星のオーファン

るなかふぇ

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第七章 大海戦

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 かくして。
 エリエンザ中尉の報告通り、翌日の適時をもってユーフェイマスとザルヴォーグとの長きにわたる戦争のなかの一幕が、切って落とされることとなった。
 普段から互いの領海を接する各星域での小競り合いは繰り返されてきているのだったが、そうした圧力の極まるところ、時々にこうした大きな海戦が行われる。その戦果によって両陣営はとある星域の権益を得たり、手放したりを繰り返すのだ。

 今回、ユーフェイマスでは大型戦艦百数隻とそれを守る重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦等々、合わせて五百隻の宇宙戦艦がこの星域にひしめくこととあいなった。
 補給医務艦ミンティアの艦長スメラギ少佐に課せられた任務は、戦闘中、それら艦隊からの要請を受けて救護者を受け入れ、治療にあたること、および可能な限りエネルギーチャージ用の鈍重な補給専門艦をひきつれてその背後に回り、補給作業に従事することである。

 救護者の受け入れについては、戦闘中の宇宙空間を飛行艇等々で動き回るなどといった危険なことはせず、それぞれの艦に備えられている異空間移動装置ジャンプ・システムによって人員や物資の移動を行うこととなっている。
 具体的にはエア・カー一台ぶんほどの移動装置に座標設定等をして、怪我人や物資を相手艦との間でやりとりするのだ。とはいえあまり遠距離になっては不具合が起こりやすい代物なので、ミンティアは要請のあった艦にできるだけ接近し、移動装置の起動中はその場からあまり動かないことを旨とする。

「いよいよだな、エリエンザ中尉。なにぶん、よろしく頼むよ」
「は。万事、お任せくださいませ。スメラギ艦長」

 ウミウシ顔の女が才媛そのものといった声音でしれっと答える。「あなたはそこで大人しく座っていればいいのよ」と言わんばかりだ。第一艦橋指令室の艦長席で、アルファは思わず苦笑した。

「君のお手並みを拝見させていただこう。艦長とは言いながら、私はこれが初陣だ。せいぜい勉強させてもらうよ」
「恐れ入ります」

 才媛の声音は終始一貫、冷静沈着そのものだ。
 背後では相変わらず、ミミスリが渋い気を発している。
 前方の空中に浮かんだ巨大モニターでは、前線のほうでこの大海戦の火蓋ひぶたが切って落とされたことが点滅する艦船記号やコード番号によって表示されている。ごく遠くの空間で、きらきらと膨大なエネルギーの束が真っ黒な宇宙空間を音もなく行き交っていた。とはいえそれも、ここからでは針がキラキラ光っているようにしか見えない。
 さっそく、モニター監視をしていた士官たちが報告を上げ始め、ミンティアもそれに従い、艦隊後方へ回り込む動作に移った。





 一日目の任務は比較的滞りなく終了し、ミンティアは一旦ほかの補給艦と交代し、艦隊のずっと後方へさがった。
 ここまでの戦況は、おおむね五分五分というところらしい。とはいえ、こんな遠くから艦隊全体の動きを観察しているだけでは何がわかるということでもなかった。単に優秀な補佐官エリエンザがそう報告したからわかっただけの話である。
 その間、ミンティアは数百名にのぼる負傷兵を受け入れて治療にあたり、補給物資を艦隊のあちらこちらへ配って歩いた。エリエンザの手腕は終始鮮やかなもので、刻一刻と変わる戦況にも顔色ひとつ変えず──とはいえ、彼女の顔色なんてアルファにはさっぱり判別不能だが──部下らに過不足のない指示を飛ばし、必要最小限の労力と時間をもって本日の任務を遂行してくれた。

「では皆、ご苦労だった。手の空いている者からなるべく休憩に入ってくれ。私も一旦戻らせてもらう」
「は。おやすみなさいませ」

 アルファは一通りの報告を聞き終えてその場の皆にねぎらいの言葉を掛け、一日座りっぱなしだった艦長席から立ちあがると、私室に戻ろうとした。ミミスリとザンギが音もなく従ってくる。いつもと変わらぬ光景だ。

(……しかし)

 ここしばらく、アルファはずっと不思議な違和感を覚えている。それも、ほかならぬ背後に立つこの二人のことでだ。
 二人の態度はいつもとまったく変わらない。いや、この戦場にあって、むしろいつもよりも落ち着き払っているようにさえ見える。あのエリエンザへの不快感は示したものの、ほかの点ではいつもよりもはるかに落ち着いて行動しているようにしか見えない。
 しかし。

(なんだろう)

 何か、ずっと奇妙な胸騒ぎがしているのだ。
 ミミスリもザンギも、何も言わない。言わないが、その胸の内側に何かを抱え込んでいるような、そんなある種の重さを感じる。いつもであれば軍人としての厳しさを伴いつつも、清涼な風のようなさわやかさを併せ持つ精神を備えたふたりだというのにだ。
 わかりやすい言葉で言えば、それは「悩み」とでも言うべきものだろうか。こんな特殊な仕事をする軍属の人間としてはちょっと不釣り合いな単語ではあるのだが、そうとでも表現するより仕方がない。

(なにか、あったか……?)

 本来、<感応>の<恩寵>もちの自分ならば、彼らの内面をこっそりと覗き見ることは不可能ではない。彼らにもその能力はあるけれども、それはスメラギの皇子たる自分とは比べ物にならないほどささやかな程度のものに過ぎない。だから、こちらが彼らの心を調べようとさえ思うなら、それは可能なのだったが。
 そんなことは、したくなかった。
 ミミスリにも、ザンギにも、それぞれに個人的な事情があることはわかっている。彼らは愛する妻子をスメラギに人質として取られ、その命令に逆らうことは決して許されない立場だ。こうしてアルファのお目付け役兼護衛として働くことも、上からの命令によっておこなっていることなのだから。

(どうしたものか)

 いつも通り、にっこりと二人に笑いかけて部屋に入りながらもアルファは考えている。
 もしも、彼らのどちらか、あるいは両方がこの戦闘中に何かをするようにと上から命令を受けていたなら。そして、そのことで心を苦しませているのなら。
 自分には、何もしてやれることはないのだろうか……?

 と、ちょうどそんなことを考えていたその時だった。
 頭の中で、真面目一筋といった覚えのある声音がひそやかに語りかけてきたのである。

《殿下。……少し、よろしいでしょうか》

 それは、灰色狼の姿をした側近、ミミスリの声だった。

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