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第八章 漂流
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(そういう、ことか──)
にやつきながら繰り出されてくるそんな蜥蜴の男の思惑をあますところなく聞き取って、やがてアルファは絶望した。
この男が自ら「皇子殿下を発見しました」と、ユーフェイマスに自分を連れていく目などないのだ。このまま好きなだけアルファの体を玩弄し、その挙げ句にはバラバラにして、臓器売買ルートにでも乗せようというのだろう。
それまではただただ自分は、この気色の悪い蜥蜴の男に好き放題に犯され、調教されるだけなのだ。
どうしようもない。どうやっても、逃げる目はない。
とはいえそれでも数十日は、アルファとしての意識のあるままどうにかその地獄の日々を生き抜いたのだったけれど。
「いっそ死にたい」とは、正直思った。
しかし、それは許されるだろうか。
あの<燕の巣>から生み出された子供らは、これよりも遥かに酷い仕打ちを受けたはずだ。犯されるなどは当然のこと、さんざんに怪しからぬ「奉仕」を強要され、その身を端から切り刻まれて。
かれらはどんなに泣き叫んだろう。自分の主人となった者らに「許してください」と頼んだだろう。彼らの哀願に応えるものは、だれひとり居なかったのに違いない。そうしてただただ、小さな体を犯されて。
あの子たちには、逃げる場所すらなかったのだ。頼る人も居なかったのだ。
そう、あのベータがそうであったと同じように。
だというのにこの自分が、おめおめと死に逃れようとしてもいいものだろうか。
「否」と理性の声は答えた。
しかし本能の底の底では、「それでも耐えられない」と、「できればここから逃げ出したい」と叫ぶ、脆弱な自分が確実にいた。
ゴブサムは「そんなにいきなり突っ込まれるのがつらいと言うなら、自分で好きにほぐすがいいさ」と、しばしばアルファをベッドの上に放置した。そうしておいて、そちらに足を開いてアルファがみずからその場所をほぐすところを酒を片手にじっくり眺める。それもまた、おつな酒の肴だというわけだ。
それ専用の怪しからぬ器具を与えられ、秘められた場所に自ら挿れてアルファが羞恥に唇をかみしめ身をよじる姿の一部始終を、男はにやにやとさも楽しげに見守った。
(……情けない)
いや、情けないというにも余りあることだった。
誇り高きスメラギの皇子ともあろうものが、こんなところで人前に恥部のすべてを晒して、まるでその行為を待ちわびるようにして秘奥をほぐさせられるのだ。それを酒のつまみにされ、やがてはまた、そこを散々に犯されるために。
にやにやと下卑た声で「尻に突っ込まれたくないのなら、自分の口で愉しませてみろ」と言われ、蜥蜴の男の凶悪な大きさのそれを必死に舐めさせられたこともすでに一度や二度のことではなくなっている。
しかしもちろん、アルファ自身、自分で死ぬこともできなかった。
自死をちらりと考えに乗せるだけで、またあの忌々しいナノマシンがこちらの思考を混乱させるかのようにすさまじい痛みを与えてくる。あれが始まると、もう何も考えられないのだ。
そうしてやがてはナノマシンは、その宿主を身も心も完全なゴブサムの奴隷にしてしまうのだろう。人道上、ありうべからざる代物ではあるが、この闇の社会ではこうしたものが当然のようにまかり通っているらしい。
まさに八方塞がりだった。
(どうすればいい。どうすれば──)
死んではならない。
どうにかして、生き延びねば。
ベータも言ったではないか。「地べたを這いずり、泥水をすすっても生きようとしない奴のことなど知らん」と。生きる目的があるのなら、どうしても守らねばならぬものがあるのなら、どんなことをしても生き抜けと。
(しかし……)
そうは言ってもこのままでは、いずれ自分の自我は崩壊してしまうだろう。
それこそナノマシンなど無用のような、生ける屍の奴隷となり下がってしまうだろう。
それではたとえ生き延びても、あの子らを救うことは叶わない。
そんな自分が生き残っても、彼らの力にはなれないのだ。
(どうすればいい。私はいったい……!)
もう数えきれないほどに犯されて、またその傷ついた体を治療するために医療用のカプセルに放り込まれ、アルファは必死に考えた。
周囲では例の白衣を着た男女があれやこれやと機器の調整をしているのが見える。彼らは最初のときから終始一貫、アルファを「もの」としてしか扱わなかった。こちらに人としての人格があるなどと思ってしまえば、とてもこんな仕事は続けられるものではない。彼らの前にはこの以前にも、自分のようにゴブサムの玩具になって、壊れ果てていった数多の者がいるらしかった。
おそらくはそう、あのベータの幼き頃のような子らが。
(ベータ……)
その時。
恰も天啓のようにして、その考えがアルファを打った。
(そうか、ベータ……!)
にやつきながら繰り出されてくるそんな蜥蜴の男の思惑をあますところなく聞き取って、やがてアルファは絶望した。
この男が自ら「皇子殿下を発見しました」と、ユーフェイマスに自分を連れていく目などないのだ。このまま好きなだけアルファの体を玩弄し、その挙げ句にはバラバラにして、臓器売買ルートにでも乗せようというのだろう。
それまではただただ自分は、この気色の悪い蜥蜴の男に好き放題に犯され、調教されるだけなのだ。
どうしようもない。どうやっても、逃げる目はない。
とはいえそれでも数十日は、アルファとしての意識のあるままどうにかその地獄の日々を生き抜いたのだったけれど。
「いっそ死にたい」とは、正直思った。
しかし、それは許されるだろうか。
あの<燕の巣>から生み出された子供らは、これよりも遥かに酷い仕打ちを受けたはずだ。犯されるなどは当然のこと、さんざんに怪しからぬ「奉仕」を強要され、その身を端から切り刻まれて。
かれらはどんなに泣き叫んだろう。自分の主人となった者らに「許してください」と頼んだだろう。彼らの哀願に応えるものは、だれひとり居なかったのに違いない。そうしてただただ、小さな体を犯されて。
あの子たちには、逃げる場所すらなかったのだ。頼る人も居なかったのだ。
そう、あのベータがそうであったと同じように。
だというのにこの自分が、おめおめと死に逃れようとしてもいいものだろうか。
「否」と理性の声は答えた。
しかし本能の底の底では、「それでも耐えられない」と、「できればここから逃げ出したい」と叫ぶ、脆弱な自分が確実にいた。
ゴブサムは「そんなにいきなり突っ込まれるのがつらいと言うなら、自分で好きにほぐすがいいさ」と、しばしばアルファをベッドの上に放置した。そうしておいて、そちらに足を開いてアルファがみずからその場所をほぐすところを酒を片手にじっくり眺める。それもまた、おつな酒の肴だというわけだ。
それ専用の怪しからぬ器具を与えられ、秘められた場所に自ら挿れてアルファが羞恥に唇をかみしめ身をよじる姿の一部始終を、男はにやにやとさも楽しげに見守った。
(……情けない)
いや、情けないというにも余りあることだった。
誇り高きスメラギの皇子ともあろうものが、こんなところで人前に恥部のすべてを晒して、まるでその行為を待ちわびるようにして秘奥をほぐさせられるのだ。それを酒のつまみにされ、やがてはまた、そこを散々に犯されるために。
にやにやと下卑た声で「尻に突っ込まれたくないのなら、自分の口で愉しませてみろ」と言われ、蜥蜴の男の凶悪な大きさのそれを必死に舐めさせられたこともすでに一度や二度のことではなくなっている。
しかしもちろん、アルファ自身、自分で死ぬこともできなかった。
自死をちらりと考えに乗せるだけで、またあの忌々しいナノマシンがこちらの思考を混乱させるかのようにすさまじい痛みを与えてくる。あれが始まると、もう何も考えられないのだ。
そうしてやがてはナノマシンは、その宿主を身も心も完全なゴブサムの奴隷にしてしまうのだろう。人道上、ありうべからざる代物ではあるが、この闇の社会ではこうしたものが当然のようにまかり通っているらしい。
まさに八方塞がりだった。
(どうすればいい。どうすれば──)
死んではならない。
どうにかして、生き延びねば。
ベータも言ったではないか。「地べたを這いずり、泥水をすすっても生きようとしない奴のことなど知らん」と。生きる目的があるのなら、どうしても守らねばならぬものがあるのなら、どんなことをしても生き抜けと。
(しかし……)
そうは言ってもこのままでは、いずれ自分の自我は崩壊してしまうだろう。
それこそナノマシンなど無用のような、生ける屍の奴隷となり下がってしまうだろう。
それではたとえ生き延びても、あの子らを救うことは叶わない。
そんな自分が生き残っても、彼らの力にはなれないのだ。
(どうすればいい。私はいったい……!)
もう数えきれないほどに犯されて、またその傷ついた体を治療するために医療用のカプセルに放り込まれ、アルファは必死に考えた。
周囲では例の白衣を着た男女があれやこれやと機器の調整をしているのが見える。彼らは最初のときから終始一貫、アルファを「もの」としてしか扱わなかった。こちらに人としての人格があるなどと思ってしまえば、とてもこんな仕事は続けられるものではない。彼らの前にはこの以前にも、自分のようにゴブサムの玩具になって、壊れ果てていった数多の者がいるらしかった。
おそらくはそう、あのベータの幼き頃のような子らが。
(ベータ……)
その時。
恰も天啓のようにして、その考えがアルファを打った。
(そうか、ベータ……!)
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