墜落レッド ~戦隊レッドは魔王さまに愛でられる~

るなかふぇ

文字の大きさ
36 / 227
第三章 魔族たちの街

12 その手

しおりを挟む

「う……うう~ん」

 頭が重い。体が熱い。
 いったい自分はどうしたんだ。
 魔都の博物館でみっともなくもあいつに涙なんか見せてしまって、自己嫌悪に陥っていたことは覚えている。だが、そのあとどうなったのかがどうしても思い出せない。
 どうやら自分の寝室の──というか、あの魔王の野郎に押し付けられた「自室」にすぎないが──ベッドに寝かされているようだ。

(けど……なんだ? これ)

 先ほどから、さりさりさり、という不思議な音とともに奇妙な感触がしている。乾いたつややかな何かが、自分の体の表面を静かになぞっているのがわかるのだ。
 かなり長い時間、発熱していたようだったが、今は少し楽になってきた。体はまだ重いが、頭を動かしたり寝返りをうつことはできるようになっている。
 熱にうなされている間、時おり冷たい布のようなものが額や首筋をぬぐってくれているのを感じた。とても心地がよくて、その時だけはすっと気分がよくなったのを覚えている。
 優しい手つきは、遠い昔に自分の世話をしてくれた人を思い起こさせた。

(母さん……)

 父も母も、リョウマがごく幼いうちに世を去った。村人たちはみんな全体が家族のようなものだったし、自分と同じような境遇の子供は多かったから、そんなに寂しい思いはせずに済んだけれども。仲間の《レンジャー》たちも、みな似たような境遇だったし、励まし合いながら育ってきたこともあって、互いの絆は強かった。
 だからリョウマもほとんど、「寂しい、親に会いたい」と思うことはなかったと思う。だが、それでも時々、特別に優しかったかれらの思い出が胸を締め付けることはあった。

 さりさりさり。
 またあの乾いた音がする。
 この音はいったいなんだ。そして、肌に当たるこの不思議な感触は──

 うっすら目を開けてみると、頬のすぐ脇を見慣れない鱗に覆われた白い棒状のものがするすると移動しているところだった。

(なんだ……? これ)

 まだよく動かない脳をなんとか稼働させて考える。自分はこれとよく似たものを知っている。だが、これほど巨大なものは見たことがない。手も足もなくてにょろにょろと動きまわるこの生き物が、どうも自分は子どものころから苦手だった。だからあんまり、森で遊ぶのは好きではなかったものだ。
 あれは大体、森の薄暗い下草の陰などによくいて、虫やカエルなどを捕食して生きていて……名前は──

 ──ヘビ。

「ヘ……ビいっ? わ、うおわあああああっ!! ひぎゃっ」

 思わず身の回りにあったものを何もかも投げ飛ばし、自分自身も飛び上がった。その拍子にベッドから落ち、したたかに頭を打つ。
 ゴン、という音とともに頭頂部に激痛が走った。

「あいっ、てててえっ! くっそぉ! んだよこれぇっ」
「目を覚ますなり騒々しいな、そなたは」

 聞きなれた低音ボイスが聞こえる。なんとなく「すんっ」として聞こえるのは気のせいか。自分のそばにいたらしい、巨大な白ヘビはするんとベッドの下に滑りおりると、素早くエルケニヒの背後へ移動したらしい。
 と、脳内で穏やかな老人の声がした。

 《だいぶ持ち直されたご様子。あとはしっかりと栄養を摂り、体をお休めになればよろしゅうございましょう》
「そうか。手数を掛けたな、シュルレ」
 《いえいえ。どうか左様なことは》

 巨大な白ヘビは──このヘビ、どこぞの博士かなにかのような奇妙なコスプレをしているのだが──恭しく魔王に向かって頭を垂れた。

 《五日分ほど、薬を処方しておきましょう。……それと、陛下》

 そこから、ぷつんと「接続」が切れたのがわかった。どうやら白ヘビの老人が、魔王にだけ何かを囁いたらしい。
 魔王が一瞬だけ、カッと目を見開いたが、ごほん、と奇妙な咳ばらいをしてリョウマから目をそらした。

「……善処する」
 《ほほほ。お願いいたし申しましたぞ。それではどうぞお大事に》

 言うやいなや、白ヘビはシュンッと姿を消した。リョウマは床に寝そべったままぽかんとして、今まで老人がいた場所を凝視してしまった。

「《跳躍》の魔法だ。驚くには当たらぬ」

 なぜか知らないが、なんとなく赤面しているように見える魔王が、居心地の悪そうな顔で説明し、リョウマをひょいと抱き上げてベッドへ戻した。
 そのまま額に手を置いて、熱を確かめている様子だ。

(……あれ)

 この手を知っている。
 熱で朦朧としていた間、たぶん夜中の間もずっと、体を拭いたり夜着を着替えさせたりしてくれた手ではないだろうか。

(いや、バカ言うな。そんなわけ──)

 そんなわけない、と反駁してくる自分の理性の声は聞こえているのに、どうも「そりゃそうだよな」と納得できない自分がいるのがはっきりわかった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

騎士が花嫁

Kyrie
BL
めでたい結婚式。 花婿は俺。 花嫁は敵国の騎士様。 どうなる、俺? * 他サイトにも掲載。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

処理中です...