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第五章 駆け引き
13 解放
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「あんまり俺を舐めるなよ? 貴様」
「う……ぐっ」
「お前を生かしているのは、単にあの子がお前に懐きすぎているからだ。とっくの昔に微塵に刻んでいたっておかしくなかった。最初のころは、最低でも足や腕の一本ぐらいは頂いておくつもりだったんだぞ。お前をここに呼んだのは、本当に俺の単なる気まぐれに過ぎないんだしな」
(……知ってるさ)
ユーリは奥歯を軋らせた。
そうだ。知っている。この男が自分なんかに興味を持ったのは、この声が大人になったもとのフランとよく似ていたから。ただそれだけだったはずなのだ。
と、その時だった。
《なんてこと言うのっ! アジュールパパ……!》
ユーリのつけた腕輪から、悲壮な少年の声がした。
次の瞬間、部屋の自動扉がすぱっと開き、怒り心頭といった顔の少年が立っていた。
「なに……?」
「えっ? フラン、なんで……?」
ユーリは当然だが、アジュールも呆気にとられている。少年はずんずんこちらに歩いてくると、ユーリを押しのけるようにして男の胸元にかじりついた。
「パパったら! なんでそんな意地悪言うの! 助けてあげてよ。パパならできるんでしょ? ユーリパパといっしょに、玻璃どのも無事に地球に帰してあげなきゃ。そうしなきゃ、またパパが恨みを買うことになっちゃうじゃないっ!」
アジュールがなんとなく少年から視線を外して斜め上を見た。「やれやれ」と言わんばかりの顔だ。
「あの、フラン。一体どうして? なんで僕らの話が──」
「あっ。ええと……」
そこで初めて、少年はばつの悪そうな顔になった。
「これだよ。ユーリパパのに似せて、僕も《サム》に作ってもらって」
差し出された少年の手首を見れば、そこにはユーリのものとよく似た腕輪がはまっていた。ユーリのものより明らかに新しく、より小ぶりで細めのものだ。
「できあがって腕にはめようとしたら、間違ってちょっと変なところを触っちゃったみたいで……。そうしたら、パパたちの話が聞こえてきちゃって。本当に、盗み聞きするつもりはなかったんだよ? ごめんなさい……」
少年は恐縮しまくって体を小さくしたが、ユーリが気にしているのはそっちのことではなかった。
「いや、それは仕方ないから。わざとじゃないんだし、いいんだよ。それよりそのう、君、どのあたりから僕らの話を聞いていたのかな、って──」
後半の話はともかく、前半の話はまずい。あれは絶対にこの少年の耳に入れていい話ではなかったのだから。
男もその点が気になるらしく、さっきから心配げな様子でちらちらと少年の顔を窺っている。
が、少年はきょとんとした目のままだった。
「ああ、えっと。ユーリパパが玻璃どののことをパパにきいてたところ……かな?」
その目にはなんの曇りもない。
「あ……そうなの」
ユーリは胸をなでおろした。だったら大丈夫だ。そこまであからさまではないものの、男の方にもほっとした様子が見えた。
少年はちょっと変な顔にはなったものの、すぐに気を取り直して男のほうに向きなおった。
「ねえパパ。どうしてそんな、わざと自分から『ワルモノ』みたいになろうとするの? そんなことしなくていいでしょう?」
男はなんとも言えない目をしたまま、黙ってわが子を見下ろした。
「パパには凄い力がある。それはきっと、今の玻璃どのの助けになるはずでしょ? どうしてそれを、ユーリパパに教えてあげないの」
「えっ?」
が、男はユーリに問いただす間を与えなかった。おたおたしているユーリを押しのけるようにして「ああ、もういい! もう分かった」と両手を挙げて叫ぶと、すぐに《サム》を呼んだ。
《お呼びでしょうか、マスター》
「《羊水》を抜け。すぐに《水槽》内部の乾燥だ。急げ」
すらりと命じる。
《了解しました、マスター》
《サム》のほうも即答だ。
「え、あの──」
「そんなに運試しがしたいと言うなら、させてやる。今すぐにな」
「ア、アジュール──」
ユーリが目を白黒させているうちに、《水槽》の周囲で低い振動音が起こり始めた。今までにはなかった動作だ。
ユーリもフランも、《水槽》に目をくぎ付けにされている。
内部では緑色に光る特殊な液体がどんどん《水槽》の床部分へと吸い込まれていくようだ。それと同時に上部に空気の満たされた部分が増えていき、やがて玻璃の頭が液面の上に出た。
見るみるうちに《水槽》の内部が空気に満たされていく。そのまま、各部から空気が吹きつけられて玻璃の体が乾燥され始めた。玻璃の長い銀の髪が、まるで生きているかのように、縦横無尽に宙を舞い踊る。
「は……玻璃どの……!」
ユーリは思わず、《水槽》の表面にはりついた。
「う……ぐっ」
「お前を生かしているのは、単にあの子がお前に懐きすぎているからだ。とっくの昔に微塵に刻んでいたっておかしくなかった。最初のころは、最低でも足や腕の一本ぐらいは頂いておくつもりだったんだぞ。お前をここに呼んだのは、本当に俺の単なる気まぐれに過ぎないんだしな」
(……知ってるさ)
ユーリは奥歯を軋らせた。
そうだ。知っている。この男が自分なんかに興味を持ったのは、この声が大人になったもとのフランとよく似ていたから。ただそれだけだったはずなのだ。
と、その時だった。
《なんてこと言うのっ! アジュールパパ……!》
ユーリのつけた腕輪から、悲壮な少年の声がした。
次の瞬間、部屋の自動扉がすぱっと開き、怒り心頭といった顔の少年が立っていた。
「なに……?」
「えっ? フラン、なんで……?」
ユーリは当然だが、アジュールも呆気にとられている。少年はずんずんこちらに歩いてくると、ユーリを押しのけるようにして男の胸元にかじりついた。
「パパったら! なんでそんな意地悪言うの! 助けてあげてよ。パパならできるんでしょ? ユーリパパといっしょに、玻璃どのも無事に地球に帰してあげなきゃ。そうしなきゃ、またパパが恨みを買うことになっちゃうじゃないっ!」
アジュールがなんとなく少年から視線を外して斜め上を見た。「やれやれ」と言わんばかりの顔だ。
「あの、フラン。一体どうして? なんで僕らの話が──」
「あっ。ええと……」
そこで初めて、少年はばつの悪そうな顔になった。
「これだよ。ユーリパパのに似せて、僕も《サム》に作ってもらって」
差し出された少年の手首を見れば、そこにはユーリのものとよく似た腕輪がはまっていた。ユーリのものより明らかに新しく、より小ぶりで細めのものだ。
「できあがって腕にはめようとしたら、間違ってちょっと変なところを触っちゃったみたいで……。そうしたら、パパたちの話が聞こえてきちゃって。本当に、盗み聞きするつもりはなかったんだよ? ごめんなさい……」
少年は恐縮しまくって体を小さくしたが、ユーリが気にしているのはそっちのことではなかった。
「いや、それは仕方ないから。わざとじゃないんだし、いいんだよ。それよりそのう、君、どのあたりから僕らの話を聞いていたのかな、って──」
後半の話はともかく、前半の話はまずい。あれは絶対にこの少年の耳に入れていい話ではなかったのだから。
男もその点が気になるらしく、さっきから心配げな様子でちらちらと少年の顔を窺っている。
が、少年はきょとんとした目のままだった。
「ああ、えっと。ユーリパパが玻璃どののことをパパにきいてたところ……かな?」
その目にはなんの曇りもない。
「あ……そうなの」
ユーリは胸をなでおろした。だったら大丈夫だ。そこまであからさまではないものの、男の方にもほっとした様子が見えた。
少年はちょっと変な顔にはなったものの、すぐに気を取り直して男のほうに向きなおった。
「ねえパパ。どうしてそんな、わざと自分から『ワルモノ』みたいになろうとするの? そんなことしなくていいでしょう?」
男はなんとも言えない目をしたまま、黙ってわが子を見下ろした。
「パパには凄い力がある。それはきっと、今の玻璃どのの助けになるはずでしょ? どうしてそれを、ユーリパパに教えてあげないの」
「えっ?」
が、男はユーリに問いただす間を与えなかった。おたおたしているユーリを押しのけるようにして「ああ、もういい! もう分かった」と両手を挙げて叫ぶと、すぐに《サム》を呼んだ。
《お呼びでしょうか、マスター》
「《羊水》を抜け。すぐに《水槽》内部の乾燥だ。急げ」
すらりと命じる。
《了解しました、マスター》
《サム》のほうも即答だ。
「え、あの──」
「そんなに運試しがしたいと言うなら、させてやる。今すぐにな」
「ア、アジュール──」
ユーリが目を白黒させているうちに、《水槽》の周囲で低い振動音が起こり始めた。今までにはなかった動作だ。
ユーリもフランも、《水槽》に目をくぎ付けにされている。
内部では緑色に光る特殊な液体がどんどん《水槽》の床部分へと吸い込まれていくようだ。それと同時に上部に空気の満たされた部分が増えていき、やがて玻璃の頭が液面の上に出た。
見るみるうちに《水槽》の内部が空気に満たされていく。そのまま、各部から空気が吹きつけられて玻璃の体が乾燥され始めた。玻璃の長い銀の髪が、まるで生きているかのように、縦横無尽に宙を舞い踊る。
「は……玻璃どの……!」
ユーリは思わず、《水槽》の表面にはりついた。
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