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終章 わかれの時を
4 咆哮
しおりを挟む最初の衝撃の次に、今度は胸の真ん中に激しい熱さを感じてローティアスの息がつまった。流れ込んでくるのは膨大な魔力そのもの。そして、勇者パワーだった。
あとでわかったことだが、この時、地上にいたありとあらゆる者が同様の衝撃に襲われていた。もっとも、勇者パワーについては耐性を持つ者のみに限られていたらしいが。
現象の細かな部分や力の多寡は人によってまちまちだったようだ。
ローティアス自身は、それとともにはっきりと父の声を聞いた。
《勝手をしてあい済まぬ。だが、もうそなたらには父の後見など必要ない。そなたらならば大丈夫だ。そのためにこそ、これまで厳しく教育してきた》
「父上……」
《私の葬儀は無用。これ以上、無駄に国費を費やすな。リョウマとのこれが、同時に私の葬儀でもあると心得よ》
「……ははっ」
ローティアスは無意識のうちに深く頭を下げていた。
《私はリョウマとともに休むが、そなたらは与えられた生を謳歌し、命ある限り平和に暮らせ。地には平和を。そなたらの幸福と安寧を、心より願っておるぞ》
「父上……っ」
どっと溢れた熱いものが頬から顎に伝っていることにも気づかなかった。
ローティアスは一度唇を強く噛み、両の拳を握りしめた。
そうだ。ここで弱気になっている場合ではない。そんなことでは次代の王を名乗るに値しない。エルケニヒ父上にも、リョウマ父上にも顔向けができぬ。父たちに心配などさせてはならないのだ。決して。
ローティアスはぎゅっと目をつぶり、ゆっくりと開くと、両腕をかなう限り棺のほうに向かってのばし、それから己が胸に片手を当てて叫んだ。
「きっと。きっと……。父上たちのご遺志に報いてみせましょう。ですからどうぞお心安らかに、私たちを見守っていてくださいませ──」
声は掠れて涙にまぎれ、ろくに言葉らしい言葉にもならなかったが、それでも父に届いたことははっきりとわかった。胸の中に宿った父たちの光が、ぽっと熱さを増したからだ。
隣を見れば、やはり頬を濡らしてそれでも毅然とそこに立ち尽くすサファイラの姿があった。彼女の目にも決然とした意志がはっきりと見てとれた。
彼女には彼女への、自分とはまた異なる個別のメッセージがあったことは明白だった。
そっと視線をやってみれば、それはほかの弟妹についても同様だったようである。みんな一様に涙を流し、それでいてきっぱりと前を向く意思をあらわして棺の方を見つめている。
(まったく……父上ときたら)
考えてみれば、自分たちはリョウマ父上には必要以上に甘やかしてもらったと思う。エルケニヒ父上の方はそれよりは少し子らと距離を置くようにも見えたが、それでも非常な愛情を注いでもらえていたことは確かだ。
ただ不思議だったのは、リョウマ父上が少し体調を崩しがちになった頃から、一段と王族教育が熱を帯び、厳しいものになったことだった。これはローティアスのみならず、サファイラやそのほかの弟妹、さらにその子どもたちに対しても同様だった。
(つまり……これを計画されていたのですね。……食えないかただ)
次代を継ぐ者らに対する態度としては、当たり前の話ではある。もしも父に理由を問うていたなら、「今更なにを言うか」と叱責を食らうは必至だった。
ローティアスは気を失ったままのケントの体を座席にそっと寄りかからせると、前へ進み出た。すでに誰もいなくなった中央の棺の前に。
場にいる一同が──いや、配信を通じて、この場の状況を見守っているすべての者が──はっと息をのんでこちらを見つめてきたのが肌でわかった。
漣のように人々の意識や吐息がうねり、静まったのを感じとってから、ローティアスは口を開いた。
「皆の者! これにて偉大なる我が王、我が父、エルケニヒ魔王陛下、リョウマ王配殿下の葬儀は滞りなく終了した。みなも感じ取ったであろうように、両陛下はずっとわれらを見守ってくださることであろう」
「以降、この私、王太子ローティアスが父の跡を襲う。異議ある者は申し出よ」
しんと静まった広間の中に、ローティアスの声が朗々と響き渡った。
と、サファイラが近づいてきてローティアスのすぐ横に立った。
「迎えましょう、新たなる王を。異議なき者は、歓呼の声をもって応えるがよい!」
「おおおおおお!」
「わあああああ!」
次の瞬間、広間全体が大きく揺れた。
魔族の雄たけびが幾百、幾千と重なって響き渡る。中には翼を広げ、建物の中といわず空といわず、羽ばたき咆哮をあげる者もいる。
「うおおおおお!」
ローティアスも雄たけびをあげた。
そうして瞬時に転身を遂げ、窓から空中に飛び出した。
全身がぐっと巨大化し、真紅と金の巨大なドラゴンが上空に出現していた。
ドラゴンは咆哮をあげ、火を吹きながら城の上空を旋回する。
「魔王陛下、ばんざい!」
「ローティアス王、ばんざい……!」
新たな王を迎える歓呼の声は魔王城から全土へと響きひろがり、それからたっぷり一刻ほどもの間、地球全体をゆるがした。
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