと、ピピとリュートは驚いた顔をする。

「あ、護身用の剣?手入れしないとって言っていたものね」

サランの言葉にリトが頷くと、リュートは剣を扱うのかと聞いてくる。

「はい。一応父と兄から護身用の剣術を仕込まれましたので。魔物と戦ったり、騎士の方々と剣を交える程の腕はありませんがね」

ピピはその言葉を聞きながら、リトの普通が自分達とは違う事を知っていたので、とても強いのではと思った。

リュートはそれには気付かず、三件先の武器屋を指差す。

「そうですか。それならご一緒しましょう。すぐそこです」

リュートに三人揃ってついて行く。

少し大きめの武器屋に入ると、長剣や短剣など様々な種類が揃っている。

「いっぱいあるね」

「私もタンタルに買って行こうかな」

サランとタンタルも物珍しそうに店内を見回り、リトも目当ての磨き布をいくつか選ぶ。

すると、若い店員がニヤニヤとサランを見ている事に気付く。

「おいおい。子供に売る武器なんか無いぜ?」

サランがムッとして何か言い掛けると、店長らしきスキンヘッドの大きな中年男性が、店員の頭をゴンッと殴る。

「イッテエ!」

「失礼な事言うんじゃねえよバカ息子!旦那さんや騎士の方に買って行く人もいるんだからな!全く。すみませんね」

それってサランは使わないと言っている様なものではと、リトは苦笑しつつサランを見ると、リュートが店員を睨み付けつつ、サランのそばに立った。

「…ふふ。大丈夫だよ。でも、僕も護身用に何か持ってみたいかな」

すぐカッとなっちゃうと笑顔で話すサランに、周りはホッとする。

「ふむ。それならこのくらいの短剣はどうだ?剣術を習った事は?」

「剣術は無いな~。何かおすすめの物ってある?」

サランが首を傾げてリュートを見上げると、リュートはスッと目を逸らす。

耳が赤くなっているなと、リトとピピは顔を見合わせて笑う。

「それならこっちの腕輪が良い。魔術を込めておけば、いざと言う時に相手にぶつける事が出来る」

「そう言ったものもあるんだね!シンプルなものが良いから、これにしようかな」

サランが並べられた腕輪の中から、比較的シンプルな金の腕輪を指差すと、ひょいとリュートがそれを手に取り店長に渡す。

「俺が一緒に買おう」

「ええ!?そんな、自分で買えるよ?」

「…良いから」

そのまま会計に入るリュートを、リトは中々やるなと感心して見ていた。

店長はにこやかに対応しているが、先程頭を殴られた息子である店員は不貞腐れていて、どうにかサランと会話を試みた上でのあのセリフだったのだろうなとリトは苦笑する。

(まだまだ子供なんでしょうね)

そう思いつつ、ふとレジの後ろにある大剣に目が留まる。

とても大きな剣で、武器屋の飾りだと言うのは分かるのだが、リトは父や兄が鍛錬の時に使用していた剣くらいの大きさだなと懐かしく思った。

「はい、次の方。…?ああ、この剣かい?大きいだろう?知り合いに腕の良い職人がいてね。まあ実用性はほとんど無いから、飾りだけどねぇ」

ぼうっと剣を眺めていたリトに、店長が笑いながら話し掛けてくる。

「え?こちらは使用しないんですか?」

きょとんとした顔で言うリトに、店長も店員も吹き出してしまう。

「やだなぁ。こんな大剣、中々使いこなせないよ?大抵は貴族の家の飾りや、騎士の家の飾りだねぇ。見栄えは良いけど重すぎるからね。持ってみるかい?」

ガチャンと鍵を手早く外し、店長はリトに剣を持たせてくれる。

「親父、怪我させたらどうするんだよ」

呆れた様に言う店員に、リトは大丈夫ですよと笑顔で返して剣を預かる。

ずっしりと重量はあるのだが、父達が使っていた剣よりは随分軽いのだなと驚いた。

普通に大剣を預かり、軽く片手に持って見ているリトに、サラン達も店長達も大変驚いていた。

「リト、重くないの?」

「ああ、うん。父や兄が鍛錬で使っていた剣よりは小さめだし、軽いからね。ありがとうございます。キレイな装飾ですね」

心配するサランに笑顔でそう言うと、リトは店長に剣を返す。

周りは皆呆気に取られており、どうしたのだろうと不思議そうなリトを見て、ピピとリュートは苦笑する。

「ハッハッハ!これより重くて大きい剣を鍛錬に使うなんざ、すごい騎士が家族にいるんだねぇ!」

店長の言葉に、リトはあたりを見渡すと目を見開いてリトを見つめる店員と目が合う。

「ええと、そうですね。いや、兄はただの商人です…」

そこでリトは、これは普通は使わないものなのだと理解した。

「今は護身用に剣を習う商人もいるからねぇ。いやはや立派だよ。はいこちら商品ね」

「ありがとうございます…」

サッとレジ前から移動すると、買い物を終えたピピ達と合流する。

「まさか、普通は使わない剣だとは思いませんでした…」

恥ずかしそうに言うリトに、ピピは王都の騎士団長一家は本当に強いのだろうなと納得した。

「リト殿もあのくらいの大剣で訓練していたんですか?」

リュートの疑問に、リトはまさかと首を振る。

「運ぶ事はありましたが、父や兄が危ないからと使用は禁止されていました。父も兄も、兄嫁も普通に使用していたので、てっきり騎士はあのくらいの剣で鍛錬しているものだと…。お恥ずかしいです」

あの大剣を振り回す商人と兄嫁かと、リュートは少し遠い目をしており、サランとピピは苦笑していた。



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