128 / 149
第二部 エスペローサ編 第四章 陰謀
4 腹心(2)
しおりを挟む「ガルフさん、今日はお加減いかがですか?」
患者の一人に声を掛けながらその寝台の隣に立って、シュウは包帯を取り替える準備を始めた。護衛の二人は少し離れて様子を見ている。
「また包帯を取り替えますので、ちょっと辛抱してくださいね?」
寝台の上にいる、体じゅう包帯だらけの患者に優しく声を掛ける。男は「う、うう」と唸るような声を出して少しだけ頷いている。
ガルフは重傷患者の一人で、少し前に酷い熱傷で運ばれてきた兵士だった。兵舎の中のストーブの近くで洗濯物を乾かそうとして、誤って自分の衣服に火が燃え移り、火だるまになったのだと聞いている。想像するだけでもぞっとするような悲惨な事故だ。どんなにか熱くて痛かっただろうかと考えるだけでも胸が痛くなる。
いまの彼は全身が焼け爛れて、顔もよく分からない状態だった。体じゅうに軟膏を塗られて包帯でぐるぐる巻きにされている。ここへ運び込まれた当初は酷い痛みと発熱のために夜も眠ることもできず、ずっと呻き声を上げ続けていたものだ。
シュウはこのところ、毎日少しずつ折を見ては彼の体に触れるようにしていた。彼が眠っている隙を見つけてはその体に触れてきたのだ。ガルフには本当に申し訳なかったし、シュウとてそうしたいのは山々だったけれども、彼をあまりにも劇的に治療してしまうわけにはいかなかった。どうしても。
今日のシュウは、またもう少し彼に触れることができれば、もっと普通に会話もできるようになるのではないかと内心期待していた。今まではこのひどい傷のために、まともな意志の疎通がほとんどできていなかったからである。
「すみません。ちょっとだけ、体を横にしますね……」
包帯を解いて薬を塗りなおし、また清潔な包帯を巻きなおす。
シュウが甲斐甲斐しく患者の世話をしているところを、クリスとホッパーは周囲を警戒しつつ少し離れたところで見守っていた。
──そして。
その時なぜかクリスの目が、一瞬ぎらりと厳しく光った。
◇
その夜。
「陛下。お願いがあるのですが」
クリスはまたナリウスの執務室を訪れていた。最近ではこの部屋でも、必ず兜は脱いでいる。ナリウスは執務机の向こうでいつものようにゆったりと書類を眺めていた。もちろん人払い済みである。
「そなたはまこと、『お願い』の多い男だな」ナリウスが目を上げて、面白げに微笑した。「で、今度は何だ?」
クリスは一礼し、静かに、かつ端的に国王に願い出た。
「使える部下を、もう少し増やして頂きたく」
ナリウスの瞳がきらりと光って細められた。
「……わかったか」
「はい」
クリスが頷く。
もちろん、シュウに密かに手紙を渡していた人物を特定した、ということだ。
「しばらくは泳がせて様子を見ます。そろそろ、我々二人だけでは手が足りませぬゆえ」
ナリウスがゆるやかに微笑んだ。
「承知した。人選は任せる。好きに動いてみよ」
「ありがとうございます」
クリスはそれだけ言うと、素早く踵を返して執務室を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
カフェ・コン・レーチェ
こうらい ゆあ
BL
小さな喫茶店 音雫には、今日も静かなオルゴール調のの曲が流れている。
背が高すぎるせいか、いつも肩をすぼめている常連の彼が来てくれるのを、僕は密かに楽しみにしていた。
苦いブラックが苦手なのに、毎日変わらずブラックを頼む彼が気になる。
今日はいつもより温度を下げてみようかな?香りだけ甘いものは苦手かな?どうすれば、喜んでくれる?
「君の淹れる珈琲が一番美味しい」
苦手なくせに、いつも僕が淹れた珈琲を褒めてくれる彼。
照れ臭そうに顔を赤ながらも褒めてくれる彼ともっと仲良くなりたい。
そんな、ささやかな想いを込めて、今日も丁寧に豆を挽く。
甘く、切なく、でも愛しくてたまらない――
珈琲の香りに包まれた、静かで優しい記憶の物語。
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
俺の可愛い幼馴染
SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。
ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。
連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。
感想もご自由にどうぞ。
ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。
孤毒の解毒薬
紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。
中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。
不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。
【登場人物】
西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。
白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。
箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜
真木もぐ
BL
「他人に触られるのも、そばに寄られるのも嫌だ。……怖い」
現代ヨーロッパの小国。王子として生まれながら、接触恐怖症のため身分を隠して生活するエリオットの元へ、王宮から侍従がやって来る。ロイヤルウェディングを控えた兄から、特別な役割で式に出て欲しいとの誘いだった。
無理だと断り、招待状を運んできた侍従を追い返すのだが、この侍従、己の出世にはエリオットが必要だと言って譲らない。
しかし散らかり放題の部屋を見た侍従が、説得より先に掃除を始めたことから、二人の関係は思わぬ方向へ転がり始める。
おいおい、ロイヤルウエディングどこ行った?
世話焼き侍従×ワケあり王子の恋物語。
※は性描写のほか、注意が必要な表現を含みます。
この小説は、投稿サイト「ムーンライトノベルズ」「エブリスタ」「カクヨム」で掲載しています。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる