春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

文字の大きさ
9 / 49

1ー7

しおりを挟む


 昨夜は4Pを描こうとしたが描けなかった。里奈はプロの漫画家じゃないから、複数の絡みを表現するなんて無理だった。四人の裸体を描いていたら肝心の×××が見えない。里奈には3Pまでが限度だった。
 眠い目をこすりながら、食堂に朝食を食べに行く。食堂に入るといつも真っ先に里奈に挨拶して抱きしめてくれるハンナお母さんがいない。

「ミイシャ。ハンナお母さんはどうしたの?」
 もうすでに朝ご飯を食べているミイシャが、里奈を待っていたと言わんばかりに話はじめた。

「もう、リーナって朝起きるの遅い!」

 嫌、この世界の人たちが朝起きるのが早過ぎるんだよ。テレビやネットがなどの娯楽がないし、魔石でランプをずっと灯すのは不経済だからみんな日の出と共に起きて、日の入りと共にぼちぼちと眠る。はあ、なんとジジババ的な、いや、健康的な生活習慣なんだろう。

「聞いて、ハンナさんの義理のお姉さんがまた来ているのよ。今度はどんな理由でお金をせびりに来たんだろうね」

 ハンナお母さんのお兄さんはいい人だ。でも彼の奥さんは嫌な人だった。ハンナお母さんのことも親族の恥と言っているくせに、いつもお金をせびりにくる。
 子どもたちが病気になったから薬代が必要だとか、新しい洋服が必要だとか、いろいろな理由をつけてお金を受けとるまで仕事場に居座って、ハンナお母さんの周りについてまわる。
 
「マーシャ義姉さんに渡すお金はないわ」
「どうしてよ! マレーナの婚約資金が必要なのよ! あなたは非人だから、一生ここにいるんだから、お金なんて使い道がないでしょ! だから可愛い姪のためにお金を出しなさいよ!」

 食堂の裏側の窓からハンナお母さんの声が聞こえてきた。

「私は娘のリーナのためにお金が必要なの。だからマーシャお姉さんに渡すお金はないのよ」

「はっ! リーナってどこの馬の子か分からない非人の子だね。ハンナと血のつながりなんてないじゃない。一生下女として結婚も子どももできない非人に、お金なんて必要ないじゃない。それよりはあなたの可愛い姪の婚約費用を払うべきよ。
 マレーナは村長の孫と結婚するのよ。
 非人なんて子どもも生めない出来損ないの、動物以下じゃないの。動物以下にお金なんて必要ないじゃない!」

 さっきまでザワザワとしていた食堂はシーンと静まり返っていて、一句一句ハンナお母さんのお姉さんの声がよく聞こえた。
 この食堂にいる全員が非人だった。
 みんなこんな風に言われていることが慣れているのだろう。数人は憤慨しているようだったけれど、みんな黙々と無言で食事を再開した。何人かは声を殺して泣いていた。
 でもミイシャだけは違った。
 
「許さない! 私は動物以下じゃないわ! 私は結婚するわ。もしかしたら、子どもだってできるかもしれないじゃない!」

 ミイシャが大声で叫んで食堂を出て行った。リーナも慌てて彼女の後を追う。

 ハンナお母さんと対立していた太ったおばさんに飛びかかり殴った。

「キャー、やめて、誰か助けて!」

 マーシャさんの巨体が地面に倒れた。ミイシャはマーシャさんの髪の毛を引っ張って、「私は人間よ」と何度も叫びつづけた。リーナはミイシャを止めようとした。

「ミイシャ、止めて! ミイシャは人間よ」

 でもミイシャの方が大きくて、彼女がふるった腕が運悪く里奈の顔に当たって、里奈はそのまま後ろに倒れた。
 
「おい! これはなんの騒ぎだ!?」

 喧嘩騒動を止めよと誰かが助けを呼びに行ったのだろう。
 里奈の働いている洗濯場の近くに第一騎士の建物があり、彼らは洗濯場の隣の訓練所で毎朝早くから訓練している。

「いますぐに喧嘩をやめろ!!」

 辺り一面一瞬にシーンとなった。声の方を見るとレイーシャさまがいた。彼は厳しい顔つきで辺りを威圧していれう。

 昨日はあんなに優しい声だったのに、やっぱりレイーシャは騎士なんだ。
 朝練の途中だったのだろうか。彼をはじめ周りにいる騎士たちはそれぞれの手に木剣を持って汗をかいている。

 ミイシャはピクンとなって、掴んでいたマーシャさんの髪の毛を離した。

「た、助けてください、騎士さま!
 こ、この狂った女がいきなり殴ってきたのです!」

 灰色の混ざったこげ茶の髪の毛がグチャグチャで、農村では一張羅のよそ行き服がグチャグチャに泥まみれになっている。下手をしたらマーシャさんの方が狂った女に見える。

 一人の騎士がミイシャを両腕を後ろで拘束したが、彼女はどこかボーっとして、されるがままだった。

「彼女たちは取調べ室へ連れていけ」

「ちょっ、ちょっとあたしは被害者なのよ」

 マーシャさんの声が辺りに響いた。騎士は腕を掴んで無理やり彼女を連れて行こうとしていない。物腰の柔らかい明らかにインテリ騎士と言う感じの男性が、マーシャさんの前に立って言った。

「ええ、ひとまずお話をお聞きしたいのでどうぞ我々と一緒に付いてきてください」

 マーシャさんは騎士に促されながら、しぶしぶ騎士の後に従って近くにある建物に入って行った。

「あなたたちにも少し話をお聞きしたいので一緒に来てくれ」

 イケメンではないが眼鏡をかけた端正な顔の騎士が、ハンナお母さんと里奈に声をかけた。

「はっ、はい」

「リーナ! 大丈夫? まあ、可愛い顔が……。早く冷やさないと腫れるわ」

 なにがあったのか状況についていけないような顔をしていたハンナお母さんが、リーナの方を見て顔色をなくした。近くに駆け寄り、リーナの顔を見て涙声を出した。

「失礼」
「キャッ」

 と言う言葉が聞こえたと思ったら、身体が浮いた。
 里奈の小さな身体が力強い腕の中にすっぽりとおさまった。目の前にはレイーシャさまの端正でキリッとした男前の顔があった。

(えっ、な、なんで!!??)

 朝練の途中だったからまだ着ているシャツは汗で湿っていたけれど、彼からは汗臭い匂いじゃなくてスパイスの香りがした。

(お姫様だっこ……!?)

 頬が熱くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。

具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。 ※表紙はAI画像です

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...