転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

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1章

15.入学式と、その後に

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 魔力量測定が終わり、そのまま入学式に移る。
 ちなみに、俺の後に二人ほど、四列目に座るように言われた子がいたが、残念ながら俺が座っている長椅子の方には来なかった。
 実に残念だ。俺は友達が欲しいのに。『入学式の時に隣だったよね』と言う会話が成り立たないではないか。
 このままでは、坊ちゃんが孤立するどころか、俺まで孤立してしまう。早急になんとかする必要があるな。

「在校生代表からの祝辞」

 ワンピース先生(仮)の声に続いて壇上……って言っても多分階段ニ、三段程しか高くないが、そこに上ったのは、赤と茶色の間くらいの髪色をした女の子。在校生代表って言うと、大抵最高学年だよな。……ということは、えっと、今九歳か?
 初等学校は、三年間。今日は一月、水の一日。つまりは今年が始まって一週間しか経ってない。先週——火の週に誕生日を迎えていなければ、九歳のはず。
 二つしか違わないはずなのに、やっぱり上級生って感じがする。
 そんなことを考えながら、ぼーっとして祝辞を聞く。

「初等学校長からの祝辞」

 申し訳ないけど、こっちは今日のお昼ご飯のことを考えながら聞く。


………………


「以上で入学式を終了します。保護者及び在校生はご退出下さい。新入生の皆さんは、少しその場で待つように」

 ん~……。やっと終わった。まだもう少し帰れそうにないけど、後は授業の説明とか、そういうやつでしょ。気楽にちょちょいっと聞けばオーケーよ。
 そんなことを思っていた俺に、保護者と在校生の退出を待ってから口を開いたワンピース先生(仮)が、爆弾を投下した。

「お待たせしました。さて、同じ列に座っているのが、皆さんのクラスメイトです。仲良くして下さいね」

 ほぅ。……おう?同じ列、が、クラスメイト?
 左を見て——バージンロード(仮)の向こうには、長椅子にギッチリ座った子ども達。
 右を見て——スッカスカの長椅子の端に見える貴族の坊ちゃん様。
 ホントにさようなら。俺の平穏ライフ。
 誰だよ、『気軽にちょちょい』とか言ったやつ。……俺だよ。

「これから皆さんには、それぞれの教室に行って、担任の先生から明日以降の説明を聞いてもらいます。前に座っている一組から順番に。先生方について行って下さいね」

 ワンピース先生(仮)は、ササッと説明して、『後はお願いしますね』と他の先生方に言い、とっとと退出してしまった。

「じゃあ、一組。行くぞー」

 子ども達は、クラス毎に先生を先頭にして、順番にバージンロード(仮)をゾロゾロと歩いて式場を出て行く。
 二組、三組、と続いて、次。

「はーい。四組の皆さん、移動しまーす」

 偏って座る俺達四組を先導するのは、待機室で頭に水をぶっかけたクレイジー先生(仮)だった。
 教室まで先導するだけなのか、担任の先生なのか。担任だったらちょっとなー。他の子ども達、怖がってるよ?貴族の坊ちゃんも一緒でしょ?教室の雰囲気最悪じゃない?

…………


 「全員席に着きましたねー。私がこのクラスの担任、クレイ・ファウスです。よろしくー」

 担任だった。
 教室の雰囲気はガッチガチである。
 貴族の機嫌は損ねてはならない。担任の先生はうるさくしたら水をぶっかける。子ども達の間には、一言でも声を発すれば命はない、みたいな緊張感が漂っている。
 流石にそこまで身構えなくて大丈夫だよ。まぁ、俺もだんまりだけど。

「自己紹介は勝手にやって下さーい。私も早く帰りたいので、さっさと説明しますー」

 早く帰りたいとか、先生が言っていいのかよ。
 我らが担任、クレイジー・ファウス先生は、宣言通り、早速明日以降の予定を説明しだした。
 教室にいるのは、二十人程。特に席順は決まってないらしく、長椅子と長机がボボボンと置いてあって、一つに三~五人ずつ座っている。……むぎゅっと。
 どう考えても五人は定員オーバーである。
 ゆったりと座っているのは、俺と貴族の坊ちゃんだけ。長椅子と長机なのに、一人ずつ座ってるのだ。
 別に占領してるわけじゃない。俺も、ちょっと驚いたことに貴族の坊ちゃんも、ちゃんと椅子の端っこに座っている。隣に誰が来てもいいように。
 しかし、残念なことに、貴族の坊ちゃんの隣どころか、俺の隣にも誰も来なかった。坊ちゃんが座った机の隣の机だったのがいけなかったか?
 坊ちゃんに至っては、一つ前の机にも誰もいない。流石にちょっと可哀想。

「まーこんなもんですねー。明日から早速授業なのでー遅刻しないよーにー」

 ざっくり説明し終わったファウス先生は、相変わらず気の抜けた、一番遅刻しそうな声してる。

「あ、そうそう。皆さんも……まぁ気付いているようですが」

 明らかに普通ではない教室の様子を見て言った。

「このクラスには、領主様の息子であるアレクシオ様がいらっしゃいますー。まぁ、特別扱いはしなくてよいとのことなのでー、えー、仲良くしましょう」

 できるかド阿呆。
 貴族と庶民なんて、普通は同じ空間にいることすら無いくらい壁があるっていうのに、仲良くしましょうなんて、無理難題もいいところだ。
 というか、貴族は王都に貴族用の学校があるからそっちに通うって聞いてたんだが?何故ここに居る?

「先生、様も付けなくていい。特別扱いになってしまうではないか」

「あ、そうですか?……そうですねー。じゃあ、アレクシオ君、で」

 さらーっと言っているが、言われてもなかなか出来るものじゃない。相手は貴族だぞ?叩いた俺が言うのもなんだけど、貴族だぞ?
 ずっと不思議だったんだ。こんな、明らかに先生に向いてない人が初等学校の、しかも一年生の担任になるなんて、どうかしてるって。
 これだよ。貴族に物怖じしないから、坊ちゃんがいるこのクラスの担任になったんだ。

「あ、ちなみにー。私、教師になったの今年なのでー、至らない点もあるかもしれませんがどうぞよろしくー」

 やっぱり。話し方も子ども向けじゃないんだよ。『至らない点』とか、七歳じゃそんな言葉使わないよ。海老天?芋天?至らない天?って感じ。……そういえば、この世界で天ぷら見たことないな。

「じゃあ、今日は帰っていいですよー」

 ファウス先生はそう言って、真っ先に教室を出て行った。
 ……本当に早く帰りたかったんだ。
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