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第十三章 次の世代を
11 肉、再び
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「にく、にく、おにくう!」
「えっと、うん。わかったからローティ」
「すてーき、くしやき、やきとり!」
「いやあの、もうちょっと他のもんの名前も──」
「ろーすとちきん、みーとぼーる!」
「わ、わかったってばあ!」
というわけで。
あの「リョウマパパ」呼びと「父上」呼びをマスターして以降、ローティの語彙は飛躍的に増えていった。それも、やっぱり驚くべき速さで。
……ただし、語彙のレパートリーは見ての通りだ。
「えっとローティ? 今はちょっとだけお肉から離れて──」
「いやっっ! はんばーぐ、しゃぶしゃぶ、てりやき! だいすきぃ!」
「ああああ……」
一事が万事、この調子である。
ジャンルがすべて、「肉」一択。
一応、魔王に訴えてみたが、男はこの件を一笑に付しただけだった。爆笑した後、リョウマにじとっと睨まれて一度は笑みを噛み殺したものの、「さ、さすがはそなたの息子……」と言ったきりぷるぷる肩を震わせていたのをリョウマは見逃さなかった。
「ったく。あの野郎はよー……」
ぶつぶつ言いつつも、反論できないのはつらいところだ。《第二保護区》の長老たちに愚痴を言いに行ったときにも、やっぱり同じ反応をされてしまった。要するに大爆笑だ。もちろん《レンジャー》たちにもである。
どうやら自分は幼児の時分からとにかく肉が大好きで、しゃべる単語もまずは肉の語彙から始まったというのである。
その時のことを思い出して無自覚に眉間に皺を寄せていたら、ローティがてくてくやってきてだっこをせがんできたので、そのまま抱き上げてやった。
「リョーパパ?」
どうしたの、と言わんばかりのつぶらな瞳で見つめられる。と、もうそれだけでにやあと頬が緩んでしまう。もうダメだ。自分は完全にこの子にヤられまくっている。
結局、ローティはリョウマのことを「リョーパパ」、魔王のことは「エルパパ」と呼ぶようになった。一応「ちちうえ」と発音はできるようになったのだが、どうも言いにくいらしい。「そのうち落ち着くだろう」ということで、魔王もそれを容認している……というか、デレッデレなのでむしろ大喜びと言ったほうが正解か。
「うーん……」
それにしても。
それとは関係ないことだが、最近ちょっと、リョウマは欲求不満なのである。
なにがって、つまりは「そっち方面」での欲求が十分に満たされていない。
今までは、赤子のローティの世話で日々大変でそれどころではなかった。だから別に魔王にばかり非があるとは思っていないけれど。
近頃はだいぶローティも落ち着いてきて、夜も一緒に寝なくても自分の寝室でおとなしく眠るようになってきた。もともとたくさん夜泣きするタイプの子ではなかったけれども、子守りの使用人たちの手を煩わせる頻度もかなり減ってきていると聞いている。
だというのに、あの魔王の野郎が自分に指一本触れてこようとしないのだ!
(なんでだ……? まさか──)
結婚後、子どもができて多忙になると母親がそっち方面を煩く思うようになって夫を構わなくなるらしい。体力だって限りがあるわけだから、子育てに集中していれば夜の行為にまで回せなくなるのは当然だ。男性よりも体力のない女性ならばなおさらのことだろう。
しかし、である。
(俺は女じゃねーし。別にもう、夜だって疲れてるってほどじゃねえのに)
それなのに、このところの魔王は相変わらず寝室を共にしていながら、夜はリョウマに「おやすみのキス」をして抱きしめてくれるのみで、さっさと眠りについてしまう。
……というわけで、欲求不満なのだ。
なにしろ自分だって、まだまだ「ヤりたい盛り」の健康な男子なのだから!
「この時期にあんまりほっとくと、浮気する夫がいるって聞くわよ~? もちろんそういうヤツはキン蹴り一択だけどね!」
と豪語したのはもちろん《イエロー》サクヤである。
それを聞いてむかむかと不愉快になると同時に、奇妙な不安が胸を満たしたのも本当だった。
(いや、浮気とか許さねーし!)
いやもちろん、あの魔王が軽々とそんなことをするとは思えない。
リョウマが非常に特異な状況だっただけのことで、今までは跡継ぎの問題や貴族間の権力争いの関係もあって、男女を問わずそう簡単にだれかを自分の寝所に連れ込むことはなかったと聞いている。そういう意味では相当慎重な男なのだ。
それに、だ。
このところ、何かの箍が外れてしまったのか、魔王が次々に国民の祝日を増やそうとするのでリョウマも困っているほどなのだ。
例えば「ローティの生誕日」はともかく、「ローティが初めて笑った日」「ローティがハイハイした日」「歩いた日」エトセトラ、エトセトラ。
「そんなに記念日ばっかり作ったら、国民のみなさんが大変だろうがっっ!」というリョウマの鶴の一声がなかったら、今頃大変なことになっていたことだろう。
そういえば使用人に聞いて最近はじめて知ったことだが、すでにこの国には「リョウマに初めて会った日」やら「リョウマと初めて致した日」やらいう──もちろん実際はそういう名称ではなかったが──記念日が制定されているというのだ!
初めて聞いたときには心底「アホか」と脱力したものである。
あれほど自分を溺愛──という恥ずかしい単語を自分に使いたくはないけれど──している男が、やすやすと浮気なんかするはずがない。そのあたりは信頼している。
が、とにかく欲求不満なのは事実なのだ!
(こりゃあ……どーにかしねえとな)
そもそも国王夫妻──いや「妻」ではないからなんと言えばいいのか──の不仲は、国内問題に発展しかねない大問題。早急に解消する必要がある。
というわけで。
リョウマは無い知恵を絞って一計を案じることにした。
「えっと、うん。わかったからローティ」
「すてーき、くしやき、やきとり!」
「いやあの、もうちょっと他のもんの名前も──」
「ろーすとちきん、みーとぼーる!」
「わ、わかったってばあ!」
というわけで。
あの「リョウマパパ」呼びと「父上」呼びをマスターして以降、ローティの語彙は飛躍的に増えていった。それも、やっぱり驚くべき速さで。
……ただし、語彙のレパートリーは見ての通りだ。
「えっとローティ? 今はちょっとだけお肉から離れて──」
「いやっっ! はんばーぐ、しゃぶしゃぶ、てりやき! だいすきぃ!」
「ああああ……」
一事が万事、この調子である。
ジャンルがすべて、「肉」一択。
一応、魔王に訴えてみたが、男はこの件を一笑に付しただけだった。爆笑した後、リョウマにじとっと睨まれて一度は笑みを噛み殺したものの、「さ、さすがはそなたの息子……」と言ったきりぷるぷる肩を震わせていたのをリョウマは見逃さなかった。
「ったく。あの野郎はよー……」
ぶつぶつ言いつつも、反論できないのはつらいところだ。《第二保護区》の長老たちに愚痴を言いに行ったときにも、やっぱり同じ反応をされてしまった。要するに大爆笑だ。もちろん《レンジャー》たちにもである。
どうやら自分は幼児の時分からとにかく肉が大好きで、しゃべる単語もまずは肉の語彙から始まったというのである。
その時のことを思い出して無自覚に眉間に皺を寄せていたら、ローティがてくてくやってきてだっこをせがんできたので、そのまま抱き上げてやった。
「リョーパパ?」
どうしたの、と言わんばかりのつぶらな瞳で見つめられる。と、もうそれだけでにやあと頬が緩んでしまう。もうダメだ。自分は完全にこの子にヤられまくっている。
結局、ローティはリョウマのことを「リョーパパ」、魔王のことは「エルパパ」と呼ぶようになった。一応「ちちうえ」と発音はできるようになったのだが、どうも言いにくいらしい。「そのうち落ち着くだろう」ということで、魔王もそれを容認している……というか、デレッデレなのでむしろ大喜びと言ったほうが正解か。
「うーん……」
それにしても。
それとは関係ないことだが、最近ちょっと、リョウマは欲求不満なのである。
なにがって、つまりは「そっち方面」での欲求が十分に満たされていない。
今までは、赤子のローティの世話で日々大変でそれどころではなかった。だから別に魔王にばかり非があるとは思っていないけれど。
近頃はだいぶローティも落ち着いてきて、夜も一緒に寝なくても自分の寝室でおとなしく眠るようになってきた。もともとたくさん夜泣きするタイプの子ではなかったけれども、子守りの使用人たちの手を煩わせる頻度もかなり減ってきていると聞いている。
だというのに、あの魔王の野郎が自分に指一本触れてこようとしないのだ!
(なんでだ……? まさか──)
結婚後、子どもができて多忙になると母親がそっち方面を煩く思うようになって夫を構わなくなるらしい。体力だって限りがあるわけだから、子育てに集中していれば夜の行為にまで回せなくなるのは当然だ。男性よりも体力のない女性ならばなおさらのことだろう。
しかし、である。
(俺は女じゃねーし。別にもう、夜だって疲れてるってほどじゃねえのに)
それなのに、このところの魔王は相変わらず寝室を共にしていながら、夜はリョウマに「おやすみのキス」をして抱きしめてくれるのみで、さっさと眠りについてしまう。
……というわけで、欲求不満なのだ。
なにしろ自分だって、まだまだ「ヤりたい盛り」の健康な男子なのだから!
「この時期にあんまりほっとくと、浮気する夫がいるって聞くわよ~? もちろんそういうヤツはキン蹴り一択だけどね!」
と豪語したのはもちろん《イエロー》サクヤである。
それを聞いてむかむかと不愉快になると同時に、奇妙な不安が胸を満たしたのも本当だった。
(いや、浮気とか許さねーし!)
いやもちろん、あの魔王が軽々とそんなことをするとは思えない。
リョウマが非常に特異な状況だっただけのことで、今までは跡継ぎの問題や貴族間の権力争いの関係もあって、男女を問わずそう簡単にだれかを自分の寝所に連れ込むことはなかったと聞いている。そういう意味では相当慎重な男なのだ。
それに、だ。
このところ、何かの箍が外れてしまったのか、魔王が次々に国民の祝日を増やそうとするのでリョウマも困っているほどなのだ。
例えば「ローティの生誕日」はともかく、「ローティが初めて笑った日」「ローティがハイハイした日」「歩いた日」エトセトラ、エトセトラ。
「そんなに記念日ばっかり作ったら、国民のみなさんが大変だろうがっっ!」というリョウマの鶴の一声がなかったら、今頃大変なことになっていたことだろう。
そういえば使用人に聞いて最近はじめて知ったことだが、すでにこの国には「リョウマに初めて会った日」やら「リョウマと初めて致した日」やらいう──もちろん実際はそういう名称ではなかったが──記念日が制定されているというのだ!
初めて聞いたときには心底「アホか」と脱力したものである。
あれほど自分を溺愛──という恥ずかしい単語を自分に使いたくはないけれど──している男が、やすやすと浮気なんかするはずがない。そのあたりは信頼している。
が、とにかく欲求不満なのは事実なのだ!
(こりゃあ……どーにかしねえとな)
そもそも国王夫妻──いや「妻」ではないからなんと言えばいいのか──の不仲は、国内問題に発展しかねない大問題。早急に解消する必要がある。
というわけで。
リョウマは無い知恵を絞って一計を案じることにした。
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