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第五章 月下哀艶
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彼のものが爆発し、その欲望を一気にアルファの喉奥へと放出した。
青臭い男のものが口内に充満する。
アルファはそれをこくりと飲み下し、残りもなるべく零さぬように飲み込んでから、彼のものを丁寧に舐めた。
「ん、んく……」
まだ力をもっているそれの先端をちゅう、と吸う。愛おしくてたまらない。
これで今すぐにも体の奥を暴いて欲しいのは山々だけれど、それをぐっと堪える代わりに丁寧に丁寧にそれを舐めとってきれいにした。
最後にはきちんと下着とスラックスも元通りにし、指先でそっと自分の口元を拭って彼に微笑みかける。
「……ありがとう」
言ったらすぐさま変な顔をされてしまった。
「それを言うのは、俺だろう。つくづく変な皇子サマだな」
「そうかな?」
ちょっと首をかしげて見せたら、ぐいと脇の下に両手を入れられ、あっさりと体を持ち上げられた。そのままベータの膝に馬乗りの状態になってしまう。
「え? 何を──」
困惑していると、少し抱き寄せられて耳元で囁かれた。
「で、お前はどうするんだ」
「え……?」
するっとその手がアルファの尻の谷間へと滑り降りる。反射的にアルファの腰がびくっと跳ねた。
「っひゃ……!」
「やっぱり、ひくついてるじゃないか」
その手がさわさわと布の上からあらぬ場所を探り、男はふ、と吐息を漏らした。
「ここも前も、こんなだぞ。こんなので我慢できるのか? 皇子サマ」
「ベ、ベータ……!」
耳のあたりがかっと熱くなって、アルファはどぎまぎする。
「な……にを、言ってる──」
だから、<隠遁>が解けてしまうと言っているのに。
お前に最後までされてしまったら、とてもじゃないが気を集中させられなくなってしまう。このぐらいのことならともかく、体の奥を思うさま突き上げられながら<恩寵>を使うなんて芸当は、土台無理な話なのだから。
と、彼の手がするっと前に回り込み、アルファの足の間のものを優しく撫でた。
「っあ……!」
びくんと体を跳ねさせてしまう。
彼に言われるまでもない。すでにアルファの前も後ろも、せつないほどに欲望を主張しきっている。
「ん、……だめ……ベ、ベータ……んっ」
手のひらで包み込むようにしてすりすりと愛撫されるだけで、腰がゆらゆら揺れてしまう。息があがり、目じりにじわりと涙が溜まった。すかさずそれをぺろりと舐め取られる。
「何が『ダメ』なんだ? あっちもこっちもこんなにひくつかせて、腰を振っていたんじゃ説得力なぞ欠片もないぞ。ん?」
「や、……や……っあ!」
親指で先端をぐりぐりいじられると、悲鳴のような喉声を上げてしまった。そこからじわじわと下着とスラックスを濡らし始めたものの感触を覚えて、アルファの意識は羞恥に染まる。
確かにあの蜥蜴の男によってあらゆる快楽を教え込まれた卑しい身体ではあるけれど。誰の手でされたとしても、これと同じ反応になるんだなんて思われるのは嫌だった。
(お前の……手だから)
お前だからこそだ。
お前以外の誰にされても、決してこんな風になるものか。
「悦がれ」と命ぜられて、あのナノマシンで命を盾に取られていたからこその様々な演技だった。少しでも早くあの地獄から逃れ出たくて、必死に「悦がる」ふりをした。
「や、……っは、あ、ああ……っ」
そんな気持ちとは裏腹に体はとても正直だった。男の体のどこをどうしたら気持ちがいいかを知り尽くしたベータの手に掛かってしまえば、アルファの体は呆気なく白旗をあげるばかりだ。
アルファの目にまた、意味の違う涙がじわりと浮かんだ。
(……イヤだ。こんな──)
こんなに無様に、すぐに嬌声など上げてしまって。
彼だから、彼だからこそこうなるんだと伝えることもしていないのに。
汚れた体の隅々を、彼に暴かれるなんて──。
だからそれは、ほとんど本能的なものだった。
「アルファ──!?」
気が付けば、アルファは男の手からまた身を引き抜き、離れた砂浜の上に立っていた。が、すでに快感に煽られきってじっと立っていることはできず、すぐに砂地に膝をついてしまう。
と、ベータが驚いた顔で周囲を見回した。その目とすぐに目があわず、それで初めてアルファは気づいた。自分がいつのまにか自分の周りだけに、あらためて<隠遁>を発動させていることに。
別に深い意味があったわけではない。単純に「恥ずかしい」と、「こんな私を見ないでくれ」と、ついそう思ってしまったがゆえのことだった。
だが。
次の瞬間、ベータの瞳があの時のように真っ赤に光った。
「お前……ッ!」
(えっ──)
その瞳を見たとき、アルファは知らず、背筋をぞっと駆け抜けるものを覚えた。
それはずっとずっと昔、あの宮中でも見たことのある瞳だった。
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