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第十二章 新たな命
7 寝室で
しおりを挟むというわけで。
あらためてその夜の寝室にところは移る。
「それで。今度こそ聞かせてもらえるのだろうな? そなたの悩みを」
「う、う~んと……」
寝台の上で、べつに強制されたわけではないが正座をした状態のリョウマ。その前に胡坐をかいて座っている魔王である。もちろん人払いはとっくに済ませ、ふたりきりの状態だ。カーテンも引かれ、さらに魔王がご丁寧にも、《防音》の防御魔法まで掛けるという念の入れようである。
ここまでお膳立てが調ってしまうと、もう逃げ場がない。
リョウマは観念した。
「えー……と。聞いたんだよ。だれからとは言わねーが。それは訊くなよ」
「承知した。それで」
「なんかさ、魔王国側のヨウジン? とか偉い家来のみなさん? とかが、噂してんのを聞いたんだってよ、結婚式のとき」
「なにをだ」
「だから……その」リョウマは組んだ手の人差し指同士を、なんとなくちょんちょんさせつつ言った。「俺たちの子どもが生まれるのか、とか、なんとか……」
「……なるほど」
魔王はあっさりと事態を察してくれたらしい。腕組みをし、眉を顰める。
「そうやってすぐに要らぬ詮索をする者にはいくらか心当たりがあるな。いずれ自分の立場を左右するかもしれぬ事案なのだから無理もないが」
「そーなの?」
「それはそうだ。前にも言ったかもしれぬが、私自身は魔王の立場を世襲制にする気はさらさらない。すでにダイダロスやトリーフォンなど、人望と実力のある者も育っている。わざわざそこへ、幼子を参入させる意味がない。むしろ幼いゆえに悪どい者どもに利用されぬとも限らぬしな」
「あ~……なるほど」
子ども自身の幸せを考えれば、確かにそれは可哀想に思う。
「それともリョウマは、我らの子に後を継がせたいのか?」
「えっ? いいや! それはねーよ、別に」
「ふむ?」
首と両手をぶんぶん振るリョウマを見返して、魔王は片眉をあげた。
「というかそれ以前に、われらの間の子を望んでくれているのか? そなたは」
「え、えーっと……」
それは正直、具体的に考えてみたことがない。なにしろまだ結婚したばかりで、今の生活に慣れるだけでも精一杯なのだ。
正直にそう言ったら、魔王は微笑んだ。
「そうか。……だが、子を作ることには嫌悪感はないということか?」
「あ。それは別に? だって結婚したんだし……こ、子どもがいるのって楽しいじゃん。俺には物心ついたころから親はいなかったけど、村じゃ、小さい子の世話なんかふつーにしてたし。子どもは嫌いじゃねーよ。むしろ好きだし」
「そうか」
「……あ、あとさ」
と言いかけて、リョウマは目線を落とした。
こういうことは、わざわざ言わないとわからないことだろうか。いや、こんなに幸せな時にわざわざ言わなくてもいいことかもしれない。そう思ったから、ずっと黙っていたことなのだが。
逡巡しているリョウマをしばらく黙って待っていた魔王は、腕を伸ばしてリョウマの肩に手を置いた。昔はそんなこと思ったこともないのに、大きくて温かな手だと今は思う。この手があって自分に触れてくれることに、とんでもない安心感さえ覚えるようになってしまった。
「なんだ? 遠慮せず申してみよ」
「うん……。ええと。つ、作るならさ……子ども。早い方がいいのかな、って、思って」
「なぜだ?」
「だってさ──」
言いかけて、ぐっと喉が詰まった。
唇を噛みしめ、膝の上で拳をにぎる。
「……お、お前は長生きするんだろうけど。俺は……そこまでじゃないんだし」
「リョウマ」
肩に置かれた手にぐっと力が入ったが、リョウマは言い続けた。
「そりゃ、俺だってなるべく頑張って長生きするけど。でも……子どもには、親がなるべく、長く一緒にいてやれる時間があったほうが……いいと、思う」
「…………」
恐る恐る見上げると、夜用の暗い灯りの光に照らされて、魔王がなんとも言えない表情で自分を見つめているのが見えた。
「だからっ。言いたくなかったんだよ。結婚したばっかなのに、こんな……。でも」
でも、これはきちんと言っておかねば。
「俺はさ。親の顔もしらねーじゃん。生まれてすぐに死んじまってさ。……だから、もしこれから先、親になることがあるんだったら、なるべく長くその子とは一緒にいてやりてえって、ずっと思ってたんだ」
「リョウマ……」
「お前は一緒にいてやれてもさ。俺は……そこまでは無理なんだからさ。だ、だったら……」
「少しでも早いほうがよい、と」
魔王があとを引き取ってくれたので、リョウマはこくんとうなずいた。
魔王は「うーん」としばらく考える様子だったが、両腕でリョウマを抱きしめてから言った。
「子のことは、またおいおい考えよう。その子がくだらぬ政争に巻き込まれぬよう、あれこれと準備も必要であろうしな。それに、早い方がよいとは申せ、それでも今は新婚の時期ではないか。私はできれば、もう少しそなたとのふたりきりの時間を楽しみたいと思うのだが」
「う、うん……」
それはリョウマとて否やはない。
魔王の広い背中におずおずと手を回すと、リョウマも男を抱きしめた。
「それは、俺もそうだから」
「まことに?」
「うん」
「それならよかった」
魔王は嬉しそうににこっと笑うと、「では」とばかりにリョウマを押し倒した。軽い口づけが何度か落ちてきて、リョウマが少し唇を開いたタイミングで深いものに変わる。
「ん、……んく」
前袷の夜着の下に手が忍び込んできて、太腿に這わされると、びくんと体が跳ねた。
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