婚約破棄されましたが聖者様は多分悪くありません

叶伴kyotomo

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翌日、リト達は再び騎士団の休憩所で作業を開始した。

「今日からは、腰紐用の石への加護が終わったら、騎士がそれぞれが聖品を持って来ますから、それに加護を与えてください。あまり無理はせず、出来る所までで大丈夫です。刺繍部屋にも騎士が出入りしますから」

「わかりました」

ピピに渡された石に、リトは十数個ずつまとめて加護を与える。

それを数回繰り返すと、腰紐用の石への加護は終わった。

「腰紐用の石の加護は終わりましたので、騎士の方々に来てもらっても大丈夫ですか?」

「ええ!?もう終わったのですか?スゴイです…。そうですね、刺繍待ちをしている方々に声を掛けてみましょうか」

ピピは驚きながらも、刺繍部屋を待っている騎士はいないか確認しに行こうと言う。

リトも後について行くと、大まかに区切った衝立の中に、採寸待ちと刺繍待ちの騎士達がいた。

「すみません。先に聖品を預けて加護を与えても良い人は、こちらにどうぞ」

ピピが声を掛けると、数人がゾロゾロとこちらにやって来る。

「誰のものか分かる様に、この紙に名前を書いて、聖品の紐に結び付けてください。ペンダントでない人は、こちらの小袋に紙と一緒に入れてください。こちらの布の上に置いてくださいね」

リトが説明しながら細長い紙とペンを渡すと、騎士達はささっと名前を記入し、ペンダントの紐に結び付ける。

ザッと三十程集まったので、ピピは一旦はここまでと区切る。

「今日中に終わりそうですか?」

「はい。多分午前中には終わりそうですので、午後にはまた集めましょうか?」

リトの答えに、ピピはではそうしましょうと頷く。

一つ一つ確認しながら、リトが祈りを始めると、ピピも腰紐作りを開始した。

外では、騎士達の声や木剣の交わる音が響いているが、リトは集中して聞こえていない様子だ。

『…う~ん。あの王都の騎士は腕は悪くないんだけど、ちょっと態度がな』

『ガン殿はやはり特別優れてるんだろうな。しっかり訓練にも参加するし、人を見下したりもしない。これじゃ聖者様も大変だったろうに』

ヒソヒソと騎士達の声が聞こえ、ピピはタンタルは大丈夫だろうかと不安になる。

今日からは実技試験だと言うことで、外では王都の騎士達の姿もある。

こっそりと窓から外を伺うと、何やら王都の騎士が神殿騎士相手に揉めている様子が見えた。

「…ふう。ピピ殿?どうしました?」

三分の二を終えた所で、ふとピピを見ると、青い顔で窓の外を見ているのに気付く。

「あ、すみません…」

「いえ、顔色が悪いですよ?…アレは」

外を見ると、王都の騎士達がタンタルに詰め寄っていた。

「聖者様に会えないとはどう言うことだ!!」

「今日は貴殿達の試験の日である!聖者様との面会は許されていない!」

リトはスッと目を細め、王都の騎士が誰かを確認する。

(見覚えの無い騎士と、あれはサン殿ですね。後は…。後ろで静観ですか。賢いです)

タンタルに詰め寄っているのはサンと友人達の様で、さすがに公爵家のアンドリューやその友人であるベルは静観していた。

(止めるくらいは出来るでしょうに。しかし、彼らにとっては愚かな騎士が減る良い機会ですからね)

どうしたものかと思っていたら、こちらを見たサンが、声を上げる。

「モルト!?モルトじゃないか!」

「!」

モルトも様子を伺っていた様で、サンはタンタルの声を無視してズンズンとこちらへ近付いて来る。

「ピピ殿、席を外しても?」

「え、ええ」

「一応結界は張っておきますね!」

リトは手早くテーブルに結界を張ると、モルトの元へ急ぐ。

サランもランラを連れて採寸部屋へ入って来た。

「モルト大丈夫!?」

「トロン神官は?」

「今…神殿に布を取りに…」

怯えるモルトを慰めていると、サンは神殿騎士達に足止めされている様で、更に激高している。

「あいつは俺の婚約者だったんだ!少し話をするだけだ!」

「…そう言った相手との接触も禁止されています。説明を受けていないんですか」

リュートの声が聞こえ、サランも心配そうな顔になった。

「やれやれ。何事だ」

そこに、ゼルブライトとニールが騒ぎを聞きつけてやって来た。

その後ろには、トロン神官の姿もある。

安堵の空気が流れ、心配そうにピピも採寸部屋へ入って来る。

「この様な騒ぎを起こすなど、神殿騎士として相応しく無いな。試験は結構。お帰りいただこうか」

報告を聞いたゼルブライトの決断に、サンは怒りの声を上げた。

「ふざけるな!剣術の試験も碌にしていないんだぞ!」

誰のせいだと言う空気が流れるが、そこにトロン神官が笑顔で前に出て来る。

「神殿騎士の方々は忙しいのです。そんなに剣を交えたいのでしたら、私がお相手いたしましょう」

いつもの穏やかな笑みを浮かべているのだが、背後に鬼神が見えるなと周りは思った。

「誰だ貴様は」

「裁縫部屋の責任者をしております。神官のトロンです。安心してください。剣に覚えはありますから」

その様子を見て、面白そうだとランラも外に出て行く。

「そうだな。俺も相手をしようじゃないか」

一際逞しいランラの登場に、さすがのサン達も黙る。

トロンもランラも騎士の格好はしていないが、十分逞しい。

「ふふふ。あの二人に勝てる騎士は中々いませんよ」

ピピがフォローする様にモルトに話し掛けると、モルトは落ち着いた様に頷いた。

「サン殿と、他の方は誰だろう」

「ええと、確かサン様のご友人のカイドール様とショート様ですね。どちらも伯爵家の方々です」

リトの呟きに、モルトが答える。

どちらも伯爵家の嫡男だそうだ。

「なるほど。こちらまで来たと言う事は、騎士として腕はあるのでしょう。貴族として礼儀は無いのですが」

「本当だね」

リトとサランの辛辣な言葉に、モルトの緊張も解れてきた様だ。

「ふむ。そうだな、それならこちらの三人はトロン達に相手をしてもらおうか」

「ふざけるな!馬鹿にしているのか!」

楽しそうに言うゼルブライトに、サンは更に食ってかかるが、ゼルブライトは涼しい顔をする。

「こちらの二人に勝てたなら、神殿騎士がお相手しよう」

そう言って、ニールを連れて他の試験者の元へ歩いて行く。

「三人を二人で相手するって言うのか!馬鹿にしているのか!!」

モルトがショールだと教えてくれた騎士は、体格も良く剣の腕に自信もあるのだろう。

だが、ゼルブライトが騎士以外との相手をと言った手前、他の騎士が名乗り出る訳にはいかない。

ふむ、と考えたリトは、それならと前に出る。

「それでしたら、お一人は私がお相手しましょう」

にっこりとキレイな笑顔でリトが言うと、ピピもモルトも驚いた顔をしたが、サランは確かにと頷いた。

「リト殿?あの、相手は騎士の方ですし…」

「大丈夫ですよ。私は王都の騎士学校の出でもありませんが、一応剣術の稽古は受けておりましたので。それに、私に負ける様な騎士でしたらそれこそ問題でしょう?」

リトはそう言うと、木剣を近くの騎士から受け取る。

「この様に剣も軽いですし怪我もしないですよ。さ、どこで行いますか?」

片手で剣を軽く振るリトに、周りの騎士達もざわつく。

『あれ、一応剣と同じ位の重さはあったよな』

『あ、ああ。あんなに軽々と扱っていると言う事は、本当に剣に覚えがあるのかもしれないな』

ランラとトロンも心配するが、リトは大丈夫だと笑顔で押し切る。

その様子を見ながら、リュートはサランに話し掛ける。

「止めなくて大丈夫なのか?」

「う~ん。リトはああ見えて結構強いんだよね。王都でも週に二、三回は放課後に剣術の訓練に帰っていたし。だから、剣術のお相手くらいなら出来ると思うの。それに万が一の時はランラもいるしね」

サランは続けて訓練をするのは主にリトの父や兄だと説明し、リュートとピピは昨日の大剣の件を思い出す。

「…やはりリト殿は、結構な腕があるのでは」

「そうかもしれんな」

それを普通の事だと思っていそうだなと、リュートとピピは静観する事にした。

休憩所から少し離れた広い所で、三組が手合わせする事になる。

リュートやナームが見守ると言い、サンとトロン、ショールとランラ、そしてリトとカイドールの組み合わせになる。

比較的体格が近い者同士になった。

「…誰か知らないが、王都の騎士を舐めないでもらおう」

「リトと申します。それでは私達から始めましょうか」

リトが剣を構えると、リトに気が付いたであろうガンやアンドリューは、何事かとこちらを凝視していた。

まさか王子の元婚約者が、騎士と手合わせするなど信じられないのだろう。

比較的体格が近いと言っても、三人の中で一番細いと言うだけで、カイドールは逞しい騎士でリトは細身の魔術師である。

リトが怪我をするのではと懸念する者も多くいたが、リトは三人を見て、父や兄より随分細身なのだなと感じていた。

(一応は王都からこちらへ行く許可を頂いたんでしょうが、あの騒ぎ方を見るとまだまだですね)

怒りを露わにしながら剣を構えるカイドールに、リトは随分と筋の読みやすい人だなと内心呆れる。

「それでは、始め!」

ナームが開始の合図を出すと、カイドールは素早くリトに剣を振りかざす。

周りが固唾を飲んで見守っていると、リトはサッと距離を測り、カイドールの剣を受ける体制を取る。

(…手を抜いてくれているのかな?)

カァンッ!!

良い音をたてながら、リトはカイドールの剣を自分の剣で受けると、大きく右に払い避けた。

「「!?」」

サンとショールだけでなく、周りの騎士も、カイドールも驚いた顔をしたので、リトはこれは本気なのだと気付く。

(随分と遅いですし、軽いですね。父様や兄様の剣は何倍も早く重いのに)

それでも二人がリトに十分配慮した結果だとは、リトも理解していたので、さすがにそれ以下のカイドールにリトは少しがっかりする。

すぐに体制を変え、今度はリトがカイドールへ剣を叩き込む。

ガァンッ!!!

「ううっ!」

ガイドールは低く呻きながら、体制を崩してしまう。

(この程度でしたか?)

もう一度とリトが叩き込もうとすると、焦ったガイドールはそのまま片膝を付いてしまう。

「それまで!!」

ナームの声が響き、リトはサッとガイドールから離れて頭を下げる。

あたりは騒然としているが、リトは柔らかい笑みを浮かべたまま、ランラ達の元へ近付く。

やはり思った以上だと、リュートは小さく頷いていた。

「素晴らしい動きでしたね」

「中々筋が良いな!騎士も目指せたんじゃないか?」

トロンとランラに褒められ、リトは照れながらも礼を言う。

呆然としているガイドールを、リュートが気の毒そうに下げさせると、次はランラとショールの手合わせが始まる。

「さ~て、久しぶりだ。本気で行こう」

そう言って一歩踏み出したランラの周りに、一瞬で恐ろしい殺気が生まれる。

舐めた様な態度であったショールも、さすがに相手の強さが分かったのか、真剣な顔に変わる。

(これは。やはりランラ殿は強いのでしょうね。あれ程の殺気を出しながら、隙が全く無い)

ランラの剣の構えを見て、リトはランラの強さを知る。

軽く構えて見えるが、どこにも隙が無く、きっと一発でショールを弾き飛ばせるのだと確信した。

「始め!!」

ナームの合図に、ショールは渾身の力でランラに飛び掛かる。

(遅い。それにその構えでは、ランラ殿の力には敵わないでしょう)

ガンッ!!

「うわっ!?」

リトの読み通り、ランラはショールを木剣ごと弾き飛ばす。

そして、ショールは尻餅を付いた。

「そこまで!」

一瞬の出来事に周りもシンとなるが、ランラは口程にも無いなと肩をすくめ、一瞬でいつもの空気に戻る。

「う~ん。ちょっと筋が甘いな。力はある様だが、使い方がなってない。王都には良い指導者もいるだろ?しっかり叩き込んでもらいな」

そう言うと、ランラは次だ次と言いながら、ショールを下げさせる。

やはりランラの強さは別格だなと、リトは感心していた。

「やはり、ランラ殿はお強いですね」

「ははは。ありがとう。これでも騎士団の育成係だったからな。今でもたまに剣術を教えたりするのさ」

こっそりと教えられ、リトは苦笑する。

(ランラ殿に比べたら、彼らはひよっこですね)

そう思っていると、最後の手合わせが始まろうとしていた。















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