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第二部 エスペローサ編 第四章 陰謀
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数日後。
「ね、シュウ様? なんだかこのごろ、お兄様、生き生きとしていらっしゃらない?」
突然アイリスにそう尋ねられて、シュウは紅茶のカップを持つ手を止めた。いきなり返答に困ってしまう。
「え、ええっと……。そうでしょうか?」
仕方なく、にっこり笑って聞き返す。いつものアイリスの部屋である。先ほど午前の勉強がようやく終わって、アイリスから昼餉の前のお茶の時間に誘われたのである。
エスペローサ王侯貴族の日常というのは、とにかく「お茶、お茶」の繰り返しなのだ。そのほか、昼夜を問わず行われる様々な規模のパーティ。もちろんそこで、地位の上下を問わず多くの情報交換や勢力間の駆け引きが行われているわけなのだが。
今日は幸い、竪琴の「演奏会」はお休みになっていた。
「あら、シュウ様はそう思われないの?」アイリスが意外そうにシュウを見つめている。「あんなに楽しそうなお兄様、わたくしは久しぶりなのですけれど──」
頬に指を添えて小首をかしげる仕草は、その兄がするのとそっくりだ。こうして見ると、本当に兄妹なのだなあと実感する。ただ、それなのに与える印象がこうも違うのは何故なのだろう。アイリスがそうすると、まるで可憐な花がそよ風にゆられたようで、まことに優美でかわいらしいというのに。絵心のある人ならきっと、絵画にして残したいと思うであろうほどに。
「さ、さあ……。僕には、ちょっと」
シュウは困った笑顔でそう言うしかない。
実を言えば、ナリウスとクリスの様子から、どうやら事態に進展があったらしいことは分かっている。ただ、彼らはそのことを一切シュウには教えてくれない。シュウを敵国の人間として信用していないからと言うよりは、単に余計な心配をさせないためなのだろう。とは思うが、ほんの少し寂しい気持ちもする。
(まあ、仕方ないよね……。僕が何でも顔にでちゃうのは本当だし)
もしもシュウが事実を知れば、問題の「ふくろう」なる人物を前にして挙動不審にならない自信はやっぱりなかった。ナリウスもクリスも、そのあたりを考慮してくれているのだろう。
同様の理由で、ホッパーにも事実関係は知らされていないようだった。ホッパーには申し訳ないけれど、「蚊帳の外」なのが自分だけではないということに、シュウは少しだけ安心してしまうのだった。
ともかくも、そうやってシュウの預かり知らぬところで次第に敵の外堀は埋まっていっているようだった。それに伴って、最近のクリスはかなり忙しくなっているように見えた。さりげなく観察していると、シュウの護衛を務めつつ、常にだれかと連絡を取り合っている様子である。
シュウの護衛が終了した夜になってからもあれこれと動いているようだし、まったく体がいくつあっても足りないのではないだろうか。
一方のナリウスの生活については、特に変わったところはない。いつものように御前会議や臣下たちとの会食、書類上の仕事などを日々こなしているばかりだ。もちろん、敵の目を欺くために敢えてそうしているという側面もあるのだろうけれども。
とはいえ実際、冬場のことで城の外に出てゆく仕事はないため、さほど忙しくはないらしい。夜にシュウの部屋を訪れるのもいつも通りで、特に荒れた感じも受けなかった。
アイリスの言うように、いつもより「生き生きしている」のかどうかも、シュウにはよく分からない。なぜなら、
(僕の部屋にいる時のナリウス様って、基本的にいつも嬉しそうだし……)
そう、シュウにはやや迷惑に思えるほどに。
シュウは溜め息をぐっと堪えた。
彼のお陰で──いや敢えて言おう、「彼のせいで」──モリス先生の宿題がきちんと終わらないことも多く、このところ叱られてしまうことが増えている。
時間的なことを考えれば決して多すぎる量ではないので、とうとう今日は先生から訊かれてしまったのだ。「できない理由を説明してください」と。シュウは真っ赤になって、答えに窮するしかなかった。
(だってまさか……本当の理由は言えないじゃないか──!!)
まったく、王という生き物はどいつもこいつも。
……と、また溜め息をついてしまう。
どうしてあんなにも、人の勉強の邪魔をするのが好きなんだ?
どうして勉強中に限って、いつも以上に余計なことを仕掛けてくるんだ?
そしてどうして、そのまま人を寝台に引きずって行ってしまうんだ……??
「シュウ様? どうなさったの?」
「あ……いえ」
目を上げるとアイリスが不思議そうにこちらを見つめていて、思わず咳払いをした。
そんなこんなで、やっぱりシュウの勉強は思ったほどには捗らないままだった。
「ね、シュウ様? なんだかこのごろ、お兄様、生き生きとしていらっしゃらない?」
突然アイリスにそう尋ねられて、シュウは紅茶のカップを持つ手を止めた。いきなり返答に困ってしまう。
「え、ええっと……。そうでしょうか?」
仕方なく、にっこり笑って聞き返す。いつものアイリスの部屋である。先ほど午前の勉強がようやく終わって、アイリスから昼餉の前のお茶の時間に誘われたのである。
エスペローサ王侯貴族の日常というのは、とにかく「お茶、お茶」の繰り返しなのだ。そのほか、昼夜を問わず行われる様々な規模のパーティ。もちろんそこで、地位の上下を問わず多くの情報交換や勢力間の駆け引きが行われているわけなのだが。
今日は幸い、竪琴の「演奏会」はお休みになっていた。
「あら、シュウ様はそう思われないの?」アイリスが意外そうにシュウを見つめている。「あんなに楽しそうなお兄様、わたくしは久しぶりなのですけれど──」
頬に指を添えて小首をかしげる仕草は、その兄がするのとそっくりだ。こうして見ると、本当に兄妹なのだなあと実感する。ただ、それなのに与える印象がこうも違うのは何故なのだろう。アイリスがそうすると、まるで可憐な花がそよ風にゆられたようで、まことに優美でかわいらしいというのに。絵心のある人ならきっと、絵画にして残したいと思うであろうほどに。
「さ、さあ……。僕には、ちょっと」
シュウは困った笑顔でそう言うしかない。
実を言えば、ナリウスとクリスの様子から、どうやら事態に進展があったらしいことは分かっている。ただ、彼らはそのことを一切シュウには教えてくれない。シュウを敵国の人間として信用していないからと言うよりは、単に余計な心配をさせないためなのだろう。とは思うが、ほんの少し寂しい気持ちもする。
(まあ、仕方ないよね……。僕が何でも顔にでちゃうのは本当だし)
もしもシュウが事実を知れば、問題の「ふくろう」なる人物を前にして挙動不審にならない自信はやっぱりなかった。ナリウスもクリスも、そのあたりを考慮してくれているのだろう。
同様の理由で、ホッパーにも事実関係は知らされていないようだった。ホッパーには申し訳ないけれど、「蚊帳の外」なのが自分だけではないということに、シュウは少しだけ安心してしまうのだった。
ともかくも、そうやってシュウの預かり知らぬところで次第に敵の外堀は埋まっていっているようだった。それに伴って、最近のクリスはかなり忙しくなっているように見えた。さりげなく観察していると、シュウの護衛を務めつつ、常にだれかと連絡を取り合っている様子である。
シュウの護衛が終了した夜になってからもあれこれと動いているようだし、まったく体がいくつあっても足りないのではないだろうか。
一方のナリウスの生活については、特に変わったところはない。いつものように御前会議や臣下たちとの会食、書類上の仕事などを日々こなしているばかりだ。もちろん、敵の目を欺くために敢えてそうしているという側面もあるのだろうけれども。
とはいえ実際、冬場のことで城の外に出てゆく仕事はないため、さほど忙しくはないらしい。夜にシュウの部屋を訪れるのもいつも通りで、特に荒れた感じも受けなかった。
アイリスの言うように、いつもより「生き生きしている」のかどうかも、シュウにはよく分からない。なぜなら、
(僕の部屋にいる時のナリウス様って、基本的にいつも嬉しそうだし……)
そう、シュウにはやや迷惑に思えるほどに。
シュウは溜め息をぐっと堪えた。
彼のお陰で──いや敢えて言おう、「彼のせいで」──モリス先生の宿題がきちんと終わらないことも多く、このところ叱られてしまうことが増えている。
時間的なことを考えれば決して多すぎる量ではないので、とうとう今日は先生から訊かれてしまったのだ。「できない理由を説明してください」と。シュウは真っ赤になって、答えに窮するしかなかった。
(だってまさか……本当の理由は言えないじゃないか──!!)
まったく、王という生き物はどいつもこいつも。
……と、また溜め息をついてしまう。
どうしてあんなにも、人の勉強の邪魔をするのが好きなんだ?
どうして勉強中に限って、いつも以上に余計なことを仕掛けてくるんだ?
そしてどうして、そのまま人を寝台に引きずって行ってしまうんだ……??
「シュウ様? どうなさったの?」
「あ……いえ」
目を上げるとアイリスが不思議そうにこちらを見つめていて、思わず咳払いをした。
そんなこんなで、やっぱりシュウの勉強は思ったほどには捗らないままだった。
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