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1章
22.紙飛行機
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一ヶ月経っても、『ズル』の答えは分からぬまま、魔力感知の練習で宝探しをし、魔力操作の練習で紙飛行機を飛ばしている。
ちなみに、この一ヶ月で、授業中に居眠りをして水を被ったのは二回、強風に煽られて机の上のノートと髪の毛がボサボサになったのが一回。机に突っ伏して寝てたのがいけなかったかなぁ。
……それはそれとして。
「さて、今日は外に出てみるとしよう」
という校長の提案で、今日は裏庭のような場所に来ている。
木や茂みが多くあり、宝探しにはもってこいだが、紙飛行機を飛ばすのには向いていない。
「さ、飛行機は持ってきたかの?」
普通に飛ばすなら、な。
「はい!」
「当然だ」
魔力操作は、感知した魔力を動かすだけなので、コツさえ掴めば出来るようになるのは早かった。あとは、練習に練習を重ねて、思いのままに操作出来るようになるだけだ。
感知の方も、大分出来るようになってきて、広範囲に意識を向け、対象の魔力を『引っ掛ける』ことが出来るようになりつつある。
「スタートはここ、ゴールは……あの辺かのぅ」
校長は、そう言いながら、右手の人差し指を地面に向け、ビーっと、魔法で二本の線を引いた。間は……十メートルくらい、か?
この十メートル程の間には、木が三本、五十センチ程の植物があちこちにランダムに生えている。
「二人はここに立ってくれ。よいか?浮かせるのはこの草の高さまで」
そう言って、校長は五十センチ程の草を指さした。
「ゴールは向こうの……ミゲリオ殿、線が引いてあるところまで行ってくれるかの?後でどちらの飛行機の方が早かったか、教えてくれ」
「了解っす」
ミゲリオさんは、小走りで走って行き、止まったところで振り返って手を振ってくれた。
最初は見てるだけだったミゲリオさんだが、だんだんと、午後の授業で校長の助手みたいになってきている。
「ゴールはあそこじゃ」
校長が、ミゲリオさんに手を振りながら言った。
「途中の木や草に触れたら一点減点。正面から突っ込んだらニ点減点の、減点方式じゃ。早くゴールした方には、ニ点の加点としよう」
『よいか?』と聞く校長に返事をすると、アレク様が言った。
「ふん。余裕だな。貴族であるこの僕が、平民のロアンなんぞに負けるなんて、許されない」
こっちだって負けるつもりはない。
「アレク君も、ロアンも、少し練習してくるといい。レースはその後にしよう」
校長がそう言うので、一旦解散。あまり遠くに行かないように、でもなるべくアレク様とは離れるように。
別に嫌いじゃないけど。午後の授業では、上から目線の偉そうなアドバイスをもらったり、会話することもあるけど。
でも、仲が良いわけでもないし、下手に近付いて、機嫌を損ねるようなことはしたくない。触らぬ神に祟りなし、だ。
結果として、俺はミゲリオさんの近くに行くことになった。
「あれ、レースは?やんないんすか?」
「先にちょっと練習だって言ってました」
「あぁ、そっか。今日はまだ何にもしてないっすね」
俺はミゲリオさんと少し話しながら、紙飛行機に自分の魔力を送り、浮かせる。
「どうっすか?授業。坊ちゃんと仲良くなれました?」
全部見てるんだから、分かってるでしょ。
「仲良いように見えます?」
紙飛行機を浮かせたら、魔力を操作して前に進める。
「ははっ。まぁ、仲良くは見えないっすね」
あれで仲良くしてるように見えるなら、目が腐ってるって教えてあげなきゃいけないとこだった。
飛ばした紙飛行機は、低空飛行をしながら、障害物を避けていく。
「でも、仲悪くもないっすよね」
「悪いも何も、悪くなる程話してないです」
「いやいや。授業でちょっと会話しただけで、仲悪くなる時は悪くなるっすよ」
「じゃあ、まだ悪くなってないってだけですね」
紙飛行機はついに、宙返りをしてみせた。
「そんなことないと思うっすけど。名前だって、呼び方変わってるじゃないっすか」
そう。この一ヶ月で、校長はアレク様のことを『アレク君』と呼ぶようになり、アレク様は俺のことを『ロアン』と名前で呼ぶようになった。
俺はと言うと、『お前にはアレクとは呼ばせない。どうしてもと言うならアレク様、と呼べ』と言われたので、『いえ、今まで通り、アレクシオ様、と呼ばせていただきます』と丁重にお断りした。
そしたら、今度は『命令だ。僕のことはアレク様と呼べ』と言うので、結局『アレク様』になった。
「まぁ、命令されちゃったので」
紙飛行機は、今度は捻りどころか、横回転しながら宙返りした。
「それじゃ、仕方ないっすね。……それにしても、相変わらずありえない飛び方で面白いっすね」
ミゲリオさんは、逆さまになって蛇行しながら高度を変えて円を描く紙飛行機を見ながら言った。
この世界に飛行機は一応ある。が、本当の本当に緊急時しか使わないらしく、知ってるのは、王族と貴族の一部くらい。今世で飛行機に乗る機会は無さそうだし、乗らなきゃいけない緊急事態なんて来ないことを祈る。
「アレク君!ロアン!そろそろ始めるぞ」
校長が呼んでいる。
「じゃ、行ってきますね」
俺がミゲリオさんに言うと、
「頑張ってー」
と、手をひらひら振ってくれた。
「あ、そうだ。坊ちゃんにも、応援してるって伝えてくれるっすか?」
「分かりました」
ミゲリオさんのお願いに、そう答えて、スタート地点に戻る。
「……アレク様、ミゲリオさんが『応援してる』って言ってましたよ」
スタート地点で隣に並んだアレク様に言う。
「……」
アレク様は何も言わないが、なんか、嬉しそうな、気合を入れ直してるような雰囲気がしたような気がする。
……ただの勘だけども。
紙飛行機を地面に置いて、俺はその場に立つ。飛行機を飛ばす前の、魔力を送るところから競争だ。
「さ、準備はよいな?……では、よーいスタート!」
ちなみに、この一ヶ月で、授業中に居眠りをして水を被ったのは二回、強風に煽られて机の上のノートと髪の毛がボサボサになったのが一回。机に突っ伏して寝てたのがいけなかったかなぁ。
……それはそれとして。
「さて、今日は外に出てみるとしよう」
という校長の提案で、今日は裏庭のような場所に来ている。
木や茂みが多くあり、宝探しにはもってこいだが、紙飛行機を飛ばすのには向いていない。
「さ、飛行機は持ってきたかの?」
普通に飛ばすなら、な。
「はい!」
「当然だ」
魔力操作は、感知した魔力を動かすだけなので、コツさえ掴めば出来るようになるのは早かった。あとは、練習に練習を重ねて、思いのままに操作出来るようになるだけだ。
感知の方も、大分出来るようになってきて、広範囲に意識を向け、対象の魔力を『引っ掛ける』ことが出来るようになりつつある。
「スタートはここ、ゴールは……あの辺かのぅ」
校長は、そう言いながら、右手の人差し指を地面に向け、ビーっと、魔法で二本の線を引いた。間は……十メートルくらい、か?
この十メートル程の間には、木が三本、五十センチ程の植物があちこちにランダムに生えている。
「二人はここに立ってくれ。よいか?浮かせるのはこの草の高さまで」
そう言って、校長は五十センチ程の草を指さした。
「ゴールは向こうの……ミゲリオ殿、線が引いてあるところまで行ってくれるかの?後でどちらの飛行機の方が早かったか、教えてくれ」
「了解っす」
ミゲリオさんは、小走りで走って行き、止まったところで振り返って手を振ってくれた。
最初は見てるだけだったミゲリオさんだが、だんだんと、午後の授業で校長の助手みたいになってきている。
「ゴールはあそこじゃ」
校長が、ミゲリオさんに手を振りながら言った。
「途中の木や草に触れたら一点減点。正面から突っ込んだらニ点減点の、減点方式じゃ。早くゴールした方には、ニ点の加点としよう」
『よいか?』と聞く校長に返事をすると、アレク様が言った。
「ふん。余裕だな。貴族であるこの僕が、平民のロアンなんぞに負けるなんて、許されない」
こっちだって負けるつもりはない。
「アレク君も、ロアンも、少し練習してくるといい。レースはその後にしよう」
校長がそう言うので、一旦解散。あまり遠くに行かないように、でもなるべくアレク様とは離れるように。
別に嫌いじゃないけど。午後の授業では、上から目線の偉そうなアドバイスをもらったり、会話することもあるけど。
でも、仲が良いわけでもないし、下手に近付いて、機嫌を損ねるようなことはしたくない。触らぬ神に祟りなし、だ。
結果として、俺はミゲリオさんの近くに行くことになった。
「あれ、レースは?やんないんすか?」
「先にちょっと練習だって言ってました」
「あぁ、そっか。今日はまだ何にもしてないっすね」
俺はミゲリオさんと少し話しながら、紙飛行機に自分の魔力を送り、浮かせる。
「どうっすか?授業。坊ちゃんと仲良くなれました?」
全部見てるんだから、分かってるでしょ。
「仲良いように見えます?」
紙飛行機を浮かせたら、魔力を操作して前に進める。
「ははっ。まぁ、仲良くは見えないっすね」
あれで仲良くしてるように見えるなら、目が腐ってるって教えてあげなきゃいけないとこだった。
飛ばした紙飛行機は、低空飛行をしながら、障害物を避けていく。
「でも、仲悪くもないっすよね」
「悪いも何も、悪くなる程話してないです」
「いやいや。授業でちょっと会話しただけで、仲悪くなる時は悪くなるっすよ」
「じゃあ、まだ悪くなってないってだけですね」
紙飛行機はついに、宙返りをしてみせた。
「そんなことないと思うっすけど。名前だって、呼び方変わってるじゃないっすか」
そう。この一ヶ月で、校長はアレク様のことを『アレク君』と呼ぶようになり、アレク様は俺のことを『ロアン』と名前で呼ぶようになった。
俺はと言うと、『お前にはアレクとは呼ばせない。どうしてもと言うならアレク様、と呼べ』と言われたので、『いえ、今まで通り、アレクシオ様、と呼ばせていただきます』と丁重にお断りした。
そしたら、今度は『命令だ。僕のことはアレク様と呼べ』と言うので、結局『アレク様』になった。
「まぁ、命令されちゃったので」
紙飛行機は、今度は捻りどころか、横回転しながら宙返りした。
「それじゃ、仕方ないっすね。……それにしても、相変わらずありえない飛び方で面白いっすね」
ミゲリオさんは、逆さまになって蛇行しながら高度を変えて円を描く紙飛行機を見ながら言った。
この世界に飛行機は一応ある。が、本当の本当に緊急時しか使わないらしく、知ってるのは、王族と貴族の一部くらい。今世で飛行機に乗る機会は無さそうだし、乗らなきゃいけない緊急事態なんて来ないことを祈る。
「アレク君!ロアン!そろそろ始めるぞ」
校長が呼んでいる。
「じゃ、行ってきますね」
俺がミゲリオさんに言うと、
「頑張ってー」
と、手をひらひら振ってくれた。
「あ、そうだ。坊ちゃんにも、応援してるって伝えてくれるっすか?」
「分かりました」
ミゲリオさんのお願いに、そう答えて、スタート地点に戻る。
「……アレク様、ミゲリオさんが『応援してる』って言ってましたよ」
スタート地点で隣に並んだアレク様に言う。
「……」
アレク様は何も言わないが、なんか、嬉しそうな、気合を入れ直してるような雰囲気がしたような気がする。
……ただの勘だけども。
紙飛行機を地面に置いて、俺はその場に立つ。飛行機を飛ばす前の、魔力を送るところから競争だ。
「さ、準備はよいな?……では、よーいスタート!」
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