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第五章 和平会談
14 逢瀬
しおりを挟む「こら。静かにいたせ」
しっ、と唇の前に指を立てられて絶句する。
いったいこいつ、何を考えているんだ!
「っておま、一体なにが──あっ、指輪か? こいつ、通信機ってだけじゃなかったんかい!」
詰め寄るリョウマに、魔王は不思議なぐらい上機嫌でにこにこするだけだった。
「それはそうだろう。こちらにはそれだけの魔力と科学力があるのだから」
「『あるのだから』じゃねーわ。こんなん、長老とかサクヤにバレたらどーすんだよ。勝手にこっちの村に現れるとか、協定違反ってか、反則ってーか……」
「協定は、まだ結ばれていないのだから違反ではないな。ただ、ひとりの男が自分の恋人のもとに忍んできただけのことだ。なんの罪になろうというのか」
「いやいやいや。さすがにそれは言い訳がひでえ」
「リョウマ」
「はうっ?」
もういい、とばかりにぐっと抱き寄せられて息が詰まった。
「な、なにすっ……」
「しばらくこうさせてくれ。そなたを充電したいだけだ。言われなくとも村人に知られるようなヘマはせぬ。夜明けまでには戻るゆえ」
「そ、そそ……そーゆーこと、なら……?」
言いながら、リョウマもおずおずと魔王の背中に腕を回した。
魔王の広くて分厚い胸に体を押し当てられていると、意外なほどに安心してしまっている自分がいて、自分でも驚いた。いや、そんなことは許されない。許されるはずもないけれど、こればかりはどうしようもないのだった。
「……ああ。そなたの匂いだ」
「かっ、嗅ぐなよっ」
「イヤだ。こうするためにわざわざ来たのだから」
「ったくよー……」
ぶつくさ言いながらも、どうしてもその胸を押しのける気にならない。魔王の長い銀色の髪が、さわさわと自分の頬を撫でることにすら無闇やたらと安堵してしまっている。もう、どうしようもなく。
そんな自分が信じられないけれど、もう認めるしかないことなのだろうとも思った。
「俺、だって……」
「ん?」
「あ……い、たかった、よ」
「本当か?」
少し体を離されて金色の瞳に顔を覗き込まれ、急に恥ずかしくなった。思わずうつむいて顔を隠してしまう。
「……ま、マジだよっ。そ、それより、もう長老たちからお前への要望とかも聞いてきたんだ。ほら、これ」
言って、汚い字で書きこみまくった手の甲の墨文字を見せる。
「ほう? 大きく分けて六項目か」
そこはさすが魔王。さっと目を通しただけで内容をほぼ理解したらしい。魔王は面白そうに笑うと、項目ごとに小声で読み上げ、正しいかどうかをリョウマに確認してきた。
「なるほど、了解した。持ち帰って御前会議に諮ることとしよう」
「んんっ?」
言いながら魔王が手の甲にそっと唇を這わせると、文字が空気に溶けるように消え去った。そのまま指の甲や手のひら、手首にと次々に口づけを落とされていく。魔王の唇が触れたところに次々に熱が生じて、背筋がぞわぞわと反応した。腰の奥が重たくなって、ひやりとする。
「ん、ちょっと……ん、それは……ヤバいって」
「なぜ?」
「だって……んっ」
思わず目を上げたところで、あっというまに唇を塞がれた。
何度もついばむように味わわれ、唇の中に魔王の舌が押し入ってくるのを、リョウマは次第にぼんやりしていく頭の片隅で感じていた。
「んく……う」
いやむしろ、入ってきた舌にみずから自分の舌を絡め、両腕を魔王の首に回してもっとしっかりと抱きついていた。
小さな部屋に淫靡な水音が響く。それが自分の耳を、さらには心を犯していくのを、リョウマは静かに受け入れた。
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