17 / 21
第九章
咆哮(1)
しおりを挟む
大隅に戻ってきたカザトに、貴志麻呂は猛然と怒りをあらわにした。
何故戻ってきた、今すぐヤマトに帰れ、と激しく言い立てたがカザトは頑として首を縦に振らない。
カザトが不退転の意思で戦場に戻ってきたことを悟った貴志麻呂は、とうとう根負けして前線に出ないことを条件に隊への復帰を承諾したのだった。
本当はお互いに、それぞれの胸の内が痛いほどよく分かっている。
それだけに余計辛さが勝る。しかし、一刻も早くこの戦を終わらせなければ、さらに多くの血が流されることになるのだ。
今はただ、戦乱の憂いを無くし、貴志麻呂とともに無事ヤマトへと帰ることだけがカザトの望みだった。
総指揮権が旅人から二人の副将軍へと委譲されたヤマトの軍勢は、二箇所の山城に立て籠もる大隅隼人の早期制圧を目論んでいた。
季節はようやく冷涼さを感じるようになっていた。灼熱地獄のような炎天下での戦闘が無謀であることは、骨身に沁みて分かっていたため、勝負をかけるならば秋から冬にかけての、暑さの心配がない時期に限るのではないか。この南国ではたとえ真冬でも雪の心配はまずあるまい。
だが、そんなヤマトの見通しすら、甘過ぎたことを間もなく思い知らされることになる。
同年九月、まるで大隅での乱に呼応するかのように、遠く北辺の陸奥国で按察使(あぜち)・上毛野(かみつけぬ)広人(ひろと)が殺害され、蝦夷たちが武装蜂起に踏み切った。それによってヤマトは北へも兵の動員を余儀なくされたのだった。
その余波は少なからず大隅での兵営にも影響していた。秋・冬期における総攻撃を計画したものの、武器・防具、食糧などの補給物資の流れが、目に見えて滞っているのだ。
いくら南国とはいえ、冬場は相応の冷え込みがあり、充分な装備がなければ戦どころではない。頼みにしていた物量が心もとなくなり、将兵たちは浮足立った。戦況は、まさに泥濘の深みにはまり込んでいた。
養老五年(七二一)五月―。開戦からは実に一年以上が経過していた。
ようやくのことで軍備を整えたヤマト勢は、炎熱の季節に焼かれる前に雌雄を決すべく動き出した。最後の総力戦を展開する構えで、大隅隼人らが立て籠もる終の砦、「曽於乃石城」と「比売之城」を包囲すべく進軍を開始した。
カザトは貴志麻呂と同じ隊の一員として、曽於乃石城へと迫っていた。大隅の隼人らは方々の狭隘地や渓谷などに潜伏し、ヤマトの軍勢がさしかかるのを待ち伏せて襲撃する戦法を得意としていた。
狭い道で隊が細長く伸びきったところを見計らって、左右から矢を射かけ、矢が尽きれば騎馬で、あるいは徒歩(かち)で鉾や剣を振りかざし、突撃を敢行してくるのだ。
隼人とは「早人」のことだ、と言われることがあるが、確かに大隅隼人らの戦闘での俊敏さと勇猛さはその名に相応しい。ましてや死を決し、傷付くことを厭わずに躍りかかるその様は、ヤマトの将兵たちにとって恐怖以外の何物でもなかった。
行軍は慎重を極め、夜襲に備えての警備も厳重なものになっていた。
曽於乃石城を目前にしての野営の夜、カザトは一人焚火を前に物想いに耽っていた。これから攻めようとしている山城にヒギトがいる。自分はもう一度ヒギトと戦うことになるのだろうか。もしそうなったとしても、それで戦況がどう変わるものでもないことは分かりきっていたが、何故かそうすることこそが自分に与えられた使命のように感じていた。
それに……火乃売とのこともきちんと打ち明けねばなるまい。しかしその機をはかりかね、どう切り出したものか悩むうちに時ばかりが過ぎていく。やはり何もかも落ち着いてからでなければ難しいだろう。
人の気配を感じて振り仰ぐと、いつの間にか貴志麻呂が傍に佇んでいた。
カザトの横にゆっくりと腰をおろすと、ほんの少し笑ってみせる。大隅着陣以来、以前の快活さを失ったように塞ぎがちだった貴志麻呂は、このところ目に見えて憔悴の度合いを強めていた。落ちくぼんだ眼に、こけた頬は痛々しいばかりだ。
思えばこうして並んで腰かけるのもいつ以来だろうか―。
貴志麻呂は手元の枝を小さく折っては焚火にくべながら、ゆらめく炎に眼を細めている。
「秦の先祖の話をしたことがあったかな?」
カザトが首を横に振ると、じゃあ聞いてくれるか、と言って語り始めた。
「遠い昔、秦の先祖はいま唐の国がある大陸で暮らしていた。その時はまだ唐の国はなかったんだけど、来る日も来る日も戦ばかりの続く、暗くて悲しい時代だったそうだ」
ぽきん、と枝を折って火に放り、貴志麻呂はさらに話を続ける。
「噂によると東の海に、争いのない楽土のような島があるらしい。緑は濃く豊かで、人の心も穏やかで、怒る、ということを知らないとも言われていた。秦の先祖はそんな島があるのならどうしても行ってみたいと願った。そして船をこしらえて、一族みんなでその島をめざして漕ぎ出した」
その言い伝えはカザトも耳にしたことがあった。渡来人の名門たる秦の一族が、故国の戦火を逃れてヤマトへと旅立つ話だ。たしか「秦」という族名もその国の名からとられたものではなかったか。
だが、貴志麻呂自身の口から聞くのは初めてだ。カザトは黙って頷き、話の続きを眼で促す。
「はじめのうちは、その島国はまさしく楽土に思えた。でもほどなく、そこに暮らす人々が怒りを知らない、というのは本当ではないことが分かってきた。故国と同じように、憎しみ合い、傷つけ合う人々の所業を、秦の一族は哀しい思いで見続けてきた」
貴志麻呂は大きく息をつくと、掌を焚火に向けてかざした。火明りに透かされた血潮が、炎の色と相まって真っ赤にその手を縁取っている。
「祖父(じい)さまいわく、俺の家が拳足の技を伝えてきたのは、本当は戦うためではないんだ」
謎かけのような言葉にカザトは首を傾げる。きょとん、としたその様子がおかしかったのか、貴志麻呂は白い歯を見せた。
「己の拳だけで戦う、というのは生身の人と人とが直接ぶつかり合うことの痛みを忘れない、ということらしいんだ。そりゃ戦のためなら殴る技なんかよりも、武器を扱う術や兵を動かす法を学んだほうが早い。けど、武器を持てば相手より強い武器を欲して、さらにそれを上回る武器を求めて、果てがない。そんなことに、果たして意味なんかあるのか……」
貴志麻呂の言うことは、いみじくもカザトが感じ続けていたことと全く同じだった。拳足の技のみならず、それはスマイにしても言えることではないだろうか。
痛みを知ること―。
それは命の重みを知ることにほかならない。
そしてその感覚は己の身体で感じとるしかないものなのだ。それは、自身が決して傷付くことのない安全な場所から兵たちに戦うことを命じるだけの、血を流さぬ者たちには決して分からないことだろう。
「ヤマトのやり方は間違っている」
貴志麻呂はきっぱりとそう言い放った。
「北の国では蝦夷たちも蜂起したというじゃないか。南へ北へ、兵を差し向けることなどいつまでもできるわけがない。たとえそうやって力づくで隼人や蝦夷を従わせたとしても、彼らは何度でも立ち上がるだろう。恨みは、千年も二千年も受け継がれる」
カザトは言葉もなく、貴志麻呂の言うことに耳を傾けるだけだった。
確かに今のままではヤマトと隼人、あるいは蝦夷は永遠に手を取り合うことなど不可能だろう。だがカザトと貴志麻呂のように徒手空拳でぶつかり合い、理解し合えるという絆も確かに存在するのだ。
「あの頃は楽しかったなあ」
ふっと遠くを見やるような眼をして貴志麻呂がつぶやく。
カザトも一瞬、同じことを考えていた。そうだ、本当に楽しい日々だった。だがそんな日常の裏では、今日の戦へと至る熾火がくすぶり続けていたのだ。
早くあの頃のように屈託なく笑い合えるような日々が訪れてほしい。願うことはただそれだけだ。
貴志麻呂がゆっくりと立ち上がり、空を仰いだ。つられてカザトも顔を上げる。ヤマトで目にしていたものと寸分たがわぬ星の並びが認められ、不思議な気持ちがこみ上げてくる。あの星々からすれば、この地上の出来事などとるに足らない歴史の一幕に過ぎないのだろうか。多くの血が流された哀しい戦の記憶すらやがて誰からも忘れられ、永遠に失われてしまうのだろうか―。
「なあ、カザト」
宙から目を転じた貴志麻呂は、カザトを見つめたままその後の言葉を躊躇うように口ごもった。
「……やっぱり、この戦が終わったら言うことにするよ」
じゃあ、お休み、と言い置いて背を向け、自分の兵舎へと戻ってゆく。暗闇の中、何故かその背中がいつまでもくっきりと白く、カザトは暫くの間目を離すことができずにいた。
何故戻ってきた、今すぐヤマトに帰れ、と激しく言い立てたがカザトは頑として首を縦に振らない。
カザトが不退転の意思で戦場に戻ってきたことを悟った貴志麻呂は、とうとう根負けして前線に出ないことを条件に隊への復帰を承諾したのだった。
本当はお互いに、それぞれの胸の内が痛いほどよく分かっている。
それだけに余計辛さが勝る。しかし、一刻も早くこの戦を終わらせなければ、さらに多くの血が流されることになるのだ。
今はただ、戦乱の憂いを無くし、貴志麻呂とともに無事ヤマトへと帰ることだけがカザトの望みだった。
総指揮権が旅人から二人の副将軍へと委譲されたヤマトの軍勢は、二箇所の山城に立て籠もる大隅隼人の早期制圧を目論んでいた。
季節はようやく冷涼さを感じるようになっていた。灼熱地獄のような炎天下での戦闘が無謀であることは、骨身に沁みて分かっていたため、勝負をかけるならば秋から冬にかけての、暑さの心配がない時期に限るのではないか。この南国ではたとえ真冬でも雪の心配はまずあるまい。
だが、そんなヤマトの見通しすら、甘過ぎたことを間もなく思い知らされることになる。
同年九月、まるで大隅での乱に呼応するかのように、遠く北辺の陸奥国で按察使(あぜち)・上毛野(かみつけぬ)広人(ひろと)が殺害され、蝦夷たちが武装蜂起に踏み切った。それによってヤマトは北へも兵の動員を余儀なくされたのだった。
その余波は少なからず大隅での兵営にも影響していた。秋・冬期における総攻撃を計画したものの、武器・防具、食糧などの補給物資の流れが、目に見えて滞っているのだ。
いくら南国とはいえ、冬場は相応の冷え込みがあり、充分な装備がなければ戦どころではない。頼みにしていた物量が心もとなくなり、将兵たちは浮足立った。戦況は、まさに泥濘の深みにはまり込んでいた。
養老五年(七二一)五月―。開戦からは実に一年以上が経過していた。
ようやくのことで軍備を整えたヤマト勢は、炎熱の季節に焼かれる前に雌雄を決すべく動き出した。最後の総力戦を展開する構えで、大隅隼人らが立て籠もる終の砦、「曽於乃石城」と「比売之城」を包囲すべく進軍を開始した。
カザトは貴志麻呂と同じ隊の一員として、曽於乃石城へと迫っていた。大隅の隼人らは方々の狭隘地や渓谷などに潜伏し、ヤマトの軍勢がさしかかるのを待ち伏せて襲撃する戦法を得意としていた。
狭い道で隊が細長く伸びきったところを見計らって、左右から矢を射かけ、矢が尽きれば騎馬で、あるいは徒歩(かち)で鉾や剣を振りかざし、突撃を敢行してくるのだ。
隼人とは「早人」のことだ、と言われることがあるが、確かに大隅隼人らの戦闘での俊敏さと勇猛さはその名に相応しい。ましてや死を決し、傷付くことを厭わずに躍りかかるその様は、ヤマトの将兵たちにとって恐怖以外の何物でもなかった。
行軍は慎重を極め、夜襲に備えての警備も厳重なものになっていた。
曽於乃石城を目前にしての野営の夜、カザトは一人焚火を前に物想いに耽っていた。これから攻めようとしている山城にヒギトがいる。自分はもう一度ヒギトと戦うことになるのだろうか。もしそうなったとしても、それで戦況がどう変わるものでもないことは分かりきっていたが、何故かそうすることこそが自分に与えられた使命のように感じていた。
それに……火乃売とのこともきちんと打ち明けねばなるまい。しかしその機をはかりかね、どう切り出したものか悩むうちに時ばかりが過ぎていく。やはり何もかも落ち着いてからでなければ難しいだろう。
人の気配を感じて振り仰ぐと、いつの間にか貴志麻呂が傍に佇んでいた。
カザトの横にゆっくりと腰をおろすと、ほんの少し笑ってみせる。大隅着陣以来、以前の快活さを失ったように塞ぎがちだった貴志麻呂は、このところ目に見えて憔悴の度合いを強めていた。落ちくぼんだ眼に、こけた頬は痛々しいばかりだ。
思えばこうして並んで腰かけるのもいつ以来だろうか―。
貴志麻呂は手元の枝を小さく折っては焚火にくべながら、ゆらめく炎に眼を細めている。
「秦の先祖の話をしたことがあったかな?」
カザトが首を横に振ると、じゃあ聞いてくれるか、と言って語り始めた。
「遠い昔、秦の先祖はいま唐の国がある大陸で暮らしていた。その時はまだ唐の国はなかったんだけど、来る日も来る日も戦ばかりの続く、暗くて悲しい時代だったそうだ」
ぽきん、と枝を折って火に放り、貴志麻呂はさらに話を続ける。
「噂によると東の海に、争いのない楽土のような島があるらしい。緑は濃く豊かで、人の心も穏やかで、怒る、ということを知らないとも言われていた。秦の先祖はそんな島があるのならどうしても行ってみたいと願った。そして船をこしらえて、一族みんなでその島をめざして漕ぎ出した」
その言い伝えはカザトも耳にしたことがあった。渡来人の名門たる秦の一族が、故国の戦火を逃れてヤマトへと旅立つ話だ。たしか「秦」という族名もその国の名からとられたものではなかったか。
だが、貴志麻呂自身の口から聞くのは初めてだ。カザトは黙って頷き、話の続きを眼で促す。
「はじめのうちは、その島国はまさしく楽土に思えた。でもほどなく、そこに暮らす人々が怒りを知らない、というのは本当ではないことが分かってきた。故国と同じように、憎しみ合い、傷つけ合う人々の所業を、秦の一族は哀しい思いで見続けてきた」
貴志麻呂は大きく息をつくと、掌を焚火に向けてかざした。火明りに透かされた血潮が、炎の色と相まって真っ赤にその手を縁取っている。
「祖父(じい)さまいわく、俺の家が拳足の技を伝えてきたのは、本当は戦うためではないんだ」
謎かけのような言葉にカザトは首を傾げる。きょとん、としたその様子がおかしかったのか、貴志麻呂は白い歯を見せた。
「己の拳だけで戦う、というのは生身の人と人とが直接ぶつかり合うことの痛みを忘れない、ということらしいんだ。そりゃ戦のためなら殴る技なんかよりも、武器を扱う術や兵を動かす法を学んだほうが早い。けど、武器を持てば相手より強い武器を欲して、さらにそれを上回る武器を求めて、果てがない。そんなことに、果たして意味なんかあるのか……」
貴志麻呂の言うことは、いみじくもカザトが感じ続けていたことと全く同じだった。拳足の技のみならず、それはスマイにしても言えることではないだろうか。
痛みを知ること―。
それは命の重みを知ることにほかならない。
そしてその感覚は己の身体で感じとるしかないものなのだ。それは、自身が決して傷付くことのない安全な場所から兵たちに戦うことを命じるだけの、血を流さぬ者たちには決して分からないことだろう。
「ヤマトのやり方は間違っている」
貴志麻呂はきっぱりとそう言い放った。
「北の国では蝦夷たちも蜂起したというじゃないか。南へ北へ、兵を差し向けることなどいつまでもできるわけがない。たとえそうやって力づくで隼人や蝦夷を従わせたとしても、彼らは何度でも立ち上がるだろう。恨みは、千年も二千年も受け継がれる」
カザトは言葉もなく、貴志麻呂の言うことに耳を傾けるだけだった。
確かに今のままではヤマトと隼人、あるいは蝦夷は永遠に手を取り合うことなど不可能だろう。だがカザトと貴志麻呂のように徒手空拳でぶつかり合い、理解し合えるという絆も確かに存在するのだ。
「あの頃は楽しかったなあ」
ふっと遠くを見やるような眼をして貴志麻呂がつぶやく。
カザトも一瞬、同じことを考えていた。そうだ、本当に楽しい日々だった。だがそんな日常の裏では、今日の戦へと至る熾火がくすぶり続けていたのだ。
早くあの頃のように屈託なく笑い合えるような日々が訪れてほしい。願うことはただそれだけだ。
貴志麻呂がゆっくりと立ち上がり、空を仰いだ。つられてカザトも顔を上げる。ヤマトで目にしていたものと寸分たがわぬ星の並びが認められ、不思議な気持ちがこみ上げてくる。あの星々からすれば、この地上の出来事などとるに足らない歴史の一幕に過ぎないのだろうか。多くの血が流された哀しい戦の記憶すらやがて誰からも忘れられ、永遠に失われてしまうのだろうか―。
「なあ、カザト」
宙から目を転じた貴志麻呂は、カザトを見つめたままその後の言葉を躊躇うように口ごもった。
「……やっぱり、この戦が終わったら言うことにするよ」
じゃあ、お休み、と言い置いて背を向け、自分の兵舎へと戻ってゆく。暗闇の中、何故かその背中がいつまでもくっきりと白く、カザトは暫くの間目を離すことができずにいた。
0
あなたにおすすめの小説
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
霧にさおさしあやかしつく夜(完結)
堅他不願@お江戸あやかし賞受賞
歴史・時代
主人公・龍左衛門は、品川の茶家見川(さけみがわ)に面した船宿・『鯉志(こいし)』で船頭を勤める粋な若者だ。
彼の両親は、十年前(1774年)に茶家見川の洪水に巻きこまれ、そろって行方不明になっていた。
かつて『茶家見川、二十五町(約二千七百二十五メートル)に店百軒』とうたわれたこの川は、武州金沢藩(神奈川県横浜市)の申し立て……洪水ばかり起こしている……で一度埋めたてられた。それが、明和の大火(西暦1772年)を境に防火帯としての価値が再認識され、ちょうど十年前に復活したという経緯を持っている。
龍左衛門の両親が犠牲となったのは、皮肉にも、川を掘りかえす工事の終盤に起きた事故であった。
そんな時に、龍左衛門は一人の河童と知りあった。両親の遺体が中々見つからなかった彼に、河童は船頭としての手ほどきを行い、新たな人生のきっかけをもたらした。
両親の行方不明から、十年後(1784年)。
初秋の黄昏時に、その日の仕事を終えた龍左衛門は、河童から相撲に誘われた。
相撲の誘いを断った龍左衛門だが、土俵代わりに使っている廃神社に、若く美しい女性が住みついていると聞かされた。
河童と別れて『鯉志』に戻った彼は、いつものように女将のおふみに労われ、店の看板をしまおうとした。
その時、一人の客が舟を出してほしいと頼んで来た。武家の女性とすぐ分かる彼女は、河童が語っていた神社のそれで、かつて茶家見川の川舟改役を勤めていた櫛田家の娘であった。
渋るおふみに対し、櫛田は、自分の生死を賭けた仇討ちが目的だと語った。というのも、彼女には恋人がいたのに、櫛田を置いて婿養子に出されてしまった。納得出来ない二人は駆け落ちを計画していたが、婿養子先にばれてしまい、手討ちにされてしまったのである。
恋人の仇……桐塚 重斎(きりづか じゅうさい)は、武州金沢藩の末席家老。幕閣に働きかけ、茶家見川を埋めたて、そして掘り返させた張本人であった。
※完結保証。約十一万五千字です。
※最終話は十月二十八日(火)の夜十時十分に公表されます。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
花嫁御寮 ―江戸の妻たちの陰影― :【第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞】
naomikoryo
歴史・時代
名家に嫁いだ若き妻が、夫の失踪をきっかけに、江戸の奥向きに潜む権力、謀略、女たちの思惑に巻き込まれてゆく――。
舞台は江戸中期。表には見えぬ女の戦(いくさ)が、美しく、そして静かに燃え広がる。
結城澪は、武家の「御寮人様」として嫁いだ先で、愛と誇りのはざまで揺れることになる。
失踪した夫・宗真が追っていたのは、幕府中枢を揺るがす不正金の記録。
やがて、志を同じくする同心・坂東伊織、かつて宗真の婚約者だった篠原志乃らとの交錯の中で、澪は“妻”から“女”へと目覚めてゆく。
男たちの義、女たちの誇り、名家のしがらみの中で、澪が最後に選んだのは――“名を捨てて生きること”。
これは、名もなき光の中で、真実を守り抜いたひと組の夫婦の物語。
静謐な筆致で描く、江戸奥向きの愛と覚悟の長編時代小説。
全20話、読み終えた先に見えるのは、声高でない確かな「生」の姿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる