52 / 61
~元聖女の皇子と元黒竜の訳あり令嬢はまずは無難な婚約を目指すことにしました~
皇子の療養休暇 ⑧茶話会 パート1
しおりを挟む
他人よりはるかに多くの経験を積んできたと自認していたが、『茶話会』に出るのは初めてだと思う。
宴と呼ばれるものには、立場上、とりわけここ数年は嫌と言うほど参加してきた。舞踏会にも慣れている。
しかし、まさか、このような若い女性ばかりのきらびやかだが、ある意味健全なお茶会に招待客として参加することになろうとは・・・。
薄く板状にカットされたクリスタルを組み合わせて建てられた巨大な『温室』。
その内部に広がる、目にも鮮やかな色とりどりの花々。不快にならない程度に漂う芳香に、ほぼ透明な壁から差し込む穏やかな日差し。
巨大な温室の中は、植物にとっても、訪問客にとっても、驚くほど快適に整えられている。おそらくいくつもの魔道具を配してあるのは間違いない。
白い石で縁どられた通路で中央当たりまで進むと、緩やかな階段にたどり着く。階段を上ると、その先は銀色の柊の柵で囲われた高台で、巨大なウッドデッキのような広間になっている。広間の真ん中には、直径3メートルほどのドーナツ型の大理石のテーブル。その上には、様々な形と彩の軽食類が盛られたシンプルな青磁の皿が、取り分け用スプーンやサーバーを添えて、品よく配置されていた。
中央のテーブルを取り囲むのは、20脚ほどの白いクロスで覆われた豪奢な作りのラウンドテーブルとセットと思われるイスが1脚ずつ。テーブルに並べられたティーカップ、デザート皿とデザートフォークなどのカテラリーは、どれも青一色のシンプルなものだが、明らかに極上品だ。
そのテーブルが形作る円の前方。そこには一段高い小ステージが設けられていて、演壇と控え用のテーブルらしきものが用意されている。
眼下に咲き乱れる花々を眺めながら、緩やかな階段をのぼると、丈の長い水色のレースエプロンとヘッドドレス姿のメイドが、招待客一人一人を、恭しくそれぞれのテーブルに案内してくれる。ためらいもせずに。
仮面で顔半分が隠れているのに、誰が誰なのかよくわかるものだと感心する。
おそらく、何らかのセンサーが仮面の中に仕掛けられているのだろう。
「お嬢様、こちらをお召し上がりください。特に珍しいものをお持ちしましたので。なんと、マルノザ帝国の伝統的なお菓子まで見つけました」
案内された席で皇都でも入手しづらいほどの高級茶を飲みながら周囲をうかがっていると、『侍女』がいくつか菓子を皿にのせて持ってきてくれた。
首をかしげて無言で問いかけると、
「夫人がいらっしゃる前に、ある程度は腹ごしらえをしておくのが、暗黙のルールとなっているそうです。お茶はお話の途中でいただいてもいいそうですけど、さすがに勉強会の間は食事は控えるのがマナーだとか」
と、説明してくれる。
「常連らしい侍女たちに聞いてきました。まあ、いろいろと」
ここに案内されてからまだ10分足らず。いつもながらの社交性を発揮して、彼女はすでに情報収集に励んできたらしい。
「どうやら、『お嬢様』は、かなり注目されているようですよ。皆さん、噂が本当かどうか気になっているようで」
「噂?」
「エレノアお嬢様が、アルフォンソ殿下を射止めた令嬢だという噂です」
空になったカップに、湯気の立つ~たぶん保温性を付加した魔道具なのだろう~サーバーからお茶を継ぎ足しながら、笑顔で告げる。
「それにしても、そのドレス、思った以上によく似合っておられます。わざわざ実家に無理を言って取り寄せたかいがございましたわ」
どうやら、幸いなことに、令嬢の名前までは伝わっていないようだ。それとも、王があえて隠してくれたのか。
誉め言葉は無視することにして、持ってきてくれたお菓子をゆっくりと味わう。
確かに見たことがない菓子だ。柔らかな口当たり。ほのかにバラの花のような香りがする。こちらのケーキの方は、かんきつ類が練りこまれているようだ。
花々に囲まれた美しい場所で開催される、女性だけの茶話会。お茶も上々。お菓子も高級品。若い女性がいかにも喜びそうなセッティング。
次々と現れる招待客。仮面を付けたご令嬢たちが、なごやか午後のお茶を楽しんでいる。
さすが、辺境伯夫人が主催する茶話会だ。前座だけでも十分に楽しめるように配慮されている。
まあ、着飾った令嬢たちが一様に顔半分を覆う仮面をつけているのが、異様と言えば異様だが。
仮面で容貌がわからない女性たちにちらちらとみられているのは、あまり居心地がいいものではない。
「あら、あれは、たぶん、ディラン公爵令嬢ですね。侍女は見たことがあります。あちらは、サモワール子爵のお嬢様かと。あの髪の色と髪型は独特でいらっしゃいますもの」
会話に応じる気配もない主人にめげることなく、侍女は興味津々にあたりを眺めては、解説をし続けた。
アマリアーナ・サリナス辺境伯夫人が現れたのは、すべての席が埋まってしばらくしてからだった。
宴と呼ばれるものには、立場上、とりわけここ数年は嫌と言うほど参加してきた。舞踏会にも慣れている。
しかし、まさか、このような若い女性ばかりのきらびやかだが、ある意味健全なお茶会に招待客として参加することになろうとは・・・。
薄く板状にカットされたクリスタルを組み合わせて建てられた巨大な『温室』。
その内部に広がる、目にも鮮やかな色とりどりの花々。不快にならない程度に漂う芳香に、ほぼ透明な壁から差し込む穏やかな日差し。
巨大な温室の中は、植物にとっても、訪問客にとっても、驚くほど快適に整えられている。おそらくいくつもの魔道具を配してあるのは間違いない。
白い石で縁どられた通路で中央当たりまで進むと、緩やかな階段にたどり着く。階段を上ると、その先は銀色の柊の柵で囲われた高台で、巨大なウッドデッキのような広間になっている。広間の真ん中には、直径3メートルほどのドーナツ型の大理石のテーブル。その上には、様々な形と彩の軽食類が盛られたシンプルな青磁の皿が、取り分け用スプーンやサーバーを添えて、品よく配置されていた。
中央のテーブルを取り囲むのは、20脚ほどの白いクロスで覆われた豪奢な作りのラウンドテーブルとセットと思われるイスが1脚ずつ。テーブルに並べられたティーカップ、デザート皿とデザートフォークなどのカテラリーは、どれも青一色のシンプルなものだが、明らかに極上品だ。
そのテーブルが形作る円の前方。そこには一段高い小ステージが設けられていて、演壇と控え用のテーブルらしきものが用意されている。
眼下に咲き乱れる花々を眺めながら、緩やかな階段をのぼると、丈の長い水色のレースエプロンとヘッドドレス姿のメイドが、招待客一人一人を、恭しくそれぞれのテーブルに案内してくれる。ためらいもせずに。
仮面で顔半分が隠れているのに、誰が誰なのかよくわかるものだと感心する。
おそらく、何らかのセンサーが仮面の中に仕掛けられているのだろう。
「お嬢様、こちらをお召し上がりください。特に珍しいものをお持ちしましたので。なんと、マルノザ帝国の伝統的なお菓子まで見つけました」
案内された席で皇都でも入手しづらいほどの高級茶を飲みながら周囲をうかがっていると、『侍女』がいくつか菓子を皿にのせて持ってきてくれた。
首をかしげて無言で問いかけると、
「夫人がいらっしゃる前に、ある程度は腹ごしらえをしておくのが、暗黙のルールとなっているそうです。お茶はお話の途中でいただいてもいいそうですけど、さすがに勉強会の間は食事は控えるのがマナーだとか」
と、説明してくれる。
「常連らしい侍女たちに聞いてきました。まあ、いろいろと」
ここに案内されてからまだ10分足らず。いつもながらの社交性を発揮して、彼女はすでに情報収集に励んできたらしい。
「どうやら、『お嬢様』は、かなり注目されているようですよ。皆さん、噂が本当かどうか気になっているようで」
「噂?」
「エレノアお嬢様が、アルフォンソ殿下を射止めた令嬢だという噂です」
空になったカップに、湯気の立つ~たぶん保温性を付加した魔道具なのだろう~サーバーからお茶を継ぎ足しながら、笑顔で告げる。
「それにしても、そのドレス、思った以上によく似合っておられます。わざわざ実家に無理を言って取り寄せたかいがございましたわ」
どうやら、幸いなことに、令嬢の名前までは伝わっていないようだ。それとも、王があえて隠してくれたのか。
誉め言葉は無視することにして、持ってきてくれたお菓子をゆっくりと味わう。
確かに見たことがない菓子だ。柔らかな口当たり。ほのかにバラの花のような香りがする。こちらのケーキの方は、かんきつ類が練りこまれているようだ。
花々に囲まれた美しい場所で開催される、女性だけの茶話会。お茶も上々。お菓子も高級品。若い女性がいかにも喜びそうなセッティング。
次々と現れる招待客。仮面を付けたご令嬢たちが、なごやか午後のお茶を楽しんでいる。
さすが、辺境伯夫人が主催する茶話会だ。前座だけでも十分に楽しめるように配慮されている。
まあ、着飾った令嬢たちが一様に顔半分を覆う仮面をつけているのが、異様と言えば異様だが。
仮面で容貌がわからない女性たちにちらちらとみられているのは、あまり居心地がいいものではない。
「あら、あれは、たぶん、ディラン公爵令嬢ですね。侍女は見たことがあります。あちらは、サモワール子爵のお嬢様かと。あの髪の色と髪型は独特でいらっしゃいますもの」
会話に応じる気配もない主人にめげることなく、侍女は興味津々にあたりを眺めては、解説をし続けた。
アマリアーナ・サリナス辺境伯夫人が現れたのは、すべての席が埋まってしばらくしてからだった。
0
あなたにおすすめの小説
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
🔶表紙はAI生成画像です🤖
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる