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第三章 宇宙の涯(はて)で
10 非業の兄弟
しおりを挟む成長した少年たち──いや、当時はとっくに「青年」と呼んで差しつかえないほどになっていた──は、やがてフランを違う意味で奪いあうようになっていった。
「お前たちはこの惑星の『アダムとイブ』だ」と教育されて育ってきたはずなのに、奴らときたら本来の番であるはずの少女たちのことは適当にあしらって、むしろ必死にフランに対してアプローチを繰り返した。
『俺、フランパパがいい。フランパパが好きなんだ。どうか俺の番になってよ』
『べつに、アジュールパパだけを相手にしなくてもいいんでしょ?』
『俺とだって子供、作れるんだよな?』
『だったら僕らだって、フランパパの相手になってもいいんだよね?』──。
そればかりではない。当の少女たち自身さえ、できればフランと最初の体験をしたいと望んでいる節まであった。もちろん、こちらに関してはアジュールもその対象だったけれども。
フランとアジュールは、言ってしまえば「つくりもの」だ。人間の手によって、最初から当時の人間たちにとっての「美」を体現する形で造られている。内面的な出来はともかく、見た目の美しさという点でほぼ完璧なのは間違いなかった。
対するオリジナルの人間の男たちは、当然、そういう訳にはいかなかった。体格、肌や目の色、髪の色。多様性を重視することを優先した結果、かれらの容姿の特徴はかなりばらけた。ひどく不細工な者もいない一方で、どちらかといえば「十人並み」な者が多かったのだ。
実のところ、それは女の子たちも同様だった。フランは下手をすれば、彼女たちのうち最も容姿の優れた子よりも、美貌の点でもはるかに勝っていたのだ。
また、《サム》と教育プログラムによって同じレベルの教育と躾を受けたとはいっても、生まれて数年しか経っていない彼らには基本的なマナーも身についていなかった。知識や技術はともかく、とりわけ精神面が幼かった。
一般的に、人間では女児のほうが男児よりもはるかに精神的に大人びている。男児はなぜか「自分だけは絶対に大丈夫」という根拠のない誇大な自信を持っている者が多く、なにかといえばわざと危険なことに身を投じ、生傷や大怪我を負う。ひどいときにはうっかりと命を落とすことさえあった。だが、女児でそういう迂闊な個体ははるかに少ない。
畢竟、女児たちは自分の番として同じ世代の男児をまともに見ることができなかった。そうしてそれに反比例するように、育ての親でまがいものに過ぎないフランとアジュールを自分の相手に選びたがった。
だが、もちろん二人が彼ら彼女らの望みを叶えるわけにはいかなかった。
そうしてあれこれとかれらを説得した。何万の言葉を尽くし、昼に夜にと説得もした。特に人気の高かったフランは、相当苦労していたようである。
『何度も言うけど、僕らは君たちの世話係なだけだから』
『君たちが自分たちだけで子孫を残して、この惑星に根付いてくれるのをサポートするためだけにいるんだから』
『もちろん君たちを愛してる。心から愛してる。でも、それは「親」としてだよ』
『僕の相手はアジュールだけだ。決して君たちの相手にはなれないし、それは許されないことなんだよ』
フランが何度も優しくそう諭しているのを見かけたが、少年少女たちが納得した様子はなかった。むしろさらに「フランの争奪戦」は激しくなった。彼のほうがアジュールよりもはるかに態度が柔らかく、優しい性格だったのが災いしたのだ。
それにどうやら人間というものは、「ダメだ」と言われれば言われるほど、そして競争相手が多ければ多いほど、恋心を燃え上がらせてしまう生き物であるらしい。逆境や障害があればあるほど、彼らは必死にフランを求めるようになっていった。
ただ、積極的だとは言っても、まだ女性たちはなんとかなった。フランとアジュールが腕力において彼女たちに引けを取ることなどあり得なかったからだ。
問題は青年たちだった。
もちろんアジュールもフランも決して男たちに負けることはない。たとえ束になって掛かって来られても、彼らの手を跳ねのける能力はちゃんとあった。ただそれは、飽くまでも「本気を出せば」の話である。
フランの場合、その性格が災いしたのだ。もしも彼が本気で力任せに人間の青年を振り払ったら。打ちどころと運が悪ければ、あっさりと殺してしまいかねない。フランは普段からそれをひどく恐れていた。普通の人間に比べればほとんど化け物じみた自分の能力を忌み嫌っている風さえあった。
その上もっと悪いことには、青年たちはフランのそんな気持ちを知り尽くしてもいたのである。
その当時、アジュールたちは不毛の大地に住居用の半球状のカプセルを設置して、その周囲に畑を作ることに着手していた。女性たちは基本的に集落のそばを離れない。中にはすでに男女で無事に番になって第二世代の赤ん坊を生んでいる女もいたので、その世話もあったからだ。
だが、青年たちは飛行艇などを使い、そこから離れた場所へ出て行って、地形を調べたり水脈を詳しく探索したり、水を運んだりすることが多かった。
アジュールは子供たちが大きくなるにつれて、特にフランを一人で男たちと行動させるのを避けるように気をつけていた。だが、いつもいつも気を配れるとは限らない。当時、アジュールは遠くの地形を大きく変え、集落の近くまで水脈を通じさせる作業などもあってかなり多忙だったのだ。
そうしてついに、それは起こった。
フランと供にいた男たちが、力づくで寄ってたかってあのフランを犯したのだ。
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