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第三章 ユーフェイマス宇宙軍
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しおりを挟むさて。
結論から言えば、タカアキラがその<鷹>なる人物に会うのは非常に難航した。なにしろそんな通り名のようなものしか分からない。まるで雲を掴むような話である。
しかし裏社会では、彼は確かに名の通った仕事人であるようだ。ここ数年のうちに急に有名になった人物で、年はまだ若いらしい。デビュー当初から殺しだけは請け負わないというふれこみだったが、交渉の成立した仕事についてはごく卒なくスピーディーにこなすのだとか。
「殺し以外で」という但し書きつきではあるが、仕事の内容は多岐にわたる。やんごとないご身分の方々の、表には出せない何かしらを秘密裏に盗んで――場合によっては「かどわかして」――くるだとか、逆に盗まれたものを取り返してくるだとか。そうしたことが、その主な仕事であるらしい。
<鷹>とは言うが、その正体を知る者はだれもいない。せいぜいが「男ではあるようだ」というぐらいのものだ。
『その男に依頼して、金になる仕事や情報を紹介、あるいは売ってもらうという方法がまずありまする』とマサトビは言った。
『ほかにも、指南代を支払ってそうした裏家業のやりかた、注意点等々を学ばせてもらうことも、可能であればぜひとも試しておかれては。なにしろ、殿下ご自身が手ずからなさるしかないのですし』
(とは言え。本人に連絡も取れないのでは――)
そこからしばらく、タカアキラとマサトビは件の<鷹>との連絡をつけるための方策を探すことに腐心した。そしてそれには、思った以上の苦労を伴うことになったのだ。
◆◆◆
結局、そこから二年を要した。
タカアキラはすでに十八になんなんとしていた。
ユーフェイマスとザルヴォーグとの長い戦争はまだ続行中であったが、その間タカアキラが戦場に出たことは一度としてなかった。
この第三方面軍は後方支援と周辺星域の治安維持を主な目的とした部隊であり、基本的に前線に出て行くことなどない。だからこそユーフェイマスも、スメラギに頼まれてしぶしぶタカアキラを配属させるとき、この部隊を選んだわけだ。
幸い故国スメラギにおいては、いまだあの凶事のことがあり、ナガアキラの后は選ばれていない。とはいえそろそろナガアキラも二十二である。いつまでもこのままという訳にはいかない時期に入っていた。
「殿下……あ、いえ、スメラギ少佐。どちらへ」
今日もまた、監視役の一人、ミミスリがあとをついてくる。
彼の自分への呼びかけは、何かの間違いなわけではない。実はあのあと勝手にどんどん階級を上げられて、今やタカアキラは少尉から少佐へと驚くべき昇進を果たしているのだ。佐官になったわけなので、今のタカアキラはあのホーガンと同じ、紺地の軍服に変わっている。
特になんの手柄があったわけでもないのに、これではわざわざ少尉から始めさせてくれと頼んだ意味がない。どうせこれも、ユーフェイマスのスメラギへのごますりの一環だろう。タカアキラは辟易するばかりだった。
上官であるホーガン大佐は「佐官になったのだからいい加減、部下ぐらい持て」と数名の下士官や下級兵を押し付けてこようとしたのだったが、「とんでもない。こんな『少佐』に誰がついてきましょうか」と、タカアキラが必死に固辞した。
そこからまたすったもんだがあったわけだが、結局これら警護の者ふたりだけが、一応いまのタカアキラの部下という扱いにされている。言うまでもないことだが、何もかもが異例の措置だった。
ミミスリはいつもタカアキラの斜め後方からついてくるのだが、同様に黒い長靴を履いていながらもほとんど足音をたてることがない。
「畏れながら、あまりお一人であちこち動かれませんよう。比較的平和な基地ではありますが、なにぶん躾のいい連中ばかりではありませんゆえ」
「わかっているよ。君がいるからこそ、こうして自由に歩けるのに決まっているさ」
にっこり笑って振り返れば、困った瞳に見返された。
このミミスリとは、初めのうちこそ互いの距離を測ってやや冷めた関係だったのだけれども、この二年弱でずいぶんとうち解けた。たまに冗談など言ってもまったく通じない真面目一徹といった朴念仁ではあるけれど、その態度や言葉はいつも真摯だ。器用ではないながら、どこか温かみを感じる狼男なのである。
それに加えて、なんといってもその狼としての素敵な容姿。スメラギ宮で犬や猫などを飼っていたということもあり、そうしたやわらかい毛のはえた生き物の大好きなタカアキラにとっては、だから彼はとても魅力的な人でもあった。
一度など、タカアキラがもう辛抱たまらなくなって「どうかお願い。少しだけでいいから、その耳や尻尾に触らせてもらえないだろうか」と拝み倒したところ、遂に触らせてくれたことさえある。いやもちろん、散々「いけません、殿下。そのような」と必死に固辞した挙げ句のことだ。
(あの時の彼の顔……!)
思い出すといつも、タカアキラは頬が緩むのを抑えきれない。
あれはまさに傑作だった。
恐る恐る触れてみれば、思ったとおりその耳はふかふかのもふもふで、生き物としてのあたたかな体温はまた格別だった。自分はそれを撫でながら、遂には彼の体を抱きしめて、ついつい頬ずりまでしてしまった。
まったくもって、幸せだった。
できることなら、そのまま眠ってしまいたくなったほどに。
その間じゅうずっと、ミミスリのふっさりとした尻尾は彼の尻のあたりでぱたぱたと嬉しげにはねまくっていた。どうも尻尾は、彼が必死におし隠そうとすればするほど、素直にその感情を表してしまうものらしい。
「殿下。いい加減にしておやり下さい。見苦しいぞ、ミミスリ。情けない」
脇で見ていたあのザンギの目の冷たさがまた、絶対零度に迫る勢いだった。
少し申し訳なかったのだが、あのいかつい体と嘴を持つかの男まで、「よしよし」と撫で回す趣味はタカアキラにはなかった。てっきり自分もして欲しかったゆえの不機嫌かと思っていたら、どうやらそうではなかったらしい。
最終的に、そのときはミミスリが「もうお許しくださいませ」と音を上げて、部屋から逃げていくことで一件落着した。
気のせいか、すこし前かがみになった姿勢で飛び出していった狼男を、鷲の顔の男はほんのわずか気の毒そうな目でちらっと見たものだった。そうして「殿下。ここだけの話ではございますが」と、思わぬことを教えてくれた。
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凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
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******
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お気軽にコメント頂けると嬉しいです
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