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第三章 ゆれる想い
10 ※
しおりを挟む男の手は思ったとおり、人を抱くことにとても慣れていた。
アルファをベッドに下ろしてからは、そこまで体を包んでいた毛布を床の上にすべり落とし、アルファの感じやすい部分を見つけ出しては、何度も優しくゆっくりとそこを責めた。
耳朶、うなじ、首筋から鎖骨。胸の飾りは彼に何度も丁寧に舐め上げられ、歯を立てられてすっかり色づき、ぬらぬらと光って立ち上がり、彼を煽っているかのようだ。
はじめのうち、アルファはできるだけ声を抑えていたつもりだった。だが、そんなこともすぐに諦めることになった。それほどに、体じゅうを撫で、キスしてくれるベータの手や唇は巧みに過ぎた。
「すき……。すき」
いつのまにか、アルファは泣きながら、そう言うばかりになっていた。
こうして彼に抱いてもらえるのなら、むしろ邪魔な記憶なんて、いっさい戻らなくてもいいと思った。あの記憶が戻ってしまえば、そして例の「ひどく可愛くないアルファ」が復活してしまえば、彼はもう、自分を抱いてはくれなくなるかもしれない。
そうなるのは、恐ろしかった。
「は……! んんっ」
するりと両足のあわいに手を差し入れられ、固くなったものを撫でられて、アルファの腰がまたぴくんとはねた。
ベータはまだ、多少乱れているとはいってもほとんど先ほどと変わらぬ姿のままだった。だが生まれたままの姿のアルファの体にはそこらじゅう、可能なところにはどこにでも、思うさまに彼の印を落としていった。
今ではすっかり、アルファは足の力を抜いている。ベータの前にすべてを晒して、それはしどけなく横に開いているばかりだ。
「あ……ああ」
ぺろりとまた胸の飾りを舐められ、巧みに唇と舌で愛されて痛いほどだ。それだけでも足の間のものが悲鳴をあげる。自分では見えないけれども、恐らくそれはとっくに欲望の雫をたらして彼の腹の辺りにこすり付けられているはずだった。
「やあ……っああ――」
火のように熾った熱が、腰の中だけでせつなく暴れ狂う。それをまたあやすようにして、ベータの手がゆるゆると摩りあげ、アルファは思わず腰を振った。
「ああっ……んあっ」
と、ベータがあっというまにそれを咥えてしまい、アルファは驚いた。
「えっ? あ……!」
奴隷の身だった自分に対して、あの「主人」はそんなことはしなかった。むしろ自分で自分を慰め、それをじっくりと酒の肴にされたぐらいのことで。
もちろん、こちらはさんざんに「主人」のものに奉仕させられたけれども。
「あ、あ……だめ、そん――」
と思う間に、ベータは巧みな舌使いでアルファのものを愛しながら、そうっと後ろへと指を忍ばせてきた。
「ひっあ……ああっ……!」
前をあやされながら、内側へ突き入れられてまた腰がはねる。
「んっ、だめ……ベータ、そんな……の、だめえっ……!」
アルファが内側のどの場所でいい声をあげるのかを、ベータはあっさり見抜いたらしい。以降はこりこりするその部分を執拗に責めるかと思えば、急に逸らしてしばらく焦らされたりと、アルファはすべてベータの思惑どおり、しかし散々に自分ばかりが気持ちのいい思いをさせられてしまった。
「や、だめ……ん、ん……あん……あんっ!」
頭が蕩けてしまいそうだ。
声を我慢するなど、この時点でもう無理になっていた。ぐちゅぐちゅと、彼の指が内側の襞を翻弄してくる。
こんなことをされ続けたら、すぐに達してしまう。あまり早く達すると、あの「主」は不機嫌になって、「お仕置き」という名のさらにひどい扱いが待っていたものだった。
が、ベータはアルファが「だめ、だめ」と必死に首を横に振るのに構わず、唇と舌、そして指の動きを早めだした。
「あ、あ、あ……ああっ……!」
そうして呆気なく、彼の前で達してしまった。
しばらくその快感にもっていかれ、アルファは体を震わせてその絶頂を味わっていた。そうする間にベータはアルファのものを飲み下し、きれいに舐め上げ、さっさと次の準備を済ませていたようだ。
例の手袋にもなるスプレー・ゴムを手早く自分のものに掛け、たっぷりとジェルを塗りつけている。それを受け入れるべきアルファの場所は、すでに先ほどの時点で同じものをしっかりと塗りこまれていた。
とろりとした目で見上げると、野性味のある彼の顔が明らかな情欲を浮かべてこちらをじっと見下ろしていた。
しどけなく開いた足のその奥に、先端があてがわれる。
いいか、と訊かれた声がやはり情欲に掠れていて、アルファは震えた。
それは、喜びによる震えだ。あの「主人」の相手をさせられていたときとはまったく違う、本当に心から嬉しくて、泣きたくなるほどの奔流が起こす痛み。
こくりと頷き、おずおずと手を伸ばして、アルファは彼の体に抱きついた。
自分から、彼の腰に足を絡ませる。
「……きて」
かすかな声で囁いた途端、一気に体の奥まで貫かれた。
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