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第五章 月下哀艶
5 ※
しおりを挟む「今夜は、こちらで……させて欲しい。……ダメだろうか」
「…………」
ベータが驚いたように目を瞠った。
それと同時に、彼のスラックスの前の部分がこれまで以上にぐっと上に持ち上がったのが分かった。
「本気か、お前」
「ああ。もちろん」
アルファは静かに笑って見せた。
「以前、記憶を失くしていた時には拒否されてしまったけれど。……今なら、構わないだろう? 私が私の意思で、そうしたいと言っているのだから」
言いながら、そうっとその盛り上がりに手を触れる。そうするとまた、それはぐっと力を増したように思えた。とても熱い。布の上からでも、その硬さと熱は十分に伝わってきた。
「お前……」
ベータがじっとこちらを窺うような目で見下ろしてきた。
「あの時の記憶は、ちゃんとあるのか?」
「ああ……。まあ、一応は」
アルファは少し微笑んで、彼のベルトに手を掛けた。
「ただ、あのゴブサムの所にいた間のことは今でもかなり朦朧とはしてるんだ。私自身、敢えて思い出さないようにもしているし」
「それは……その方がいいだろうな」
なんとも言えない色になったベータの声に、アルファは苦笑してうなずいた。
本当のことを言えば、あの酷い記憶は決して自分から去ってくれてはいない。幸いにして特殊な<恩寵>を賜ったおかげで明瞭に思い出すことだけは避けられているが、それでも夜にはいまだに時おり悪夢に苛まれているのだ。
悪夢といえば、いつも同じだ。
あの淫魔そのものの蜥蜴の男が「お前に救いなどあるわけがないだろう」と下卑た笑いを浮かべて、己が玩具たる自分を好きなように犯す夢。
何度も、何度も。
自分は夢の中で、何度絶望しただろう。
何度この男に、叶うはずのない救いを求めてしまっただろう。
「どうした」
黙ってしまったアルファを見下ろし、ベータが怪訝な顔になった。
「ああ……うん」
アルファは軽く首を振って彼のベルトを外し、スラックスの前立てをくつろげた。そのままジッパーを軽く歯で噛み、器用に下へと開いていく。
「……ん」
盛り上がっている下着の上からそうっとそれにキスをして、まるで猫がそうするようにすりすりと鼻先をこすりつける。男の匂いが濃厚になる。アルファはうっとりと目を閉じた。
布の上から丁寧にその形をなぞるようにして口づけを施していき、その布にじわりと湿り気を感じてから引き下ろす。
「すごいな……やはり」
隆々と目の前に立ち上がった赤黒く猛々しいそれを見つめて思わずため息をつくと、男が苦笑したようだった。
「それはどうも。……無理しなくていいんだぞ」
「いや、いい。問題ない」
それから舌を差し出して、アルファはそれを根元からまた丁寧に舐め上げた。浮き出た筋をなぞり、くびれの谷間の形を確かめるようにゆっくりと舌を這わす。
「……ん」
噛みしめた歯の間から男が艶めいた吐息を漏らして、アルファは少し安心した。
よかった。
ちゃんと感じてくれているようだ。
先端から滲みだしてくる欲望の先触れを、尖らせた舌先で丁寧に掬いとっていく。
……男の味がする。
割れ目をちろちろと舌の先で刺激してみると、どくりどくりと脈打つそれが、また力を増したようだった。
頃合いと見て、アルファは大きく口を開け、彼のものに両手をそえてそれをくぶりと咥えこんだ。唾液と彼の先走りとで十分に滑らせてあるので、頬の裏で刺激しながらごくスムーズに口内へといざなってゆける。
このあたりの技術のすべては、あの蜥蜴男に仕込まれたものだ。そう思えば痛みを覚えないわけではないけれど、それがこうしてこの男を悦ばせる縁になったのなら、何も悪いことばかりではなかった。今は素直にそう思う。
ぐちゅ、ぐちゅと彼に聞かせるようにわざと高めに水音を立て、その剛直を持てる技の限りを使って愛撫する。ぎゅっと吸い上げたかと思うと小刻みに顎を動かしてまた違う刺激を。大胆にぎゅうぎゅうと吸い上げたかと思えば、つぎは焦らすように軽い刺激を。
喉奥をこんこんと先端につつかれてつい嘔吐感を覚えるが、うまく場所と意識をそらすことももう覚えている。
「んっ……!」
甘さの混じった男の声がして、がしっと頭を掴まれた。
「反則だぞ……お前。そんな顔をして、こん……っん!」
彼の声が、すこし艶をもって掠れている。目だけでちらりと見上げれば、ベータは射精感を堪えているのだろう、ひどく色気のある表情で奥歯を噛んでいるように見えた。
感じてくれているのだろう。
それがひどく嬉しかった。
アルファは彼の言葉には構わずに、舌と口の動きを速めた。
(ああ……欲しい)
本当は、これを自分の内奥に突き入れて、めちゃくちゃにかき混ぜて欲しい。声も掠れ切ってでなくなるまで、一晩中突き上げてもらいたい。
この硬くて素敵な形をした先端が、自分のあのイイ場所を存分に突きまくってくれたなら──。
口で彼のものを愛撫しながらどうしてもそのことを夢想してしまい、体の奥がひどく疼いた。しかし、本当にそんなことをしてしまったら、せっかくの<隠遁>は間違いなく消失してしまうだろう。あの鋭い耳と鼻をもったミミスリがあっという間にそれを嗅ぎ取って、事態を正確に把握してしまうに違いなかった。
と、アルファの頭を握る手にさらにぐっと力がこもった。
「……はなせ、アルファ……っ」
もちろん、アルファは放さなかった。逆にもっと深く彼のものを咥えこみ、来るべきものを待ち構えた。
「おい……!」
次の瞬間。
彼のものが爆発し、その欲望を一気にアルファの喉奥へと放出した。
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