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第二部 エスペローサ編 第二章 解放
10 朝餉(2)
しおりを挟む「ご気分の優れないところ、申し訳ないのですが……。早いほうがいいかと思いまして」事実、心から申し訳なさそうにクリスが言う。
「あ、はい……。どうぞ?」
急ぎの用なら仕方がない。シュウは二人を中へ通した。
「ありがとうございます」
言って、二人はいったん扉のすぐ内側に入るや否や、直立不動の姿勢になった。
そして略式の敬礼をすると、クリスがやや視線をはずして咳払いをした。まだ寝台の上で夜着姿のままのシュウを直視しないためだろう。
「お話って、なんでしょう?」
「見つかったんだよ! シュウ様、あいつが!」今度はホッパーが口を開いた。
「え?」
一瞬、何のことかわからずにきょとんとする。
クリスがすかさず言い足した。
「あのオットーという兵士のことです、シュウ様。探して欲しいと仰せだった──」
「あ、ああ……!」
やっと思い出してシュウは声を上げた。恥ずかしいことに、あれ以来ずっと自分のことにかまけていて彼のことをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「ありがとうございます。ずっと探して下さっていたんですね?」
二人に対して申し訳なくて身が縮んだ。立ち上がって深く頭を下げる。
「お預かりしていましたお手紙も、無事に渡して参りました」クリスが誠実な頼もしい声で言った。
「ものすんごい、喜んでたぜ!」ホッパーもにこにこしている。
実は二人には、シュウの手の力については話していない。
トロイヤード王宮の医務棟で医務官として働いていた時、たまたま助かる患者が多かったことで、王宮に妙な噂が流れてしまった。その結果、この王宮に連れてこられることになったのだと、そんな程度の説明をしただけだ。
それでも、アイリスが「幸いにも」回復したことで、オットーが自身の息子のために神の力でも信じるようにしてシュウの力を頼りたがっているのだと。
クリスとホッパーはそれでも特に訝しむ風もなく、オットーの人となりや勤務形態についてあれこれと情報収集することと、彼に手紙を渡すことを買って出てくれたのだった。
「我々で、なんとかシュウ様とオットーの予定をすり合わせてみたいと思っております。できましたら、あの者の非番の日を狙ってなんとか息子を連れてこさせ、そこへシュウ様をご案内できたらと……」
「なるほど、わかりました。クリスさんとホッパーさんには色々とご面倒をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」
シュウはまた彼らに頭を下げた。自分がすっかり普段の話し方になっていることにも気付かなかった。
そんなシュウを見つめて、クリスとホッパーは少し安心したように嬉しげに互いの顔を見合わせた。この二人と付き合いだして、さすがのシュウも兜の下の表情を読むことに長けてきたようである。
「お任せください。その節にはまた、声をお掛けいたします」
そう言って、また二人は扉の外に戻っていった。
◇
「シュウ様。おはようございます」
二人と入れ替わるようにして、今度はアイリスがやってきた。
妹姫はしばらくの間今朝のご機嫌伺いの挨拶などしながらも、恐る恐るシュウの様子を窺うようにしていた。が、それでも優しくきっぱりとシュウを朝餉に誘ってくれた。
「兄も、シュウ様にそうして頂くようにと申しております。少しは気が晴れるだろうからと……。ね? シュウ様。是非、いらっしゃってくださいませ」
しとやかで穏やかな言い回しの内にも「いつまでもこうしていてはいけません」と、彼女が言外に励ましてくれているのがよくわかった。
「アイリス様……」
年下の少女からこうまで言われて、シュウは恥ずかしい気持ちになった。
それに、あらためて色々なことを反省もした。
この城に来た当初、シュウはここには誰も自分の味方はいないものだと決めて掛かっていた。なんて冷たくて、寒々しい城なのだろうとさえ思っていた。
しかし。
(そんなことない……。ちゃんとこうやって、話してみれば──)
もちろん全員がそうなわけではない。あのボダンのような人間もいる。けれど、今ではこうしてシュウを心から心配し、気遣ってくれる人たちも確かにいる。
この人たちに不必要な心配を掛けるべきではなかったのだ。たとえ、それがどんなにシュウにとっては辛いことだったとしても。
「ありがとうございます、アイリス様」シュウは心からそう言って礼をした。「ご一緒させていただきます。支度を済ませたら、すぐに伺いますので」
そうして、着替えのために女官たちを呼んでもらい、朝の身支度に取り掛かった。
アイリスの顔がそれを見て、嬉しそうにほころんだ。
シュウもまた、それを見やって微笑んだ。
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