婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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武器屋を後にし、リト達は菓子屋やパン屋などを案内してもらい、昼前と言う事で軽食屋に足を運ぶ。

「ここは煮込み料理が安くて美味しいんです。持ち帰りもできますからね」

ピピが案内してくれたのは、暖かい雰囲気の食堂だった。

広さもあり席数も結構あるが、昼前と言う事で大勢の客で賑わっていた。

四人掛けの席に通され、メニュー表と紙とペンを置いて行かれる。

水などはセルフサービスと言う事で、リュートが大きな手で四人分を運んでくれた。

ピピとリュートが横並びに座り、ピピの前にリト、リュートの前にサランが座る。

「これに、食べたい物を記入して店員にお金と一緒に渡すんです。店員が札を置いて行くので、出来上がったら札を見て持ってきてくれます。もし持ち帰りしたかったら、持ち帰りと記入すれば、食事と一緒に持って来てくれますよ。容器が無かったら容器の値段も取られますが、使い捨てではありませんから、名前を書いたりして後々使用できます」

ピピの説明を、リトとサランはワクワクした様子で聴いていた。

王都ではこういったスタイルの食堂に行った事が無いからだ。

生活圏内は基本的に貴族街であったし、治癒などに出向いた先でも、食堂に寄る事は無かったからだ。

「こう言った食堂は初めてだから、緊張しちゃうね」

「そうだね。知らない料理も多いから、迷うね」

楽しそうに話すリト達を、ピピ達も微笑ましく見ている。

貴族出身であり、更には王子の元婚約者となれば、気位も高そうなのにと、ピピはリトの穏やかさに感心していた。

「ここはスネ肉のシチューが評判なんですよ。あとは白身魚のスープや、肉団子と芋のスープも美味しいです。私は肉団子と芋のスープにしようかな」

ピピがおすすめを教えてくれたので、リトとサランは評判だと言うスネ肉のシチューに決めて、お金を出す。

「俺はスネ肉のシチューと肉団子のスープで。あとチキンの香草焼きも」

リュートは倍くらいの注文をし、やはり騎士は良く食べるのだなと、リトとサランは感心した。

「ここは僕が出す!」

「いや、大丈夫だ」

「さっきのお礼!」

サランとリュートが仲良く言い合っているうちに、ピピはサランからお金を預かり右手を上げる。

「すみません。注文をお願いします」

ピピが声を掛けると、はいと元気な声で店員が寄って来る。

「注文はこれで。あと、持ち帰りはこの容器に入れてください」

全てのお金と容器を手渡すと、店員は札を置いてお待ちくださいと笑顔で厨房へ向かった。

「…ありがとう」

「ふふふ。僕もありがとう」

照れながら礼を言い合う二人を見ながら、リトはピピに話し掛ける。

「タンタル殿に?」

「ええ。今日から試験でしょう?技術的なものは明日からなんでしょうが、気を使って疲れて帰ってくるでしょうからね」

優しい笑顔で話すピピに、リトもサランも本当にタンタルが好きなんだなと感じた。

「ピピ殿とタンタル殿は、どうやって出会ったの?」

「サラン…」

サランはワクワクと言った感じでピピに質問する。

リトは苦笑するが、恋の話が好きなサランに、ピピも悪い気はしない様で照れながら話し出す。

「タンタルは一番上の兄の友人なんです。昔から優しくて、私が神殿入りする時も色々教えてくれましたね」

幼馴染から、恋愛に発展して結婚したのだと言うピピに、サランは目をキラキラさせる。

「幼馴染ってやつ?素敵だね~」

「そうだね。幼馴染か…。私の兄も幼馴染と結婚していたな」

リトがそう言うと、ピピは二人には幼馴染はいないのかと聞く。

「私の幼馴染でもありましたからね。まぁ、兄は昔から彼一筋でしたので、私が幼馴染に恋をする事は無かったです」

リトがそう言うと、サランは難しい顔をする。

「僕の家は、あまり僕を外に出してくれなかったから。あ、悪い意味じゃなくてね?婚約者が出来てからかな。社交の場に出る様になったのは」

サランが事もな気に言うと、ぴくりとリュートが反応する。

「ええと、婚約者さんですよね?それまでは社交には出ていなかったんですか?お家のしきたりでしょうか」

ピピがそう聞くと、サランは首を振る。

「父や兄が僕を溺愛していて、あまり外に出したがらなかったそうなの。婚約者も、条件の一番良い人だったからって決まってから知らされたから。初めて会ったのは十歳の頃だったかな?ああ、この人と結婚するんだな。この人と家を守って行くんだなって子供ながらに納得するしか無かったもの」

少し悲しそうに話すサランを、リュートは優しい目で見つめていた。

「私の場合はその…。格上の相手のお家からの要望でしたので断る事も難しくと言う感じでしたね。それはお互い様でしたが、なんとか折り合いをつけて行かなければと思っていました。まぁ、こんな事を言ったら失礼ですが、無事に解消されてこちらに来られたので、結果的には良かったんだと思います」

相手のお家と言うか王家なのだが、こんな所では口に出せないリトの話に、薄々知っているピピはそうですかと頷いた。

「僕もそう思う。悪い人では無かったし、僕の容姿をとても気に入ってくれてはいたけど。刺繍に理解も無かったし、結局は貴族的理由で利益に走ったもの!…貴族的考えならそれが一概に悪いとは言わないけど、やっぱり不誠実ではあるよね」

怒った様に頬を膨らませに話すサランに、リュートはそうだなと大きく頷いていた。

その目は慈愛に満ちており、やはりサランにも春は近いなとリトは嬉しく思った。

「まあ、結果的にこちらに来れたし、神殿や街の生活は新しい事も多くてとても楽しいから。来て良かったと思ってるの。王都だとどうしてもマナーや立ち振る舞いにうるさいから。なんだか、やっと自由になった気分だもの」

「貴族も大変なんですね…。でも、お二人がそういった考えの方達で良かったです。…その、やはり貴族の方は気位が高いイメージがありましたから」

少し申し訳無さそうに言うピピに、サランもリトも大丈夫だと答える。

「確かに、やっぱり気位が高くて人を見下してる方も多いもの。魔術師の学校は基本的にそう言った事を禁止していて厳しいから、魔術学校に行っている人には少ないかな?」

「そうだね。魔術学校は魔力が高い人が階級関係なく集まるから。もちろん貴族としての教育もあったけれど、魔術学校は基本的にジェリ神様と祈りの教えが基本だからね」

魔術学校では、ジェリ神の教えや祈りの大切さを深く学び、魔力を社会に貢献していける魔術師を育成する事が第一と教えられる。

貴族でも魔力の無い者は通う事を許されてはいないし、そう言った者は貴族の学校へ通う。

やはり魔力の高い者の方が嫁として重宝される為、貴族はこぞって魔術学校へと入学させたいのだが、魔術学校には貴族平民の区別は無く、あるのは魔力があるかどうかなのだ。

「魔力が無くても、貴族学校には入学出来るからね。僕の従兄弟も貴族学校へ行ったけど、あちらはやっぱり階級が厳しいって言っていたもの。実は、僕達も婚約が続いていたらそう言った勉強もする予定でした」

バチバチにやり合っている貴族の中に入って行かなければならないので、舐められない様にと指導されるのが普通であった。

「神殿の空気は、とても自由で感銘を受けました。もちろんしっかりと規律は守られていますが、息苦しさは感じられません。確かに、王都の様な華やかさはありませんが、それ以上の豊かさを感じます。もちろん貴族と言う階級には責任がありますし、その為に勤める事も大事ですが、こうやって神殿を選ぶ機会が与えられた事に、私は深く感謝しています。友人達も良い縁が巡って来ているので、安心していますし」

しっかりとした言葉で話すリトに、サランも笑顔で頷く。

そうこうしていると、店員が元気よく食事を運んで来る。

「わぁ!美味しそう!暖かいうちに早く食べよう」

「ふふ、そうですね」

四人は食事を始め、この後はどこへ行きたいかと言う話になる。

「私は食品を買ったら早めに帰ろうかと思っています。お二人はどうしますか?」

タンタルの夕食も購入したのでと言うピピに、リトは自分も用は済んだと告げる。

「どうしようかな…。さっきの手芸屋には欲しい布が無くて。もう一つ外れの手芸屋に行こうかと思うんだけど」

「それなら俺が付き合おう。確か、靴屋の隣だったはずだ。靴用のクリームを買いに行こうとも思っていたんだ。馬で来ているから、送って帰ろう」

今度にしようかと迷うサランに、リュートがサラッと告げる。

リュートならサランを任せてみても大丈夫かなと、ピピに目をやると、小さく頷いてくれる。

「それなら、リュート殿サランをお願いしますね。ピピ殿、私もご一緒しても良いですか?」

「もちろんですよ」

そう言って、二手に分かれて行動する事が決まる。

サランは一見人懐っこいが、知り合いがいないと人見知りするタイプだ。

そのサランがリュートには心を許している様に見えたリトは、良い機会だからと二人きりにする事にした。

食事を終えると、サラン達に別れを告げて、リトとピピは食料品店へ向かう。

「ふふふ。リュート殿にも春が来た様ですね。サラン殿は気付いていますかね?」

「そうだと良いんですが…」

リトとピピはそんな会話をしながら、食料品店へ入る。

手軽なお茶菓子などを物色し、ピピにどの様なものかを聞きながら購入する。

一通り買い物が終わると、二人は神殿への乗合馬車に乗り込んだ。

「今日は色々とありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。タンタルに良い土産も買えましたから」

神殿に到着すると、リトはピピに別れを告げて寮へと歩き出す。

良い買い物も出来たし、手紙も送れたので、良かったとリトは購入した菓子を眺めながら考える。

(サランにも春が来たなぁ。…私にも、来るのかな?まだ分からないけど)

自分の春よりも、明日からの神殿騎士の試験の方が心配だなと、リトは苦笑しながら部屋へと戻ったのだった。

サランは夕食前にリュートによって送り届けられた。

手芸屋以外も見て周り、お茶もして来たと楽しそうに話しており、次の休みが同じであったら、また出掛けないかと誘われたと頬を染めて話していた。

「リュートったらやるねぇ。馬で相乗りなんて、周りに牽制も出来るもの。でも、彼ならサランをしっかり大事にしそうだから、安心しちゃった」

ニールの言葉に、リトも賛同した。

その後は土産に買った焼き菓子などを皆で食べながら、明日の試験についてニールが軽く説明をする。

「神殿騎士として適性があるか、取り敢えず剣を交えての試験と、その上でカキー大司教の面談もあるそうだよ。昨日から神殿騎士の練習場にある仮眠室に寝泊まりしていて、トーマ様には神殿に待機してもらっている」

明日から剣を交える音がうるさいかもねと、ニールは苦笑していた。

「…サン様もいらっしゃるみたいだね。不安だな」

モルトの声に、皆は大丈夫だよと元気付ける。

モルトは今日、トロンと一緒にデートを楽しんだ後、トロンに告白をされたと言う。

もちろんモルトは前向きに考えたいと伝え、とても嬉しそうに帰って来たのだ。

「トロン神官の剣術の腕は中々だよ。ナームが言っていたもの」

「そうそう。もしもの時はランラも助けてくれるって言ってくれたから」

パッドとサランの言葉に、モルトは安心したように頷いた。

「ランラ殿って、とっても強いみたいだよ。昨日は神殿に子供の様子を見に来てらしたんだけど、カックン神官が言っていたもの。何かあったらそこら辺の騎士は敵わないくらいの力があるって」

キキの言葉に、パッドもメロも大きく頷いた。

「王都で腕の良い方も多いそうですが、ランラ殿には中々勝てませんよ。更に母上になられたので、子を守る為にと鍛錬も欠かさないそうですからね」

それなら安心だねと言う皆を見ながら、リトは自分も鍛錬を再開しようと、こっそり思う。

あまり鍛えすぎてはと家族にも言われ、兄や父の剣を軽く止めるくらいまでしか教えられなかったリトは、それがどれだけスゴイ事かはまだ知らなかった。

「さ、また明日から忙しいからね。今日はお開きにしよう」

ニールの言葉にそれぞれ部屋に戻る。

リトはクローゼットから剣を取り出し、磨き布で手入れをしながら、簡単に振り回せる木剣など無いかなと、明日聞いてみようと思うのだった。









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