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第五章 和平会談
19 新・保護区
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(いったいなんだ……? なにがあったっていうんだよ)
別にもともと、自分の勘に非常に重きをおくようなタイプではない。だが、今回ばかりはどうも、リョウマの本能に訴えかけてくるものが大きすぎる気がする。イヤな予感がして仕方がないのだ。
こいつはたぶん、何か重大なことを隠している。そう思えるのだ。
別にそれは、自分たちを害するようなことや裏切るようなことではない気もする。恐らくはもっと、レベルの違う問題なのではないかと。そうは言っても、具体的には何もわからないが。
リョウマが考え込んでいるうちに、長老ムサシをはじめとする長老たちが、あれこれと魔王に質問していた。
「《保護区》の設置が済んだとのことですが、それは例の、そちらの《保護区》の人々の同意が得られた……ということでよろしいのですかな」
《いや。残念ながら住民の同意は得られなかった。かれらはそなたらのことを警戒している。まあ無理もないことであろうよ》
「ううむ」
「左様で……」
《それゆえそなたらのため、別の場所に新たな《保護区》を拓くことにした》
「べ、別の《保護区》……? そんなもん、すぐに作れるもんなのかよ」
思わず訊ねると、魔王は軽く微笑んだ。
《すでに作った。近いうちに視察団を招くつもりゆえ、そちらの代表者を決めておいてくれ》
(なんだ……?)
魔王自身はこともなげに言っているが、リョウマはふと隣にいたダンパの様子に違和感を覚えた。魔王国の近衛隊隊長は、いつになく緊張した面持ちでそこに座っていたからである。もちろん第一級の武人としてそれを面には出すまいと努めていたけれども、リョウマにはなにかぴりぴりと肌で感じるものがあったのだ。こればかりは言葉で説明するのが難しいが。
(やっぱり……なんかあるな)
リョウマの中の警報装置が、さっきからうるさくがなりたてている。これに関する自分の勘というか感覚については、リョウマにも一定の自信があった。これまで村の外で敵に襲われた時など、なにか事前に危機を察知する場面において、これに何度救われてきたかわからないのだ。《レンジャー》の面々からは「リョウマの野生の勘」などと言って笑われつつも信頼されてきた、特別な能力である。
「わかった。んじゃ、今回は俺もそっち行くかんな。《新・保護区》の視察団と一緒に、俺もそっちに戻るわ」
《それには及ばん。こちらにはすでに《ブルー》がいる》
「ケントとはまた、俺と交換にすりゃいいだろっ」
《しかし》
「しかしもカカシもねえっ。帰るっつったら帰るんだよ! あとの細けーことは長老さまとちゃんと話せよなっ」
言うなりリョウマは自分の指から指輪をひっこ抜くと、長老ムサシにそれを渡して家から外へ飛び出していた。
「リョウマ様!」
「リョウマ! まってよ!」
即座にダンパが後に続く。サクヤはその場に残ったが、ハルトとコジロウはダンパのすぐあとを追いかけてきた。
「リョウマ! 急にどうしたんだよ。なに怒ってるの」
「うるせえうるせえっ。おめーらは残っとけよ!」
「われらは席を外しても構わぬであろう。サクヤが残っておるゆえ」
「そうだよ。それより、どういうこと? なんでそんなにイライラしてるんだよ、リョウマ」
「それはこっちが訊きてえよ。なあ、ダンパさんよっ」
「は?」
ぐるっと振り向いて睨みつけると、大股にあとをついてきていたダンパが即座に足を止めた。
「どうやらあんた、なんかわかったんだろ? あいつ、変だったろうが。どうなんだよっ」
「それは……左様に、自分も見受けました」
「なにが変だと思ったんだ?」
ダンパは少し考える様子だったが、じっと自分を見つめてくる《レンジャー》三名をそれぞれに静かな目で見返してから、低く言った。
「《保護区》を拓くためには、多量の魔力を消費しまする。陛下だけでなく、ほかの魔術師たちの多くの魔力を消費して、周囲の《魔素》をよせつけぬ空間を無理やりに通常空間の中にこじ開ける。正直申して、かなり手と時間のかかる作業なのです。……斯様な短期間でそれを行った事例は、魔王国の歴史上でも、これまでほとんどありませぬ」
「……そうなんか」
「はい」
つまりは「異例の事態」というヤツだ。
「なにかあちらで、そこまで作業を急がねばならぬ事態が発生しているのやもしれませぬ」
「そっか。だからあのヤロ、俺に帰ってくんなとか言ったのか」
じわじわと湧きあがってくる熱い感情。それは間違いなく苛立ちとか、怒りと呼ばれるものだと思った。
それならそうだと言えばいいものを。なぜ、わざわざ自分に隠そうとするのだろう。一体あっちで何が起こっているというのか。気になって仕方がない。それに、あの「イヤな予感」はどんどん強まってくるばかりだ。
リョウマは奥歯を軋らせ、両の拳をにぎりしめた。
「こうなったら、ぜってー戻ってやっかんな」食いしばった歯の間から押し出すように言う。「そんで、なにがあったのかキッチリあの野郎に確認してやるっ」
「ぼ、ぼくも行くよっ。リョウマ! その視察団に入れてもらうよ」
「え、ハルトも?」
「うんっ」
「自分もにござるっ。今回は、自分もぜひ連れて行って欲しい。リーダーの貴殿ばかり、危険な目に遭わせるわけには参らぬ」
「コジロウ……」
驚いて見返すリョウマに、《BLピンク》ことハルトと《BLブラック》ことコジロウが、力強くうなずき返してくれた。いつもながら心強い仲間たちだ。
だがダンパだけはやや困った様子で、何事かを思案しつつも黙ってそんな三名を見つめていた。
別にもともと、自分の勘に非常に重きをおくようなタイプではない。だが、今回ばかりはどうも、リョウマの本能に訴えかけてくるものが大きすぎる気がする。イヤな予感がして仕方がないのだ。
こいつはたぶん、何か重大なことを隠している。そう思えるのだ。
別にそれは、自分たちを害するようなことや裏切るようなことではない気もする。恐らくはもっと、レベルの違う問題なのではないかと。そうは言っても、具体的には何もわからないが。
リョウマが考え込んでいるうちに、長老ムサシをはじめとする長老たちが、あれこれと魔王に質問していた。
「《保護区》の設置が済んだとのことですが、それは例の、そちらの《保護区》の人々の同意が得られた……ということでよろしいのですかな」
《いや。残念ながら住民の同意は得られなかった。かれらはそなたらのことを警戒している。まあ無理もないことであろうよ》
「ううむ」
「左様で……」
《それゆえそなたらのため、別の場所に新たな《保護区》を拓くことにした》
「べ、別の《保護区》……? そんなもん、すぐに作れるもんなのかよ」
思わず訊ねると、魔王は軽く微笑んだ。
《すでに作った。近いうちに視察団を招くつもりゆえ、そちらの代表者を決めておいてくれ》
(なんだ……?)
魔王自身はこともなげに言っているが、リョウマはふと隣にいたダンパの様子に違和感を覚えた。魔王国の近衛隊隊長は、いつになく緊張した面持ちでそこに座っていたからである。もちろん第一級の武人としてそれを面には出すまいと努めていたけれども、リョウマにはなにかぴりぴりと肌で感じるものがあったのだ。こればかりは言葉で説明するのが難しいが。
(やっぱり……なんかあるな)
リョウマの中の警報装置が、さっきからうるさくがなりたてている。これに関する自分の勘というか感覚については、リョウマにも一定の自信があった。これまで村の外で敵に襲われた時など、なにか事前に危機を察知する場面において、これに何度救われてきたかわからないのだ。《レンジャー》の面々からは「リョウマの野生の勘」などと言って笑われつつも信頼されてきた、特別な能力である。
「わかった。んじゃ、今回は俺もそっち行くかんな。《新・保護区》の視察団と一緒に、俺もそっちに戻るわ」
《それには及ばん。こちらにはすでに《ブルー》がいる》
「ケントとはまた、俺と交換にすりゃいいだろっ」
《しかし》
「しかしもカカシもねえっ。帰るっつったら帰るんだよ! あとの細けーことは長老さまとちゃんと話せよなっ」
言うなりリョウマは自分の指から指輪をひっこ抜くと、長老ムサシにそれを渡して家から外へ飛び出していた。
「リョウマ様!」
「リョウマ! まってよ!」
即座にダンパが後に続く。サクヤはその場に残ったが、ハルトとコジロウはダンパのすぐあとを追いかけてきた。
「リョウマ! 急にどうしたんだよ。なに怒ってるの」
「うるせえうるせえっ。おめーらは残っとけよ!」
「われらは席を外しても構わぬであろう。サクヤが残っておるゆえ」
「そうだよ。それより、どういうこと? なんでそんなにイライラしてるんだよ、リョウマ」
「それはこっちが訊きてえよ。なあ、ダンパさんよっ」
「は?」
ぐるっと振り向いて睨みつけると、大股にあとをついてきていたダンパが即座に足を止めた。
「どうやらあんた、なんかわかったんだろ? あいつ、変だったろうが。どうなんだよっ」
「それは……左様に、自分も見受けました」
「なにが変だと思ったんだ?」
ダンパは少し考える様子だったが、じっと自分を見つめてくる《レンジャー》三名をそれぞれに静かな目で見返してから、低く言った。
「《保護区》を拓くためには、多量の魔力を消費しまする。陛下だけでなく、ほかの魔術師たちの多くの魔力を消費して、周囲の《魔素》をよせつけぬ空間を無理やりに通常空間の中にこじ開ける。正直申して、かなり手と時間のかかる作業なのです。……斯様な短期間でそれを行った事例は、魔王国の歴史上でも、これまでほとんどありませぬ」
「……そうなんか」
「はい」
つまりは「異例の事態」というヤツだ。
「なにかあちらで、そこまで作業を急がねばならぬ事態が発生しているのやもしれませぬ」
「そっか。だからあのヤロ、俺に帰ってくんなとか言ったのか」
じわじわと湧きあがってくる熱い感情。それは間違いなく苛立ちとか、怒りと呼ばれるものだと思った。
それならそうだと言えばいいものを。なぜ、わざわざ自分に隠そうとするのだろう。一体あっちで何が起こっているというのか。気になって仕方がない。それに、あの「イヤな予感」はどんどん強まってくるばかりだ。
リョウマは奥歯を軋らせ、両の拳をにぎりしめた。
「こうなったら、ぜってー戻ってやっかんな」食いしばった歯の間から押し出すように言う。「そんで、なにがあったのかキッチリあの野郎に確認してやるっ」
「ぼ、ぼくも行くよっ。リョウマ! その視察団に入れてもらうよ」
「え、ハルトも?」
「うんっ」
「自分もにござるっ。今回は、自分もぜひ連れて行って欲しい。リーダーの貴殿ばかり、危険な目に遭わせるわけには参らぬ」
「コジロウ……」
驚いて見返すリョウマに、《BLピンク》ことハルトと《BLブラック》ことコジロウが、力強くうなずき返してくれた。いつもながら心強い仲間たちだ。
だがダンパだけはやや困った様子で、何事かを思案しつつも黙ってそんな三名を見つめていた。
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