笑わない(らしい)黒の皇子の結婚~元聖女の皇子の強すぎる執着を元黒竜の訳あり令嬢は前向きに検討することにしました~

HarukaR

文字の大きさ
16 / 61

16. シャル、皇子を見舞う

しおりを挟む
「・・・で、結局のところ、事件については、未だ調査中。このままだと、迷宮入りする可能性もある。俺たちがブーマ国内の権力争いに巻き込まれたのか、はたまた、皇国の跡継ぎ問題で、ブーマ国がとばっちりを受けたのか。どちらなのかは、不明ってことだ」

 惨劇から3日後。
 アルフォンソは、エクセルの報告を受けていた。
 ベッドの上でクッションを背に、けだるげに身を起こした状態で。

 ここ数日、『力』を少々使い過ぎたようだ。丸々3日もベッドから動けなかったとは。

「あのジャンヌってご令嬢は、現国王の従妹、エレノア・ビーシャス公爵令嬢~ほら、あの派手な感じのすごい美女、お前がシャル嬢の次に踊った相手だ~その公爵令嬢の付き人として参加してたそうだ。あの箱については、彼女、エレノア嬢からお前へのプレゼントとして預かったと主張しているんだが。どうも、ところどころ記憶が曖昧らしい。エレノア嬢は、身に覚えがないと言ってるし、他の令嬢たちも見た覚えがないと証言した。何らかの術で記憶が改ざんされている可能性もある。結局、父親のモール補佐官は役目を解かれ、当のご令嬢は教会預かりになった」   

「私へのプレゼントか。変だな。あのご令嬢とは話したこともないし、そんなもの、見てもいないが」

 と、アルフォンソ。

「お前の所へたどり着く前に、術が発動したってことかもしれないがな」

 エクセルが首を傾げて言った。

「いくら魔道具を使ったとはいえ、共鳴術であれだけの仕掛けを作るには、かなりの術力が必要だ。事前にシャンデリアの素材や形状などを調べておく必要もある。お前が遅れたせいで、多少開会がずれ込んだとしても、スケジュールが大幅に変更されたわけでもない。それだけの準備をしておきながら、そんな失敗するか?」

「そうだな。狙いが本当に私だったのなら。杜撰ずさんすぎる」

「あの時、お前の居所は、言わせてもらうが、一目瞭然だったぞ。目立ちまくってた。シャル嬢との楽しいおやつタイム」

「馬車で菓子の話題になった。彼女は甘いものに目がないんだ」

 アルフォンソが視線を泳がせて言った。
 その頬は微かに赤くなっている。

「へぇ。エスコートをもぎ取ったかいがあったな。ちゃんと、若い女性と二人きりで会話できたんだ。共通の話題が見つかって僥倖だったな」

 エクセルが従弟の顔をじっと見つめた。からかうような笑みを浮かべて。
 アルフォンソは、咳払いして、話題を変えた。

「もし、義母上の手の者が関与していたとすれば、もっと確実な方法を取ったはず。今までの経験上、わきまえているだろう。あの程度じゃ、私を害することは難しいと」

 そうだな、とエクセルも同意する。

 王妃は、昔から、アルフォンソの存在が気に食わない。いや、憎んでいると言っていい。そのせいで、幼いころから、幾度、命を狙われてきたことか。

「義母上も、ご苦労なことだ。手を変え、品を変え。私は、王位など、まったく興味がないと言うのに」

 エクセルには、アルフォンソの殊更淡々とした言い方が、悲しく思える。
 皇帝にしろ、王妃にしろ、なぜ、アルフォンソの意志を認めようとしないのだろう?
 確かにアルフォンソは優秀だ。剣の腕前、その幅広い学識、果ては料理の腕前まで、凡人の領域をはるかに超えている。それらは、すべて、幾度もの生を経て、ただ一つの目的のために、身につけられたもの。決して、この世の権力を手にするためではない。

 そもそも、『黒き救い手』は、この世に長く留まることはないというのに。
 いや、もしかすると、今生では、運命は変えられるかもしれないが・・・

「この国の権力争いとは?大きな対立が存在するのか?」

 アルフォンソに問われて、エクセルは物思いを振り払った。

「ビーシャス公一派と現国王一派が不仲らしい。その線かとも思ったんだが」

「わざわざ自分の娘も参加している舞踏会で事を起こすだろうか?」

「そうだよなあ。噂じゃ、ビーシャス公はあの末娘を、今回の宴を機に、皇国第二皇子おまえの花嫁候補として売り込むつもりだったらしいし。現国王の失脚を狙うにしても、他の機会にするよな?やっぱり、お前関連?」

 アルフォンソもその件に関しては同意見だ。だが、どちらにしても・・・

「被害が少なすぎる」

「少なすぎる?5人が死にかけたんだぜ。あのジャンヌって令嬢は、お前がいなけりゃ、確実に亡くなってた」

「ジャンヌ嬢に関しては、口封じってこともあり得る。彼女を除けば、重傷者は、護衛騎士と楽師だけ。主要な貴族も大臣も誰一人大したケガはしていない」

「教会の治療師ヒーラーが2人も、運よくあの場にいたおかげだろ?」

「そうかもしれないが。気になるな。主犯の狙いがいったい何だったのか」

「で、どうする?」

「何をだ?」

「ベルウエザー嬢のこと。お前の好意は、誰が見てもバレバレだったと思うが?」

「彼女の警護は続行中だろ?」

「もちろん、目立たないように配置してる。って言っても、あの両親じゃ、そんな必要なさそうだけどな」

 エクセルがクスっと笑った。

「今週末には、ベルウエザー一家は領地にいったん戻る予定らしいぞ。どうするんだ、お前は?」

 アルフォンソが黙り込む。
 しばし躊躇った後に覚悟を決めたのか。顔を上げ、エクセルの目をまっすぐに見つめた。
 何か言おうとしたちょうどその時、扉が、勢いよくノックされた。

「誰だ?」

「ご休息中、失礼します。見舞客が来られていますが」

 エクセルの誰何に応えたのは、シュール・ファレルの声だった。

 彼女は、黒騎士団の女性騎士の一人で、気心の知れた団員でもある。

 皇国第二騎士団、通称『黒騎士団』は徹底した実力主義を明言しており、その中には、当然、女性騎士も数名存在する。出自もそれぞれで、得意技も違うが、みな、騎士として恥じない腕を持っている。

 ファレルは、剣の腕前だけでなく、もともと商家の娘だけあって、帳簿管理や文書作成能力にも秀でている。実は文書仕事が苦手なアルフォンソとエクセルにとって、なくてはならない団員の一人だ。

「見舞客?」

 絶対に秘密にしてほしいと言っておいたのに。一体、どこから、滞在場所が漏れたのやら。
 まさか、司祭長達からじゃないだろうな。この3日間、何度も追い返された腹いせとか?
 エクセルは顔をしかめた。

「今打ち合わせ中だ。それに、団長はまだ体調がすぐれない。悪いが、お引き取り願ってくれ」

「いいんですか?ベルウエザー嬢ですよ」

 ファレルの、明らかに面白がっている、悪戯っぽい口調。

「すぐ伺う。客室にお通ししてくれ」

 アルフォンソは一声叫ぶと、ベッドから飛び起きた。

*  *  *  *  *

 取次ぎを頼んでおきながら、シャルは、やはりお見舞いに直接伺うのは時期尚早、迷惑だったかも、と思い悩んでいた。
 舞踏会で一度エスコートしてもらった程度で、高貴なる御方の病床へ押しかけるなんて。ずうずうしい女だと思われるのでは?

 エルサに「こういう時こそ、全力で押しかけるべきです」と説得されて勇気を振り絞ってはみたのだけれど。

 魔物をやっつけた後と、舞踏会でガラス片が降ってきた時・・・。
 二度も危ういところを助けていただいたのに、まだ十分にお礼もしていない。よく考えてみれば、感謝の言葉もきちんと伝えていないもの。
 それに、エルサが、見舞いの品として、ベルウエザー特産の魔鳥卵をたっぷり使ったケーキを特別に焼いてくれたし。

 それにしても、極上の美形は、血を流していても美形だった。

 抱きしめられたのは、二度め。その時の感触を今更ながら思い出し、シャルは頬が熱くなるのを感じた。
 筋肉質には全く見えないのに、衣服の上から感じられたのは、予想外に固く引き締まった胸板だった。
 心配そうに覗き込んできた、あの少し潤んだような黒い瞳。安心するように、微笑みかけてくれた麗しいかんばせ

 思い出して赤くなっていると、案内を買って出てくれた女騎士が、皇子の部屋の前で来客を告げた。

「今打ち合わせ中だ。それに、団長はまだ体調がすぐれない。悪いが、お引き取り願ってくれ」

 聞き覚えがある男性の声が、すぐに返ってきた。
 確か、エクセルと名乗った副団長の声だ。

 よかった。少なくとも、打ち合わせができるほどには回復されたわけだ。
 直接お会いできないのは、少し、いや、かなり残念だけど。せめて持参した見舞いの品だけでも渡してもらえたら・・・。

「いいんですか。ベルウエザー嬢ですよ」

 女騎士がそう告げた。そのとたん、部屋の中からドタバタと何かが落ちる音がした。

「すぐ伺う。客室にお通ししてくれ」

 アルフォンソの、なぜか、慌てた声がした
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります! 🔶表紙はAI生成画像です🤖

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

処理中です...