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第1章・遭遇編
遭遇・飛騨地方編・30分宇宙紛争(前編)
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岐阜県飛騨地方
内陸県である岐阜は、大きく美濃と飛騨に分けられる、文化などもどの県と接しているかで色々違う、気象も美濃と飛騨では・・・と、いった具合に一つの県でも様々な違いがある訳だが、92%が山林の飛騨地方は基本的に山々に囲まれた場所に町があり、それがいくつか点在する。高山市だけでも東京都と同等の面積であるにも関わらず、人が住んでいる所は僅か8%である。何が言いたいのかと言えば飛騨が田舎だと言う事だ。現代においては戦略的価値もなく、内陸なので「他国の脅威」が来る事も殆ど無い、台風などの災害でも他の地域ほどの被害を受ける事もそうそうない、この世界に存在する怪獣が岐阜を襲撃する事自体が稀だ。そのため当然防衛順位も低く、レーダー施設やレーザー砲台が盆地を守る程度で、常備の戦力は無い。そんな中に「異物」が入り込んだどうなるだろうか?
とある小さな地区
ここは人口数十人の小さな地区だ、家が少しと田畑がいっぱい、のどかで静かな所である。
―前夜―
小さな物体は淡い光と共に降って来た、だが、車のヘッドライトが街灯の殆ど無い暗闇を照らすこの地域では、夜中に起きていようとも気にする者は居なかった。その物体は道端の草むらへと静かに「着地」した。
―午前11時―
一台の軽自動車がトンネルを抜ける、運転者はアクセルペダルから足を離すが、車は下り坂に任せて加速する。そのまま進み、左折すればすぐに実家に辿り着く・・・ところが、道端から急に青い物体が転がって来ると状況は変わった。
「おっと!」
ブレーキをいつでも踏めるようにしていたその足は、迷う事無くブレーキを踏んだ。加速していた車はそれなりの衝撃を感じさせ止まった。
「あっぶねぇ・・・誰だよ、こんな所に・・・」
車から降りたのはこの地区に住む、自称自衛隊オタクの山寺 葉久(やまでら はきゅう)だ、彼は転がって来た青い物体を見つめた。
「くそ、田舎だと思って堂々とゴミ捨てて行きやがって・・・その割にはすっげぇ綺麗だが」
葉久はその物体をごみと認識し、次の不燃物回収に出すために、一度それを家に持ち帰る事にした、これが騒動の火種とも知らず・・・。
自宅・葉久の部屋
彼の部屋は偏りが凄まじい、戦車や戦闘機のミニチュアが並ぶ棚、迷彩服が掛けられたラック、軍事や自衛隊に関する雑誌や書籍、漫画の入った本棚、そして壁に掛けられたエアガン。それ以外にはタンスやベッド、パソコンと机がある以外何も無い。その部屋で彼が何をするかと言えば、パソコンを構うか、エアガンでも眺めて快に浸る事ぐらいだ。
先程の物体を取り敢えずスーパー袋に入れると、彼は購入して間もない自衛隊仕様の迷彩服一式と、集めていた新旧自衛隊装備のエアガンも並べてみる事にした。さらには防弾チョッキ(ベスト)のレプリカに、アルミニウムと鋼材の板、そして衝撃吸収材を組み合わせたプレートを仕込み、気分だけで防弾性能など無い防弾チョッキを2つ用意した、2つ目は妹用である。葉久の妹である紗夏(さなつ)は、ミリタリーにそれ程強い関心がある訳ではないが、兄やその古い友人の影響を受けていたため、エアガンで遊ぶ事もある。
パソコンやスマートフォンで自衛隊の画像を見ながら、服や装備を身に着ける、そしてBB弾を装填した弾倉を89式小銃や64式小銃のエアガンに取り付ける、もちろん安全装置を掛けておくが。それからしばらくイヤホンをして、パソコンで動画を鑑賞する事にした、当然音は聞こえ辛くなる・・・つまり、彼の後ろである変化が起ころうとも全く把握出来ないのだ・・・。青い物体から出る影は、少しずつ大きくなって行く。
10分程経ち、彼の妹が帰って来た、玄関から階段を上がり、そして荷物をドサッと置くと兄の部屋の前に立ち、ノックの後に扉を開けた。
「行って来ましたぁ・・・?!に、兄ちゃん・・・!」
「ん?あっ、お帰り、どうした?」
「う、後ろ!」
葉久がイヤホンを外し、振り返るとそこには・・・。
「な、なんだ!こいつ?!」
彼が見たのは蓋が開いた様な青い物体の隣に、人の様な何かが立って居たのだ。その何かは、ラックに掛かっていた古着屋で購入された迷彩服と、某パークで購入されていた迷彩ブッシュハットをかっぱらい、扉に立って居た紗夏を押しのけると廊下へと飛び出した。
「大丈夫か?!」
妹を助け起こすとすぐに扉を閉めた。その状態のまま、妹へスマホで警察へ連絡するように言った、だが・・・。
「あれ、圏外・・・」
「嘘だろ?!さっきまで電波はしっかり届いていた筈・・・」
そこまで言い掛け、ある仮説が頭をよぎった。そう、この青い物体から一種の妨害電波が出ているのでは?と、パソコンを見るとネットの接続が切れていた、紗夏は兄に固定電話は使えるのかと問いかけた。
「分からん、有線だから繋がるとは思うが・・・廊下には奴が居るぞ」
そこで2人はある決断をした、ここにあるエアガンで応戦・・・と、いうよりは牽制射撃で追い払い、その隙に通報する算段だ。さっそく紗夏にもセーラー服の上に装備を付けさせ、さらにヘルメット、安全ゴーグルを掛け、新品の半長靴を履き、肘や膝用のプロテクターも装着、ダメ元でカメムシやらテントウムシを駆除するための殺虫スプレーも装備した。
この時選んだエアガンは、葉久が89式小銃(固定銃床)とコルトガバメント、紗夏がM4A1である。
「よし、行くぞ!」
扉を少し強く開け、そのまま廊下に出る、恐る恐る進み、階段に差し掛かった所で物音がした、どうやら相手は下の階らしい。
「よし、お前はこのまま2階の電話で警察呼べ、俺は様子見ついでに牽制を入れて来る」
「分かった、気を付けて・・・」
ここで葉久は角での待ち伏せを牽制するため、セレクターをレ(連発)に切り替え、BB弾を数発撃った。その時出てきた人影に対して連射、そのまま距離を詰めようとする。1階の狭い廊下に差し掛かり、89式は取り回しが悪い事に気が付き後悔するも、正面玄関へ繋がる引き戸から相手の後を追う・・・が、なぜか姿が見えない。最初は外へ逃げたのかと思い玄関の扉の前まで行く、だがそこで思い出したかのように葉久が振り向くと、向こうは自分が入って来た入口の真上にへばり付いていたのだ。
「この野郎!」
そう叫びつつBB弾を乱射するが、向こうは直ぐにそれをかわし、別の壁に飛び移る。そこで葉久はガチャッ、という音を聞いた、この音はブレーカーが落ちた音、つまり今相手が飛び移った所に丁度ブレーカーがあったのだ。
それとほぼ同時、紗夏は部屋の安全を確認し、電話で110と入力する所であった、しかし突然電話からプッープッーと音が鳴り始める。一瞬驚くも、下の階から聞こえる騒ぎから、ブレーカーが落ちた事による停電だと理解し、兄の援護に向かった。
一方の葉久は畳部屋に逃げ込んだ相手を追撃していた、しかし相手はかなりの速さで移動し、襖を開けていた、そして・・・。
「ん?この臭い・・・カメムシとテントウムシの!」
葉久はこの臭い、もとい虫が大嫌いである、自分の頭上を通り過ぎるだけでも怯えてしまい、その場からの逃走や、虫が外敵から身を守るための分泌液の臭いに過剰に反応し、酷い時には別の臭いとそれを間違えたり、黒い点が虫に見えたりしてしまう事さえあるのだ。すると葉久はガスマスクを取り出すと、それを装着した。
「でもなんで・・・その辺に死骸は転がって無ねぇのに・・・」
捜索を続けていると、壁に飾られていた、長短2本の木刀が無くなっている事に気が付く、すると後方から相手がゆっくりと迫っていた、2本の木刀を持って・・・。
葉久は置いてあった長方形の机を盾にしようとしたが、足が短い和風の机は葉久ごと倒されてしまった。しかもそこへ木刀が振り下ろされそうになる、葉久は机の下に潜り込みそれを回避すると、全身の力を込めて机を相手ごとひっくり返した。
「はぁ、はぁ・・・どうだ!少しは効いて・・・」
相手から距離を取りそう叫んだ・・・のもつかの間、ものすごい勢いで接近され、腹部に一撃を食らってしまった、それと同時に89式小銃のエアガンでは反撃出来なくなった。
「ぐえっ?!こ、この・・・」
葉久は相手を睨み付けるが、その時にふと気が付く、相手の顔が人間の女性・・・もとい妹の顔に似ている様な気がしたのだ。そんな事を思っていると降りて来た紗夏がエアガンで相手を撃っていた、だがBB弾は近距離で正確な狙いを付けているにも関わらず、1発も当たらない、いや、当たらないというよりは弾道があらぬ方向に逸れているのだ。
「この距離で・・・何で?!」
「まさか、バリア?」
すると今度は撃ったBB弾が空中で静止し、紗夏目掛けて撃ち返されたのだ。
「うわっ!」
紗夏が一瞬怯んだ隙に、相手は紗夏に短い木刀を投げつけた、それを回避できる筈も無く、紗夏はそれに当たってしまう。しかし運よく防弾チョッキに当たった事と、態勢の問題で相手がそれ程強く投げられなかった事が幸いし、そこまで痛い思いをする事は無かった。
「テメェ!よくもやりやがったな!」
流石に本気でブチ切れた葉久は、ホルスターからコルトガバメントを引き抜き、撃つのではなく銃口近くを持ってグリップで殴り掛かろうとした。ところが相手はそれをする前に腕を掴んできた。
「まさか、こっちの動き・・・いや、心を読んでやがるのか?」
その一瞬、相手が笑ったような気がしたが、その直後に相手が肩に噛み付いて来た時点で、考える余裕は消し飛んだ。
「いてぇ!!このボケナス!離せぇ!」
幸い防弾チョッキのレプリカのおかげで歯は皮膚にまで達しなかったが、無意識のうちに掴んで振り上げた89式小銃が相手の顔を直撃した。一瞬驚いた様子を見せ後ろに下がる相手に対し、引き抜いた拳銃を振り回して牽制する。その時不意に指がマガジンキャッチボタンに触れ、弾倉が勢いよくすっぽ抜け、しかもその弾倉は相手の顔に見事命中した。それにさらに驚いたのか、少し距離を取り始めた。
そこで葉久が思い浮かべたのは、美濃と飛騨、現在の岐阜県に伝わる妖怪の事であった、その妖怪は「覚り」といい、相手の心を読んで思っている事を先に話し、相手を混乱させるのだ、もし目の前に居る相手が同じような能力を持っているなら、今がチャンスだった。
「これでも食らえ!化け物が!」
殺虫スプレーのトリガーを引くと、殺虫剤が噴射された、混乱していた相手は回避に失敗し、その毒を少し浴びてしまう。すると向うは急に苦しみ始めたが、暴れた際に葉久は突き飛ばされ、スプレー缶はその場に落ちてしまった。
「くっ、おい紗夏!」
「なに、どうしたの?!」
「あのスプレー缶に弾を当てられるか?」
「え?出来ると思うけど・・・」
そこで紗夏も気が付いたらしい、要は2人でスプレー缶に集中射撃をし、缶に穴を開けて殺虫剤をばら撒こうと言う算段だった。高圧ガスが充填されている缶を破壊するのは危険な事だが、既にあの缶の中身は使い終わる寸前であるのは、使っていた本人が良く分かっていた。
「撃ちまくれぇ!」
葉久の合図で2人が持つエアガンからBB弾が缶を目掛けて発射された。最初は転がっていた缶も、襖の柱に引っ掛かり動かなくなった。同じ個所へBB弾を浴びせられた缶は少しずつへこんで行く、そして遂に穴が開くと、殺虫剤と高圧ガスが噴き出してきた。それにより相手は苦しみだし、殺虫剤の噴出が止まると、その場に倒れ込ん だ。2人は木刀を回収すると、相手の確認に入った。
2人は足で片方ずつ相手の手首を踏み、動かない様に固定すると銃で突き、さらに軽く蹴る。最初は死んでいるのかとも思ったが、どうやらまだ生きている様である。本当ならば相手を確実に仕留めるため、ここで頭に銃弾を叩き込みたい所だが、2人はそんな物を持ち合わせていない。
「や、やったぞ・・・」
「後はブレーカーを上げて、警察読んだら終わりだね」
「いや、その前に・・・もし、警察が来る前にコイツが起き上がって来た時に、確実に息の根を止めるための準備だ・・・」
「えっ・・・」
2人はすぐに農具置き場へ向かった、そこにはその名の通り多くの農具がある。そこからベルト付の鞘に入った鉈を2つ、そしてツルハシとクワを1つずつ取り出すと、鉈を取り付け、農具を構えた。もしこんな奇怪な姿でうろつけば、都会なら警察に通報される可能性があり、アメリカだったら射殺されかねない。しかしここは田舎である、農具の1つや2つ持っていた所で誰も怪しまないし、そもそもこの地区に住む人全てがご近所さんなのだ、怪しむとすれば別の地域からやって来た者ぐらいだ。
2人が家に戻ろうとした時だった、遠くから何か聞こえてきた。
「これってヘリコプターの音?」
「だな、自衛隊か警察か消防、はたまた民間か、でもこの独特のエンジン音は・・・」
ヘリの音は少しずつ近づいて来ていた、さらによく聞くと1機ではなく3機のようだ、そしてついにヘリが姿を現した。
「おっ、やっぱり陸自のOH-1だ!他にはUH-1が2機か」
「珍しいね、自衛隊がこんな所を3機も低空で飛ぶなんて、飛んできたとしてもいつもは戦闘機かへりが1機飛んでいるくらいなのに・・・あれ?なんか、家の田んぼの上で止まったけど・・・」
内陸県である岐阜は、大きく美濃と飛騨に分けられる、文化などもどの県と接しているかで色々違う、気象も美濃と飛騨では・・・と、いった具合に一つの県でも様々な違いがある訳だが、92%が山林の飛騨地方は基本的に山々に囲まれた場所に町があり、それがいくつか点在する。高山市だけでも東京都と同等の面積であるにも関わらず、人が住んでいる所は僅か8%である。何が言いたいのかと言えば飛騨が田舎だと言う事だ。現代においては戦略的価値もなく、内陸なので「他国の脅威」が来る事も殆ど無い、台風などの災害でも他の地域ほどの被害を受ける事もそうそうない、この世界に存在する怪獣が岐阜を襲撃する事自体が稀だ。そのため当然防衛順位も低く、レーダー施設やレーザー砲台が盆地を守る程度で、常備の戦力は無い。そんな中に「異物」が入り込んだどうなるだろうか?
とある小さな地区
ここは人口数十人の小さな地区だ、家が少しと田畑がいっぱい、のどかで静かな所である。
―前夜―
小さな物体は淡い光と共に降って来た、だが、車のヘッドライトが街灯の殆ど無い暗闇を照らすこの地域では、夜中に起きていようとも気にする者は居なかった。その物体は道端の草むらへと静かに「着地」した。
―午前11時―
一台の軽自動車がトンネルを抜ける、運転者はアクセルペダルから足を離すが、車は下り坂に任せて加速する。そのまま進み、左折すればすぐに実家に辿り着く・・・ところが、道端から急に青い物体が転がって来ると状況は変わった。
「おっと!」
ブレーキをいつでも踏めるようにしていたその足は、迷う事無くブレーキを踏んだ。加速していた車はそれなりの衝撃を感じさせ止まった。
「あっぶねぇ・・・誰だよ、こんな所に・・・」
車から降りたのはこの地区に住む、自称自衛隊オタクの山寺 葉久(やまでら はきゅう)だ、彼は転がって来た青い物体を見つめた。
「くそ、田舎だと思って堂々とゴミ捨てて行きやがって・・・その割にはすっげぇ綺麗だが」
葉久はその物体をごみと認識し、次の不燃物回収に出すために、一度それを家に持ち帰る事にした、これが騒動の火種とも知らず・・・。
自宅・葉久の部屋
彼の部屋は偏りが凄まじい、戦車や戦闘機のミニチュアが並ぶ棚、迷彩服が掛けられたラック、軍事や自衛隊に関する雑誌や書籍、漫画の入った本棚、そして壁に掛けられたエアガン。それ以外にはタンスやベッド、パソコンと机がある以外何も無い。その部屋で彼が何をするかと言えば、パソコンを構うか、エアガンでも眺めて快に浸る事ぐらいだ。
先程の物体を取り敢えずスーパー袋に入れると、彼は購入して間もない自衛隊仕様の迷彩服一式と、集めていた新旧自衛隊装備のエアガンも並べてみる事にした。さらには防弾チョッキ(ベスト)のレプリカに、アルミニウムと鋼材の板、そして衝撃吸収材を組み合わせたプレートを仕込み、気分だけで防弾性能など無い防弾チョッキを2つ用意した、2つ目は妹用である。葉久の妹である紗夏(さなつ)は、ミリタリーにそれ程強い関心がある訳ではないが、兄やその古い友人の影響を受けていたため、エアガンで遊ぶ事もある。
パソコンやスマートフォンで自衛隊の画像を見ながら、服や装備を身に着ける、そしてBB弾を装填した弾倉を89式小銃や64式小銃のエアガンに取り付ける、もちろん安全装置を掛けておくが。それからしばらくイヤホンをして、パソコンで動画を鑑賞する事にした、当然音は聞こえ辛くなる・・・つまり、彼の後ろである変化が起ころうとも全く把握出来ないのだ・・・。青い物体から出る影は、少しずつ大きくなって行く。
10分程経ち、彼の妹が帰って来た、玄関から階段を上がり、そして荷物をドサッと置くと兄の部屋の前に立ち、ノックの後に扉を開けた。
「行って来ましたぁ・・・?!に、兄ちゃん・・・!」
「ん?あっ、お帰り、どうした?」
「う、後ろ!」
葉久がイヤホンを外し、振り返るとそこには・・・。
「な、なんだ!こいつ?!」
彼が見たのは蓋が開いた様な青い物体の隣に、人の様な何かが立って居たのだ。その何かは、ラックに掛かっていた古着屋で購入された迷彩服と、某パークで購入されていた迷彩ブッシュハットをかっぱらい、扉に立って居た紗夏を押しのけると廊下へと飛び出した。
「大丈夫か?!」
妹を助け起こすとすぐに扉を閉めた。その状態のまま、妹へスマホで警察へ連絡するように言った、だが・・・。
「あれ、圏外・・・」
「嘘だろ?!さっきまで電波はしっかり届いていた筈・・・」
そこまで言い掛け、ある仮説が頭をよぎった。そう、この青い物体から一種の妨害電波が出ているのでは?と、パソコンを見るとネットの接続が切れていた、紗夏は兄に固定電話は使えるのかと問いかけた。
「分からん、有線だから繋がるとは思うが・・・廊下には奴が居るぞ」
そこで2人はある決断をした、ここにあるエアガンで応戦・・・と、いうよりは牽制射撃で追い払い、その隙に通報する算段だ。さっそく紗夏にもセーラー服の上に装備を付けさせ、さらにヘルメット、安全ゴーグルを掛け、新品の半長靴を履き、肘や膝用のプロテクターも装着、ダメ元でカメムシやらテントウムシを駆除するための殺虫スプレーも装備した。
この時選んだエアガンは、葉久が89式小銃(固定銃床)とコルトガバメント、紗夏がM4A1である。
「よし、行くぞ!」
扉を少し強く開け、そのまま廊下に出る、恐る恐る進み、階段に差し掛かった所で物音がした、どうやら相手は下の階らしい。
「よし、お前はこのまま2階の電話で警察呼べ、俺は様子見ついでに牽制を入れて来る」
「分かった、気を付けて・・・」
ここで葉久は角での待ち伏せを牽制するため、セレクターをレ(連発)に切り替え、BB弾を数発撃った。その時出てきた人影に対して連射、そのまま距離を詰めようとする。1階の狭い廊下に差し掛かり、89式は取り回しが悪い事に気が付き後悔するも、正面玄関へ繋がる引き戸から相手の後を追う・・・が、なぜか姿が見えない。最初は外へ逃げたのかと思い玄関の扉の前まで行く、だがそこで思い出したかのように葉久が振り向くと、向こうは自分が入って来た入口の真上にへばり付いていたのだ。
「この野郎!」
そう叫びつつBB弾を乱射するが、向こうは直ぐにそれをかわし、別の壁に飛び移る。そこで葉久はガチャッ、という音を聞いた、この音はブレーカーが落ちた音、つまり今相手が飛び移った所に丁度ブレーカーがあったのだ。
それとほぼ同時、紗夏は部屋の安全を確認し、電話で110と入力する所であった、しかし突然電話からプッープッーと音が鳴り始める。一瞬驚くも、下の階から聞こえる騒ぎから、ブレーカーが落ちた事による停電だと理解し、兄の援護に向かった。
一方の葉久は畳部屋に逃げ込んだ相手を追撃していた、しかし相手はかなりの速さで移動し、襖を開けていた、そして・・・。
「ん?この臭い・・・カメムシとテントウムシの!」
葉久はこの臭い、もとい虫が大嫌いである、自分の頭上を通り過ぎるだけでも怯えてしまい、その場からの逃走や、虫が外敵から身を守るための分泌液の臭いに過剰に反応し、酷い時には別の臭いとそれを間違えたり、黒い点が虫に見えたりしてしまう事さえあるのだ。すると葉久はガスマスクを取り出すと、それを装着した。
「でもなんで・・・その辺に死骸は転がって無ねぇのに・・・」
捜索を続けていると、壁に飾られていた、長短2本の木刀が無くなっている事に気が付く、すると後方から相手がゆっくりと迫っていた、2本の木刀を持って・・・。
葉久は置いてあった長方形の机を盾にしようとしたが、足が短い和風の机は葉久ごと倒されてしまった。しかもそこへ木刀が振り下ろされそうになる、葉久は机の下に潜り込みそれを回避すると、全身の力を込めて机を相手ごとひっくり返した。
「はぁ、はぁ・・・どうだ!少しは効いて・・・」
相手から距離を取りそう叫んだ・・・のもつかの間、ものすごい勢いで接近され、腹部に一撃を食らってしまった、それと同時に89式小銃のエアガンでは反撃出来なくなった。
「ぐえっ?!こ、この・・・」
葉久は相手を睨み付けるが、その時にふと気が付く、相手の顔が人間の女性・・・もとい妹の顔に似ている様な気がしたのだ。そんな事を思っていると降りて来た紗夏がエアガンで相手を撃っていた、だがBB弾は近距離で正確な狙いを付けているにも関わらず、1発も当たらない、いや、当たらないというよりは弾道があらぬ方向に逸れているのだ。
「この距離で・・・何で?!」
「まさか、バリア?」
すると今度は撃ったBB弾が空中で静止し、紗夏目掛けて撃ち返されたのだ。
「うわっ!」
紗夏が一瞬怯んだ隙に、相手は紗夏に短い木刀を投げつけた、それを回避できる筈も無く、紗夏はそれに当たってしまう。しかし運よく防弾チョッキに当たった事と、態勢の問題で相手がそれ程強く投げられなかった事が幸いし、そこまで痛い思いをする事は無かった。
「テメェ!よくもやりやがったな!」
流石に本気でブチ切れた葉久は、ホルスターからコルトガバメントを引き抜き、撃つのではなく銃口近くを持ってグリップで殴り掛かろうとした。ところが相手はそれをする前に腕を掴んできた。
「まさか、こっちの動き・・・いや、心を読んでやがるのか?」
その一瞬、相手が笑ったような気がしたが、その直後に相手が肩に噛み付いて来た時点で、考える余裕は消し飛んだ。
「いてぇ!!このボケナス!離せぇ!」
幸い防弾チョッキのレプリカのおかげで歯は皮膚にまで達しなかったが、無意識のうちに掴んで振り上げた89式小銃が相手の顔を直撃した。一瞬驚いた様子を見せ後ろに下がる相手に対し、引き抜いた拳銃を振り回して牽制する。その時不意に指がマガジンキャッチボタンに触れ、弾倉が勢いよくすっぽ抜け、しかもその弾倉は相手の顔に見事命中した。それにさらに驚いたのか、少し距離を取り始めた。
そこで葉久が思い浮かべたのは、美濃と飛騨、現在の岐阜県に伝わる妖怪の事であった、その妖怪は「覚り」といい、相手の心を読んで思っている事を先に話し、相手を混乱させるのだ、もし目の前に居る相手が同じような能力を持っているなら、今がチャンスだった。
「これでも食らえ!化け物が!」
殺虫スプレーのトリガーを引くと、殺虫剤が噴射された、混乱していた相手は回避に失敗し、その毒を少し浴びてしまう。すると向うは急に苦しみ始めたが、暴れた際に葉久は突き飛ばされ、スプレー缶はその場に落ちてしまった。
「くっ、おい紗夏!」
「なに、どうしたの?!」
「あのスプレー缶に弾を当てられるか?」
「え?出来ると思うけど・・・」
そこで紗夏も気が付いたらしい、要は2人でスプレー缶に集中射撃をし、缶に穴を開けて殺虫剤をばら撒こうと言う算段だった。高圧ガスが充填されている缶を破壊するのは危険な事だが、既にあの缶の中身は使い終わる寸前であるのは、使っていた本人が良く分かっていた。
「撃ちまくれぇ!」
葉久の合図で2人が持つエアガンからBB弾が缶を目掛けて発射された。最初は転がっていた缶も、襖の柱に引っ掛かり動かなくなった。同じ個所へBB弾を浴びせられた缶は少しずつへこんで行く、そして遂に穴が開くと、殺虫剤と高圧ガスが噴き出してきた。それにより相手は苦しみだし、殺虫剤の噴出が止まると、その場に倒れ込ん だ。2人は木刀を回収すると、相手の確認に入った。
2人は足で片方ずつ相手の手首を踏み、動かない様に固定すると銃で突き、さらに軽く蹴る。最初は死んでいるのかとも思ったが、どうやらまだ生きている様である。本当ならば相手を確実に仕留めるため、ここで頭に銃弾を叩き込みたい所だが、2人はそんな物を持ち合わせていない。
「や、やったぞ・・・」
「後はブレーカーを上げて、警察読んだら終わりだね」
「いや、その前に・・・もし、警察が来る前にコイツが起き上がって来た時に、確実に息の根を止めるための準備だ・・・」
「えっ・・・」
2人はすぐに農具置き場へ向かった、そこにはその名の通り多くの農具がある。そこからベルト付の鞘に入った鉈を2つ、そしてツルハシとクワを1つずつ取り出すと、鉈を取り付け、農具を構えた。もしこんな奇怪な姿でうろつけば、都会なら警察に通報される可能性があり、アメリカだったら射殺されかねない。しかしここは田舎である、農具の1つや2つ持っていた所で誰も怪しまないし、そもそもこの地区に住む人全てがご近所さんなのだ、怪しむとすれば別の地域からやって来た者ぐらいだ。
2人が家に戻ろうとした時だった、遠くから何か聞こえてきた。
「これってヘリコプターの音?」
「だな、自衛隊か警察か消防、はたまた民間か、でもこの独特のエンジン音は・・・」
ヘリの音は少しずつ近づいて来ていた、さらによく聞くと1機ではなく3機のようだ、そしてついにヘリが姿を現した。
「おっ、やっぱり陸自のOH-1だ!他にはUH-1が2機か」
「珍しいね、自衛隊がこんな所を3機も低空で飛ぶなんて、飛んできたとしてもいつもは戦闘機かへりが1機飛んでいるくらいなのに・・・あれ?なんか、家の田んぼの上で止まったけど・・・」
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