【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第一部 トロイヤード編 第八章 暗転

14 掃討(1)※※

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「んで? あんた誰?」

 ノインはくいと首をかしげて言った。目をやったその先には、まだ数人の賊と対峙して長剣を構えた姿勢のままの大使がいる。
 異国の鎧を着た兜の男は、何の返事もしない代わりに少し顔を傾け、わずかに頬を掻くような仕草をした。
 それを見た途端。

「────!!」

 ノインの額に青筋が立った。
 怒気に圧力があるのだとすれば、いまシュウが物陰にいてさえ感じるものがまさしくそれだったろう。シュウは自分の肌が粟立つのをはっきりと感じた。

「ってめ……」

 言いざまノインは瞬時に一歩踏み込み、腰を落とした。そのまま面前の敵を一撃で薙ぎ払う。

「ぅらあああああッ!!」

 ノインの怒りの咆哮とともに、再びその場に旋風が巻き起こる。
 賊どもは、逃げるいとまどころか声を上げる暇すら与えられずに両断されて、その場に骸となって散らばった。
 あたりは急に静かになった。

「…………」

 兜の男はそれを見下ろし、少しだけ肩を竦めたようだった。
 ノインはそのままずかずかと大股で男の正面に歩み寄ると、相手の胸ぐらをいきなり掴み上げた。

「アホか、てめえは!? ギョクが、んなとこで何してる!!」相手の兜に額をごりごり擦りつけて怒鳴り上げる。「こんなとこで死なれてみろ! 俺が前線に立ってる意味がねえわ、このボケが!!」

 そこで初めて、兜の男が声を発した。

「《影》が死んだ。いま顔を晒すのはまずいかと思ってな」

 これがまた、いかにもノインを「どうどう」とでもなだめるようなしらばっくれた声だった。

「……っ!!」

 その声を聞いた途端。
 シュウの喉奥が引きつった。
 肩が激しく震えだし、口元を押さえる。が、その代わりに涙が溢れて視界が歪んだ。

「陛、下……!!」

 堪らず荷車の陰から転がるようにして飛び出す。
 二人の男はぎょっとなってシュウを見つめた。

「な……!?」

 ノインが呆気に取られている。兜の男もしかりだ。
 シュウの後ろでタルカスも立ち上がり、周囲を警戒しつつその後に従う。

「陛下……!」ノインが思わず手を緩めたその胸元へ、今度はシュウが飛び込んだ。「ご、ご無事、で……」
 マントの端を握りしめ、硬い金属鎧の胸に顔を埋める。「よ、良かっ……」
 声が震えて、あとの言葉はすべて嗚咽にまぎれてしまう。
 レドはしばし無言だったが、やがて手甲をつけた手で、胸元でただもう肩を震わせているシュウの頭をぽすぽす叩いた。

「あれを、見たのか……?」

 それは、先ほどの首のない遺体のことを指しているようだった。
 涙に暮れているシュウには何も答えられず、レドはタルカスに目をやった。
 タルカスが静かに頷いた。

「……そうか。心配をかけた」

 レドが済まなそうに言った。
 そして片手でシュウの頭を抱きしめ、夜空を見上げてぽつりと言った。

「《あれ》にも、申し訳ないことをした──」

 その声は、ひどく沈痛なものだった。
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