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~元聖女の皇子と元黒竜の訳あり令嬢はまずは無難な婚約を目指すことにしました~
シャルの手作りの贈り物 ①才能
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※ここから続く二つの中編は、本編に続く前のエピソード的なストーリーです。
一応、前章までの話を知らなくてもある程度わかるように書きました。
リーシャルーダ・ベルウエザー子爵令嬢~通称シャル~は絶望していた。
目の前に広がる、どうしようもない悲惨な光景に。
「どうして、どうして、こんなことに・・・」
ピンク色の愛らしい唇から、震える声がこぼれ落ちた。
若い女性と言うより少女と言った方が似合う全体的に華奢な印象の体つき。軽くウエーブのかかった艶やかな銀髪は、今は首の後ろで結ばれ、ポニーテールとなっている。分厚いレンズでさえ隠せない美しい琥珀色の瞳に、涙が滲んでいた。
「お嬢様・・・」
傍らで立ち尽くすのは、薄茶色の髪をまとめてシニヨンにした、ちょっとコケティシュな顔立ちの妙齢の女性。
彼女はハシバミ色の瞳をパチクリさせて、白い煙が立ち上る残骸を呆然と眺めている。
「エルサ、どうして、どうして、こんなことに?私は教わった通りにやっただけなのに」
シャルは半べそをかきながら、自分専属の侍女であるエルサに訴えた。
主から視線を遠く反らしたまま、エルサが悲しげに首を振る。
「お嬢様、もうあきらめましょう。エルサには、もう無理です。限界です。きっと、これこそ、血の呪い、というべきものかと。お嬢様は奥様に似てしまわれたのです。今は、いらっしゃらない奥様に」
「そんな・・・なぜ、そんなところだけ・・・」
シャルがしゅんと肩を落とした。
「どうせなら、母上の美貌や魔術の才能の十分の一でもいいから受け継いでいればよかったのに。せっかく、アルフォンソ様に喜んでいただこうと・・・」
「お嬢様、何度も申し上げますが、アルフォンソ殿下はお嬢様にそんなことを期待してはいません。決して、全然、全く、微塵も」
エルサがなだめるようにシャルの華奢な肩にそっと手を置いた。
「だから、お嬢様、もうこれ以上、危険を冒すのはやめましょう」
けたたましい足音が響いたかと思うと、厨房の扉ががばっと開いた。
赤毛の大男が焦りまくった様子で現れる。
「シャル、エルサ、どうした?!何だ、今の爆音は?!」
男の名はクレイン・ベルウエザー。
シャルの父で現ベルウエザー子爵である。
おりしも騎士団の朝の訓練が終わったばかりらしく、汚れたままの訓練着姿で訓練用の長剣を左手に提げたままだ。
「一体何が・・・」
見慣れぬ娘の装いに気づくと、ふっと黙りこむ。
あたりを見回して、状況を確認すると、安堵の吐息を吐いた。
さすが父親。一瞥ですべてを悟ったらしい。
「ま、怪我しなかったならいい」
「ごめんなさい、父上」
「気にすることはないぞ。誰にだって得手不得手はある」
愛娘の頭を優しく撫ぜてやりながら、クレインは遠い目をした。
「お前の母上も、これくらいは、よくやったものだ。そう、義父上とやりあって、婚約を認めていただいて、間もない頃だった。なぜか、料理をしてみせると言いだして・・・まあ、お前が生まれる前、はるか昔のことだが。厨房で途方に暮れる若き妻。思い出すなあ。時折、差し入れてくれた『料理』の、奇跡的とも言える凄さに、体調に支障が出たり、歯がかけたりしたものだ。あれはあれで、特殊な才能と言えるかもしれないな。今となってはよい思い出だ。もう、見ることはないのだろうな」
「母上が父上に?その、ご自分で、手料理を?」
驚きで丸い目を更に丸くした娘を見下ろし、力強く断言する。
「そうだ。彼女なりに一生懸命作ってくれたぞ。見かけも味もすごく、その・・・個性的だったが。ケーキとかクッキーとか・・・らしきものを。たぶんだが」
「母上が・・・」
「ああ。誰にだって苦手なものはあるってことだ。魔道式天火は、後で俺が直してやる。だから、さあ、元気をだせ、シャル」
クレインは見かけによらず、手先が器用なのだ。強面の子爵はいわゆる日曜大工的なことが趣味で、多少の故障は直してくれるし、細工物も得意である。料理だって、多少はできる。
「そうですわ。取り返しがつかないわけじゃありません。いえ、このエルサが何とかして見せましょう。・・・完全に炭化してしまったもの以外なら」
「父上、エルサ」
感極まったシャルが感謝の言葉を伝えようとしたその時、一陣の冷たい風が吹き、まだ煙を上げて燻っている魔術式天火が一瞬で凍り付いた。
「何をしているのかしら、あなたたち?厨房を破壊するつもり?」
いつの間にかシャルによく似た体つきの淡い栗色の髪の美女が、呆れ顔で立っていた。
一応、前章までの話を知らなくてもある程度わかるように書きました。
リーシャルーダ・ベルウエザー子爵令嬢~通称シャル~は絶望していた。
目の前に広がる、どうしようもない悲惨な光景に。
「どうして、どうして、こんなことに・・・」
ピンク色の愛らしい唇から、震える声がこぼれ落ちた。
若い女性と言うより少女と言った方が似合う全体的に華奢な印象の体つき。軽くウエーブのかかった艶やかな銀髪は、今は首の後ろで結ばれ、ポニーテールとなっている。分厚いレンズでさえ隠せない美しい琥珀色の瞳に、涙が滲んでいた。
「お嬢様・・・」
傍らで立ち尽くすのは、薄茶色の髪をまとめてシニヨンにした、ちょっとコケティシュな顔立ちの妙齢の女性。
彼女はハシバミ色の瞳をパチクリさせて、白い煙が立ち上る残骸を呆然と眺めている。
「エルサ、どうして、どうして、こんなことに?私は教わった通りにやっただけなのに」
シャルは半べそをかきながら、自分専属の侍女であるエルサに訴えた。
主から視線を遠く反らしたまま、エルサが悲しげに首を振る。
「お嬢様、もうあきらめましょう。エルサには、もう無理です。限界です。きっと、これこそ、血の呪い、というべきものかと。お嬢様は奥様に似てしまわれたのです。今は、いらっしゃらない奥様に」
「そんな・・・なぜ、そんなところだけ・・・」
シャルがしゅんと肩を落とした。
「どうせなら、母上の美貌や魔術の才能の十分の一でもいいから受け継いでいればよかったのに。せっかく、アルフォンソ様に喜んでいただこうと・・・」
「お嬢様、何度も申し上げますが、アルフォンソ殿下はお嬢様にそんなことを期待してはいません。決して、全然、全く、微塵も」
エルサがなだめるようにシャルの華奢な肩にそっと手を置いた。
「だから、お嬢様、もうこれ以上、危険を冒すのはやめましょう」
けたたましい足音が響いたかと思うと、厨房の扉ががばっと開いた。
赤毛の大男が焦りまくった様子で現れる。
「シャル、エルサ、どうした?!何だ、今の爆音は?!」
男の名はクレイン・ベルウエザー。
シャルの父で現ベルウエザー子爵である。
おりしも騎士団の朝の訓練が終わったばかりらしく、汚れたままの訓練着姿で訓練用の長剣を左手に提げたままだ。
「一体何が・・・」
見慣れぬ娘の装いに気づくと、ふっと黙りこむ。
あたりを見回して、状況を確認すると、安堵の吐息を吐いた。
さすが父親。一瞥ですべてを悟ったらしい。
「ま、怪我しなかったならいい」
「ごめんなさい、父上」
「気にすることはないぞ。誰にだって得手不得手はある」
愛娘の頭を優しく撫ぜてやりながら、クレインは遠い目をした。
「お前の母上も、これくらいは、よくやったものだ。そう、義父上とやりあって、婚約を認めていただいて、間もない頃だった。なぜか、料理をしてみせると言いだして・・・まあ、お前が生まれる前、はるか昔のことだが。厨房で途方に暮れる若き妻。思い出すなあ。時折、差し入れてくれた『料理』の、奇跡的とも言える凄さに、体調に支障が出たり、歯がかけたりしたものだ。あれはあれで、特殊な才能と言えるかもしれないな。今となってはよい思い出だ。もう、見ることはないのだろうな」
「母上が父上に?その、ご自分で、手料理を?」
驚きで丸い目を更に丸くした娘を見下ろし、力強く断言する。
「そうだ。彼女なりに一生懸命作ってくれたぞ。見かけも味もすごく、その・・・個性的だったが。ケーキとかクッキーとか・・・らしきものを。たぶんだが」
「母上が・・・」
「ああ。誰にだって苦手なものはあるってことだ。魔道式天火は、後で俺が直してやる。だから、さあ、元気をだせ、シャル」
クレインは見かけによらず、手先が器用なのだ。強面の子爵はいわゆる日曜大工的なことが趣味で、多少の故障は直してくれるし、細工物も得意である。料理だって、多少はできる。
「そうですわ。取り返しがつかないわけじゃありません。いえ、このエルサが何とかして見せましょう。・・・完全に炭化してしまったもの以外なら」
「父上、エルサ」
感極まったシャルが感謝の言葉を伝えようとしたその時、一陣の冷たい風が吹き、まだ煙を上げて燻っている魔術式天火が一瞬で凍り付いた。
「何をしているのかしら、あなたたち?厨房を破壊するつもり?」
いつの間にかシャルによく似た体つきの淡い栗色の髪の美女が、呆れ顔で立っていた。
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