星のオーファン

るなかふぇ

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第五章 鷹の男

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 その単語を聞いた瞬間、体がすくんだ。

 「客」。

 いきなり耳朶に飛び込んできたその言葉は、そのままアルファの胸を冷たい槍で突きとおした。

 そうだ。
 今、自分は彼の客なのだ。
 自分は彼を、金で買った。そこには何の感情も介在しない。
 彼は自分を抱き、自分は彼に金を払う。それだけだ。
 それでもいいと、それでいいからこの男に抱かれたいんだと、そう思ったのは自分のほうだ。

(……しかし)

 いっそ今すぐ、彼を突き飛ばして「この話はなかったことに」と言うべきか。
 こんな風に冷えた心で、ただ体だけを繋げたところで何になる。きっと虚しくなるだけだ。
 しかし、彼の心まで欲しいんだなどと、そんな贅沢が言えるだろうか。
 あの子らを食い物にしてきた皇家で、たとえそれを知らなかったとは言え、のほほんと生きて来た自分のような人間が。

「アルファ。……どうした」

 ふと見上げると、ベータが少し体を離して、上からこちらを覗き込んでいた。その手がふっと伸びてきて頬に触れてくる。

「すまん。余計なことを言ったか」
「……いや。いいんだ」

 わかっていた。自分が今、ひどい顔をしているだろうということは。
 本当のことを言えば、今回の命令が下ったとき、アルファにはある種の予感めいたものがあった。あるていど年をとってから現れたものには大した精度はないのが普通だが、そう呼んでもいいならば、これもまた<恩寵>のひとつであったかもしれない。
 <予知>。敢えて呼ぶなら、そんな能力だろうか。
 自分はこの作戦であの基地を離れたら、恐らくこの男にはしばらく会えなくなるだろう。それも、単純に作戦期間中は戻れないということだけではなしにだ。
 なんの証拠があるわけでもないのに、脳の奥のほうから締め付けられるようにして「あの男に会っておけ」「最後になにか、受け取っておけ」と、誰かの囁く声が聞こえ続けている。

 そう思うなら、命令そのものに従わなければいいかと言うと、そういう訳にもいかなかった。先日のヒグマ男の一件もあり、上層部はいい加減、自分を手元に置くことに嫌気がさしているはずだ。こんな甘っちょろい命令にすら従わないなら、これ幸いとばかりになんのかのと理由をつけて宇宙軍は自分をスメラギへ送り返すかもしれなかった。恐らくはそのためにこそ、こうしてバカみたいにとんとん拍子に昇進させたのに違いないのだから。
 そうなっては、困るのだ。一度あそこへ戻されてしまえば、次にはいつ脱出が叶うかわからない。下手をすれば一生、あの星に監禁されてしまうかも知れぬ。オッドアイの子らのことを考えれば、せっかくこうしてベータと稼げるようになった今の状態を失うのは厳しかった。そしてなにより個人的に、彼と会えなくなるのは嫌だった。

 アルファは意識的に笑顔をつくった。
 本当は、堪えていなければ快感によるものでないぬるい雫が耳のほうへ落ちていきそうだったけれど。

「すまない。……つづけてくれ」

 腕をのばし、彼の首の後ろに回す。
 単純に金を介しての行為であればこんなことはしないのかも知れないが、どうせこちらは「世間知らずのお坊ちゃん」だ。だから分からないふりをして、まるで恋人がそうするようにして彼にキスをねだった。
 不思議なことに、ベータもそれを拒否しなかった。
 むしろ勘違いしそうなぐらいに優しい口付けが応えてくれる。

 そのまま指の動きも再開されて、アルファはそれ以上めんどう事を考えようとする意識を手放さざるをえなくなった。
 男は予告したとおり、じっくりと時間を掛けてアルファのそこをほぐした。長くて節のある固い指が、自分の中を丁寧になぞり、菊座をやわらかい場所に変えていく。こうした行為に不可欠なジェルは体温程度にあたためられていて、あのヒグマにされた時のように冷たさに驚くことすらなかった。
 異物感がまったくなかったわけではないが、ベータはそのあいだ何の躊躇もなくアルファの前のものを咥えこみ、唇と舌とで絶妙な技を使ってうまくこちらの気をそらせてきた。
 先を尖らせた舌に突かれる。
 裏筋をねっとりと舐め上げられる。
 頬裏で全体を擦りたてられる。

「ひいっ……あ、ああ!」

 痺れる。
 おかしくなる。
 もう何も考えられない。

「あっ、……あ、あんっ……あんっ」

 くにくにと長い指先で内側のとある場所を刺激されると、前へ直接、電撃のような快感が走る。
 思わず腰を突き上げると、ベータが喉奥でまた笑った。

「ここが気持ちよさそうだな。もう少し待て。あとで存分に突いてやる」

 わざとその部分に息を吹きかけるようにして囁かれる。湿った場所がひやりとして、おこりたった体の中心が悲鳴をあげた。

「や……いや、だ」

 だめだ。
 待てない。
 早く、突いて。
 そこをお前のもので……めちゃくちゃに。

 体のほうは口よりもはるかに正直で、気がつけばアルファは両足を大きく開いた格好で、起き上がった彼の腰に自分のその部分を押し付けるようにして尻を振りたてていた。

「……煽るな。この野郎」

 野性味のある声が、間違いなく情欲に揺れている。それが嬉しい。
 彼が、こんな自分の体を欲しいと、少しでも思ってくれているなら。

「はや、……く。ベータ──」

 言った瞬間。
 灼熱そのものになった彼自身が、アルファを奥の奥まで貫いた。

「くあ……っ! ああ、あ──っ……!」

 あとはもう、彼の為すがままだった。ベータは何度もアルファをかせ、アルファの達する顔をしばらく堪能してからは、体位を変えては何度もアルファのそこを愛した。
 膝裏を抱え上げられ、子供に用を足させるような格好で下から突き上げられて、アルファはもう、自分でも何を叫んでいるのか分からないほどに甘い悲鳴をあげつづけた。

「やはっ……あ、ああん、あんっ……あん、ベー……ふわぁんっ」

 足の付け根が悲鳴をあげる。それでもベータのぬき挿しは激しいまま、とどまるところを知らなかった。彼とつながったその場所は、淫靡な水音を響かせつづける。
 彼のものはアルファの体の奥の奥、届くかぎりに深いところまでを暴きたて、また新たに快感を覚える場所を開拓してゆく。

 最後に、もうそれで何度目になるかも分からない欲望を吐き出してくたりとベッドに沈んだのと同時に、アルファは自分の意識を手放した。
 それでもまだ、自分のそこは物欲しげにきゅんきゅんと彼のものを締め付けていたらしい。
 意識の遠くで彼が苦笑して、「眠っても、まだこれか」と言ったのがやっと聞こえた。

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