SAND PLANET《外伝》~忘れられた惑星(ほし)~

るなかふぇ

文字の大きさ
24 / 37
第三章 見知らぬ惑星(ほし)で

10 帰還

しおりを挟む
「じゃ……みんな。どうもありがとう」
「ううん。帰り、どうか気をつけてね」

 優しく微笑んでくれるフランに引き寄せられるようにして、少年はその傍に歩み寄った。フランが両手を開いてくれるのに吸い込まれるように抱きつくと、フランもまた、ぎゅっと抱きしめてくれる。
 この短時間のあいだに、少年はすっかりこの人の腕の中が大好きになっていた。

「来てくれて、本当に本当に嬉しかったよ。アジュールに、よろしくね……」
「うん。ありがと、フランパパ……」

 名残を惜しみながら体を離し、今度はヴォルフに向かい合う。男は抱いていた赤ん坊をフランに預けてこちらに向き直り、大きな手でがっしりと少年を抱きしめてくれる。
 彼にそうされると、軽くて細い少年の体は持ち上がり、つま先がちょっと浮き上がってしまった。
 はじめのうちこそ「なんだか怖いな」と思っていたこの人が、実は心根の温かい気さくな男であることがわかって、少年はひどく嬉しかった。

「いつでも戻って来いよ。バカ兄貴になんかされたら俺に言え? グーパンの一発ぐらいはかましてやっからよ」
「ふふ。……ありがと、ヴォルフパパ」
「おお。まかせろ」

 言ってまたぽすぽすと頭を軽く叩かれる。
 次は隣で「はやく、はやく!」と待ちかねていたセディだった。少年は彼を抱きしめた。セディが満面のにこにこ顔になる。

「僕のこと、見つけてくれてありがとね、セディ。どうか元気で」
「うん! また絶対ぜったい来てね、フラン兄ちゃん!」

 最後は赤ん坊のテディ。少年は恐るおそるその子を抱かせてもらい、ぷりぷりした頬に頬ずりしてから、額に軽くキスをした。
「またね、テディ。いい子でね」
 当の赤ん坊はというと、すでにすっかり眠そうで、半分船をこいでいる状態だった。
 最後にもう一度、少年はフランに抱きしめられた。

「フランパパ、ありがとう。会えてとっても嬉しかったよ」
 そう言ったら、フランはくしゃっと顔を歪めた。
「僕の方こそ。会いに来てくれて本当に嬉しかった。どうか元気でね、フラン。絶対にまた来るんだよ。僕もヴォルフも、みんな待ってるから」
「うん……」
 フランにつられて、少年の目もまたじわりと危なくなる。
「実は、こんなことを君に言うのはどうかと思って迷ってたんだけど……」
 その言葉どおり、彼はほんのちょっと言い澱んだ。
「どうか、アジュールのこと……よろしくね」
「うん。フランパパ」

 少年はにっこり笑って言った。
 自分でもなんだか不思議だった。彼らに会うまでは胸の中に抱えていた真っ黒なものが、今はきれいに消え去っている。それがひどく嬉しかった。

 大丈夫。
 僕はもう、大丈夫だ。

(あとは……パパだよね)

 そう思って、鳩尾のあたりに気合いを入れる。
 宇宙艇のハッチが閉じる最後の瞬間までみんなに手を振りまくってから、少年はようやくコクピットのシートに座った。

《発進準備完了。当機は発進シークエンスに移行します》

 AIが無機的な声で宣言し、宇宙艇が発進する。
 モニターに映された、地上で手を振る家族たちの姿がどんどん小さくなっていく。少年はそれに力いっぱい手を振りながら笑っていた。

(さよなら、フランパパ。ヴォルフパパ。セディ、テディ──)

 両目から次々溢れるのは、来たときのそれとはまったく意味の違う雫たちだった。
 そうして思うのは、残してきたあの人のこと。
 実はあの人をたった一人で置き去りにしてきてしまったことが、ここへきて急に少年にとって心配になり始めていた。
 今にして思えば、そこまでしなくても良かったのに。一時の感情で突っ走って、行き先も告げずに逃げてきてしまったなんて。彼は今、どんなに心配していることだろう。
 あの、ほかには誰も住む者のない惑星ほしで。
 彼は今、どんなに孤独にさいなまれていることか。

(待っててね、パパ。僕、すぐに戻るからね……!)

 少年の気持ちに呼応するかのようにして、宇宙艇はあっという間に大気圏を突破した。そうしてあの惑星を飛び出た時と同様、即座に異空間航行に入った。





 その惑星に戻るには、再び数百時間を要した。
 が、惑星に接近するための最後の異空間航行アナザースペース・ジャンプが終了した時、突如として異変が起こった。
 唐突に船内が、ヴィイイイン、ヴィイイインと異様な機械音に包まれたのだ。
 緊急事態警報エマージェンシイ・コールだった。
 少年はコクピット・シートから飛び上がった。

「なっ、なに? なにがあったの……!?」
《お急ぎください。地下ドームからの連絡です。異変を検知。《胎》が破壊されているとのことです》
「なんだって?」
《早急な原状の回復を。どうかお急ぎください──》
「ど、どうしてっ……!」

 窓外にはすでに、あの惑星の黄味がかった姿が大きく迫りつつある。どうやら今はステルス機能が働いていないらしい。だがそれを除けば、星は出てきた時となんら変わりなく見えた。

(《胎》が破壊されたって……? じゃ、パパは……?)

 そんな、まさか。
 男の体は、まだ十分に治癒されていなかったはず。時期的なことを考えても、完全に治癒できているタイミングとは思えない。今あの《胎》から離れたら、どうなるか分からないのに。
 どくんどくんと鼓動が激しくなっていく。

「急いで! 早く着陸してっ。お願い、早く……!」 

 少年の絶叫を乗せたまま、宇宙艇は速やかに着陸体勢に入り、大気との摩擦に船体を燃え上がらせながら、地表へ向かって降下していった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...