春画を売ったら王子たちに食べられた

四季

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 里奈がマッチョの男性が好きなのは、こんな風に抱っこされたいと言う願望があったからかもしれない。
 日本のアバズレお母さんのヒモたちから、こんな風に抱っこして連れ去って欲しかったのかもしれない。
 いざその夢が現実になると、こんなに恥ずかしいものだったんだ。

「リーナーーー?」
「お母さま、リーナさんを医務室へ連れて行くだけです。どうぞ安心して執務室で待っていてください」

 レイーシャさまがハンナお母さんに言った後に、数人の部下たちに指示をした後に歩き出した。
 レイーシャさまは里奈を卵のように大事に運んでくれるから、揺れが全然なかった。医務室までの道のりは短かったのか長かったのか分からなかった。
 レイーシャさまのぬくもりが温かく、ドクンドクンと彼の肌から伝わる心音は自分の音と混ざってどっちの方が早いか分からない。

 里奈を抱っこしたレイーシャさまは一目を憚らずにスタスタと建物の廊下を歩いて行く。もちろん里奈のような下女が入ってはいけない建物だ。
 廊下にいる人たちは驚いた顔をして廊下の隅に寄り、上半身を曲げて頭を下げてレイーシャさまが通るの待つ。レイーシャさまはそれが当たり前のように、気にせずに歩いた。
 里奈は自分の顔を誰かに見られるたらと怖くなって、レイーシャさまの胸に顔を押し付けた。抱きしめるレイーシャさまの腕に力が篭もった。
「医務官長はいるか?」

 目的地のドアを乱暴に開けるやいなや、レイーシャさまが大きな声を出した。活気のあった部屋は一瞬にして静かになる。

「これはこれはレイーシャ殿下、どうなされましたか?」

 責任者らしい人がレイーシャさまの前で一礼をした後に尋ねた。

「タラードはどこだ?」

「はっ、タラード先生は執務室で大切な書類をまとめています。今日はどうなされましたか?
 もしやそのお方が怪我をなされたのですか? でしたら私が治療をしましょうか?」

 別に媚びるわけでもなく、本当にけが人を心配している声質だ。

「いや、タラードでいい。彼を呼んでくれ」

 里奈は近くにある簡易なベットに丁寧に下ろされた。

「あっ、あの私、は、大丈夫です」

 頬に腕があっただけで、医務官長などそんな大それた役職名のすごい人に見てもらうなんてできない。たしかにお城で働いている人たちは無料で医者に見てもらえると聞いた。
 でもここは明らかに貴族専用の医務室だ。

「大丈夫じゃない。もう頬が腫れてきているではないか」

 レイーシャさまがムスッとした顔をしたので、ピクンと身体が恐縮してまう。

「ほっほっほ、レイーシャ殿下が血相を変えてワシを指名してくると聞いて、慌てて来てみれば。ベットの上でイチャイチャしておるなんてな」

「べ、ベットの上、で、い、イチャイチャなどしておらぬ! 彼女が痛がっているじゃないか? さっさと治療してくれ」

「ほっほっほほ。どれどれお嬢ちゃん、この老いぼれにちょっと頬を見せておくれ」

 腰が少し曲がっているけれど存在感のあるお爺さんが、ニコニコした顔をして里奈に向かっていた。

「リーナ、タラードは老いぼれジジイだが、治療魔法はこの国で一番だ。すぐに元通りの顔に戻るぞ。安心するといい」

 レイーシャさまがニコッと笑ったら八重歯が見えた。今きっと心圧を図ったら高血圧でヤバい病気と診断を受けるだろう。

「自分で老いぼれと言うのはいいが、レイーシャ殿下には言われたくない。
 はじめまして、かわいいお嬢さん。わしはタラードだ。タラードおじいちゃんとでも呼んでくれ」

 昔はさぞかし多くの女性を泣かしたような老人先生だった。

「はじめまして、リーナと言います」
 ベットの上で座ったままで失礼だけれど頭を下げる。

「おい、じじーが色気づいた挨拶は時間の無駄だ。自己紹介より、早く彼女の頬を診てくれ」

 タラードさまとレイーシャさまはかねてから親しい間柄なのだろう。
「あんまり短期だと女にモテないぞ」

 タラードさまはリーナの頬に手をかざしてなにかブツブツと呪文をした途端、彼の手から淡い光とともに頬がポカポカした……が、右頬のジンジンしたままだ。

「っ!! ん!? こ、これは!」

 タラードさまがリーナの顔を見て驚いた顔をする。
「どうして治らないのだ?」

 レイーシャさまも驚いた声を出した。

「彼女は非人だな……。失礼、別に嫌な意味ではない……」

(うん)
 里奈にもタラードさまが差別で非人と言っているのではないと分かったから頷いた。
 それよりどうして二人はなにをこんなに驚いているのだろう。魔法で怪我を治すなんて里奈には信じられないことだ。でもたしかにこの世界には魔法がある。あると頭で知っているけれど、実感はなかなかできないでいた。
「彼女は非人でも……」

 タラードさまがチラッと里奈の顔を見て申し訳ない顔をして、説明を続けた。
「彼女には魔力が全然ない。そうだな?」

 タラードさまがなんとも言えない顔で里奈の顔を見て言った。そして彼が別に里奈に確認しているわけでもなくそれが事実だと言っている。里奈もただ首を前に頷いた。
「もともと魔力の量が少ない子どもや非人には、治療魔法は効きにくいと知っておるじゃろう。魔力が全然ない彼女は治療魔法は全然効かない。

 今まで彼女がどのように生きてきたか分からないが、まあ、異国からこの国に来て城で保護されたのか……」
 もともと魔法がないところから来ている里奈には、治療魔法が使えないのかあ、としか思わなかった。

「これからはもっと怪我をしないように気をつけないとならない。
 今日は頬は骨は折れておらずただ腫れただけだが、今後大きな怪我をした場合は大変だ。少しでも魔力があれば治療魔法が効くが、彼女が骨など折ったら大変なことになる」

 骨折は骨を繋げるように固定すればいいでしょう? と簡単に思うけれど、まさかこの世界は医療魔法に頼り切って医学が発達していないのでは。
 さっきは治療魔法がなくても不安じゃなかったけれど、だんだんと不安な気持ちが沸いてくる。

「リーナ、安心しろ。私が君を守る」
 ガバッとレイーシャさまの広くて固い胸の中に抱きしめられていた。一体、なにがあった……?
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