【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第一部 トロイヤード編 第七章 ふたつの月

7 約束(2)

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「ま、要するに『やらかした』ってことだよ、俺が。……まあ、その辺りは察してくんな」

 そんなことを、何のこだわりもない表情でさらりと言う。鳶色とびいろの瞳も笑ったままだ。
 ノインはそこでちょっと言葉を切った。椅子の背の上でしばらく手を組み合わせ、少し窓の外を眺める様子だ。

「……シュウちゃんはさ。あいつがどれほどのもん、肩に背負しょってるかわかるかい?」

 いつになく訥々とつとつとした物言いである。

「え……? えっと……」

 いきなりそんなことを訊かれるとは思わなかった。シュウは考え込んでしまう。

 国王という立場。
 それが意味するもの。
 その立場で負うべき責任のすべてを今のシュウに理解できるか、と問われれば──

「うーん……。多分、わかっていないかと……」やはりそう答えざるを得ない。「すみません……」

 「謝るな」とでも言うように、ノインが軽く手を振った。

「だよな? 俺だって本当には、わかってるわけじゃねえ。まあ、普通そーなんだよ。それで構わねえ、普通の人間ならな」
「…………」

 シュウには返す言葉もない。
 今までそんなことを考えてみたこともなかったのだ。
 普段のレドは、いつも明るくて、不遜で、軽い冗談を飛ばしては人を振り回していた。けれども、自分の国王としての立場や責任をどう考え、どう全うしようとしてきたのだろうか? 

 よく考えてみれば、そういう話をしてくれたことは一度もない。
 それだけ、シュウとはまだまだ付き合いが浅いということでもあるのだろう。
 考え込んでしまったシュウを見つめて、銀髪の男がふわりと笑った。

「はっきり言って、俺の大剣なんざ目じゃねえよ? あいつの肩に乗ってるもんは」いつもの明るい笑顔とは違う、ちょっと艶めいた微笑である。「……分かるよな? 言ってる意味」

 シュウは黙って頷いた。

「あいつと代わってやれる奴は誰もいねえ。もちろん、俺もだ。……いや、俺に至っては──」だが、ノインはその先を続けなかった。「あいつと一緒に背負えなくなった奴が言えた義理じゃねえのは分かってる。あんたに同じように背負えとも言わねえ。……けど」

 ノインの瞳に、真摯な色がふと宿った。

「あいつの傍に居る以上、そいつは理解しといてくれや。……な?」

 そう言って笑ったノインの顔は、紛れもなく、弟を思う兄の顔だった。


 ◇


「そんじゃ、シュウちゃん、おっさん、またな」

 宿の前でノインは馬上の人となり、何事もなかったかのようににこにこ笑って別れを告げた。
 初対面の時と同じ、黒い鎧に黒マント姿である。
 シュウもタルカスと見送りに出た。

「この借りは必ず返す。もはや戦場で、というわけにはいくまいが──」
「気にすんな! 俺とおっさんの仲じゃね?」

 己が片足を見やり、口惜しげにタルカスが言いかけるのを、ノインは明るく遮った。
 そのまま二人はがつりと拳を合わせる。
 彼の愛馬、流星号は、つやつやとした精悍な黒馬だった。ちょうど、レドの黒竜号と瓜二つのように見える。タルカスが、実際、兄弟馬なのだと教えてくれた。

「シュウちゃんは、まあ……あれだ」

 ノインはシュウの方を見て、ちょっと顎を掻いて考える風だったが。
 やがてにっこり笑ってこれだけ言った。

「がんばれ!」

 思った通り、やっぱりウインクが飛んできた。

「はい。いろいろ、ありがとうございました」シュウにも思わず笑みが零れた。「ノインさんも、お気をつけて」
「おうよ、ありがとな!」

 馬上から一度だけシュウの頭をがしがし掻きまわして、ノインは軽やかに馬首を巡らした。
 こうして銀髪の青年は、明るい笑顔だけを残してトロイヤード北東方面へと去っていった。巨大な剣を担いだ黒いマントの後ろ姿がはるかに草原の陽炎と交わるまで、シュウはその背中を見つめていた。

 次に彼と会えるその日が血煙と阿鼻叫喚の嵐の中に訪れることなど、このときのシュウはまだ知らない。

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