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第六章 迫りくるもの
1 視察団
しおりを挟む早速組織された視察団は、結局、前回と同じ長老ムサシとゲンゴが率いることになった。そこへ今回は、助手や書記官としての仕事をする若者たちが数名。さらにリョウマとハルト、コジロウが同行する。
事前に魔王側と約束したとおり、前回と同じ山の中の広場に移動用の魔方陣が現れると、その真ん中に《BLブルー》ケントの姿があらわれた。非常に疲弊した顔なのは、恐らく見間違いではないだろう。なんとなく、げっそりと頬もこけている。
が、あちらで何があったのかをゆっくり聞いている暇はなかった。やむなく、視察団の面々が順に魔方陣に歩いていくのについていきながら、《レンジャー》たちはそれぞれケントに声を掛けた。
「おかえり~、ケント。おつかれ」
「お疲れ様、ケント」
「まことお疲れにござったな。ゆっくりと休まれよ、ケント殿」
「んじゃ、俺らは行ってくっからよ」
「まっ、待てよ。リョウマっ」
ケントと入れ違いで魔方陣に入ろうとしたら、いきなり肩をつかまれた。
「あん? なんだよ、急ぐんだってばよ」
「少しぐらい話をさせてくれ。だって俺はあっちで──」
「ん? そんなひでえことはされてねーんだろ? 別に魔族だからって悪い人ばっかじゃなかったろーが。そうじゃねえの?」
「ううっ……」
ケントがぷるぷる震えて、なぜか涙目になった。いったい何があったというのか。
とはいえ、時間はない。魔方陣の中から、ムサシがこちらをせかしている。
「急げ、お前たち。挨拶はほどほどにしておけ」
「ういーっす。じゃ、またな。ケント」
「リョ、リョウマっ……!」
「ごめんごめん。今度帰ったら、ちゃんと話は聞くからよっ」
リョウマはちょっぴり後ろ髪を引かれつつも、しかたなくケントの肩をばしばし叩いてにっこり笑って見せた。ケントが不安そうに視線をゆらす。そして一瞬だけ、意を決したようにリョウマの耳に口を寄せた。
「あいつらに何があったか、ちゃんと調べるんだ、リョウマ。行動制限がひどすぎて俺にはさっぱりわからなかったが、城内の空気が張り詰めていることだけはすぐにわかった。お前なら、俺よりは自由に動けるだろう。きっと、なにかとんでもないことが起こっている。どうもそんな気がするんだ」
「マジか……」
自分のイヤな予感はどうやら的中しているらしい。リョウマは笑顔を作って「わかった」ともう一度ケントの肩を叩くと、そのまま魔方陣の真ん中に向かった。
◇
ぐらり、と視界が歪んで吐き気を覚える。脳内を無遠慮な手がかき回したような不快感。この感覚はどうも慣れない。
リョウマは吐き気をこらえながら、ぼんやりした視界がはっきりしてくるのを待った。
と、すぐ目の前に見覚えのある大きな体が見えた。そこからすぐに大きな腕が伸びてきて、リョウマの体をだきしめた。もちろん魔王だ。
「リョウマ、よく戻った。久しいな。待ちわびたぞ」
「エル……いや、魔王。た、ただいま」
「会いたかったぞ、リョウマ」
「う、うん……。まあ、落ち着け」
ちょっと目を白黒させてしまう。つい先日、お忍びで《勇者の村》に忍んできたばかりのくせに、「久しいな」「会いたかった」と連呼されても反応に困るというものだ。
魔王の背後に立っていた将軍たちや近衛隊の面々も、なんとなく目を丸くしている様子である。それはこちら、視察団の面々も同じだった。ハルトとコジロウなど、完全にぽかんと口を開けっぱなしである。
魔王はしばらくリョウマの抱き心地を堪能してから、ようやく視察団の方に目をあげた。
「視察団の皆々さまも、さぞやお疲れであろう。まずはゆるりと城内でお休みになられよ」
「いやいや。そちらの魔方陣のおかげをもって、疲れなどはございませぬゆえ。すぐにでも、新たな《保護区》の視察に向かいたいのですが、構いませぬかな」
さすが長老ムサシは堂々たる態度だ。魔王もそれを受けて鷹揚に微笑んだ。
「是非にあらず。であればすぐにも、新たな《保護区》へと案内して進ぜよう」
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