【改訂版】Two Moons~砂に咲く花~

るなかふぇ

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第二部 エスペローサ編 第三章 過去

2 昇進(2)

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 憤懣ふんまんやるかたなしといった風情でノインが傲然ごうぜんと出て行ってから、レドはまた窓の外を見上げた。空は高く、秋の趣が深まっている。
 北の国では、もう雪が降り始めているのだろうか。
 雪と氷に閉ざされるあの国で、彼はいま何を思っていることだろう。
 持っていた羊皮紙を無意識に強く握りつぶした。

(もう二度と、俺の盾にはなるなとあれほど──)

 激しい後悔がまた胸中にせり上がる。
 ノインは暗に「お前のせいではない」と言ったが。
 そんなわけはない。なぜなら。

(俺が、あいつを巻き込んだ──)

 あの日、辺境のあの村で。貧しいながらも穏やかに、それなりに幸せに暮らしていたはずのあの青年を。見つけて、磨いて、人目に晒した。
 確かにその手の能力ちからを隠せとは言ったし、自分も口外はせず秘密を守った。だが、それに何の意味があったというのか。
 しまいにはこうして情けなくも北の大国に掠め取られ、いまでは哀れな虜囚の身の上にしてしまった。彼の父母がなによりも望んだ彼の人生の自由と幸福を、自分のこの手があっけなくも壊して滅茶苦茶にしてしまったのだ。一体どうして彼らに顔向けができようか。
 そのうえ結果的にはその体と命を盾にさせ、この身を救わせることになったとは──。
 噛みしめすぎた唇から、また血の味がする。

(……だが)

 たったひとつ、希望はある。
 ナリウスは恐らくシュウを殺すことはない。
 シュウの力を欲するが故なのは当然だ。だがそれ以外の強固な理由で、奴がシュウを欲したからだ。

(……こらえてくれよ)

 ぐっと目を閉じた。
 間違いなく、シュウはあの男に抱かれるだろう。
 それも、その優しさにつけ込まれてだ。
 ただ強引に犯したのでは、シュウの心が壊れてしまう。もしそうなれば、彼の《能力ちから》の使い手としての意味は消失するだろう。
 それだけは、ナリウスも絶対に避けたいはずだ。

 ナリウスに会ってみて、ひとつ分かったことがある。
 じかに会ってみて初めて分かることもあるものだ。
 奴は単なる「冷血王」などではない。あれは奴が身を守るためのただの仮面に過ぎないだろう。素のあの男はむしろその逆だ。もろく優しく他人の感情の機微にさとい、ごく普通の感情を持つ男に過ぎないのではないかと見えた。
 ただの普通の人間が「冷血王」などと呼ばれるまでになったのだ。そうなるにはそうなるだけの十分な理由があると見た。恐らくは、あの王の過酷な成育歴によるのだろう。
 
 それをシュウが理解したなら。
 恐らく、彼は許すだろう。
 相手の罪と……己の体を。

(俺に済まぬと思うな、シュウ)

 その原因のすべては俺にある。
 俺自身がお前を責める理由がどこにあろう。
 こんな俺のために、お前が操立てをする理由などいっさいないのだ。

 その程度のことでこの自分がお前を「許さぬ」と、「もう要らぬ」と言うと思うか。
 ……もしも、そうなら。

「お前は、俺を見くびっている──」

 我知らず、レドは声に出してそう言い微笑していた。

(だから……生きろ)

 生きてさえいてくれれば、必ずお前を取り戻す。
 それまでは、お前のその手と心の力でお前の道を切りひらくがいい。
 容易たやすいはずだ。この城でもそうしてきたお前なら。

 味方を増やせ。
 己を守れ。

 俺が迎えに行く、その日まで──。 

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