【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第二部 エスペローサ編 第二章 解放

14 花の香(か)※(2)

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「ちゃんと言って? ……欲しいかい?」

 涙まみれになっているシュウの顔をじっと見つめている。なぜかそこだけは、ナリウスの声が真剣に聞こえた。

(……?)

 ふと目を上げてみれば、ナリウスの顔がすぐそばにある。
 その薄氷を思わせる瞳が、すぐ近くできらめいていた。

「…………」

 その目の中に何かにすがるような色を認めて、シュウは不思議な気持ちになる。

(どうして……?)

 どうして、そんなことを訊くのだろう。
 自分は、この男の虜囚だ。
 シュウの意思など関係なく、どのように犯そうと殺そうと、彼のほしいままにすればいい。

 なぜそんなことを、わざわざシュウに言わせたいのか──。

 ナリウスがもう一度言った。

「シュウ。……言ってくれ」

 それはもはや、願いの形をした言葉になった。
 懇願と言ってもよかったかもしれない。
 驚いて黙っていると、ナリウスの眉が次第にひそめられてゆくのが分かった。そこには何か、言い知れない嘆きのようなものが折り重なっているようだった。
 そっと頬に手が触れてくる。

「私のものになれ……シュウ」静かな、少し震える声だった。
「…………」

 シュウは黙ってナリウスを見上げていた。
 ナリウスがもう一度言った。

「私のものになれ……!」

 今度はもっと強い声だった。頬に触れる指にも力が籠もった。

「…………」

 悲鳴のようだ、とシュウは思った。
 そうしてじっとナリウスを見た。
 互いの視線が至近距離で絡みあった。
 シュウは彼の瞳の奥にあっていま蒼く燃えているものの正体を、なんとか見つけ出そうとしてみた。

「…………」

 やがて、そっと目を閉じた。

(そう、か……)

 その時、ようやく分かった気がした。
 まだきっと、ほんの少し垣間見えただけだったけれども。

 北の大国、エスペローサの王、ナリウス。
 その、心の深淵にあるものが。

 レドも王だが、レドには存在しなかったもの。
 周り中に彼を愛する人がいて、彼もその人々を愛している、そんな王には持ち得ないもの。

 この人には、それがあるのだ。
 ……それは、シュウにも覚えのあるもの。

「ナリウス、様……?」息の上がった声でシュウは囁いた。

 ナリウスは答えない。ただじっとシュウの瞳を見つめているだけだ。
 その瞳が、ただひたすらにシュウの答えを欲しがっていた。
 シュウは少しだけ笑って見せた。

「怖がらないで、ください……。大丈夫、なので……」呼吸を少し整えて、シュウはまるで子供を宥めるようにして言った。
「…………」

 ナリウスが少し驚いたようにシュウの瞳を見返した。だが、何も言わなかった。

「ちゃんと、言います……。だから」腕を少し、もそりと動かしてみせる。「これ、はずしてもらっても……?」
「…………」

 ナリウスはしばらくシュウを見つめて沈黙していたが、やがて寝台の頭のほうへ手を伸ばし、するりとシュウの手枷を解いた。

「ふう……。あいたたた」

 少し手首をさすって体を起こすと、最後に腕だけに絡まっていた夜着がすとんとシュウの体からずり落ちた。
 一糸纏わぬ姿になってナリウスを見上げると、シュウはその手を銀髪の王の首にふわりと回した。
 そしてまた、静かに笑った。
 彼の額に自分のそれをくっつけるようにして瞳の奥をじっと見つめ、そこに向かって言葉を紡いだ。

「……欲しいです、ナリウス様……」
 そのまま、彼の体を抱きしめた。
「僕に、ください……?」

 言って、そっとナリウスの唇に自分のそれを触れさせた。
 優しく、慈しむようなキス。

「……!」

 ナリウスの目が見開かれた。
 次の瞬間、いきなり押し倒されて足を押し広げられ、一気に最奥まで貫かれた。
 シュウは掠れた悲鳴をあげた。

「あ……! ああ……!!」

 そのまま激しく突き上げられながら、シュウはレドを思い出していた。

(ごめんなさい……陛下)

 一粒だけ、涙が零れた。

(本当に……ごめんなさい)
 
(でも、この人……)

 本当は、ずっとそんな気がしていた。
 いつか、この人とこんな風になってしまうのではないかと。
 どこかでなにかが、自分に似ているこの人と。

 そうして……やっぱり、放っておけなくなった。
 彼の持つシュウと同じ痛みを、その瞳の中に見てしまったから。


 ……その名は、「孤独」。

 人の心を、死の淵にまで追いやる闇だ──。

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