星のオーファン

るなかふぇ

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第七章 大海戦

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 一週間後。
 アルファは「一緒に来てほしい場所がある」とだけ彼に伝えて、自分の小型艇で彼を迎えに行った。もっと渋るかと思ったのだが、意外にも彼は素直で、あっさりとアルファの小型艇に乗り込んできた。
 アルファはそのまま、一路、あの惑星オッドアイを目指した。

 二つの色に塗り分けられた惑星を目にして、ベータは軽く鼻を鳴らし、目を細めて隣に座るアルファを見やった。気のせいかもしれないが、その様子はほとんど、この惑星の何たるかを知っているようにも見えた。
 いや実際、彼は知っていたのだろうと思う。あの時、二度目に彼に会った日に、恐らくすでにアルファの正体も、この惑星のことを含むその背後関係等々についても、彼の豊かな情報網で調べつくしていたのに決まっているのだから。
 アルファもそう思ったからこそ、事前のレクチャーもいっさいなしに彼をここへ連れてこようという気になったのだ。

 オッドアイのこの小島には、今、花散る季節が到来している。島の中心部、遠目に見える湖をとりまく岸辺のあたりには、木々の枝がほわほわと薄桃色にけぶって、かすかに甘い花の香りがするようだった。
 故郷の面影のほとんどないこの島に、アルファとマサトビが子供たちのためにと敢えて植えた木々である。さくらと呼ばれるこの木が春に咲かせる桃色の花を、スメラギびとたちはいにしえより愛してきたといわれている。満開の時期が短く、あっというまにはかなく散ってゆく姿がことのほか美しいのだと。

「で? ここは何なんだ」

 仏頂面で小型艇から降り、一応は素直にあとからついて来ながら、「まあ形だけでも訊いておくか」と言わんばかりに男が尋ねた。が、その質問は残念ながら、いつものようにすぐに駆け寄ってきた子供たちの歓声によってかき消された。

「アレックス!」
「おかえり、アレックス……!」

 嬉しげにアルファを取り囲んでにこにこしていた子供たちは、しかし、アルファの背後で怪訝な顔で立ち尽くしている長身の男を見ておびえる様子を見せた。
 小さな子供たちは特にそうで、アルファのスーツの袖だの裾だのに取り付いて、下からじっと男を観察しているようだ。

「この人、だあれ……?」
「ああ、ごめんね。紹介するよ。彼はベ──」
 と言い掛けてちょっと考え、言いなおす。さすがにここで、コードネームを使うわけには行かないだろう。
「……ブラッド、だ。私の仕事仲間なんだよ」
 もちろん、背後の彼へ「話をあわせろ」と目配せすることも忘れない。ベータは分かったのかどうなのか、表情も変えずにあらぬかたを見やっているばかりだ。

「しごとなかま……? グンジンサン?」
「ああ、ええっと……そうではないんだけど」
 困って言いよどんだところで、するりと当の男から助け舟が入る。
副業バイトでちょっとした『なんでも屋』もやってるんだ。俺はまあ、その仕事仲間兼、師匠みたいなもんだな」
「ふーん……」

 子供たちがまじまじとベータを上から下まで眺めるようにした。
 その目がまだ胡散臭いものを見る様子なのを見てとって、ベータが苦笑する。

「この髪や目の色がそんなに不思議か? 宇宙ではこんなもの、どこにでも普通にあるぞ」
「え、そうなの?」
 男は自分の蜂蜜色の髪を指先で弄ぶようにしながらにやりと笑う。
「この程度なら、そんなに値も張らないしな。ちょっとした街に行けば大抵、専門の医療機関がすぐにやってくれるさ」
「へええー!」
 子供たちが目を丸くした。

(……やっぱりな)

 アルファは心ひそかに納得した。
 ベータは今、スメラギに特有のとある言語で、ごく自然に子供たちと話をしている。これこそが、彼の出自に関してアルファが見たものが単なる妄想ではなく、真実なのだということを証ししていた。
 そのことはまだ少し、アルファの胸に先日の鋭い痛みを思い出させた。

 と、子供たちのうち、ちょうど真ん中あたりの年かさの子が一歩ベータに近づいた。
「目や髪って、黒ばっかりじゃないんだ……?」
「ああ。逆に、青い目や緑の目を、お前たちのように黒にすることだってできるぞ」
「わあ、そうなんだ!」
「肌の色だって、本当にいろいろある。こういう白っぽい色でなしに、もっとずっと日焼けしたときの色に近いものから、それよりずっと黒いものもな」
「へー。おもしろーい」
「ねえねえ、じゃあ、あたしのも? あたしの目も、おにいさんみたいなキレイな青い色になる……?」
「ああ」
「わあ! すてきー!」
「やってみたーい!」

 思わずベータが苦笑したようだった。
「安いとは言ったが、タダじゃないからな」
 子供たちの無邪気さにつられたのか、それはいつになく優しい笑顔に見えた。
 小さい子供たちがうまく彼の話に食いついているのを見て、「よし、いいぞ」と思いながらアルファも話に参加した。
「そうだよ、ヒノエ、マユ。それどころか宇宙には、犬や猫みたいな動物の顔や体をした人もたくさんいる」
「ええーっ? 本当?」
「本当さ。軍隊で私と一緒にいる部下たちは、オオカミの顔だったり鷲の顔だったりするんだよ。オオカミの人にはふさふさの尻尾が生えていてね。さわるととっても気持ちがよくって……」
「へええ!」
「軍隊じゃないけれど、この間なんて、とっても可愛いパンダの男の子に会ったんだよ。ふかふかしていて、手も足も黒い毛が生えて、ぽてっとして大きくてね。肉球がまだとってもやわらかくて。本当に可愛かったんだ……」
「わあっ! 本当? いいなあ、アレックス……!」
「ぼくも、ぼくも会いたかったあ!」
「あたしもー!」
 
 ここでとうとう、目をきらきらさせて他の大きな子たちも話に加わった。そこからしばらくは様々な獣の姿をした人々のことについて話に花が咲き、二人はそのまま子供たちの住処すみかのほうへと皆と一緒に歩いていった。

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