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第二章 魔王エルケニヒ
2 青年レッド
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そもそも人間というのは短命だ。
知性のない魔族の群れたちは魔獣などとも称されるが、そういう者でも何もなければ余裕で数百年は生きる。知性のあるもの、つまり魔力量の多い自分のような魔族なら、さらに長い。よく生きて百年やそこらの人間たちとは、そもそも寿命からして比べものにならないのだ。
だから初対面のときのリョウマは、自分の目からはほとんど赤子のようなものに見えた。ついこの間うまれ落ちて、母親の乳房に吸いついていた存在としか思えなかった。だというのに、その命のきらめき、まぶしい心の輝きに目を奪われてしまったのだ。なにも《BLレッド》を自称する人間に出会ったのはこれが最初というわけでもないのに。
『さあ、どっからでもかかってきやがれ!』
威勢よく叫んで《武神鎧装》になった色とりどりの五名は、そこから華々しい初陣を飾って意気揚々と引きあげていった。
なぜ負けたかというと、単に自分がぼんやりしていて、ろくな指揮もとらなかったからだ。ついぼうっと、目の前でさまざまな技を披露している青年レッドを眺めていた自分は、副官の怪訝そうな声でようやく我に返った。
『陛下、いかがなさいましたので? どこかお体の具合でも』
『……いや。今日はもう引きあげよう。負傷した者らの救助は任せる。死者の遺族、郎党には、手厚く今後の保障を与えるように』
『はっ』
不審げな色を目に浮かべつつも、有能な副官の男はすぐに己の仕事にとりかかった。
それからは楽しい日々だった。いつまたあの可愛い《レッド》が自分の目の前に現れて襲いかかってきてくれるかと期待しながら待つのは、予想以上に楽しかったのである。
正直いって、まともに戦えばかれらは自分の敵ではない。下級魔族たちならいざ知らず、たとえ五人がかりで来られたとしても負ける気はまったくしなかった。
過去の《レンジャー》の中にはまことの強者もいたのだが、今回のかれらは歴代の中でもせいぜいが「中の上」程度の実力だ。まだ全員が若いこともあるのだろうが、合体技も精彩を欠き、仲間内での口喧嘩なども多くて、バランスがあまりいいとはいえなかった。
リョウマはたとえ多少のケガをしても、次にはもうピンピンしていて、常に元気いっぱいの姿で現れた。何より、何度負けようが傷つけられようがへこたれない、とんでもなく前向きなメンタリティの持ち主だった。何より心根が明るく優しい。みなのムードメーカーであるのは一目瞭然だった。
『よっしゃあ! 今こそ必殺技の出番! 今度はぜってえ勝ぁつ!! いいか野郎ども、気合い入れろや!』
こんな調子でいつもみんなの真ん中に立ってはキャンキャン喚いて、必死に威勢を振りかざして掛かってくるのだが、実際のところ子犬に攻撃されたほどの痛痒も感じなかった。こう言ったらきっと気分を害してまたキャンキャン言うに決まっているが、人差し指でちょいとつついただけで遥か彼方へ弾き飛ばせてしまう。
むしろ、うっかりすると殺してしまいかねない。そうならぬよう、自分は常に細心の注意を払って手加減してきたのだ。
なかなか、千年もの経験の差というのは埋まらぬものなのである。
もちろんそれは、臣下の者らにも徹底させていた。いくらなんでも下級魔族にやられるようなリョウマたちではない。そうは思っていたが、万が一のことがないとは言えない。自分の目の届かないところで、もしも彼が命を落とすようなことがあったら……?
考えるだけでも身震いがしたし、その妄想を打ち消すために手近な岩山をいくつか粉砕してしまったこともある。そうして大いに臣下のみなを震え上がらせてしまったことは、リョウマには内緒だが。
そんなわけで、エルケニヒはずっと臣下たちに「レンジャーたちにケガをさせる程度のことはいい。だが決して殺すな。五体満足で生きたまま私の目の前に連れてこい」という、かなり無茶な厳命を下してきたのだ。
臣下たちこそいい迷惑だっただろう。だが、こればかりは譲れなかった。
彼と二度と会えなくなるのはつまらない。
自分よりもはるかに短い寿命しか持たない存在だと知っているためか、その想いは彼に逢うたび、剣をまじえるたびにいや増すのだった。
知性のない魔族の群れたちは魔獣などとも称されるが、そういう者でも何もなければ余裕で数百年は生きる。知性のあるもの、つまり魔力量の多い自分のような魔族なら、さらに長い。よく生きて百年やそこらの人間たちとは、そもそも寿命からして比べものにならないのだ。
だから初対面のときのリョウマは、自分の目からはほとんど赤子のようなものに見えた。ついこの間うまれ落ちて、母親の乳房に吸いついていた存在としか思えなかった。だというのに、その命のきらめき、まぶしい心の輝きに目を奪われてしまったのだ。なにも《BLレッド》を自称する人間に出会ったのはこれが最初というわけでもないのに。
『さあ、どっからでもかかってきやがれ!』
威勢よく叫んで《武神鎧装》になった色とりどりの五名は、そこから華々しい初陣を飾って意気揚々と引きあげていった。
なぜ負けたかというと、単に自分がぼんやりしていて、ろくな指揮もとらなかったからだ。ついぼうっと、目の前でさまざまな技を披露している青年レッドを眺めていた自分は、副官の怪訝そうな声でようやく我に返った。
『陛下、いかがなさいましたので? どこかお体の具合でも』
『……いや。今日はもう引きあげよう。負傷した者らの救助は任せる。死者の遺族、郎党には、手厚く今後の保障を与えるように』
『はっ』
不審げな色を目に浮かべつつも、有能な副官の男はすぐに己の仕事にとりかかった。
それからは楽しい日々だった。いつまたあの可愛い《レッド》が自分の目の前に現れて襲いかかってきてくれるかと期待しながら待つのは、予想以上に楽しかったのである。
正直いって、まともに戦えばかれらは自分の敵ではない。下級魔族たちならいざ知らず、たとえ五人がかりで来られたとしても負ける気はまったくしなかった。
過去の《レンジャー》の中にはまことの強者もいたのだが、今回のかれらは歴代の中でもせいぜいが「中の上」程度の実力だ。まだ全員が若いこともあるのだろうが、合体技も精彩を欠き、仲間内での口喧嘩なども多くて、バランスがあまりいいとはいえなかった。
リョウマはたとえ多少のケガをしても、次にはもうピンピンしていて、常に元気いっぱいの姿で現れた。何より、何度負けようが傷つけられようがへこたれない、とんでもなく前向きなメンタリティの持ち主だった。何より心根が明るく優しい。みなのムードメーカーであるのは一目瞭然だった。
『よっしゃあ! 今こそ必殺技の出番! 今度はぜってえ勝ぁつ!! いいか野郎ども、気合い入れろや!』
こんな調子でいつもみんなの真ん中に立ってはキャンキャン喚いて、必死に威勢を振りかざして掛かってくるのだが、実際のところ子犬に攻撃されたほどの痛痒も感じなかった。こう言ったらきっと気分を害してまたキャンキャン言うに決まっているが、人差し指でちょいとつついただけで遥か彼方へ弾き飛ばせてしまう。
むしろ、うっかりすると殺してしまいかねない。そうならぬよう、自分は常に細心の注意を払って手加減してきたのだ。
なかなか、千年もの経験の差というのは埋まらぬものなのである。
もちろんそれは、臣下の者らにも徹底させていた。いくらなんでも下級魔族にやられるようなリョウマたちではない。そうは思っていたが、万が一のことがないとは言えない。自分の目の届かないところで、もしも彼が命を落とすようなことがあったら……?
考えるだけでも身震いがしたし、その妄想を打ち消すために手近な岩山をいくつか粉砕してしまったこともある。そうして大いに臣下のみなを震え上がらせてしまったことは、リョウマには内緒だが。
そんなわけで、エルケニヒはずっと臣下たちに「レンジャーたちにケガをさせる程度のことはいい。だが決して殺すな。五体満足で生きたまま私の目の前に連れてこい」という、かなり無茶な厳命を下してきたのだ。
臣下たちこそいい迷惑だっただろう。だが、こればかりは譲れなかった。
彼と二度と会えなくなるのはつまらない。
自分よりもはるかに短い寿命しか持たない存在だと知っているためか、その想いは彼に逢うたび、剣をまじえるたびにいや増すのだった。
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