73 / 227
第五章 和平会談
3 長老ムサシ
しおりを挟む「我らがなにより重視するのは、和平が成ったのちの村人の安全にございまする。そちらで面倒を見ていただくからと申して、差別的、侮蔑的な扱いに甘んじるつもりはさらさらございませぬ」
「ふむ、ふむ。当然のことにござりまするな」
大きなギョロ目で相手を睨み据えるように言ったムサシに対して、ウサギ顔の大臣ウルムはほんわかといなした。ヒゲと鼻をひくひくうごめかしているぐらいで、なんだか終始「柳に風」という風である。やわらかくて可愛らしい容姿と体毛のイメージそのままの感じがして、リョウマは不思議な気持ちになった。総白髪で太い眉をしたいかついイメージのムサシとは対象的だ。
ウルムの隣の秘書官アグネスは、会談の内容をひたすらメモしているようだ。目の前の空中に開いた小さな画面に、しきりに指を走らせている。
「ここにおるトキからも少し話は聞いておりますが、そちらの《人間の村》では人間がかなり優遇されておるそうな。さすれば最低でも、われらもそれと同等の扱いを望みまする」
「ごもっとも、ごもっとも」
相変わらずにこにこ笑っているが、ほんとうにわかっているのだろうか、この灰色ウサギのご老人。
「リョウマ。お前はどう思うのじゃ」
「えっ。俺?」
あまりの「暖簾に腕押し」状態に苛立ったのか、長老ムサシがいきなりこちらに矛先を変え、リョウマは目を白黒させた。
「ど、どう思うって?」
「お前もあちらであれこれ見聞きしてきたのであろう。お前が感じた通りを言ってみよ。あちらの人間たちは、十分に満足のいく生活ができておるのか? 妙な差別を受けて魔族どもに虐げられてはおらなんだか」
「そ、そういう感じはなかった……と思うけど」
「まことに?」
さすがはもと《BLレッド》。ムサシの眼光はかつてのヒーローとしての鋭さを十分に有していて、こちらが目をそらすのを許さない。リョウマは困って、「ううん」と腕を組んだ。
「まあ、そりゃ……。魔王のやつが自分に都合のいいとこばっかり見せて回ったのかもしんねえけど。でも、少なくとも俺は、単独で《人間の村》に行ってみたときも変な感じとか、なにか隠されてるみたいな感じはしなかったぜ。そういうのって、わりと勘でわかっちまうもんだろ? そりゃ自分を過信すんのはマズいし、魔王が言ってること全部をいきなりまるっと信じるのもダメだろうけど……」
「いや、信じられない」
いきなり口を挟んできたのは《BLブルー》のケントだった。
「は? なんでだよ」
ちょっとムッとする。
「だってそうだろう。お前、あの魔王の王配になるとか言ってさ。もうすっかり、あいつに取り込まれちまってるんじゃないのか? 魔法かなんかで……じゃなきゃ惚れ薬とか使われちゃってさ。どうなんだよ。目を覚ませよっ」
「ちょ、ちょっと待てよケント。そんなわけねえよっ。俺は──」
「いいや、そんなわけあるね。だったらその指輪はなんなんだ」
「へ? これ?」
指さされた先にあるのは、自分の左手にはまった指輪だった。出かけるときに魔王からもらった、赤い魔石のついたそれに思わず目を落とす。
「これは……アレだよ。単なる通信機みてえなもんで」
と、思う。多分だけれど。
「だったらなんでわざわざ、左手の薬指にしなきゃなんないんだよ!」
「へ? いやそれは」
なるほど、気になっているのはそこか。
しかし「勝手に魔王にこの指につけられただけのことで」と言うより先に、隣にいたサクヤがきついゲンコツを一発、ケントの頭頂部に食らわせていた。
「ぎゃあ! いってええ!」
「ちょっと黙んなさいよっ。そういう個人的な感情はとりあえず脇へ置いときなさいって言ったでしょうが。おとなしくしとくって約束だったわよね? やっぱりケント、この場に来させるんじゃなかったわよ!」
「ううう……」
ケントがちょっと涙目になり、すりすりと頭をさすって小さくなった。さすがのリョウマも、なんだかちょっぴり可哀想になってしまう。
「……えっと。とにかく、そういうことはねえから。なんか魔王には変な気に入られ方はしちまってるみてえなんだけど、《人間の村》の待遇についちゃあ、別に俺だってちゃんと観察してきたつもりだしよ」
「だったらいいのよ。それじゃあもうちょっと、あんたがあっちで見てきたこと、詳しく教えてくれない? トキから聞いたことが本当かどうか、こっちも確かめたいからさ」
「ああ、うん」
というわけで。
リョウマはひとしきり、魔族の国での自分の体験をなるべく客観的になるように気を付けながらその場のみなに説明して見せることになった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 ★1000 Thank_You!!
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
陥落 ー おじさま達に病愛されて ー
ななな
BL
眉目秀麗、才ある青年が二人のおじさま達から変態的かつ病的に愛されるお話。全九話。
国一番の璃伴士(将棋士)であるリンユゥは、義父に温かい愛情を注がれ、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日、一人の紳士とリンユゥは対局することになり…。
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる