70 / 149
第一部 トロイヤード編 第八章 暗転
14 掃討(1)※※
しおりを挟む
「んで? あんた誰?」
ノインはくいと首をかしげて言った。目をやったその先には、まだ数人の賊と対峙して長剣を構えた姿勢のままの大使がいる。
異国の鎧を着た兜の男は、何の返事もしない代わりに少し顔を傾け、わずかに頬を掻くような仕草をした。
それを見た途端。
「────!!」
ノインの額に青筋が立った。
怒気に圧力があるのだとすれば、いまシュウが物陰にいてさえ感じるものがまさしくそれだったろう。シュウは自分の肌が粟立つのをはっきりと感じた。
「ってめ……」
言いざまノインは瞬時に一歩踏み込み、腰を落とした。そのまま面前の敵を一撃で薙ぎ払う。
「ぅらあああああッ!!」
ノインの怒りの咆哮とともに、再びその場に旋風が巻き起こる。
賊どもは、逃げる暇どころか声を上げる暇すら与えられずに両断されて、その場に骸となって散らばった。
あたりは急に静かになった。
「…………」
兜の男はそれを見下ろし、少しだけ肩を竦めたようだった。
ノインはそのままずかずかと大股で男の正面に歩み寄ると、相手の胸ぐらをいきなり掴み上げた。
「アホか、てめえは!? 玉が、んなとこで何してる!!」相手の兜に額をごりごり擦りつけて怒鳴り上げる。「こんなとこで死なれてみろ! 俺が前線に立ってる意味がねえわ、このボケが!!」
そこで初めて、兜の男が声を発した。
「《影》が死んだ。いま顔を晒すのはまずいかと思ってな」
これがまた、いかにもノインを「どうどう」とでも宥めるようなしらばっくれた声だった。
「……っ!!」
その声を聞いた途端。
シュウの喉奥が引きつった。
肩が激しく震えだし、口元を押さえる。が、その代わりに涙が溢れて視界が歪んだ。
「陛、下……!!」
堪らず荷車の陰から転がるようにして飛び出す。
二人の男はぎょっとなってシュウを見つめた。
「な……!?」
ノインが呆気に取られている。兜の男も然りだ。
シュウの後ろでタルカスも立ち上がり、周囲を警戒しつつその後に従う。
「陛下……!」ノインが思わず手を緩めたその胸元へ、今度はシュウが飛び込んだ。「ご、ご無事、で……」
マントの端を握りしめ、硬い金属鎧の胸に顔を埋める。「よ、良かっ……」
声が震えて、あとの言葉はすべて嗚咽に紛れてしまう。
レドはしばし無言だったが、やがて手甲をつけた手で、胸元でただもう肩を震わせているシュウの頭をぽすぽす叩いた。
「あれを、見たのか……?」
それは、先ほどの首のない遺体のことを指しているようだった。
涙に暮れているシュウには何も答えられず、レドはタルカスに目をやった。
タルカスが静かに頷いた。
「……そうか。心配をかけた」
レドが済まなそうに言った。
そして片手でシュウの頭を抱きしめ、夜空を見上げてぽつりと言った。
「《影》にも、申し訳ないことをした──」
その声は、ひどく沈痛なものだった。
ノインはくいと首をかしげて言った。目をやったその先には、まだ数人の賊と対峙して長剣を構えた姿勢のままの大使がいる。
異国の鎧を着た兜の男は、何の返事もしない代わりに少し顔を傾け、わずかに頬を掻くような仕草をした。
それを見た途端。
「────!!」
ノインの額に青筋が立った。
怒気に圧力があるのだとすれば、いまシュウが物陰にいてさえ感じるものがまさしくそれだったろう。シュウは自分の肌が粟立つのをはっきりと感じた。
「ってめ……」
言いざまノインは瞬時に一歩踏み込み、腰を落とした。そのまま面前の敵を一撃で薙ぎ払う。
「ぅらあああああッ!!」
ノインの怒りの咆哮とともに、再びその場に旋風が巻き起こる。
賊どもは、逃げる暇どころか声を上げる暇すら与えられずに両断されて、その場に骸となって散らばった。
あたりは急に静かになった。
「…………」
兜の男はそれを見下ろし、少しだけ肩を竦めたようだった。
ノインはそのままずかずかと大股で男の正面に歩み寄ると、相手の胸ぐらをいきなり掴み上げた。
「アホか、てめえは!? 玉が、んなとこで何してる!!」相手の兜に額をごりごり擦りつけて怒鳴り上げる。「こんなとこで死なれてみろ! 俺が前線に立ってる意味がねえわ、このボケが!!」
そこで初めて、兜の男が声を発した。
「《影》が死んだ。いま顔を晒すのはまずいかと思ってな」
これがまた、いかにもノインを「どうどう」とでも宥めるようなしらばっくれた声だった。
「……っ!!」
その声を聞いた途端。
シュウの喉奥が引きつった。
肩が激しく震えだし、口元を押さえる。が、その代わりに涙が溢れて視界が歪んだ。
「陛、下……!!」
堪らず荷車の陰から転がるようにして飛び出す。
二人の男はぎょっとなってシュウを見つめた。
「な……!?」
ノインが呆気に取られている。兜の男も然りだ。
シュウの後ろでタルカスも立ち上がり、周囲を警戒しつつその後に従う。
「陛下……!」ノインが思わず手を緩めたその胸元へ、今度はシュウが飛び込んだ。「ご、ご無事、で……」
マントの端を握りしめ、硬い金属鎧の胸に顔を埋める。「よ、良かっ……」
声が震えて、あとの言葉はすべて嗚咽に紛れてしまう。
レドはしばし無言だったが、やがて手甲をつけた手で、胸元でただもう肩を震わせているシュウの頭をぽすぽす叩いた。
「あれを、見たのか……?」
それは、先ほどの首のない遺体のことを指しているようだった。
涙に暮れているシュウには何も答えられず、レドはタルカスに目をやった。
タルカスが静かに頷いた。
「……そうか。心配をかけた」
レドが済まなそうに言った。
そして片手でシュウの頭を抱きしめ、夜空を見上げてぽつりと言った。
「《影》にも、申し訳ないことをした──」
その声は、ひどく沈痛なものだった。
0
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
カフェ・コン・レーチェ
こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。
背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。
今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる?
「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。
照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。
そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。
甘く、切なく、でも愛しくてたまらない――
珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる